雨に打たれながら降魔は血だらけの肉塊を放り投げる
アレイスターへの怒りもこのゴミ共のおかげでだいぶ薄れた
理不尽に暴力を撒き散らした怪物は、煙草を取り出して火をつける
煙を吐きながら次の行動へ移ろうとした時だった
病院の中に誰かいるのが目に入った
その人物と目が合った
ソイツは降魔と同じように首にチョーカーのような電極を装着しており、杖ではなくショットガンをつきながらこちらへ向かってきた
真っ白い髪に真っ赤な双眸
「…何でテメェがここにいやがる」
「そりゃこっちのセリフだ」
降魔向陽と同じ序列に君臨しているもう1人の怪物
学園都市同率第1位の一方通行だった
一方通行の問いかけに降魔は煙草を吸いながら答える
「コイツらはお前のお客さんか?」
「あァ、トラブルが起きた。とびっきりデカイトラブルだ」
「チッ、そりゃチビ妹達が気を失いながら吹っ飛んでた事と関係あんのか」
今日の学園都市は何かがおかしい
完璧に機能していた歯車にまるで錆びた歯車が強引に合わさったかのように異変が生じている
面倒ごとのオンパレードだ
降魔は明らかにいつもとは違うボロボロの一方通行にこっちが持っている情報を渡す
一方通行もボロボロの降魔向陽に情報を渡す
ここに転がっている連中は、あのチビ妹達、
部隊の名前は『猟犬部隊』。率いているのは木原数多という男
名前くらいなら聞いたことはあったが、降魔と面識はなかった
ただ、『木原』というワードから碌でもないクズだというのは安易に想像がついた
「で、そっちはどォなってやがる」
「…打ち止めを保護した後に学園都市外部の襲撃者とかち合った。打ち止めはコッチのツレと一緒に逃したが、俺のせいでツレが死にかけた」
一方通行は何かを考えているようだったが、その思考は長くは続かなかった
突然、一方通行の携帯が小刻みに振動したのだ
「…あのガキからだ」
「……、」
一方通行と降魔が目を合わせる
木原というゴミのやることからしてこの電話は打ち止め本人か木原数多の勝利宣言だろう
一方通行は通話ボタンを押す
『よかった、ようやく繋がった!!』
声は打ち止めのものではなかったが、木原のものでもなかった
一方通行は少し聞き覚えのあるような声に眉間に皺を寄せる
少し離れた位置で電話から漏れる声に耳を傾けていた降魔は一方通行とは違った反応を示す
「どォいう状況だ?」
一方通行は電話の男のことを警戒しているのか慎重に尋ねる
それを見ていた降魔が近づく
「…俺の知り合いだ」
一方通行に静かに告げる
降魔からの言葉を聞いて、一方通行も少しは信じる気になったのか電話の男の情報を整理し始める
ある程度の情報を聞けたのか一方通行は適当に電話の男に携帯を捨てて日常へ帰れと指示を出す
しかし、電話の男は納得せずに協力すると言った
それを聞いた一方通行はウンザリした様子で降魔に携帯を渡す
知り合いならお前が説得しろと、目がそう言っていた
「…上条か」
『降魔!?お前もそっちにいるのか!?』
「あぁ、かなり面倒くさいトラブルだ。お前はさっさと携帯を捨てて日常へ帰れ」
『何言ってんだ!!打ち止めが危険なんだろ!?だったら俺も手伝うに決まってんだろ!!』
そうだ
コイツはこういう奴だった
降魔向陽というヒールですら憧れを抱いてしまうようなヒーローだった
「チッ、お前は第7学区のデカイ鉄橋へ行け。そこが打ち止めとの合流地点だ」
そんなのはもちろん嘘なのだが、上条は気合の入った返事を返した
降魔は一方通行を見ると彼も頷いていた
『降魔、お前がどんなトラブルに巻き込まれてるかわかんねえけど、気をつけろよ。ローマ正教の『神の右席』とかいう奴らが学園都市を襲撃してきてる』
「知ってる。『神の右席』の上方のセレナとかいう女とやり合った」
『上方の、セレナ…?コッチのやつは前方のヴェントとかいうやつだった』
それを聞いて降魔は顔をしかめる
学園都市に侵入してきた『神の右席』は上方のセレナだけではなく、前方のヴェントとかいうやつもいるという事実が発覚した
更に面倒ごとが増えた
『とにかく打ち止めを探しながら鉄橋へ向かう』
「…わかった。それと上方のセレナとかいう女と会ったら連絡をよこせ」
わかった!!と返事をする上条との通話を切り、携帯を一方通行へ渡す
「だそうだ。お前はどうするつもりだ」
「木原を殺してあのガキを助ける」
「…そうか。悪ぃが俺は俺でやることがある」
「はンッ、別にテメェの手助けなんざいらねェよ」
そう言って2人は別々の方へ歩き出す
「死ぬなよ一方通行」
「そりゃコッチのセリフだ降魔向陽」
学園都市最強の2人の第1位がそれぞれの戦場へ向かう
◇◇◇
一方通行と別れた後、降魔向陽はセレナと戦闘のあった場所へ戻ってきていた
この場所には降魔が戦闘不能にしたセレナがいるはずだった
しかし、彼女はいなかった
「チッ、当てが外れやがったか」
自力でこの場から立ち去ったかそれとも他の『神の右席』のやつに回収されたか
どちらかはわからないが、これは面倒くさい
電極のバッテリーは残り3分弱しかない
とりあえずどこかの建物に入って電極の充電をしなければいけない
そう思って行動に移ろうとした瞬間、
轟!!!と莫大な閃光と共に無数の翼のようなものが溢れる
「なっ…」
あまりに非現実な光景に降魔は言葉を失う
それは刃のように鋭い数十もの羽
一本の長さは10メートルから100メートルほどにも及び、天を逆らうように高く高く広げられていく
まるで水晶でできた孔雀の羽のようだった
(この街で一体何が起こってやがる)
アレは確実に科学の域を超えている
『天使』というオカルトが降魔の頭の中に浮かんだ
直後、一際大きく翼が蠢く
得体の知れない放電のような光が瞬く
ゴッ!!!と
破壊の一撃が放たれた
生み出された壮絶な雷光は学園都市の外へ飛んでいく
ビルに囲まれている降魔には雷光の先を見ることはできなかったが、数秒遅れてとてつもない爆音が響き渡った
あまりの衝撃に降魔は転びそうになる
周りの建物の窓ガラスは衝撃に耐えられずに砕かれる
降り注ぐ窓ガラスの破片を気にしながら、今後の動きを考える
確信はないが、あそこへいけば何かしらのヒントを得られるかもしれない
降魔は適当な建物の壁をぶち破り、建物に侵入してコンセントを確認する
幸いなことに電力は生きているようだった
電極を取り外し、バッテリーを充電する
あの場所へ向かうにしても、すぐに行っては意味がない
多少遅れるくらいに着くのがちょうどいい
先に駆けつけた誰かがやれれてしまっても、降魔が遅れて辿り着けば未来はある
◇◇◇
「どうなってんのよ、あれ」
呆然と呟いたのは御坂美琴だ
完全下校時刻をとっくに過ぎている中、大通りである物を見ていた
それは、鋭く尖った翼のようなものが数十本も飛び出していた
超能力にしてもスケールが大きい
というより、どのように能力を使えばあんな風になるのかが御坂には理解できない
直後には、放電のような光が炸裂し、学園都市外周部を破壊し尽くした
学園都市で最も優秀な発電能力者である彼女はアレは電気を使った力ではないことをすぐに理解した
では、アレは一体なんだ?
御坂は携帯電話を使って風紀委員の白井に連絡を入れようとするが、応じる気配はなかった
風紀委員の詰所にかけても、警備員の電話しても結果は同じだった
まるで学園都市の治安維持機能が停止しているようだった
目の前で起こっていることに思考が追いつかない
立ち尽くす御坂をバシャバシャと誰かが追い越した
それは、遠くに見える正体不明の怪物へ向かっていくルートだ
雨具も持たずにずぶ濡れで走るのは、見覚えのある真っ白い修道服を着たシスターだ
「ちょ、ちょっと!!アンタこんなトコで何やってんのよ!?危険だってわかんないの!?」
思わず御坂は彼女を追いかけ、その腕を掴んでいた
「離して!!」
インデックスと呼ばれる少女は振り返りもせずに叫んだ
「行かないと。あそこにはひょうかがいるの!!どうしてかはわからないけど、止めないと。あそこにいるのは私の友達なんだよ!!」
「何を…」
ほとんど説明になっていない
余程の事態で錯乱状態にあるのか、と御坂が思い始めた瞬間、新たな人影が現れた
「とうま!!」
上条当麻だ
先の曲がり角から彼は大通りに出てきた
インデックスと同じく彼も巨大な翼の群れにしか目を向けていない
「駄目だよ、とうま!!ひょうかを殺さないで!!」
インデックスの叫びに少し驚いた様子の上条はゆっくりとこちらを向いた
そのまま上条はインデックスと御坂の腕を掴んで別の路地に飛び込んだ
バタバタ、と複数の足音が表通りに鳴る
その正体は黒ずくめの連中だった
上条を追っていたのだろう、彼らは表通りであちこちへ目を走らせている
やがては上条達が潜んでいるこの場所にも気づくだろう
黒ずくめの連中の1人が上条達が潜む場所へ目を向けた瞬間、灰色の衝撃が黒ずくめの連中を襲った
まるで爆弾でも投げ込まれたような衝撃だった
黒ずくめの連中は吹き飛び、建物などに激突して意識を手放していた
全てのAIM拡散力場を操る学園都市最強の超能力者の降臨
まだ意識がある者もいた
よろよろとした動きで少年に銃の照準を合わせる
しかし
「…邪魔だ」
少年は腕を払っただけだった
たったそれだけの行為でかろうじて意識を保っていた黒ずくめが簡単に吹き飛ぶ
「降魔!?」
驚いた声をあげたのは路地に隠れていた上条当麻だった
そんな上条のシャツを掴んだインデックスが叫ぶ
「とうま、ひょうかは私がなんとかするから。だからひょうかに手を出さないで!!」
インデックスにとって、風斬氷華は初めて作った友達だ
その言葉に上条当麻は考える
風斬氷華は紛れもない善人だろう
しかし、その彼女は暴走状態だとすれば、それはなんの保証にもならない
「駄目だ」
「とうま!!」
「アイツは俺が止める。それに問題はアイツだけじゃない!!お前だけには任せられない」
「でも、とうまの右手を使ったらひょうかが死んじゃうよ!!」
「死なせねぇよッ!!」
泣き言を言うインデックスの襟首を掴みながら上条は叫ぶ
そんな彼らの耳に大通りにいた降魔の声が聞こえる
「オイ!!次が来るぞ、走れ!!」
その声を聞き、上条達は路地裏を走り始める
なぜこの場所に降魔がいるのかはわからないが、黒ずくめの連中は魔術も超能力も使わない
使っているのは銃だ
これは上条にとって一番相性の悪いものだ
「俺には『天使』がどうだの、魔術的な詳しい仕組みはわからねぇ。だからお前の知識が必要だ」
「…とうま」
走りながら上条はインデックスに言う
「俺たちなら風斬氷華を助けれる!!」
大通りの方からは降魔が戦闘を開始したのか、とてつもない衝撃音が響いている
しかし、インデックスの耳にはそんなものは入ってこなかった
周囲を支配するのは少年の言葉だけになる
「今日の学園都市じゃいろんなことが起きた。正直、俺には全貌は掴めないことばかりだ、でもやらなきゃいけないことだけはわかる!!!風斬を助けるのは俺たちだ!!違うか!?」
確認を取るために彼は質問する
友達に対して、殺すだ殺さないだの見当違いな事を言っていたインデックスの目を覚ますために
「いくぞ、インデックス。風斬氷華を助けるためにお前の力を貸してくれ!!」
インデックスはその少年の言葉にコクリ、と頷いた
「はぁー…」
一緒に路地を走っていた御坂が立ち止まってため息を吐いて、傘を投げ捨てた
何やら呆れた顔で上条とインデックスを見る
「一つだけ確認するけど、その『友達』は悪人じゃないのよね」
「絶対に違う」
御坂の質問に上条が一瞬の迷いもなく即答で答える
その答えに御坂は笑みを浮かべる
「で、さっきの黒服たちが悪者って訳ね」
「何を狙ってるかイマイチわかんねぇけど、少なくとも良い奴じゃない」
その時、路地裏の入り口付近で複数の足音が聞こえた
降魔向陽が倒された可能性は低い
となると、彼の隙をついてコチラへ突撃していたのだろう
それでも御坂は笑っていた
御坂美琴はポケットからどこにでもあるゲームセンターのコインを取り出していた
「馬鹿、お前……ッ!!」
この後の展開を予想できた上条が彼女の肩を掴もうとするが、
「ごめんごめん。止める間もなく始めちゃうわよ」
既にコインは弾かれていた
超電磁砲
音速の3倍で放たれた一撃は、轟音と閃光を撒き散らしながら路地を駆け抜ける
あまりの衝撃だけで、黒ずくめの連中を吹き飛ばす
そのまま大通りの方へ駆け出す
上条とは違い、銃火器などの普通の戦力に対して絶大な力を誇る超能力者の少女は上条へ声をかける
「罰ゲームよ!!」
「なんだって!?」
「何でも言うこと聞くって話。今日1日は有効だからね。アンタは『必ず友達を助けて戻ってくる』事!!わかったわね!!」
一瞬だけ彼と目が合った
その瞳には確かな決意がこもっていた
上条達はそのまま『天使』のいる方へ走っていく
改めて黒ずくめ達を見ると、銃を構えてこちらの様子を伺っているようだった
そしてそれらを薙ぎ払うように黒ずくめ達に衝撃が襲いかかる
「…忘れられちまったかと思って、強めに存在アピールしちまったわ。ごめんごめん」
意地の悪い笑みを浮かべた降魔向陽が立っていた
この連中が何人いるかはわからないが、それなりの数が揃っているようだ
だが、そんな些細なことはこの
2人の超能力者が一瞬だけ目を合わせた
「今、私はとってもむしゃくしゃしている」
「奇遇だな。俺もだ」
新たに駆けつけた黒ずくめ達が丸腰の降魔と御坂に銃口を向ける
その引き金が引かれる寸前、御坂は磁力を使ってマンホールの蓋や水道管や看板などで盾を作る
降魔は何もせずにただ、その場に立っているだけだ
既に『反射』は体全体とついでに御坂の体を覆っている
返す刀で、御坂は雷撃の槍を放ち、降魔は腕を振るって烈風を発射する
負ける要素がなかった