「で?お前は何してんだ」
降魔はいつもの病室で本を読みながら呆れた目で彼の前で土下座している少年を見る
その少年は上条当麻
昨日は彼と一緒に世界と学園都市の命運をかけた魔術戦に参加していた
「降魔、いや、降魔さん!!この通りです。頑張って競技に参加してもらえないでしょうかー!!!」
昨日の一件で脇腹をナイフで刺され、怪我をしていた
さらに傷も完全に治っていないのに出歩き、傷が開いていたらしい
怪我の具合で言えば上条も降魔も五十歩百歩なのだが、一応降魔は入院という形になっていた
「恥も外聞もねぇな、お前」
「そんなものに気をまわす余裕は今の上条さんにはない!!」
話を聞くと、御坂美琴との勝負の真っ最中らしく、負けた方は勝った方の言うことを何でも聞くという罰ゲームがあるらしい
しかも昨日の競技は降魔、上条、土御門が不参加でかなりギリギリだったらしい
なので降魔が競技に参加して御坂美琴がいる常盤台中学校との差を埋めてほしいのだと言う
「なんで俺がそんな面倒なこ、と…」
そこまで言って降魔は何かに気がついた
「いや、待て。あの医者に聞いてみて、OKだったら参加するわ」
「マジか!!本当にサンキューな!!」
そう言って上条は病室から出て行った
上条と入れ替わるように入ってきたのは見覚えのない少女だった
彼女がこの病室の前でこちらの様子を覗っていたことくらいすぐにわかった
だから上条を追い出し、少女が入ってきやすい環境を作った
「あなたが第1位さんでいいのかしらぁ?」
「あ?」
入ってきたのは蜂蜜色の髪をした常盤台の体育着を着た少女だった
直接会ったことはないが、彼女のことは知っていた
学園都市第5位の超能力者
精神系最強の能力『心理掌握』を持つ
「
御坂と同じ常盤台中学の生徒なのだが、中学生とは思えない美貌を持っている
降魔はベッドからは降りずに首だけを動かし、食蜂をみる
彼と彼女は知り合いでもなんでもない
それなのに彼女がこの病室を訪ねてきたと言うことは、なんらかの面倒ごとだろう
「あらあらあらぁ?流石は第1位さんね」
「チッ、何の用だか知らねぇがさっさと失せろ」
それだけ言うと降魔は持っていた本に再び視線を戻す
「ちょ、ちょっとぉ!!少しくらい話を聞いてくれてもいいんじゃないのぉ」
「お前の話を聞いて俺に何のメリットがあるってんだ」
本から目線を動かさずに未だに病室に居座る少女へ問いかける
「妹達」
食蜂のその一言で降魔は目線を彼女へ向ける
既に電極に手は掛けられている
後は電極のスイッチを切り替えるだけで降魔の悪魔的な能力は解放される
「そんなに睨まないでほしいんだゾ☆」
「チッ、場所を変えるぞ」
降魔はそう言って杖を掴み、ベッドから立ち上がった
そのまま病室の扉を開け、歩き出した
食蜂はその後ろを意地の悪い笑みを浮かべながらついていった
降魔達がやってきたのは病院の屋上だった
「用件を手短に話せ」
「はぁ、はぁはぁはぁ。ちょっとぉ、別に屋上じゃなくてもよかったんじゃないのぉ?」
息切れをしている食蜂を放っておき、降魔はポケットから煙草を取り出す
別に降魔は病室で話を聞いてもよかったのだが、万が一にも美鼓達がやってきた場合が面倒くさい
それと煙草を吸いたかったと言うのが理由である
「…あなたねぇ、女の子がこんなに疲れてるのに呑気に煙草を吸うなんて紳士力が足りないんじゃないのぉ」
「そんな下らねぇモン屋上から投げ捨てとけ」
「妹達が学園都市の暗部に狙われてるわ」
降魔は屋上の柵に体重を預けながら煙を吐いていた
この食蜂という少女は妹達が暗部に狙われているという情報をどこかで掴み、妹達の1人と生活を共にする降魔に協力を求めにきたということだろう
彼女自身の目的は妹達とは別のところにあるのだろう
自身の目的を叶えるために、降魔を利用する
しかし、学園都市のゴミ共が妹達に手を出すと聞いて黙って見ていられるはずはなかった
「…いいぜ、お前に利用されてやる」
そう言って降魔は携帯を食蜂へ投げる
しかし、彼女は至近距離から優しく投げられた携帯をキャッチすることができず降魔の携帯が地面へ落ちる
「い、今のはあなたが携帯を投げることを予想できなかっただけだからぁ!!」
「……」
慌てるように言い訳を並べる彼女を冷めた目で見る
地面に落ちている自分の携帯を拾い上げ、今度は食蜂へ手渡す
「勝手にメールなり電話なりを登録しろ」
「…ナンパかしらぁ?」
「死ね」
登録が終わった携帯を奪い取りながら降魔は言い放つ
すると食蜂はいきなりカバンの中からどこにでもあるようなリモコンを取り出し、降魔へ向ける
「私は協力者の頭の中は必ず覗くようにしてるの。それでもいいかしらぁ?」
「フンッ、勝手にしろ」
そう言って降魔は2本目の煙草に火をつけた
煙を吸い込み、吐く
しかし、いつまで経っても食蜂が動く様子はない
「あ?覗かねぇのか」
「覗いて欲しいならそうするけどぉ、あの人が信用してる人をあまり疑いたくないもの」
そう言って下を向く食蜂を眺める降魔の携帯が震えた
どうやらメールのようだ
そのメールを開き、内容を読むと、降魔は電極を切り替えるために首筋に手を当てた
「…俺は俺でやる。何かあったら連絡を寄越せ」
そう言って、屋上から飛び立つ
空気を蹴り、空中を移動している彼を見て、自分の選択は間違っていないと改めて思う
◇◇◇
とある公園には犬型のロボットを率いてる小太りな男とその男の目の前で倒れている少女がいた
その少女は気を失っており、まるで何者かに暴行されたかのようにボロボロだった
「婚后さん!!?」
そこへ橋を渡ってその倒れている少女のもとへ駆けつけてくる少女達
その公園には5人の人物が揃った
「…アンタがやったの?」
一番に駆けつけた佐天涙子がキッと小太りの男を睨む
対する男の方は、ニヤニヤと余裕の表情を崩さずに答える
「だったらどうなの?ゴミクズがどうなろうとどーでもいいだろ」
「なっ」
「その女さ、御坂美琴のために動いてたんだってさ」
男は、まるで倒れている婚后を嘲笑うかの如く
「他人に精神を委ねている時点で2流、その上、与えられた役も果たせないんじゃ3流以下だよね」
「……ッ!」
「まーでもさっきは傑作だったよ。ズタボロにされて這いずる姿はまさにゴミクズ…」
「アンタねっ!!」
佐天が何かいう前に彼女の後ろにいたはずの2人の少女が佐天達の前に躍り出た
彼女らの表情は佐天のいる場所からは見えなかった
それにまるで嵐の前の静けさかのように彼女らは静かだった
「佐天さん。申し訳ありませんが、婚后さんと猫さんを安全な所まで運んでいただけませんか?」
「…でも」
よく見れば2人の少女は拳を握り、その拳は小刻みに震えていた
「その猫を守らなければ、婚后さんの努力が無駄になりますから。それに…」
2人の少女は目の前でニヤける男を睨みながら言い放つ
「友人への侮辱に怒りを抑えられそうにないのは、」
「私達も同じですから」
そんな彼女らの怒りすら目の前の男は嘲笑う
「友人を侮辱された怒り?はは、他人への精神依存でも流行っているのかな」
佐天は意識のない婚后を抱えようとするが、意識のない人間というのは凄まじく重い
そんな彼女へ男が率いる犬型のロボットが襲いかかる
しかし、その直前にどこからか飛んできた水がロボットに直撃し、ロボットの行動を不能にする
そのまま頑張って持ち上げようとする
すると、いきなり婚后の体が不自然に軽くなった
「…これって泡浮さんの能力?」
「はい、ですがあまり長くは続きません」
泡浮の能力で軽くなった婚后を抱えて後ろの橋からこの場から立ち去ろうとする
その後を追跡しようとする犬型のロボットの行く手を橋の下から凄まじい勢いの水が噴き出て阻む
「はぁ、はぁはぁ」
泡浮から離れれば離れるほど婚后の重さが戻っていく
いくら女の子とはいえ、意識のない人間を抱えて走ることは難しい
息が切れ、手足に疲労が溜まるが、それでも前に進むことは止めない
そんな彼女の前にフワッと灰色の少年がどこからか降りてきた
「降魔さん!!?」
「…この公園の入り口で救急車を呼んで、お前らはそのまま病院に向かっとけ」
「あ、あの!!この先で湾内さんと泡浮さんが…っ!!」
「わかった」
降魔は佐天に触れ、彼女らを公園の入り口まで移動させる
『メンバー』の1人が降魔の知り合いの1人と接触したと聞いて、彼女らがいるところまでやってきたが、すでに手を出された後だったようだ
さらに佐天の話によれば湾内と泡浮の2人もその男と交戦中らしい
演算を働かせ、空間を飛び越える
飛び越えた先は『メンバー』の1人と湾内達の間だった
「へ」
そんな間抜けな声を出したのは先ほどまで余裕の表情を浮かべていた男だった
余裕の笑みを浮かべたまま固まっている男の方へ駆け出し、拳を振るう
その包帯で覆われた金属の拳を容赦なく、男の顔面へ捩じ込む
「ぷぎゃ!」
降魔がその気になればベクトル操作で血液を逆流させることもできた
しかし、降魔は何の能力も使わずに拳で殴りつけた
「…俺やテメェみたいなゴミクズが人の信頼なんてモンを馬鹿にすんじゃねぇよ」
その瞳は暗く、恐ろしい程に闇に染まっていた
「なっ、何故ここに、降魔向陽がいるんだぁッッ!!??」
降魔に殴られ、地面を転がっても意識を失っていなかった男が目の前にいる少年を見て驚く
しかし、少年はそんな男には目もくれずに持っている煙草に火をつける
「…公園の入り口で佐天達が救急車を待ってる。お前らも行ってやれ」
「ですが…」
「お前らの怒りもわかる。だが、今は収めろ」
降魔は既に入った学園都市の怪物としての顔を彼女らに見せないように背中を向けながら話す
努めて声色だけはいつものようにして、決して彼女らにこの部分を見せないように
「お前らの怒りは俺が引き継いでやる。このゴミに効くようにちっとばかし研いでから俺がぶつけてやる」
「…はい」
「降魔さんもお怪我をなさらぬよう」
「行け」
それを聞いた少女達は佐天達がいる公園の入り口へ向かう
彼女らが走り去っていくのを確認した降魔はゆっくりと笑みを浮かべる
その笑みは降魔が美鼓達や白井達に見せる笑みとは種類が違っていた
「よぉーし、これで俺とテメェの2人きりだな」
「う、ぁ。ヒィぃぃぃぃぃ!!!!」
男は慌てて起き上がり、みっともなく逃げ出す
無様に逃げ出す男に先ほどまでの余裕は一切ない
そんな男に笑みを浮かべながら降魔は少しずつ近づく
「おいおい、そんなに俺と2人きりは嫌なのかぁ?傷ついちまうじゃあねぇかよ!!!」
そのまま地面を蹴り上げ、一気にトップスピードへ入る
凄まじいスピードの中で降魔はガシッと逃げている男の頭を掴む
そのまま勢いを殺さずに地面へ叩きつける
「ぶふ!!ぐふ、えぎぃ!」
物凄い勢いで地面とキスをした男は、余りの痛みで悲鳴を上げようとするが降魔に頭を抑えられてそれすら叶わなかった
土の味や血の味で口の中がぐちゃぐちゃになっている男は必死にもがく
「苦しそうだな、おい」
笑みを浮かべながら降魔は男の顔を地面にから引っこ抜く
男は血を鼻や口から垂らしながら、自分が生き残るために、これ以上は痛めつけられないためにどうすればいいか考える
「あふがぁ、ま、待ってぐれ…ッ!!」
「あ?」
「なんでも言う、から…。だずけで」
目には涙すら浮かべ、懇願する男を見て降魔は笑みを浮かべ、
「別にテメェが死んでも情報なんざいくらでも抜き取れんだよ」
再び、地面へ叩きつける
地面へ体を押さえつけていると、少しずつ男の動きが鈍くなってきた
降魔はそれを見て煙草を捨てながら、抑えるのを止めて立ち上がる
「おいコラクソデブ野郎が、寝るには早すぎんぞ」
降魔はうつ伏せに寝転がっている男の肩に足を置き、体重をかける
グゴキッ!!という鈍い感触が男の肩から足に伝わった
関節が強引な力によって外れた
「ぐ、ぎゃああああああ!!!??」
男は余りの激痛により意識を取り戻し、叫び声を上げる
「…」
それを聞いた降魔は一切表情を変えずに2本目の煙草に火をつける
こんなものか、と降魔は思う
そんな中で携帯の着信音が鳴った
この音は降魔のものではない
それは目の前で惨めに生きている男の携帯だ
降魔は携帯を取り、躊躇なく電話に出る
『もしもしー馬場ちゃーん?』
「…テメェがこの腐れ豚の仲間ってことでいいのか」
『オヤオヤ?もしかして馬場ちゃんやられちゃった感じ?』
「おい、テメェが何者か知らねぇが、俺の質問に答えろ。質問に質問で返すな」
『おー怖い。オネーサンは馬場ちゃんの仲間じゃないけど、まぁ協力者ってトコかな』
「そうか、テメェの足りない頭でよーく考えろよ。これ以上俺の周りで面倒ごと起こしてみろ、全員殺すぞ」
『うへぇ、殺されるのはごめん。だけど、この計画だけは成功させ、』
電話の途中で降魔は通話を切り、一応相手の逆探知を仕掛ける
しかし、結果は芳しくなかった
舌打ちと共に携帯電話を握りつぶして適当に捨てる
いつの間にか意識を失っている馬場と呼ばれる男をどうするか考える
降魔としては殺してしまった方が楽だが、下手に殺してしまうと『メンバー』が『カースト』に攻撃を仕掛ける可能性がある
狙われるのが降魔だけなら別に問題はないのだが、この手のゴミ共は人の大切なものを平気で利用する
「チッ、面倒くせぇな」
先ほど外した肩の関節とは逆の方の肩に足を乗っける
そのまま力を込める
ガゴンッ!!と鈍い音が響いた
先ほどと同じように馬場は悲痛な叫び声をあげる
よく見れば男の股間の部分には染みが出来ており、変なアンモニア臭がする
流石の降魔も顔をしかめ、男を蹴飛ばして吹き飛ばしておく
意識を失い、地面を転げる馬場は公園の木に激突して止まる
『メンバー』の奴らと殺し合うのは別に今じゃなくていい
いずれその時が来るはずだ
降魔はとりあえず病院に戻って電極の充電をして、食蜂からの情報を待つことにした
杖をつきながら降魔は目的の病院まで歩く