とある科学の幻想操作   作:モンステラ

52 / 87
握り締めて挑め

パチっと降魔向陽の目が何かに反応するように開いた

見えるのは何度か見たことのある天井だった

 

 

「目が覚めた?」

 

 

降魔の隣のベッドから聞き覚えのある声が聞こえた

ゆっくりとした動きでそちらの方へ目を向けると先程の体育着ではなく、動きやすそうな服を着ている吹寄制理がいた

 

 

「あぁ、何とかな」

 

 

降魔はそのまま電極のバッテリーを確認し、その後に痛みが残る背中の傷を手触りで確認する

オリアナによって背中にナイフでも刺されたのだろう

いつもの病院ということは怪我の処置をしたのは冥土帰しだろう

 

 

「…お前の方はいいのか?」

 

「ええ、熱中症らしいんだけど今日は安静にしているようにって言われたわ」

 

「そうか」

 

「そんなことより貴様は自分の心配をしなさい」

 

「…別に俺のは擦り傷みたいなもんだ」

 

 

時計を確認すると、時刻は午後4時半過ぎ

おそらく上条達が救急車を呼び、この病院に搬送されて眠っていたということだろうか

 

携帯を見ると、いくつかのメールが届いていた

それは、リアの無事を知らせる美鼓からのメールだったり、意識が戻ったリアとどっかの屋台で買ってきた食べ物を食べるエルドとヴルドの写真だったり様々だった

とりあえずリアの無事を確認して安心する

 

丁寧に畳まれて机の上に置いてある降魔の着替えを手に取る

そのまま患者が着るような服から着替える

 

 

「ちょっと、何をしてるの!?」

 

 

降魔が怪我をしてこの病院に運ばれたことは同じ部屋にいる吹寄もわかっている

その怪我人であるはずの降魔が動き出したら止めるのが普通の反応だろう

 

 

「あ?んなモン決まってるだろーが」

 

「え」

 

 

降魔は着替え終わり、杖を乱暴に掴んで病室の外へ出て行こうとする

 

 

「大覇星祭に行くんだよ」

 

 

そう言って降魔は病室から出ていった

 

 

病室から出てすぐに降魔は携帯を取り出して土御門へ電話をかけた

土御門は数コールで出た

 

 

「俺だ、起きた」

 

『降ちんか。そりゃよかったにゃー』

 

「で、状況は?」

 

『姫神もやられた』

 

「あ?」

 

 

降魔は自分から出た声に怒気が含まれてることに気がついた

一度ならず二度までもあの女は降魔の周りに危害を加えた

ギリっと降魔は奥歯が砕けそうになるまで歯を噛み締める

 

 

『落ち着け』

 

「…あの女の場所は大体わかってるな?位置と掴んだ情報をメールで送っとけ。勝手に追いつく」

 

『了解だにゃー』

 

「それと上条はいるか?」

 

『隣にいるぜい』

 

「…吹寄もリアも無事に意識が戻ったって伝えとけ」

 

『わかったにゃー』

 

 

電話を切るとすぐに土御門からメールが届いた

オリアナがいると予測される場所は学園都市の第23学区

学園都市に侵入しているオリアナ=トムソンとリドヴィア=ロレンツェッティの目的は学園都市に『使徒十字(クローチェディピエトロ)』と呼ばれる魔術の道具を立て、学園都市をローマ正教の支配下にしようとしているらしい

それが意味することはあまり降魔にはピンとこない

 

がしかし、面倒ごとになることは確定だろう

 

 

「チッ、あのクソ痴女面倒ごとばかり持ち込むんじゃねぇよ」

 

 

電極を切り替え、第23学区に向かおうとした降魔の手が途中で止まる

先程の土御門のメールによると使徒十字は特定の条件下でしか使用できない物らしい

学園都市の中でそれが使用できるのが第23学区だけだ

使徒十字を使うためにオリアナはそこにいるのだという

 

暗部で活動し、情報の大切さは身に染みてわかっている

 

なら何故、オリアナは無意味に街の中を練り歩き、上条達の目に留まることばかりしていたのだ?

自分の姿という情報を撒き散らし、敵にヒントを与えて場所を特定されている

 

考えられることは1つだ

オリアナは囮で本命は別の場所で使徒十字を発動させようとしている

 

 

「…悩む暇はないみてぇだな」

 

 

降魔は携帯で学園都市の外にあり、学園都市の全域を覆える余裕のある場所をいくつかピックアップする

該当するポイントは5ヶ所

ひとつずつ確認して魔術師がいればそこからはわかりやすい

 

敵が馬鹿で第23学区に本当に使徒十字があれば上条達がそれを壊して終わり、オリアナが囮であった場合は降魔が学園都市の外にいる魔術師を殺して終わりだ

本当だったらリアやクラスメイトに手を出したオリアナは降魔自身の手で潰したいが、その役は上条に譲ろう

 

 

「面倒だが、行くしかねぇな」

 

 

そう言って降魔は電極を切り替え姿を消す

 

 

◇◇◇

 

 

Basis104(礎を担いし者)!!!」

 

 

上条は叫び声を聞いた

日本語でも、単純な英語でもないどこの言葉かわからない外国語

それを示す意味は、上条よりもステイルの方が早く気がついた

 

 

「伏せろ素人!!」

 

 

ステイルが上条を蹴飛ばす

上条の体が地面に転がる

もしステイルが上条を蹴飛ばしていなかったらステイルの身に起きたことが上条の身に起きていただろう

 

鋭利な氷の刃物がステイルの体を貫いた

硬く、鈍い音が連続して響いた

ストン、とステイルは両膝を折って地面に倒れる

魔力が供給されなくなった『魔女狩りの王』が苦しそうに身をくねらせ、霧散する

 

 

「ステイルーーーーッ!!」

 

 

呻き声すらあげずに地面に伏す彼の名を叫ぶ

 

 

「どこへ行くの?」

 

 

ステイルの元へ駆け寄ろうとした上条を止める声があった

振り返るとそこには単語帳を強く握りしめてこちらを見ているオリアナの姿があった

 

 

「テ、メェ…。何人傷つければ気が済むんだ!?」

 

 

既に空の色は紫色から深い青色に変わりつつある

使徒十字の発動条件である星座が浮かび上がるまで時間がない

だが、上条の口から出たのはその台詞だった

 

 

「お姉さんだって、傷つけたくて傷つけてるんじゃないわ」

 

 

どこか吹っ切れたような、余分なものを全て削ぎ落としたかのような顔でそう告げる

 

 

「それが嫌だから戦っているのよ。私には目的があるの」

 

「他人任せで未来を決めてもらっている分際で、偉そうな口利いてんじゃねぇ!!!吹寄や降魔の家族が倒れたのも、姫神がやられたのも、降魔が刺されたのも、土御門の手足が潰されたのも、ステイルが盾になったのも、全部テメェの意思じゃなくて、ローマ正教の言いなりだっただけなのかよ!!!そんな浅い考えで誰かの幸せを奪うんじゃねぇ!!!」

 

 

上条は10本の指に力を込める

 

 

「これ以上学園都市を滅茶苦茶にしようってんなら、その舐めた幻想は欠片も残さずぶち殺してやる!!!」

 

「滅茶苦茶なんてひどいわねぇ」

 

 

慎重に距離を測るオリアナに対し、上条は無造作に一歩踏み込む

 

 

「イギリス清教に何を言われたか知らないけど、使徒十字は決して悪さをするものではないわ」

 

「………」

 

「むしろ科学と魔術の壁を取り去り、世界中の人々を幸福に導くかもしれないのよ?」

 

「そんなもんはローマ正教にとって都合のいい幸福だろうが!!」

 

「そうね…。でもそれは重要なことじゃないの。お姉さんはこの世界に絶対の基準点が欲しいの」

 

 

それを聞いた上条はさらに踏み込む

 

 

「それが学園都市を好きに攻撃していいなんていう理由にはならない。誰かのために、別の誰かを踏み台にしていいなんていう理屈には、すり替えられない。絶対にだ」

 

 

この世界には多くいる

方法は違っても、そこに住む人々を守ろうと動く者が

 

 

「世の中には色々な人間がいて、解決法だって星の数ほどあるんだ」

 

 

告げながら上条は拳を握り込んで前へ出た

互いの距離はわずか1メートル

 

 

「それが1つの想いとしてひとまとめにされるってんなら、俺はそいつを全力で守るよ」

 

 

上条は握った拳をオリアナへ向ける

そしてその真っ直ぐな目でオリアナを見ながら問いかける

 

 

「お前はどうなんだオリアナ=トムソン!!お前にだって守りたいものがあるんだろう?そこを人任せにして良いのかよ!?途中で投げ出してんじゃねぇよ!!!」

 

 

は、とオリアナは笑った

彼女はそれから息を吸って、単語帳を噛み破る

しかし、破ったのは1枚ではなく数十枚

 

 

「これで決着をつける」

 

 

紙吹雪の中でそう宣言する

 

 

「我が身に宿る全ての才能に告げる」

 

 

呼応するように、紙吹雪が純白の爆発を起こした

閃光の全てがオリアナの右腕に吸い込まれる

 

 

「その全霊を解放し、目の前の敵を討て」

 

 

遠投のようなモーションで、勢いよく白い爆発が上条の元へ放たれる

 

轟!!!と空気が振動する

オリアナが全てのページを使い果たして作り上げた最大の術式に対し上条は迷わず右手を振るった

 

真っ白い閃光はその右手が触れた瞬間にガラスが割れる音と共に砕け散った

砕かれた閃光の中から別の物体が顔を覗かせる

 

 

「!?」

 

 

巨大な圧力で豆粒ほどのサイズになっていた石の塊が、ポップコーンが弾けるように本来のサイズへと膨らんだ

爆発的に質量を取り戻した塊が、暴風の勢いによって弾丸と化す

 

上条の幻想殺しで魔術を消されることを前提にした攻撃

石の嵐が吹き荒れ、身体中から鈍い音が響いた

 

 

「がァああああっ!!!」

 

 

血飛沫が舞い、上条の体がカクンと真横に倒れ始める

上下左右が分からなくなり、どのように自分の体を修正すれば体勢を立て直せるかすらわからない

削られたし思考の中、全ての単語帳を使い切ったオリアナがこちらへ向かってくる

 

彼女の最後の一撃は魔術ではなく、硬く握られた拳だった

 

足の力が崩れ、立っていることすら難しくなる

こんな状態ではオリアナの攻撃を防ぐことも、避けることもできない

 

 

(ちく、しょう…)

 

 

今日だけでも大覇星祭に参加する多くの人の結晶を見た

 

吹寄制理は大覇星祭を盛り上げるために動いていた

姫神秋沙はステイルと小萌先生の争いを止めるために手を引いてくれた

ステイル=マグヌスは血の池に沈む同級生を救うために動いてくれた

土御門元春は科学と魔術の衝突を避けるために傷だらけになって動いていた

降魔向陽という男の楽しそうな顔を上条は初めて見た

 

そして上条当麻は自分の口で宣言していた

血塗れの姫神に、ナイトパレードが始まるまでには必ず病室に戻ると

それは彼なりの覚悟の証だ

 

それを、

 

 

(それを、こんなところで台無しにしてたまるかよォおおおおおッ!!!!)

 

 

そこでようやく上条の足が動いた

斜めになっていた視界がようやく正常に戻る

 

強く、決して開かぬように握られた右の拳を振りかぶる

 

眼前には驚いた顔のオリアナがいた

 

 

直後

両者の拳が交差し、上条の一撃がオリアナの顔面に直撃した

魔術師の体は壮絶な勢いに乗って、真後ろへと転がった

 

 

上条は周囲の飛ぶ旅客機の轟音を聞き、結界が消えたことを知る

彼はボロボロの体を動かし、ステイルの元へ向かう

 

 

「ステイル」

 

 

ステイルは起き上がることはできなかったが、ゆっくりと瞬きをし

 

 

「僕は、良い。自分でなんとかする」

 

 

今も彼の体には言葉を話すたびに激痛が走っているだろう

しかしそんなことよりも優先すべきことがある

 

 

「オリアナに、使徒十字の、場所を吐かせろ」

 

 

そんなことは上条にだってわかる

しかし、いまだに血を流し続けるステイルを放っておくことは上条にはできない

上条が包帯の代わりになるものはないかとあたりを探し始めた時、

 

 

『心配する必要はないかと。もうすぐ全てが終わりますので』

 

 

言葉が聞こえた

倒れているオリアナの懐から聞こえていた

 

声の主は

 

 

「リドヴィア=ロレンツェッティ、か」

 

 

ステイルがそう呟く

オリアナ=トムソンと共に学園都市内部で『使徒十字』を発動させる計画を企てていた奴だ

 

 

『まもなく使徒十字はその効力を発揮し、学園都市はローマ正教の下に改変されます』

 

「俺たちみたいな邪魔者はここで排除するってのか!?」

 

「よせ、上条当麻。まともに取り合うな」

 

 

倒れているステイルが小さな声で上条へ釘を刺す

 

 

「リドヴィアは、この近くにいるはずだ。行け。使徒十字もそこに…」

 

『誤解なきよう告げておきますが、使徒十字は現在学園都市にはありませんので』

 

 

そこでステイルは自分たちの過ちに気がついた

学園都市を覆えるのならば別に学園都市の内部で術式を発動させなくても良いのだ

例えば、オリアナを囮にして使徒十字を持つ自分は安全な学園都市の外側で術式を発動させる

 

 

「やら、れた。上条当麻…土御門に連絡しろ!!オリアナは、最初から囮だったんだ」

 

『無駄です。今からこの場所を特定したところで間に合うはずがありません』

 

 

そこでオリアナの懐にある通信術式の向こう側からカシュっとまるでライターの火をつけるような音が聞こえた

 

 

『よぉ』

 

 

そして聞き覚えのある声が聞こえた

その声に一番驚いたのは他の誰でもなくリドヴィアだろう

 

 

「降魔!!頼む!!」

 

 

上条にはなぜリドヴィアの所に降魔がいるのかわからない

でも希望は紡がれた

 

希望は学園都市の超能力者へ

 

 

「面倒ごとは嫌いなんだ。大人しくソレを持って帰るんなら俺は見逃す」

 

「な、何を…」

 

 

降魔は煙草を吸いながら目の前にいる魔術師を睨みつける

彼とリドヴィアの距離は決して近いとは言えない

 

だからこそ彼女は術式を展開させることを選んだ

それを眺めていた降魔は呆れたような表情を浮かべて煙草を吸い続けていた

 

リドヴィアが術式を発動させる瞬間、夜空が閃光に包まれた

学園都市に飾り付けてあった、電球、ネオンサイン、レーザーアート、スポットライト

それだけではなく、夜空で輝くのは花火

 

 

「な」

 

 

光の渦が学園都市を覆い尽くす

あれほど瞬いていた夜空の星が、閃光に炙られて消えていた

 

 

「今の時間は午後6時半ジャストだ」

 

 

降魔は携帯を弄りながらそう告げる

顔を歪めるリドヴィアには目もくれずにカシャっと輝く学園都市の写真を撮る

 

 

「知らなかったか?ナイトパレードの時間だ」

 

 

リドヴィアが一歩、また一歩と後ろへ下がる

既に使徒十字の発動タイミングは過ぎていたが、世界は一向に変わる気配はなかった

 

そもそも彼女は大覇星祭の主役を見ていなかった

彼女はステイルや土御門、上条などといった面子しか見ていなかったが

 

大覇星祭に関わる全ての人の願いが詰まった莫大な光によってリドヴィアの幻想は打ち壊された

 

 

「で、だ。俺は言ったよな、手を引けって。それを無視したテメェを俺は無視することは出来ねぇぞ」

 

 

低く唸るように学園都市が誇る怪物が首筋の電極へ手をかざした

ッッッドン!!!!!!!ともはや人間の目では反応できない速度でリドヴィアに肉薄する

彼女は降魔の姿を見ることさえできなかっただろう

 

降魔は凄まじいスピードの中でリドヴィアの首を掴み、そのまま地面へ押し倒す

 

 

「ごっ、ぶぅ!!」

 

 

首を絞められ、血液と酸素の供給が止められたリドヴィアは苦しそうに降魔の腕を掴み、退かそうとするが、その腕はピクリとも動かない

 

 

「もう一回だけ聞いてやる。ソレ持って無様に逃げて二度と学園都市にちょっかい出さないって言うんなら見逃してやる」

 

「あが、ががっ、があ」

 

 

首を絞められ顔を変色させながらリドヴィアは必死に降魔に何かを告げる

しかし、首を絞められている状態で出てくるのは言葉のなり損ないだった

 

 

「オイオイ、何言ってんのかさっぱりだわ。人が理解できる言語で話せよ」

 

 

リドヴィアは本来、逆境になればなるほどやる気が湧き上がる

誰も彼女の前進を止めることはできない

 

はずだった

 

 

「が、ぁ。でをあなじて」

 

「あ?」

 

「手を、離してくだ、さい」

 

 

そんな彼女の心が完全にへし折れた

降魔は涙やら鼻水やらで顔面を汚すリドヴィアの首から手を離す

 

煙草に火をつけながら、リドヴィアの意識を完全に奪い取る

そこで電極を切り替えて、土御門へ電話をする

大きなあくびをしながら土御門に自分たちがいる場所と現状を説明する

 

 

降魔は煙草を吸いながら長かった今日の出来事を振り返る

これでまだ1日目だというから驚きだ

 

 

「ったく、面倒くせぇなー」

 

 

そんなことを言う彼の顔は少し笑顔のように見えた

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。