瓦礫の山が積み重なる場所で3人の少年が駆けていた
「行け!!」
降魔向陽が声を荒げて指示を出す
その指示に従い目標へかけるのは上条当麻と削板軍覇だ
彼らが見つめるのは暴走している御坂美琴
この3人の内誰かが欠けていたら既に戦況は崩壊していただろう
降魔が御坂のAIN拡散力場を弄って動きを止め、上条と削板が彼女のヘイトを分散させる
長期戦になればなるほど窮地に追い込まれるのは3人の少年の方だ
御坂はリミッターが外されているのか徐々に攻撃能力が上昇し始めている
(このままじゃジリ貧だ。コレだっていつバッテリーが切れるかわかったモンじゃねぇ)
降魔は電極をこまめに切り替えながら、顔をしかめる
恋査とかいうサイボーグとの戦闘で消耗した電極のバッテリーが気になる
「降魔、大丈夫なんだよな?」
「…余裕だ、って言いてぇとこだがコレがある以上はなんとも言えねぇな」
上条の心配そうな問い掛けに降魔は電極をなぞりながら答える
だが、やるしかない
食蜂操祈が木原幻生の企みを打ち砕くまでなんとかしなければいけない
「降魔、次行くぞ」
いつの間にか隣に並んでいた削板が攻撃を仕掛ける準備をする
そう、彼らは信じるしかないのだ
ただ信じて、猛攻に耐える
ドォンッッ!!!!と低い音と共に削板の体が砲弾のように加速して、御坂へ突っ込む
上条もそれに続いて御坂のいる方へ向かって走り出す
彼女を救う
そう思いながら一歩踏み出した上条の真横を何かが高速で通過した
あまりのスピードで上条は目で追うことが出来ず、何かが前方から上条の横をすり抜けていったことしかわからなかった
その正体を確かめるべく上条は後ろを振り向く
そこには、瓦礫の山に激突し、意識を失ってグッタリとしている削板がいた
「降魔!!!」
上条はクラスメイトの少年の名前を叫ぶ
彼がいる限り能力者は能力を満足に使えなくなるハズだ
先ほどまで降魔がいた方向に目線を向けると、膝を地面につけて、半立ちの状態の降魔がいた
彼の生命線とも呼べる電極のバッテリーの充電が切れたのだ
降魔向陽は虚な目でどこかを見ていた
そんな絶対的な隙を彼女が見逃すハズもない
身動き一つ取れない彼へ向け、雷撃の槍が放たれる
当然の如く降魔は避けられるはずもなく、直撃する
受け身も取れずに地面を何回もバウンドして瓦礫の山に激突し、凄まじい音が響く
もうすでに降魔には痛みという感覚を持っていなかった
それでも彼の体の至る所から血が流れる
しかし、それをどうすることもできずに彼はモゾモゾと芋虫のように動くことしかできていなかった
生きている。だが、彼はこれで戦線を離脱した
正真正銘
孤軍奮闘
ギチギチぎちぎちぎち、と不気味に変形を続ける御坂の前に上条はたった1人
至る所に傷を作り、上条は睨みつける
御坂ではなく、彼女をこんな風にした黒幕を睨みつける
その上条の敵意に反応するように一際大きく彼女の体の構造が変化する
それと同時に地面から何か真っ黒いモノが出現する
「…ッ」
ソレは真っ黒い球体のようなものだった
そのナニカは御坂の心に反応するように徐々に大きくなり、力を溜め込み始める
黒く渦巻くナニカを見て、上条が覚悟を決めた瞬間に御坂の様子が変わった
何をどう言ったらいいのかはわからないが、先ほどまでの誰かに操られているような状態ではなく、彼女に自我が戻ったような気がした
それを見た上条は覚悟を決める
あとは一歩踏み出すだけだ
そう思い、一歩踏み出そうとした瞬間
「やめとけ」
後ろから声がかかる
そこにはいつの間にか意識を取り戻していた削板が肩を回しながら此方へ歩いてきていた
「動けるのか?」
「問題ねぇよ。根性入れりゃ血は止まるし骨もくっつく」
削板は上条の方を真剣な顔で見て
「おまえ、特攻かますつもりだったろ」
「…あぁ、アイツの様子が何か変わった」
図星をつかれた上条は正直には話す
削板と降魔がやられ、上条1人になった時点でできることなど限られているのだ
御坂の様子が変わったことに気づき、自らの身を犠牲にしてでも彼女を暗闇から引きずり上げようとした
「さっき頭に入ってきた誰かさんの目論見が上手くいったのかもしれない」
「ホントかよ」
削板は目を凝らして見るが、先ほどとの違いは一切わからなかった
「だけど、力を抑えられないみたいなんだ」
だから俺が行く
そう続こうとしたが、その言葉は削板に遮られる
「上条。おまえの右手がどういうモンなのかは知らねぇが、アレはさっきまでのとは別物のヤバさだぞ」
削板が感じ取っているであろうことは上条にも感じ取れた
先ほど削板と降魔を吹き飛ばしたものは濃縮されたエネルギーの塊のようなものだったが、御坂の前に存在しているアレは、別の世界から来た文字通り人では理解できない代物だろう
アレは矮小な人ごときがどうこうできるものではない
「俺に任せろ。身体を張った自爆技で押さえ込むくらいはできるかもしれん」
削板が一歩前に出て、拳の関節を鳴らす
「いや、さっき言った通りアイツは知り合いだからさ、俺の手でなんとかしたいんだ」
「けどよ…」
「おまえの言う通り、俺じゃ力不足かもしれないし、状況が飲み込めてないからこれが最善手とは言えないけど」
食い下がる削板に上条は真っ直ぐと見つめて言う
「まぁ、足りない部分は根性でカバーしてやるしかねぇ!!だろ?」
上条のその言葉を聞いて削板はハッとさせられる
そして自分の目の前にいる少年が自分の想像を超えるやつだと再認識する
「しゃーねぇ、ぶちかましてこい!!」
削板は今一度気合を入れ、短く息を吸い込む
そのまま自身の能力を使う
ズンッッ!!!と低い音ともに御坂の元までの道ができる
「行けッ!!」
削板の掛け声を聞き、上条は御坂の元へ向かって走り出す
ビシビシ、びしびしびしと御坂を覆う黒いナニカが削板の作った道に食い込もうとする
それは徐々に強さが増していく
やがてそれが一定のラインを超えた
「ッッ!!」
削板の腕から血が噴き出す
黒いナニカからの干渉に耐えられずに、能力を使った削板の体を蝕む
上条もその異変に気がついたが、後ろを振り向かずに前へ走る
「大人しく、してやがれ!!!!!!!」
削板が更に力を込める
黒いナニカの力を上回る力で強引に押さえつける
パキン、パキンパキンとやがて削板の能力と黒いナニカの力がぶつかり合っている場所に金属のような何かが生まれる
道は再び開けた
上条はその右拳で彼女を助けるべく走る
◇◇◇
「なんなのよ、これ…ッ!」
御坂美琴は見覚えのない黒い空間で何かに手を引かれていた
それはまるで血管でできた不細工な人間の手のようだった
まずい、そう思ったのには訳がある
その手のようなものが出ているのはまるでこの世界のものではないような高密度の何かなのだ
こんなものが放たれてしまえば、学園都市は確実に吹き飛ぶ
そこには自分の大切な人たちがいる
(この身体で覆える大きさまで圧縮して、抱いたまま爆発させればなんとか…)
もうそれしか方法はなかった
それで大切な人たちを守れるならばいい
そう思い、その方法を実行しようとした御坂の視界の端に何かが映った
「アイツ…ッ!!」
こちらへ向かって走ってきているのは御坂もよく知る人物だった
上条当麻だ
「まさかこれを止める気なの!?」
彼の右手には能力を打ち消すという謎の力が宿っている
それを使ってこれを打ち消す気なのだろう
「待って!!これは能力じゃないの!!」
しかし、御坂の直感が告げていた
これは能力ではない、と
だから彼を止めるために叫ぶ
「学園都市のイヤなものを叩き潰したい、消し去りたいっていう私の心が呼び出したものなの!!だから、私が…」
必死に叫ぶが、上条に御坂の声は聞こえていない
既に彼は、地面を蹴り上げて黒いナニカに迫っている
「ダメェェェ!!!」
御坂の叫びも虚しく上条の幻想殺しが黒いナニカに触れた
ギャリギャリギャリ!!!と何かが削れるような音が響く
幻想殺しの処理が追いつかずに、上条の右手が押され始める
そして、その時が来た
ドッッ!!という鈍い音と共に上条の右手が弾かれる
弾かれたのは上条の右手だけだった
あまりの勢いで上条の右手は二の腕あたりで千切れ、右手だけが宙へ舞う
1人は、その光景を見て絶望をする
1人は、歯を食いしばりながら諦め切れずいた
1人は、ただただその光景をぼんやりと見ていた
そして、
上条当麻の戦意に反応するように上条の右腕の断面が蠢く
ド派手な轟音などは一切しなかった
現れたのは1匹のドラゴン
上条のちぎれた右腕の断面から飛び出したドラゴンは黒いナニカへと伸び、その強靭な顎で食らいつく
変化はそれだけに留まらなかった
上条の千切れた右腕の断面から次々とドラゴンが飛び出したのだ
合計8匹のドラゴンが黒いナニカを喰らい尽くしていく
バギンッッ!!!!何かが砕けるような音と共に御坂を覆っていた黒いナニカが砕ける
元の場所へ還るように黒いナニカが少しずつ霧散していく
そこでようやく御坂は上条当麻と目が合った
コン、と上条は左手で御坂の額を小突く
「学園都市にロクでもない面があるのは俺も知ってるし、それを俺たちが手出しできないような偉い奴らが裏で操ってるのもわかってる」
まるで諭すように
上条はゆっくりと語りかける
「だけどさ、それを力ずくで排除するってやり方じゃダメだ。仮に成功したとしてもおまえが望む世界にはならないと思うんだ」
「……」
「俺ら以外にもおまえを助けようと頑張ってた奴に心当たりあるだろ?」
上条は自分のジャージを脱ぎ、御坂へ被せる
「そいつらと少しずつ変えていけばいいんだ。もちろん俺も協力する」
涙を流しながら御坂は頷く
その涙を拭いながら御坂は思い出す
「…って、あんた腕!!病院!!」
「あ」
上条も御坂の言葉でそれを思い出し、自身の右腕を見る
しかし、そこにはいつも通りの右腕があった
試しに動かしてみるが普通に動く
御坂を覆っていた黒いナニカが徐々に無くなっていくのを確認し、騒動の終わりを実感する
「ん?」
上条は何者かの気配を感じ取って後ろを見る
そこには俯きながら立っている灰色の少年がいた
「降魔?」
少年の名前を呼びかけるが反応はない
そもそも彼は首筋にある電極のバッテリーが切れて動けないはずじゃなかったのか
そして
蠢く
最後の悪あがきかせめてもの反撃か
徐々に無くなりつつある御坂を覆う黒いナニカが不気味に蠢き、上条へ向かって影を伸ばす
全てが終わったと思っていた上条は反応が遅れる
だが、悲劇は起きなかった
上条へ伸びた影は、先ほどまで上条の後ろに立っていた降魔によって呆気なく握りつぶされた
最後の黒いナニカを握りつぶした降魔はそのまま倒れる
上条たちが慌てて降魔を呼びながら無事を確認する
意識はあるが、降魔は呻き声を上げるだけだった
どうやら先ほどと同じように電極のバッテリーが切れてしまっているのだろう
様々な疑問が上条と御坂の頭に浮かぶが、とりあえず今は降魔を連れて病院に行くことが最優先だろう
上条は倒れている降魔を背負い、いつもの病院を目指す
◇◇◇
ゆっくりと瞼が開き、様々な情報が耳や目から一気に入ってくる
どうやらここはいつもの病院のようだ
降魔は自身の体の調子を確かめながらゆっくりと起き上がる
色々な場所に包帯が巻いてあるが、特別に痛むところはない
御坂に吹き飛ばされた義手もいつも通りに修理されていた
電極のバッテリーもほとんど満タンに充電されていた
降魔が病室のベッドの上でボケーっとしていると、コンコンと病室の扉をノックする音が聞こえた
その音に返事をしようとしたが、恋査と戦闘になった時のことを思い出す
静かに電極に手をかけ、いつでも能力を発動できる状態にする
「…開いてんぞ」
そういうと、扉が開いた
「チッ、お前か」
そこには常盤台の体育着を着た御坂美琴がいた
降魔は舌打ちをしながら電極から手を離す
御坂は何やら顔を青くして降魔を見る
降魔の顔というより、降魔に巻かれている包帯を見ている
「…ごめん」
「あ?」
そう言って御坂は頭を下げた
降魔はその姿を見て少し驚いた
彼女と会ってからそれなりの時間が経っているが初めて彼女が謝罪し、頭を下げる場面を見たのだ
それも相手は自分だ
「あの子たちも巻き込んで、アンタも私のせいでそんなにボロボロになっちゃったし」
「……」
「謝って済むことじゃないけど、謝らせて」
頭を下げている御坂の表情はわからないが、降魔はため息を吐く
「…アイツらに謝罪するなら兎も角、俺に謝罪なんていらねぇよ。どうしてもしてぇならそこの花瓶にでもしとけ」
「でもっ」
「大体お前が暴走したのだって木原のせいなんだろーが。お前が気にやむ必要はねぇよ」
降魔はそう言って手のひらをヒラヒラする
それを見ていた御坂は先ほどよりもすっきりとした表情になっていた
「…これお見舞いね。売店のだけど美味しいと思う」
そう言って御坂はお見舞いを置いて、足はやに病室から出て行った
少しずつだが彼女にも信頼されていっているということだろうか
以前の自分ならそんなものは不要だと本気で切り捨て、孤独の道を歩んだだろう
しかし、今はなぜだかそれが妙に心地よかった
「…面倒くさいな」
そう言う彼の表情はその言葉とは裏腹に最近になって作ることが増えた笑みが浮かんでいた
それと同時に彼の携帯が震えた
メールだ
差出人は美鼓だった
それを確認すると、意識を取り戻した美鼓とリア達が笑顔で写っている写真が添付されていた
初めてだらけの大覇星祭がもうすぐ終わる