とある科学の幻想操作   作:モンステラ

46 / 87
思惑

  

降魔達はとあるショッピング施設の前までやってきていた

メンバーは降魔、美鼓、リア、エルド、ヴルドの5人だった

目的は護衛対象である鳴護アリサの監視と彼女らを鳴護アリサと会わせるためである

 

 

「さっさと行くぞ」

 

 

そう言って降魔は建物の中に入っていく

その後を少女達がついていく

 

建物の内部の情報は全て頭の中に入っている

迷うことなく、降魔は目的の場所へと辿り着く

 

 

そこでは特設のステージの上で4人の少女達が笑顔で手を振っていた

既に大勢の学生達がその様子を見ていた

 

問題なのはそのステージの上にいる少女達

その全員が降魔の知り合いだった

 

 

「…何故こんなところにお姉様がいるのでしょう、と美鼓は疑問を投げかけます」

 

 

本物のARISAを見て目を輝かせながら騒いでいるヴルド達を他所に美鼓が降魔に聞く

そう、ステージの上にいるのは鳴護アリサ、初春飾利、佐天涙子そして、御坂美琴だった。恐らくだが白井黒子も彼女らの近くにいるのだろう

 

 

「…さぁな、俺は知らねぇよ」

 

 

適当に誤魔化しながら降魔は隣の少女を見る

そこには伊達眼鏡とマスクをしている少女がいた

御坂美琴のクローンである彼女は公にはされていない人間である

そのため今日は少しばかりの変装をさせてきた

 

まぁ、これならバレることはないだろうと考えながら彼女らから少し離れた位置の壁に寄りかかる

 

 

(……とりあえずここには3人ってところか)

 

 

鳴護アリサの歌を聴きながら不自然な動きをする人間を把握する

どうやら先日会った『黒鴉部隊』とかいうやつらのようだ

アイツら自体は鳴護アリサに危害を加えるつもりはないらしいので、放置していても問題ないと考える

 

 

しばらくステージの奴らを見ていると、黒鴉部隊の連中の動きがいきなり慌ただしくなった。それと同時にこの施設の地下からAIM拡散力場の波を感じ取る

その瞬間、微かな振動とともに施設の照明が全て落ちる

 

 

「あ?」

 

 

黒鴉部隊の奴らの動きから考えて、鳴護アリサを襲撃しようとする奴と黒鴉部隊が交戦状態に入ったのだろう

少し考えてあたりを見回す少女達に近づく

 

 

「…面倒ごとに巻き込まれんのは御免だ。さっさとここから、」

 

 

降魔が少女達の体に触れて電極を切り替えようとした瞬間

ズズウゥゥン!!!と一際大きい振動が彼らを襲う

それは人が立っていられないくらいの振動だった

 

どうやらどこかで爆発があったようだ

 

 

「チッ!!!」

 

 

舌打ちをし、ステージにいるはずの鳴護アリサをチラッと見る

彼女には御坂がついていた

超能力者である彼女がそばにいるのならばちょっとやそっとのことでは危険が及ぶことはないだろう

 

それよりも問題なのは、降魔のすぐ近くにいる少女達だ

降魔は思考を切り替えて迅速に動く

 

 

「外に移動させんぞ」

 

 

そう言って4人の少女達の返事を待たずに外へ移動させる

建物の外ならば多少は安全だろう

 

そしてそのまま状況を確認する

建物支えている幾つもの鉄柱が振動に耐えられずに倒れてきている

 

 

「面倒ごと増やしやがって」

 

 

電極は既に切り替えてあった

能力を解放した降魔に辺りにいる学生達の居場所をAIM拡散力場を感じ取ることで把握する

そのまま腕を振るう空間を掌握し、落下してくる鉄柱やガラス片などを把握する

 

一瞬にして施設の中にいる人たちの場所と落下物の落下コースを予測する

 

 

「あ?」

 

 

そこで降魔は動きを止める

そのままポケットから煙草を取り出し、火をつける

 

彼の演算で出た答えは、鉄柱やガラス片の落下コースにいる人影は1人もいない

このまま時が過ぎれば死ぬ奴はおろか怪我をする奴すらいないだろう

下手に降魔が鉄柱などを吹き飛ばした方が危険まである

 

 

ガシャン!!!ガシャーン!!!!!と酷い轟音が連続で鳴り響く

落下の衝撃で降魔の持っていた煙草の煙が揺れる

 

 

「皆さん!!風紀委員ですの!!!怪我をした方はいませんか!!??」

 

 

直後に白井の声が会場に響き渡る

徐々に砂埃が晴れていく

 

白井は目の前の惨状を見て、顔を歪ませていた

 

しかし、降魔はもちろん会場にいる全員が怪我もせずに起き上がり始めた

白井は驚きながら目の前の光景を見る

そして、その中に見覚えのある少年を見つけた

 

白井はその少年のもとへ移動し、声をかける

 

 

「…これは貴方のおかげですの?」

 

 

これだけの惨劇の中、死傷者は全くいなかった

そんなことができるのは目の前で煙草を吸っている超能力者くらいなものだろう

 

しかし、超能力者の少年は首を横に振る

 

 

「いーや、俺は何もしてねぇよ」

 

「…そんな、貴方が何もしていないのに死傷者がいないなんて奇蹟ですわ」

 

「奇蹟、ねぇ」

 

 

降魔は改めて目の前の惨状を見る

これが鳴護アリサの『奇蹟』というやつだろう

目の前で広がる惨劇の死傷者をゼロにするなど彼女にはとてつもない力が宿っているのだ

彼女が魔術側からも科学側からも狙われるのはこの『奇蹟』が原因だろう

 

しかし、

 

 

「後少しズレてたら死んでたぞ…!!」

 

「奇蹟だ」

 

「あぁ!!奇蹟だ!!!」

 

 

助かった会場内にいる学生達が口を揃えてそう言う

しかしそれは、普通に生き、歌を歌っていたいだけの少女にはあまりにも堪えることだろう

『奇蹟』という幻想が鳴護アリサの肩に重くのしかかる

 

 

ステージの上で座り込む少女を見てギリッと降魔は奥歯を噛み締め、ギュッと杖を握る手に力が入る

自分は何のためにここにいるのだ

何が超能力者だ、何が第1位だ

無力な自分ではあそこにいる少女を励ますことなどできない

 

人を傷つけ、血を流させるようなことばかりをしてきたせいでそれ以外の方法が思いつかない

 

 

「…俺は何のためにここにいる?」

 

 

自身に問いかけるようにボソッと呟く

 

 

「俺は……」

 

 

そうだ

自分はアイツらのように善人がこの世界の理不尽によって潰されないために能力を振るうのだ

人の命を軽々と奪える両手で悪党の命を奪えばそれだけで多くの善人が救われる

圧倒的な力で理不尽を完膚なきまでに叩きのめせばそれだけで多くの日常が守られる

 

ならば、降魔向陽にできることは何だ?

 

 

 

白井はいつの間にか風紀委員として動いていた

死傷者こそはいないものの事態の収拾をつけるためにあちこちを移動していた

 

煙草を吸いながら降魔は会場からゆっくりと出ていく

 

 

鳴護アリサを取り巻く環境を洗いざらい調べ尽くす

そしてその障壁となるであろう問題を叩き潰す

鳴護アリサを明るい日常へと返す

 

やることは決まった後は動くだけだ

 

 

 

◇◇◇

 

 

襲撃のあった建物から出た降魔はすぐに『カースト』の隠れ家へと向かっていた

美鼓達には既に連絡を済ませており、心配はない

 

しばらく歩いていると、降魔の携帯が震えた

どうやら電話のようだが表示されている番号には覚えがなかった

 

 

「………」

 

 

基本的に降魔の携帯には知り合いからしか電話がかかってこない

少しだけ考えて降魔は煙草を咥えながら電話に出る

 

『あなたが降魔向陽ね』

 

「あ?」

 

 

降魔の耳に届いた声は聞き覚えのない少女の声だった

いや、何回かテレビからこの声を聞いたことがあった

 

宇宙エレベーターであるエンデュミオンの建設に関わるオービット・ポータル社の社長『レディリー=タングルロード』

今も降魔の目の前にある巨大モニターに写っている少女の声だ

 

 

『単刀直入に言うわ。あなたには鳴護アリサの護衛から外れてもらうわ』

 

「…テメェ如きに何の権限があんだよ」

 

 

そもそも降魔が鳴護アリサの護衛についているのは自身の所属する暗部組織からの命令ゆえだ

それを抜きにしたって降魔はもう鳴護アリサという少女を知ってしまった。知ってしまった以上は見捨てるなどという選択肢はない

この汚く醜い世界の理不尽によって彼女が脅かされるならば降魔は躊躇なく人の命だろうが何だろうが関係なく何でも壊す

 

 

『権限ならあるわ。だって私があなたの暗部組織に彼女の護衛を依頼したんだもの。依頼を破棄する権限もあるわ』

 

 

その言葉に降魔は少しだけ顔をしかめた

流れとしてはレディリーがカーストに依頼し、カーストが降魔に仕事して依頼した

ならば大元の彼女が依頼は破棄すれば降魔の鳴護アリサの護衛という仕事はなくなる

 

 

「…俺を外す理由は?」

 

『うーん、そうねぇ……。今回の襲撃を含めてあなたはこれまで2回の襲撃を許しているわ。それ以上の理由がいるかしら』

 

 

それは当然の理由だろう

護衛としては全くと言っていいほど役に立っていない

一応撃退しているとは言え二度の襲撃を許す護衛などいらないだろう

 

だが、降魔にはそれ以外の理由があるように思えてならない

鳴護アリサを取り巻く全てを調べようとした矢先にこれだ。恐らくレディリーには知られたくない何かがあるのだと予想できる

 

 

「フン、別にテメェから護衛の任を解かれようが、俺は勝手にやる」

 

『暗部に所属する学園都市同率第1位であるあなたが鳴護アリサに関わり続けると彼女の身に危険が及ぶ可能性があるの、だからそれも許可できない』

 

 

咥えていた煙草に火をつけ、ひと呼吸おく

どうやら彼女はどうしても降魔向陽という人間を遠ざけたいようだ

 

先ほど予想が確信に変わった

この少女には何かがある

 

鳴護アリサを使って何かをするつもりだ

だが、そんなことを彼が許すわけなどない

 

 

「テメェが俺の何を知ってるってんだよ、オイ。鳴護アリサへの襲撃も危険も全部俺が叩き潰してやる。幻想操作をあまり甘く見るんじゃねぇぞ」

 

『……これだから科学の子供は面倒くさい』

 

「あ?」

 

『別にあなたが勝手に動くのを止める権利はないけれど、それならこっちにも考えがあるわ』

 

 

降魔は嫌な予感がした

この手の人間が考えることは大抵決まっている

 

 

『あなたが大事にしているあの子達に何か不幸な出来事がないといいわね』

 

「………テメェ、ぶち殺されてぇのか」

 

 

低く唸るように降魔は殺気を振りまいた

ソコは降魔が決める絶対的に超えてはいけないラインだ

それを電話の先の少女は軽々と超えると宣言したのだ

 

 

『ふふふ、それが嫌ならあの子達を守ることに集中した方がいいんじゃない?』

 

 

何か言おうとする前に電話は切れた

降魔は携帯をポケットの中に入れ、壁にもたれながら煙草を口につける

 

煙を吐きながら己の無力さを呪う

 

鳴護アリサを明るい日常へ返すなどと息巻いていたのに結果はこのザマだ

大事なモノを人質にとられ、動けなくなった

 

降魔の能力は万能だが、完璧ではない

救えるものには限りがある。自身を盾にしてでも守り切れるものは意外と少ないのだ

 

いつから自分はこんなにも弱くなったのだろう

過去の自分ならこんなザマにはなっていなかったはずだ

容赦なく敵と認定したものを叩き潰し、善人のかけがえのない日常を守っていただろう

 

 

しかし、そんなことをしてしまっては救えない者達と出会ってしまった

そして、そんなことをするのを望まない者達と出会ってしまった

 

 

全身を締め付ける鎖の重さに潰されそうになる

自身の内に眠る怪物が叫ぶ

こんな鎖は引き千切り、思う存分に暴れろ、と

 

 

「……クソッタレが」

 

 

鎖を引きずり、降魔はそのまま路地裏を歩いていく

目的地は『カースト』の隠れ家ではなく、守るべき者達が待つマンションだった

 

彼が握る杖は壊れそうなくらい強く握られており、その顔は決して鳴護アリサを日常へ返すことを諦めた顔ではなかった

 

使えるものは何だって使う

科学だろうが魔術だろうが関係ない

降魔が使えるもの全てを使い、鳴護アリサを救うことでレディリーの計画を打ち壊す

 

 

「せいぜい、勝ち誇った顔でニヤつてやがれ。テメェの計画なんざ知らねぇが、そんな幻想は俺が叩き潰してやる」

 

 

杖を乱暴につきながら見えぬ敵へ戦線を布告する

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。