とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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交戦

佐天涙子が幻想御手を使用し、意識を失った

彼女は第7学区の病院に運ばれ、治療を受けている

その病院の屋上で御坂が白井に話し始める

 

 

「佐天さん、いつもお守り持ってたでしょ?」

 

「えぇ、いつもカバンにぶら下げている」

 

「あれね、学園都市に来る前に、お母さんからもらったんだって」

 

「そんな話をお姉様に」

 

「うん。多分色々話したかったんだと思う。それなのに私ってば全然ダメだよね」

 

「・・お姉様」

 

 

しんみりとした空気が病院の屋上を支配する

空は嫌なほどに晴れ、彼女らを見下ろす

 

しかし、そんな空気を叩き壊すような存在がいた

 

 

「ったく、うるせぇな」

 

 

嗅いだことのある匂いと聞き覚えのある声

転落防止のフェンスの向こう側で座りながら青空を眺める男がいた

包帯だらけの右手には煙草を持ち、煙を吐きながらめんどくさそうに視線をこちらを向ける

 

 

「せっかくの煙草が不味くなるだろーが」

 

 

ゆっくりと立ち上がり、やる気のない目で御坂たちの方を見る

 

 

「あなたは・・・・」

 

 

学園都市の頂点

降魔向陽が突っ立っていた

 

 

「それで、お前らはどーすんだ?」

 

「そんなの決まってる」

 

 

御坂美琴は決意の籠もった目でこちらを見る

 

 

「佐天さんを助ける」

 

「あそ、頑張れよ」

 

「アンタはどうすんの」

 

「んなもん決まってるだろうが」

 

 

降魔は御坂たちの方を向きながら後ろへ倒れる

すなわち病院の屋上から落ちていく

 

「ちょっ!!??」

 

 

流石の御坂たちもギョッとし、慌ててフェンスへ駆け寄る

下を覗くと轟!!!と風が吹き荒れる

 

 

「気に入らねぇもんをぶっ壊すだけだ」

 

 

その言葉とともに降魔向陽は飛び去ってしまった

元凶はわかっている

これ以上幻想御手がばら撒かれるのは学園都市の上層部も都合が悪いらしい

数十分前に彼の携帯に暗部からの指令が来ていた

 

『幻想御手を開発したと思われる木山春生(きやまはるみ)の処理について』

 

その短いメールに何ら意味はない

だが、彼が見据えるのはその先だ

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「面白いものを見せてやろう」

 

 

青色のスポーツカーの中で木山が低く呟いた

目の前には数十人の警備員が道を塞ぎ、彼女の進路を塞いでいる

彼女にこの道を突破するのは不可能だろう

車の助手席に座っている人質の初春でさえ、そう思った

 

そしてゆっくりと車から降りる

 

 

「両手を頭の後ろで組んで、うつ伏せになれ」

 

 

木山は警備員の命令通り、手を後ろで組み、うつ伏せになろうとする

このままいけばこの一連の事件も解決するだろう

 

 

「確保じゃん!!」

 

 

その指示が飛んだ瞬間、警備員たちが少しずつ近づく

そして変化は直ぐに始まった

 

ダンッ!!と命令もなしに警備員の1人が発砲したのだ

それも木山にではなく、味方である警備員へ

 

 

「貴様!!何をっ!!?」

 

「違う!!俺の意思じゃない!!!」

 

 

その様子を薄ら笑いで眺めていた木山が掌をかざす

彼女から暴風が吹き荒れ、水流が警備員に襲いかかる

 

 

その映像は風紀委員の支部で木山の様子を監視していた白井黒子も目撃していた

あまりにもその光景が異常すぎて、声が出なかった

 

 

「黒子!?どうなってるの!!?」

 

 

御坂の声を聞き、ハッと我を取り戻す

そしてありのままを伝える

 

 

「木山が能力を使って警備員と交戦してますの」

 

「彼女能力者だったの!?」

 

「いえ、書庫には能力開発を受けたという記録はありませんの」

 

「それじゃ、どーなってんのよ!?」

 

「ですが、これは紛れもなく超能力ですの。しかも複数の能力を使用してますの」

 

 

その情報を単独で現場へと向かっている御坂へと伝える

そして次の言葉は続かなかった

 

 

ドゴォォォォォォン!!!!と

先ほどまでとは比べものにならない衝撃が交戦現場を襲う

 

衝撃の中心には

白井たちのよく知る人物がいた

 

 

灰色の髪に咥え煙草

 

 

学園都市同率第1位

幻想操作

降魔向陽

 

 

圧倒的な強者が君臨していた

木山の数メートル先に降り立った降魔は煙を吐きながら木山を見る

 

 

「・・・よォ」

 

「驚いた。まさか、第1位が出てくるとはな」

 

「俺も面倒ごとは嫌だったンだがなァ」

 

「ほう、ではなぜ私の前に立っているんだい?」

 

 

轟!!!と背中に風の翼を接続し、怪物は呆気らかんと返事をする

 

 

「暇つぶし」

 

 

その言葉を聞いた木山は

 

 

「ははははは!!!」

 

 

思わず笑ってしまった

そんな小さい理由で自分の前に立つ男のことを

自分の過去も知らないで平気な顔で立ち塞がる男を

 

 

「学園都市に8人しかいない超能力者、その第1位の君でも私のような相手と戦ったことはあるまい」

 

「あァ?」

 

 

降魔は単純に疑問に思った

超能力者、その第1位である自分を前にして、彼女はなぜこんなにも余裕があるのだろう、と

 

 

「・・・何考えてるか知らねェが、」

 

 

降魔は音速を軽く越すスピードで木山へと迫る

 

 

「ぶっ壊れろ!!!!」

 

 

触れただけで相手を壊せる両手を突き出し、木山を戦闘不能にしようとする

しかし、そんなうまくはいかなかった

 

 

「あ?」

 

 

降魔の両手は木山の腹部に突き刺さっていた

しかし、人間の体にこんなにも綺麗に突き刺さるはずはない

筋肉や骨、神経などの感触が一切ない

 

 

「ふん」

 

 

鼻で笑い、躊躇いなく木山の体を引き裂く

引き裂かれた木山の体は空中に溶けるように消えていった

そのままあたりをぐるっと見回す

 

 

「初春さん!!!」

 

 

聞き覚えのある声と共に1人の少女が非常階段を駆け上がってきた

少女はそのまま木山のスポーツカーへ駆け寄り、中にいる人質を確認する

 

降魔はその様子を煙草を吸いながら眺める

どうやら降魔の存在には気が付いていないようだ

 

それよりも消えた木山の方が気になる

そこへ、ガシャガシャがしゃ、と機械的な音が連続で響く

 

 

「あン?」

 

 

音のする方へ目を向けると、そこには数えきれない数の駆動鎧(パワードスーツ)がこちらへ進行してきていた

その異常とも呼べる事態に御坂美琴も気がつく

 

だが、このクソみたいにヌメっとした感覚

おそらく目の前にいるのはどこかの暗部組織だろう

 

 

「オイ、お前はあの女を追え」

 

「ちょ、ちょっと!アンタどこから湧いたのよ!?」

 

「お前が来る前からココにいたわ」

 

 

威嚇するように電撃を駆動鎧に撒き散らす御坂へ話しかける

 

 

「・・さっさと行けよ。面倒くせぇな」

 

 

手で御坂を払いながら、新しい煙草へ火をつける

そんな降魔を見て、御坂は携帯を取り出し、どこかへ電話しながら道路の下へと降りていく

 

ちょうど時間だ

先ほどまで使っていた能力を切る

 

 

「悪ぃな、面倒ごとは嫌いなんだ」

 

 

煙を吐きながら目の前の襲撃者たちを見る

おそらく木山を利用しようと考えている連中だろう

 

(Model_Case DARKMATTER)

 

彼の背中に純白の翼が生える

まるで天使のような羽に襲撃者たちは少し後ずさる

だが、全てが遅すぎた

 

 

「・・・ここで潰れろ虫ケラ」

 

 

感情の籠っていない

まるで機械のように淡々と宣言する

そして、純白の羽が襲い掛かった

 

 

 

◇◇◇

 

破壊された駆動鎧の上に座り込み、煙を吐き出す

どうやら木山の問題は御坂が解決したらしい

 

 

「オイ」

 

 

降魔は意識を失い、地面に倒れている駆動鎧に蹴りを入れて強引に叩き起こす

1発では起きなかったため、続いて2発、3発と蹴りを入れる

そうしているうちに駆動鎧を纏った男が目を覚ました

 

 

「・・・う、うぅ?」

 

「よぉ、目が覚めたか?」

 

「ッッ!!??」

 

 

男は驚き、体を動かそうとしたが、壊れた駆動鎧が邪魔をして体を動かすことができない

そんなことに構うことなく、降魔は話を進める

 

 

「面倒ごとを持ちこんでくれたんだ、それなりの覚悟は出来てんだろーな?」

 

「ヒ、ヒッ!!?俺は違う!!!命令されただけなんだ!!」

 

 

男はみっともなく叫ぶ

それはそうだろう

この男含め、そこら辺に転がっている奴らはこの少年によって完膚なきまでに叩き潰されたのだ

 

 

「命令、ねぇ」

 

「そ、そうなんだ!!だから頼む!!命だけは!!」

 

「まぁ、テメェらの命なんてクソほど興味ねぇしな」

 

 

男の顔が希望に染まる

しかし、その希望も束の間だった

降魔が横たわる男の髪を掴み、そのまま地面へと叩きつける

 

 

「がッ、ぶぅ!?」

 

「興味があるのは、テメェらの上の組織だ」

 

「や、やめっ!?」

 

降魔はもう一度、男を地面へと叩きつける

男の顔からは涎や鼻水と一緒におびただしい量の血液が流れ出ていた

 

 

「名前は?」

 

「言えない!俺が粛清されちまう!!」

 

 

今度は二回連続で男の顔を地面に叩きつける

男は悲鳴を上げる気力さえなくなってきているようだった

 

 

「名前は?」

 

 

降魔は淡々と質問をする

その瞳には何も宿っていなかった

 

 

「・・ァ、う」

 

 

もういいだろう

飽きた

降魔は能力を発動する

 

(Model_Case MENTALOUT)

 

そのまま目の前の男の思考を読み取る

必要そうな情報を抜き取る

 

 

「へぇ、『メンバー』ねぇ」

 

 

彼と同じような学園都市の暗部組織

いずれは潰し合うことになるだろうが、今は放っておいても問題ないだろう

 

降魔は男から手を離し、警備員が来る前にその場から立ち去る

 

 

特に予定もないので買い物でもして帰ろうと思うのであった

 

 

 


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