「ほら!もっと無様に喚いてくれよ!!アイツに助けを求めろよ!!!」
無抵抗な少女に拳を打ち込む
拳から伝わる衝撃に少女の体が徐々に壊れていくのがわかる
しかし、少女の様子がおかしかった
少しずつだが、セレナが傷つけた場所が治っていくのがわかる
恐らく何らかの学園都市製の能力でも使っているのだろう
その事実に気がついた時、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる
声が出ないのか知らないが、このまま徹底的に痛めつけてボロボロになった状態で降魔向陽の目の前に晒してやる
そしてアイツが何かをするよりも早く殺してやる
「ぎゃっはははは!!!早くて助けを呼ばねぇと地獄が続くぞ!!」
気分が高揚して行くのがわかる
これが復讐だ
これが私のやりたかった事だ
これが母親を殺した弟への罰だ
さぁて、そろそろ
そう思った時、今まで感じたことのない悪寒がセレナの全身を貫いた
バッとあの少年が倒れている場所を振り返った
そこには力なく立っている降魔がの姿があった
俯きながら立っているため、少年の表情はわからないが、あの様子から見るとかなりギリギリの状態だろう
押せば倒れそうじゃないか
だが、その前にやることがある
「はン、テメェが起きんのか遅いからこの子がこんなボロボロになっちまったぞ!!」
「…そっか、そうだよな」
「あ?テメェ、状況わかってやがんのか」
意味のわからない言葉を発する降魔に不機嫌そうに声をかける
足元に転がるボロボロの少女を見せた時の反応が予想と違った
もっと激昂して、何の計算もなく突っ込んでくるのだと思っていた
「あぁ?状況、状況ねぇ。そりゃこういうコトだろ」
瞬間、セレナの目の前には瞳を真っ黒に染めた少年がいた
驚く暇もなく少年の手がセレナの顔を正面から鷲掴みにした
セレナが何かのアクションをする前に降魔が動いた
ぐしゃり、とセレナの体が一瞬だけ宙に舞い、そのまま地面へ叩きつけられた
「ぐ……ッ!?」
何とかその状況から抜け出そうとしたが少年の圧倒的な力で押さえつけられ、それは叶わなかった
彼女の頭の中を疑問が埋め尽くす
自分が何をされたのか。この力は一体なんだ。自分はこれからどうなる
そこで初めて恐怖を感じた
それと同時に嫉妬と恨みも今まで以上に感じた
「ふ、ざけんな!!!それだけの力があって、なんで母さんを助けなかったんだよ!!??」
「……、」
返事はなかった
代わりに殺意がこもった拳が振り下ろされる
学園都市が生み出した圧倒的な怪物による圧倒的な虐殺が始まった
◇◇◇
肉を打つ音が学園都市に響き渡っていた
その度に地面に亀裂が入り、余震のように大地が震え、建物が不気味に震える
視界がぼやけながら確立していく
自覚しているこの異様な体質のおかげで自分は助かったのだろう
先ほどまで自分を痛めつけていた少女がいないということは、またあの少年に助けてもらったのだろうか
冷たい床に体全体を預けながら、そんなことをぼんやりと思う
「きひ」
誰かの声が聞こえた
その声に聞き覚えがあると思った
だが、その声の主はもっと優しい声だったはずだ
こんな悪意に満ち満ちた汚い声ではない
「ひ、ひひ。ぎゃっはははははははは!!!!!!」
その声は次第に大きくなっていく
その笑い声と同時に別の音も聞こえ始める
それは肉を思い切り叩きつけるような不快な音だった
リアはゆっくりと首を動かして、その音のする方へ視線を向ける
そこには、
「あはははははギャハッッ!!!!どーでもいい、もうどうでもいいいんだよ!!!!母親?姉?家族?ンなもんなんざどーでもいい!!!!もう無理だぁ、全部全部全部ぜーんぶぶっ壊してやるよ!!!」
狂気に満ちた笑みを浮かべながら、少女に馬乗りになりながらひたすら拳を振り下ろす見知った少年の姿があった
既に少女に意識はないようだ
少年の頬には返り血がついているが、そんなものを機にする様子もなくただその金属でできた拳を目一杯振り下ろす
何がこの少年を壊してしまったのかはわからないが、リアは思った
止めなければ、この少年を助けなければ、と
恐怖よりも先にそんな考えが先に出てきた
軋む体に鞭を打ち、這いずりながら少年の元へ近づく
「………ッ」
必死に少年へ呼びかけようとするが、口から声は一切出なかった
それでも暴走する降魔に近づく
助けなければ
まるで癇癪を起こす子供のように暴れる彼の真後ろまで近づけた
そっと立ち上がり、ちょうど彼が拳を振り下ろす直前に降魔を後ろから抱きしめた
ギュッともう二度と離さないように
少女のか弱い力を全て使って、降魔向陽を抱きしめる
それで少年は戻ってくると思っていた
いつも通りに優しい声と表情で自分を包み込んでくれると思った
しかし
「邪魔、すんじゃねぇよ!!!!!!!!」
そんな幻想は見事に壊され
返ってきたのは怒号と衝撃だった
その衝撃は、ちょうどリアのお腹あたりに直撃した
こぽ、こぽこぽ、とリアの口から真っ赤な液体が垂れ始める
ゆっくりとした動きで目線を下に向けると、そこには少年の腕が少女の柔らかいお腹を突き破り、貫通していた
特殊な体質のせいで痛みはあまり感じないが、わかる
生命としての何かがこの怪我を見過ごすことはできないようだった
「…ぁ」
そこまでして少年から掠れた声が出た
表情も先ほどまでのものとは違う、別のものになっていた
その事実に気づいたリアは少し安心する
そして口から血を噴き出す
紅く、温かい液体が降魔の顔にかかり、そこまでしてようやく我にかえる
降魔は全身を震えさせる
「あ、あぁ」
その震えがピークを超えたあたりでリアの体が倒れる
「あああああああああああああああァァぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
喉を壊すように絶叫しながら降魔はリアの体を抱き抱える
彼女の腹部にはポッカリと穴が開いており、そこから血が流れ出る
反乱狂になりながら、降魔は彼女の血の向きを操作し、出血を止めようとする
しかし、彼が使おうとした『ベクトル操作』の能力が切れた
先ほどの戦闘から30分が経ってしまったのだ
ならば、他の能力を使うまでだ
そう思い直し、演算を繰り返すが、そこにはミスが生まれて能力を正常に使うことすらできなくなりつつあった
焦りが焦りを呼び、焦りを加速させる
そんな中、誰かの手がピトッと降魔の頬に触れた
こんな状況でそれが誰のものなのかはすぐにわかった
リアが力を振り絞って、降魔に触れたのだ
「…だい…じょう、ぶ?」
降魔の耳に届いたのは透き通るような声だった
今にも消えそうな声で彼女は降魔のことを心配したのだ
怪我の具合だって圧倒的に彼女の方が酷いはずなのに
過去にあった出来事を乗り越え、過去から声を取り戻したのだ
今のなお過去に振り回され、暴れ回っていた自分とは違う
この少女は本当の強さを持っていた
そんな彼女の強さを降魔は暴力という最悪なもので砕いてしまった
涙がポロポロと落ちる
そしてギュッとリアの体を抱きしめる
彼女も最初は降魔を抱き締めていたが、その力は徐々に弱くなり、次第に力が失われる
その事実に気づき、必死に演算を組み立てる
ようやく演算が正常に働き、彼らの姿が消える
降魔が目指したのは第7学区にあるいつもの病院
冥土帰しならば何とかなる
がむしゃらに彼女の命を救うために行動を始めた
だからだろう、降魔の手によってボロボロにされたもう1人の少女の体がピクリと動いたことに彼は気づかなかった
いつもの病院にたどり着いた降魔は、その異様な光景に目を奪われた
何やら病院のスタッフたちが慌ただしそうに準備しているのだ
意識を失っているリアを抱えながら、あの医者のいる場所へ向かおうとする
そこで、1人の看護師が降魔たちを見つけてギョッとした顔をする
「ちょ、そこの子!!何があったの!?」
「…あの医者のところに」
降魔がそれだけ言うと、看護師たちは手慣れた手つきでリアを運んでいく
それを見送った降魔は壁に寄りかかりながら座り込む
この現実から目を逸らすようにギュッと目を瞑る
そうしていると、この病院の状況がある程度耳に入ってきた
どうやら何らかのアクシデントが発生し、この病院をもぬけの殻にしたいらしい
患者もスタッフも全ての人間を移動させる途中なのだという
(…何が起こってやがる、この街で)
今日だけで不可解な出来事が起きすぎだ
それに、『神の右席』のあの女が言っていたこと
『テメェは私の大事な人を死なせた』
それと、意識を失っている間に見た夢のようなもの
その夢に出てきた1人の女性と子供
(脳を弄られすぎたせいか知らねぇが、ガキの頃の記憶が欠片も存在しねぇ)
この瞬間まで大して気にしなかったが、降魔の幼少の頃の記憶がある境目から一斉存在しないのだ
夢で見た赤ん坊くらいの記憶を覚えていないのは、忘れているからだという可能性もあるが、降魔は腐っても学園都市の頂点
演算能力だけではなく、記憶力も凄まじいはず
しかし、いくら記憶を読み漁ってもその思い出は存在しない
「…っつーことは、だ」
誰かが意図して降魔の記憶を弄り、その記憶を消したか
強引に母親と引き離し、その頭を弄り回す
学園都市の考えそうなことじゃないか
そして、その女性を大事な人と呼んでいたあの女
(…俺は家族から捨てられたなんかじゃねぇ、母親の所から強引に学園都市に連れられてきて記憶を改竄された訳か。となると、あの女は俺の姉になるのか)
子供と強引に引き離された母親は死に、その原因は降魔向陽にあると恨みを募らせた少女
その少女が復讐のためにこの街にやってきている
ピースとピースが一致し始める
「俺の記憶に何しやがったアレイスタァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
絶叫が迸った
最近になり家族ができた降魔だからわかる
家族を失うということがどれほどの悲劇なのかということを
あの少女はそれを二度も味わったというのか
しかも、母親の死の原因になった男が学園都市で何もなかったかのように生活しており、家族ごっこをしていた
これを恨まずにいられるだろうか
暴走しかける心を拳を握りしめることで押さえつける
今にもアレイスターのいる窓のないビルを破壊したい衝動に駆られるが、歯を食いしばる
優先順位を間違えるな
今最優先することを見誤るな
震える手で煙草を取り出し、火をつける
(とりあえず、だ。何をするにしてもあの魔術師ともう一回ツラを合わせなきゃいけねぇな)
本当に彼女が降魔の姉ならば彼女を救い出さなければいけない
それが死んでいった降魔の母親にできる唯一の償いだろう
再びセレナがいるはずの場所へ向かおうとする
病院の外へ出ようとすると、出入り口の前の広場に黒いワンボックスカーが数台止まった
その中から全身黒ずくめの武装をした奴らが降りてきた
「あ?」
動きや装備からして表の人間ではないことはすぐにわかった
そして、この病院の院長である冥土帰しが何故病院をもぬけの殻にしたかったのか
それはコイツらの襲撃が予想されたからか
普段の降魔向陽ならばこんな面倒なことには関わらずにさっさとこの場から立ち去っていただろう
しかし、今の彼は虫の居所が悪い
自分のせいでリアを傷つけたり、学園都市が降魔の記憶を弄ったという事実が分かったり
そんな彼の前にちょうどよくストレスを解消できそうなゴミ共が現れたのだ
ニヤリと口角を上げ、その瞳で標的を定める
『
病院は全ての照明が落ちており、不自然な静寂に包まれていた
時間になり、病院の中へ踏み込もうとした瞬間
病院の中にいる何者かと目が合った
目が合ったのは一瞬だった
次の瞬間にはガッシャーン!!!と病院のエントランスの窓ガラスが割れ、体に衝撃が走っていた
その衝撃は全身を平等に叩き、意識をあっけなく奪った
「よぉ、どこのゴミクズか知らねぇが、ちょいと俺のストレス解消に付き合ってくれねぇか」
いつの間にか接近していた少年の声が嫌に耳に蔓延った
そこには、灰色の髪の少年が立っていた
ゾワリ、と『猟犬部隊』の全員が恐怖を感じ取った
一斉に銃を構え、少年に照準を合わせる
(な、なんで、奴と同じ第1位がここに…!?)
『猟犬部隊』のリーダーである
そんな中で一方通行と同じ序列に君臨する正真正銘の化物が目の前に現れたのだ
これを恐怖と言わず何というのだ
嫌に不気味な少年の瞳と目が合う
その少年が動いた
いや、動いたという事実を確認できたのは酷い衝撃音が耳に届いてからだった
まるで自動車が人に激突したかのような音と衝撃が彼らを襲った
「マイクッッ!!!?」
隊員の女が叫ぶ
メンバーの1人であるマイクの体が勢いよく吹き飛び、彼らが乗ってきたワンボックスカーに突っ込む
鉄でできているはずの車が余裕でひしゃげてしまっている
既にマイクの意識はなく、口や鼻などの至る所から血を噴き出しながら白目を剥いている
降魔はやったのは簡単なことだ
ただ普通に『猟犬部隊』のメンバーに触れただけだ
そこに莫大なベクトルを詰め込むと今みたいな現象が起きる
降魔の行動はまだ終わっていなかった
ギョロとその薄汚れた目で定めた次の標的へ手を伸ばす
その手は降魔の近くで先ほど吹き飛ばした奴の名を叫んだ女の顔面へ吸い込まれる
ガシッと女がしている黒いヘルメットごと掴み、力を込める
あっという間にヘルメットは砕かれ、女の長い髪があらわになる
ミシミシメキ…彼女の頭蓋骨が軋む音がし始める
「がっ、ぅぇ!!」
女が必死になって降魔の手を掴もうとするが、それは叶わない
その間にも降魔は力を入れ続ける
コイツらが何を思ってこの病院を襲撃しに来たのかなど知らない
だが、この病院へ襲撃の事実を知らせた誰かがいなければ、リアの身に危険が迫っていた
だから降魔はコイツらを放置することはできない
目的が何かわからない以上はここで殲滅しておく
憐れにも降魔に頭部を掴まれ、空中へ吊るされている女はまるで助けを求めるような目を見て
ニッコリと微笑む
「…じゃあな」
そういうと、メキョンと気味の悪い音が鳴り響く
女の頭蓋骨が砕けた音だ
完全に沈黙した人間だったものを投げ捨て、降魔は残る黒ずくめの奴らへ宣言する
「ひひ、ギャハははは!!さぁてパーティーの始まりだぜ。参加者には残酷な死をってな!!?」
それは死刑宣告だった
それもとびっきり最悪な死に方しかできないであろう死刑だ