とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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開会

薄暗い部屋に数人の男女が集まっていた

 

 

「本当に…例の案が通ってしまったんですか?」

 

「はい、学園都市のみならず全世界に配信されるものだから、デモンストレーションも兼ねてトップクラスの能力者にやらせなさい、と上層部が…」

 

「ふざけるな!!隠しても隠しきれない人格破綻者の集まりだぞ!!思いつきで決めやがって!!」

 

 

思わず声を荒げてしまうほどこの案は危険極まりないものだった

 

 

「やめるんだ。方針が定まった以上は我々はそれに従うしかない」

 

 

『大覇星祭運営実行委員』そう言い放つ彼がつけている腕章にはそう書かれていた

そして、彼らの部屋にあるホワイトボードには8人の少年少女の名前が貼られていた

 

 

 

 

 

「で?俺に何の用だ」

 

 

学園都市同率第1位である降魔向陽は自身が所属する高校の客室に呼び出されていた

目の前には黒髪の少女が座っていた

そして隣には何故が降魔の担任の月詠小萌がちょこんと座っていた

 

 

「ちょっと降魔ちゃん、そんな聞き方をしたらダメなのですよ。相手が怖がっちゃうじゃないですか」

 

 

プンプンと降魔は叱られる

改めて少女を見ると確かに怖がっているような気がしないようでもないような気がする

降魔はため息を吐き、少し態度を改める

 

 

「じ、実は大覇星祭開会式の選手宣誓を超能力者の方達にお願いすることに決まりまして、第1位の降魔さんにも協力をお願いしたいのです」

 

「あ?俺がそんな面倒なこと…」

 

 

そこまで言って降魔は隣に座る月詠小萌の視線に気がついた

目だけで何が言いたいのかはわかった

大方「言い方に気をつけましょう」とでも言いたいのだろう

 

 

「こんな所まで来てもらって悪いが、俺はそういうことをする柄じゃない」

 

「そう、ですか」

 

「あぁ、だから悪いが今回の話は無しだ」

 

 

降魔が話を終えると実行委員の少女はトボトボと出ていった

 

 

「降魔ちゃん」

 

「あ?」

 

「先生としては降魔ちゃんに選手宣誓に参加して欲しかったですけど、優しい言い方をできたのはバッチグーなのです」

 

 

目の前の女性は先生としても完璧に近いだろう

学園都市にいる大人全員が彼女のようだっらあんな悲劇は起きずに、彼女らも普通に過ごせていただろうか

 

 

「大覇星祭、ねぇ」

 

 

学校というものに通っていなかった降魔にとっては初めての行事だ

以前の彼ならばこんな面倒なイベントは絶対参加しなかっただろう

しかし、今は上条達クラスメイトや美鼓達といった家族と参加するのが少し楽しみなような気がする

 

 

◇◇◇

 

『大覇星祭』学園都市で七日間にわたって行われる全校参加の合同体育祭である

開催期間中は学園都市の一部が一般に開放され、競技の模様は全世界に中継されている

 

 

「すごい賑わいですね、と美鼓は初めてのイベントに心躍らせます」

 

「そうだな、お前達の活躍もしっかり見ておくぞ」

 

『頑張る』

 

「降魔さんも参加するんですよね」

 

 

大覇星祭当日にいつもよりテンション高く話しているのは降魔の家に住む美鼓、リアと降魔の隣の部屋に住むヴルドとエルドだ

 

 

「あぁ、参加はするぞ」

 

 

それを聞いて少女らは嬉しそうな顔をする

 

 

「む。そろそろ時間じゃないのか?」

 

「そうだな、飯とかは連絡する」

 

 

そう言って降魔は集合場所へと歩き出す

 

 

「かっこいいところを期待します、と美鼓はあなたにプレッシャーをかけます」

 

『頑張ってください』

 

「応援席で応援してますね」

 

 

少女らは降魔にそう言った

こんな普通に生きれるようになったのは彼女らのおかげだろう

彼女らの言葉で降魔は改めてそう実感した

 

 

 

 

集合場所に近づく降魔の耳に何やら男女の言い争いのような声が聞こえた

 

 

「そんなことは絶対に……ですよーっ!!」

 

「馬鹿馬鹿しい。……に決まって……ですか」

 

 

声のする方に目を向ける

そこにいたのは降魔のクラスの担任の月詠小萌だった

しかも何故か白の短いプリーツスカートに淡い緑色のタンクトップといったチアリーダーのような格好をしている

 

そんな彼女と向き合っているのはぴっちりとスーツを着込んでいる男だった

どこかの学校の教師だろうか

 

月詠小萌と男の教師は言い争いをしていた

というより、嘲る男の教師に月詠小萌が食い下がっているような構図だ

 

 

「だから!!うちの学校の設備や授業内容に不備があるのは認めるのです!!!でもそれは私たちの所為であって、生徒さん達には何の非もないのですよー!!」

 

「はん、設備の不足はお宅の生徒の質が低い所為でしょう?結果さえ残せば統括理事から追加資金が下りるはずなのですから」

 

 

そして男の教師は絶対口にしてはいけない言葉を口にする

 

 

「全く、失敗作を抱え込むと色々苦労しますねぇ」

 

 

それを聞いた月詠小萌は驚きで言葉が出なくなっていた

その目にはうっすらと涙も浮かんでいる

 

 

「…生徒さんに成功も失敗もないのです!!皆さん一生懸命頑張っているのに、それをそんな言い方しないで欲しいのですー!!!!」

 

「一生懸命ですか…。そんなもの私が担当育成したエリートクラスで打ち壊してみせましょうか。私のエリートクラスにかかればあなたのクラスにいる第1位ですらも相手ではないしょうね」

 

「………」

 

「くれぐれも怪我人が出ないようにお願いしますね。そちらの愚図な失敗作どもがあまりにも弱かった場合、どうなってしまうのかわかりませんから」

 

 

 

それだけ言い残して踵を返した男の教師は目の前にいる少年に気がついた

その少年は杖をつきながらこちらへ向かってきていた

しかしその目線は自分ではなく、その後ろにいる月詠小萌を見ていた

 

男の教師は目の前の少年が第1位だとすぐにわかった

最初は第1位がいる学校ということで警戒していたが蓋を開けてみれば能力者の命とも呼べる脳に障害を負い、日常生活にすら普通に送れない中途半端な能力者だということがわかった

内心で目の前の超能力者をほくそ笑みながら自分のクラスの元へ戻ろうとする

 

 

「オイ」

 

 

低く、獣の唸り声のような声が聞こえた

それが目の前の少年から発せられた声だと認識するのに少し時間がかかった

それをほどその声に殺意や敵意が圧縮されていたのだ

 

 

「…俺を貶めんのは構わねぇよ、別にテメェら如きに何言われようが気にもしねぇしな」

 

 

ゴクリ、と思わず唾を飲み込んでしまう

これが超能力者の第1位だというのか

 

そんなことに構わずに降魔は話を続ける

 

 

「だけどよ、なんでテメェ如きがアイツらを貶めれるんだ?脅してるとは言え俺に一言も発せないような三下がよ」

 

「い、威勢を張るのは結構ですが、そんな体で私のエリート達に敵いますかね」

 

「ははっ、心配してくれてアリガトウ。だけど気をつけろよ、テメェの自慢のエリートどもが雑魚すぎたら息を吸って吐くだけの肉の塊になっちまうかもしれねぇぞ」

 

 

それだけ言って降魔は上条達の元へ向かった

 

 

クラスメイトの元へ向かうとそこには雄叫びをあげる猛者達がいた

 

 

「…どうなってんだこりゃ」

 

 

何やらやる気十分すぎる彼らを見て降魔は首を傾げる

 

 

「相手校の先生に月詠先生が泣かされたらしいのよ」

 

 

そんな降魔の疑問に答えてくれたのはこのクラスの副委員長である吹寄制理(ふきよせせいり)

またの名を、美人なのにちっとも色っぽくない鉄壁の女、と青髪ピアスが言っていた気がする

 

 

「それより、ソレは大丈夫なの?」

 

 

そう言って吹寄は降魔の電極を指差す

 

 

「問題ねぇよ、最近になって20分まで動かせるようになったからな」

 

 

以前の電極の能力解放モードでのバッテリーは10分だったが、カエル顔の医者と降魔の技術によって最大20分にまで伸びていたのだ

 

 

「今回の作戦の核はあなたよ」

 

「あぁ、20分もあればエリート如きに遅れはとらねぇよ」

 

 

 

そう言って降魔は競技開始まで時間があるのを確認し、近くの喫煙所まで足を運ぶ

 

別にこのクラスのメンバーが貶されたから嫌な気持ちになっているわけではない

別に月詠小萌の涙を見たから本気でやろうとしているわけではない

 

ただ、あの男の教師にわからせるのだ

自分が馬鹿にした教師や生徒達の本気を

 

なにより超能力者の本気というものを

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

降魔たちが行う『棒倒し』に参加する人間は自然と2つのグループに分けられる

1つは自陣に棒を立て、それを支える役

もう1つは相手の棒を引きずり倒す役

 

降魔が配置されたのは前者。厳密に言えば支えるのには参加せず相手を迎撃し、仲間を支援することだった

 

パァン!!と競技開始を知らせるピストルが鳴り響く

 

その音と同時に相手の棒を倒す役の上条達は雄叫びをあげて駆け出す

そんな彼らに向けて敵陣営からキラキラとした光が連続で瞬いた

 

能力者からの遠距離攻撃だった

放たれたのは火炎や爆発系の能力を使って作られた爆圧。それを圧力系の能力者が加工した即席の爆裂弾だろう

複数人の能力者が協力して作り上げた大覇星祭ならではの攻撃だ

 

それを見て会場から歓声が上がる

 

圧力系の外殻が取り外されると中の爆圧が解放され、周囲に衝撃波が撒き散らされる

数十発単位で放たれる爆弾がこちらへ向かって来るのにも関わらず上条たち突撃チームは臆さずに進み続ける

 

ギュルン!!と風がうねり、空気の槍が走り続ける上条達を追い抜く形で寸分の狂いもなく敵陣営の爆裂弾に突き刺さる

これは後方で中指を立てながら首筋の電極に手を当てる少年の攻撃だ

 

敵の爆裂弾と降魔の空気の槍が正面から激突し、爆発を起こす

多くの能力者の攻撃をたった1人で迎撃した降魔に先程とは比べものにならないほどの歓声が湧き上がる

 

敵も全ての攻撃が迎撃されるとは思っていなかったのだろう、多少焦りながらも再び攻撃の準備をする

降魔はそれを見逃さなかった

 

そして

 

 

「…次が来るぞ。合図を出せ」

 

 

降魔の近くにいた念話能力(テレパシー)の少女と念動能力者(テレキネシス)の少年に指示を出す

電極はすでに切り替えてある

彼の能力は他者のAIM拡散力場をコピーするだけではない。彼の能力の真髄はAIM拡散力場という力の波を操作することだ

他者の波を操作する感覚なら神の右席との戦闘の際にコツは掴んでいる

流石に永遠に能力を封じることはできないが、数秒は能力を封じることができる

 

この場にあるAIM拡散力場を読み取る

その瞬間、降魔の脳内には凄まじい数の能力者の情報が入ってくる

 

そして、それを掴み取り、掻き消す

 

それだけだ。たったそれだけで敵陣営が作りかけていた爆裂弾がフッと消える

相手の被害はそれだけに留まらず能力を使おうにもいくら演算しても使用することができなくなっていた

気がついた時にはすでに上条達が目の前まで迫っていた

 

 

「今よ!!」

 

 

敵の思考が確実に停止した絶妙なタイミングで指揮官の吹寄が指示を出す

降魔以外の能力者が持てる能力の全てを地面に放って土煙を巻き上がらせる

敵軍の視界を奪い、一気に勝負を決める作戦だ

 

だが、敵もただやられる馬鹿ではない

数十人の生徒達がコチラの棒を倒すべく駆け出していた

対するこちらのチームの迎撃班も敵に向かって駆け出す

 

そこからは敵軍のスポーツで鍛え抜かれた体とコチラのなんとしてでも勝つという意地のぶつかり合いだった

各々が各々の相手を足止めする

 

それは降魔も同じだった

 

 

「コッチだ!!超能力者を見つけたぞ!!」

 

「数で押せ!!腐っても第1位だ油断するな!!」

 

 

いつの間にか降魔を数人の男女が取り囲んでいた

何の変哲もない高校に在籍している超能力者の第1位

彼らにとっては降魔が最大の脅威となるだろう。彼が本気を出せばたった1人で勝利をもぎ取ることも造作もないことだ

だから、数で押して足止め、何なら戦闘不能にしようという魂胆だろう

 

しかし、

 

 

「……舐めてんのか」

 

 

そう言って降魔は電極を切り替え、駆け出した

能力は使わずに目の前のガタイのいい男の懐に潜り込み、背負い投げのように投げ飛ばす

横にいた少女が降魔を掴もうと手を伸ばすが、その手を降魔が逆に掴み、相手の力を利用して転ばす

 

 

「はン、俺が能力しか取り柄のねぇ甘ちゃんだとでも思ってやがったのか?」

 

 

相手の力の動きを利用し完璧に相手をいなし続ける

エリート達の悔しそうな顔を拝みながら淡々と攻撃を躱し、次々に戦闘不能にしていく

 

そんな中、会場を一際大きい歓声が包んだ

 

 

「カミやんの尊い犠牲は無駄にしませんぞー!!!」

 

 

突撃隊の青髪ピアス叫び声が聞こえた直後、ドォン!!!!と重々しい音が響き渡る

 

 

『競技終了ー!!』

 

 

実行委員の放送が入る

コチラのチームの棒は倒れておらず、向こうのチームの棒が倒れている

降魔達の勝ちだ

 

 

「…怪我はねぇな?」

 

 

降魔は電極を通常モードへ戻し、倒れている相手チームの生徒達に確認する

聞かれた生徒達はキョトンとした顔をし、

 

 

「あ、あぁ、大丈夫だ」

 

 

何度も投げられ、転ばされたのに自分たちに怪我がないことに気がつく

降魔はその答えに納得したのか、返事をせずに立ち去っていった

 

 

擦り傷だらけの猛者達は、その手で勝利をもぎ取った事も怪我の事も全く気にも留めずに選手用出口から校庭の外へ出ていく

そんな彼らを迎えるのは救急箱を持った涙目の小萌先生だった

 

 

「も、もう!!どうしてみんな、あんな無茶してまで頑張っちゃうんですかー!!大覇星祭はみんなが楽しく参加することに意味があるのであって、勝ち負けはどうでもいいのです!!」

 

 

ポロポロと涙を流しながら小萌先生は教師として叱る

 

 

「せ、先生はですね、こんなボロボロになったみんなを見ても、ちっとも、ちっとも、嬉しくなんか……」

 

 

だが、先生として教え子達がこんなに自分のために頑張ってくれることが嬉しくないわけないだろう

降魔ですら彼女が担任でよかった思えていた

 

そのまま選手控えエリアを出て降魔はパーカーを羽織り、美鼓達を探し始めた

 

 

 

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