学園都市にとって夜の10時は比較的遅い時間だ
バスや電車の最終便が完全下校時刻に指定されているため、街を歩いている人は少ない
街の中は教師や警備員が巡回しているため多くの学生は各々の部屋で大人しく過ごしている
そんな例に漏れず降魔向陽も外を出歩いたりせずに地震が所属する暗部組織の射撃訓練場のソファを占領して携帯でネットサーフィンをしていた
先ほどまで彼と一緒に射撃の訓練をしていた少女は『カースト』の隠れ家へ帰っている
ソファの近くに置いてある机には煙草の吸い殻や彼が愛飲しているエナジードリンクの空き缶が無造作に置かれていた
射撃場の電気は消してあり、暗闇の中でネットの記事に目を通す
彼が使っている携帯は仕事用の物でプライベートの携帯は電源を落として机の上に放置されている
ここへ来てから煙草の量が増えた
いつもは自身の部屋にいる同居人達に気を遣って本数を抑えている
(チッ、煙草が切れやがった。面倒だが、買いに行くか)
しかし、そんなペースで吸っていれば煙草はいつもとは比べ物にならないペースでなくなる
ちょうど彼が吸っている煙草がなくなった
今から寝るだけなので別に煙草は無くても問題はないと思ったが、煙草がないと知ると余計に吸いたくなってしまう
彼は杖を乱暴に掴み取り、出かける準備をして射撃訓練場から出ていく
10月になると夜は少し肌寒い
彼が吸っている煙草は比較的どこにでもある銘柄なのでどこのコンビニでもあるだろう
降魔はここから一番近いコンビニを目指す
案外近いところにコンビニはあり、降魔の目当ての煙草もあった
コンビニのバイトも面倒くさがりなのか降魔が煙草を頼むが年齢確認などはされなかった
煙草だけを買って店の外にある喫煙所で使い捨てのライターで火をつける
お気に入りの銘柄を肺に入れて、気持ちの良い酩酊感を味わう
そんな彼のリラックスタイムを邪魔する奴がいた
「あーあーあーっ!!アンタは確か降魔くんでしょ!!」
「あ?」
いきなり名前を呼ばれ、その声がする方を見る
そこには1人の酔っ払いがいた
それは大覇星祭で出会った御坂美琴の親族だった
彼女に気づいて降魔は顔を引き攣らせる
「うんー?また煙草なんて吸ってるのかこらー!!」
「チッ、人違いだ」
まだ途中の煙草を消し、この場から立ち去ろうとする
幸いなことに煙草は買えたのだ。こんな面倒ごとに構う必要はない
「おいこらー、人違いなんかじゃありませんー」
酔っ払いを無視しながらさっさと『カースト』の射撃訓練場へ戻ろうとする
しかしガッと降魔の杖を掴む
予想外の行動に降魔はバランスを崩して倒れてしまう
酔っ払いはその隙を逃さず、倒れた降魔にもたれかかってくる
「無視するなよー、降魔くーん!!」
「お、お前、ふざけんじゃねぇぞ!!」
「おーし!!年下の男の子ゲットォ!!!さぁさぁ酔いどれ美鈴さんとアツーイキッスをしましょー!!」
そう言って唇を尖らせて迫ってきた
暗部で活動する降魔でさえ恐怖を覚えた
「煙草なんかよりずっといいものなんですよう!!」
「ざけんなっ、煙草の方が100倍はいいに決まってんだろうがっ」
「なにおう!!」
今すぐ御坂美琴をこの場に呼んでこいつの姿を見せてやりたい
「はーい!!また君の煙草ゲットー」
「……、」
「これは美鈴さんがまた預かっておきます。ぶはー」
いつの間にか降魔のポケットからさっき買ったばかりの煙草を抜き取っていた
これで彼女に煙草を取られるのは2度目だ
もう無理だ
そう悟った
「さぁて悪い男の子にはお仕置きしちゃうぞー」
「んなもんいるか!お仕置きなら勝手にあのポストにでもやりやがれ!!!」
そう言って降魔は近くにあったポストを指さした
彼女はそのポストをボケーっと見始めると
「あーっ!!ポストくんだー!!お仕置きしちゃうぞ!!!!」
そう言ってそのポストに向かって歩き始めた
史上最強の酔っ払いの注意が降魔からポストへ移ってくれたようだ
その隙にさっさとこの面倒な酔っ払いとおさらばしよう
黙って立ち上がり、歩き始める
射撃訓練場についた降魔はため息を吐きながらソファへ座る
この際煙草はもう諦めよう
また買いに出掛けて面倒ごとに巻き込まれたらたまったもんじゃない
諦めて寝ることにしよう
pipipipipipipi!!!と
降魔の仕事用の携帯が鳴る
この携帯に電話をかけてくるやつは限られている
表示されている番号はいつも通りに見覚えのない番号だった
舌打ちをして電話に出る
「…何の用だ」
『夜分に失礼しますね。お暇でしたらお耳に入れていただきたいことがあるのですが』
「生憎とテメェらみたいな生ゴミと違ってこっちは暇じゃねぇんだよ」
『そうですか…。では、御坂美鈴様の件についてはこちらで処理しておきますね』
それを聞いて降魔は眉間に皺を寄せる
『電話の女』が言ったの名前には聞き覚えしかなかった
先ほど降魔向陽に絡んでいた酔っ払いが自分のことを美鈴と言っていた
(御坂美鈴だと?なんでこの状況でアイツの親族が出てきやがる)
「話せ」
降魔が短く返事をすると、電話の先で女が笑ったような気がした
『回収運動というのはご存知ですか』
「知ってる」
学園都市がローマ正教との対立によりこの街が戦場になる可能性がある
この街にいる学生の保護者達が子供を安全な地方へ移そうとしている運動、とネットの記事に書いてあった
「それがどうした」
『御坂美鈴様はその運動の代表者のような立ち位置にいます。学園都市の上層部は彼女を摘むことにしたようです』
「俺にその情報を教えてどーする」
『いえ、別に他意はありませんよ。ただ一応あなたの耳に入れておこうと思いまして』
「はンッ、下らねぇな」
『…始まったようですよ』
「あ?」
『他の組織がスキルアウトを雇って御坂美鈴様がいる断崖大学のデータベースセンターへの襲撃を開始したようです』
淡々と話す『電話の女』に少し苛立つ
学園都市上層部が降魔向陽にこの情報を渡せば彼がどういう行動を取るのか予想できない訳がないだろう
あのクソ野郎どもの思惑通りに動くのは癪だがこればかりはしょうがない
御坂美鈴を助ける
理不尽な思惑によって善人のかけがえのない日常が奪われそうになっている
だったら降魔向陽がやることは一つだ
「俺は俺で勝手にやる。テメェらは俺の後片付けの準備でもしとけ」
『わかりました。一応この作戦には他の暗部組織が関わっています。面倒ごとを増やしたくなければできる限り能力の使用は控えてください」
そう言うと電話は切れた
ちょうど煙草が吸いたくなった
御坂美鈴に預けてある煙草を返してもらいに行こう
◇◇◇
能力を使って断崖大学のデータベースセンターにやってきた降魔は静かに電極を切り替える
ここから先は能力は使えない
下手に能力を使ってこの現場に降魔がいることが知られれば他の暗部組織との抗争の火種になりかねない
御坂美鈴の命が本気で奪われかねないという最悪の状況になれば能力を使ってでも彼女を救い出す
彼女に振るかかるはずの学園都市の闇を降魔が代わりに受ける。それくらいの覚悟はあった
彼がいるのはデータベースセンターの男子トイレの中だ
電極が通常モードでも他者のAIM拡散力場を感じ取ることくらいはできる
この施設にいるスキルアウト達の位置を大体把握する
すると馬鹿なスキルアウトが単独行動で降魔のいるトイレに近づいてきた
見回りだろうか。スキルアウトがトイレをスルーして歩いていくのを待って音もなく背後をとる
口を手で抑え、背中を持っていたナイフで突き刺す
短い呼吸みたいな音が聞こえ、スキルアウトの男の意識を一瞬で落とす
ナイフを刺したまま男を寝かせ、男が持っていた無線機を回収しておく
『こちら中央ドーム。ターゲットをサブ演算装置保管庫で発見。こちらで始末するのでお前達は撤収の準備。車を回して来い』
男から奪った無線からそんな報告が流れてきた
舌打ちをして、降魔はサブ演算装置保管庫へ向かおうとする
しかし、無線維は続きがあった
『はっあァーい、クソ野郎ども』
その声は悪意に満ち溢れた声だった
スキルアウトの使えなさに痺れを切らした暗部組織が突入させた本格的な戦力だろうか
これは相当まずい展開になってきた
降魔は持っていた無線機を握りつぶし、サブ演算装置保管庫を目指す
サブ演算装置保管庫へやってきた降魔は数ある入り口の一つから中の様子を伺う
木の年輪のように、同心円場にビジネスデスクが配置されており、そこにはたくさんのコンピューターが置かれている
施設の照明は落ちているが、コンピューターのモニターの明かりのおかげでぼんやりとした光が部屋を包んでいた
そのドーム場の中に4、5人の少年たちが固まっていた
その中心に無理やり座らされているのが御坂美鈴だった
(チッ、面倒だな。下手に突っついて酔っ払い女を人質にされちまったら最悪に面倒だぞ)
能力を使うしかないか
拳銃を地面に置き、電極に手をかける
しかし、その判断を鈍らせる出来事が彼の目に飛び込んできた
降魔がいる出入り口のちょうど反対側の扉がゆっくり開き、誰かが入ってきたのだ
仲間のスキルアウトや暗部組織の刺客ならば堂々と入るだろう
ならば考えられるのは降魔と同じで御坂美鈴を助けにきた誰か
目を凝らして見ると、それは降魔のよく知る人物だった
とある高校の学生服を着用しているツンツン頭の少年
上条当麻だった
何故こんな闇の戦場にアイツがいるんだ
ここは血で血を洗うような汚い場所なのだ
そんな場所になんの変哲もない高校生が紛れ込めばどうなるかなど考えるのも面倒くさい
彼はガラスのようなものを持ってゆっくりと御坂美鈴の方へ近づいている
能力を解放し、一瞬でスキルアウト共を戦闘不能にして上条と御坂美鈴と一緒にこの施設から脱出する
最適な計画を組み立てる
降魔もゆっくりと部屋の中に侵入する
タイミングを見定めて電極を切り替える
だが、降魔が見定めようとしたタイミングなどお構いなくぶち壊す奴がいた
「え?」
御坂美鈴が急に声を出して上条のいる方を見たのだ
それに釣られてスキルアウト達もそちらの方向に目線を向けた
スキルアウトの1人がそちらの様子を確認するために、上条のいる方へ向かう
「チッ!」
状況は最悪だが、かなり良いタイミングだ
舌打ちと共に立ち上がり、躊躇なく銃の引き金を引く
ズパァン!!!と甲高い銃声が鳴り響き、上条の方へ向かっていた男の体が前へつんのめるように吹き飛ぶ
美鈴の意味のない絶叫と共に注目が降魔へ集まる
スキルアウト達が怒号にも似た叫び声をあげて、こちらへ銃口を向ける
銃口を向けられた程度では降魔は怯まない
冷静に狙いを定めて上条当麻と御坂美鈴に近くにいる奴らから撃ち抜いていく
それが幸いしたか上条は御坂美鈴の腕を引いてこの部屋から脱出しようとしている
降魔は一旦机の下に潜って銃弾の装填をする
空になった弾倉を放り投げて再び立ち上がって部屋にいる残党を片付ける
ガキンッ!!!と降魔のいる扉の近くに銃弾が着弾する
これは明らかに部屋にいる奴らからの反撃ではない
射線から考えて降魔と同じ部屋の入り口付近にいる誰かが降魔に向かって発砲したのだ
すぐにその射線から隠れるように扉に隠れる
そちらの様子を見ると、人影が確認できた
しかもその人影は部屋から脱出しようとしている上条達を狙っていた
「クソが、面倒事ばっかり起こすんじゃねぇよ」
牽制するように降魔はその人影に向かって発砲する
降魔の銃弾を避けるために襲撃者は扉に隠れる
その隙に上条達は何やら叫びながら部屋から脱出する
それを見届けた降魔は扉の方にいる襲撃者に数発追い撃ちをして、部屋から出ていく
(面倒だが、上条と合流した方が良さそうだな)
しかし、上条も御坂美鈴もAIM拡散力場を発しない
とりあえずドーム施設の外に出ることにしよう
降魔は電極を切り替える
◇◇◇
上条と御坂美鈴はドーム状のメイン施設から連絡通路を通り、別の四角い建物に入り、さらにそこにあった非常口からようやく外に出た
正面の出入り口には野次馬やら警備員がたくさんいたが、こちらに人気はない
上条は御坂美鈴の手を引きながら
「とりあえず人の多い所へ行こう。表の方になら警備員もいたし、そっちに行ければ安全だと思う」
「はぁー。なんだかんだ言っても男の子ねー。私は最初から最後までずっと頼りきりだったし。保護者って冠が霞んでくるわ」
妙に沈んでいる御坂美鈴を責めることをしないで先へ進むことを促す
「早く。どうにか外に出たけど、連中を全滅させた訳じゃない。仲間割れしてたみたいだけど、いつ襲われるかわからないから」
「はいはい、と。それじゃあ手を引いてエスコートをお願いします」
そういうと御坂美鈴は上条の手を掴んだ
その掴む力は意外にも強かった
からかっているように見えるが、実は怖いのかもしれない
それもそうだ
銃を持った奴らに襲われるなど一生に一度あるかどうかだ
上条は御坂美鈴の手を握りながら正面玄関を目指す
そこまで広い建物ではないので歩いても数分だろう
一番危険な状況は脱したので、フゥと息を吐きながら歩く
「動くな」
正面玄関への道を遮るように、人影が立っていた
拳銃をこちらに向けながら男はこちらを睨んでいた
確信は持てなかったが、御坂美鈴を拘束していた部屋にいた男だ
あの銃撃戦から脱出してこの場所へやってきたということか
「動くんじゃねぇ!!テメェは何なんだよ。何でこのタイミンングで現れやがった。やっぱりあの依頼そのものがダミーで、俺達は嵌められたのか……?」
「依頼だと?」
「何だよその確認は。わかってんだろ。駒場の野郎が殺されて、代わりに俺が指揮を執るしかなくなっちまった。路地裏の制圧作戦を回避するには『アイツら』に取り入るしか方法はねぇと踏んだが、やっぱりテメェら最初から俺達を見捨てるつもりだったんだろ!!!」
「何のことかさっぱりだけどよ」
上条は男の断片的な言葉を整理しつつ、男へ言い放つ
「俺はこの人から電話を受けてやってきただけだ。テメェの抱える複雑な事情なんざ知らねぇよ」
言うと、男はポカンと口を開けた
そして彼は小さく笑った
それは楽しくて出る笑いとはかけ離れたものだった
「つまり、アレか?俺達はここで全員リタイアすんのに、その中心にるお前には思惑すらねぇってのか?この
笑いながら浜面と名乗った男は拳銃を持っていない方の手を後ろへ回し、伸縮式の警棒を取り出して勢いよく振って引き伸ばす
「たまんねぇなオイ。殴り殺さなきゃ気が済まねぇよ」
キッとこちらを思い切り睨みながら言い放った
「動くんじゃねぇ」
別の声が浜面と上条達の耳に入った
その声は浜面の後ろから聞こえた
上条と見合っている浜面からはこの声の主を確認することはできなかったが、上条や御坂美鈴はその人物を確認することができた
そこにいたのは現代的な杖をつき、杖を持っていない方の手で拳銃を構えた降魔向陽だった
(ご、うま……?)
今までの出来事が非日常だったのだ
知り合いの母親が銃を持った奴らに襲撃され、彼女を助けに向かえば銃撃戦に巻き込まれた
それがようやく収まり、日常へ帰れるという時に銃を持った襲撃者と降魔が現れた
降魔の顔は今まで見てきたどの表情よりも恐ろしいものだった
もはや別人なのではと勘違いしてしまうほどのものだった
そもそもなぜ降魔向陽がこの場所にいるのだ
彼は何をしにここへきたのかがわからない
御坂美鈴との関係は?さっきの銃撃戦は降魔がやったのか?
上条の脳内を疑問が埋め尽くす
「何者だテメェは!?何でここにいやがる!!!」
浜面は降魔の方を振り向きながら銃口を上条達から降魔へ向ける
彼からしてみれば降魔の登場は予想外だっただろう
標的の女のそばにいるのは素人の高校生1人だけだったが、現れた降魔の立ち振る舞いや所持している拳銃を見れば彼が素人ではないことは一目瞭然だろう
「動くなって言ってんのが聞こえなかったのか?オイ」
降魔は構えていた拳銃をゆっくりとした動きで地面へ放り投げた
浜面は降魔の持っていた拳銃から一切目を離さず、拳銃が地面に着くまで注視していた
だからだろう、降魔が拳銃を持っていた手とは反対の手で首元にあるチョーカーのような電極を弄るのを見逃していた
能力は解放された
あとは降魔の脳と体が応える
浜面は間違えた
たった一瞬でも目の前にいる怪物の動きを見逃してはいけないという常識を
彼の視界一面を埋め尽くすように降魔の顔が迫っていた
やる気のないような目の奥に燻るドス黒い闇と目が合う
「なッッ!!??」
轟!!という空気が掻き乱れる音が遅れて浜面の耳に飛び込んでくる
浜面の脳から体へ命令を送るより早く、降魔の体が動いた
降魔の狙いは浜面が持つ拳銃だ
腕を掴み、関節を捻じ曲げる
予想外の激痛で浜面の手から力が抜け、持っている拳銃を落としてしまう
そのまま浜面の体を柔道の背負い投げのようにして投げる
一般男性よりもガタイのいい浜面の体が一瞬宙を舞い、受け身を取る暇もなく地面に激突する
「ごっ、あ!!!」
浜面の体から空気が漏れ出る
地面に横たわる浜面を見下ろし、降魔は上条達の側に近寄る
上条に庇われるような位置で今まで出来事を見ていた御坂美鈴に向かって手のひらを差し出す
「…さっさと預けた煙草を寄越せ」
「へ?煙草……?」
だいぶ酔いが醒めてきている御坂美鈴は降魔の言葉にキョトンとした顔をする
酔っ払っている時のことは覚えていないのか
何のことだかわからないといった表情で自身のポケットに手を突っ込む
するとお尻にあるポケットから少しクシャクシャになった見覚えのない煙草が出てきた
降魔はそれを無言で取ると、火をつけて久しぶりの煙を吸い込む
そして
「で、どーするつもりだテメェは?無様に尻振って逃げんなら見逃してやる」
降魔は少しずつ立ち上がっている少年に言い放つ
「見逃してやる……?ふざけんじゃねぇ。駒場の野郎がしくじったせいで俺たちに次なんてねぇんだよ!!その女の死体を持っていけばまだ道があんだよ!!」
「ふざけんな!!人の命を踏み台にして作った道があってたまるか!!!
浜面の言葉に反論したのは上条だった
上条は一歩、また一歩と踏み出す
やがて降魔のの前に立ち、キッと浜面を睨みつける
その瞳には明確な力が宿っていた
「仕方ねぇだろ!!こうでもしねぇと無能力者は生きていけねぇんだ!!!」
「……一緒にするんじゃねぇよ」
「なに?」
「全ての無能力者をテメェみたいなクソ野郎と一緒にするんじゃねぇよ」
「はンッ、テメェらみたいな能力者になにがわかるってんだよ!!ああ!?」
上条は浜面の言っていることを無視して、自分の言いたいことを言う
「無能力者の人間なんざ学園都市にゴロゴロいる。そいつらは普通に学校へ行って普通に友達を作って普通に生活してんだよ!!自分の劣等感を言い訳にして無能力者を馬鹿にするんじゃねぇ!!!」
「テメェ…。そうだ、テメェの能力は何だ……?さっきから一度も……」
「ゼロだよ、無能力者だ。……だけどな、力がないからって理由で、力を持っているやつを攻撃しようとは思わない。ましてや力を持っていない人達を襲うなんてことは絶対にしない!!」
「黙れ!!!」」
浜面は顔面を歪ませて叫んだ
この無能力者はあまりにも弱い
その弱さを認めようとせず、弱さから目を背けているから本当の強さが見えてこない
かつて学園都市最強の超能力者の1人は、己が抱える弱さを勘違いしていた
それは決して弱さなどではなく、本物の強さだった
その事実を知っている降魔だからこそ、目の前で無様に叫ぶ少年の想いを少し理解できた
だからといって他の人を傷つけるのは違う
その間違いは正さなくてはいけない
「…行け、アイツの間違いをぶっ壊してやれ」
降魔は上条にそっと言う
「あぁ」
上条は短く返事をし、拳を握りしめる
対する浜面は警棒を握り直し、上条へ突っ込む
こんな野郎はもう怖くない
力がないからって平気で他人を傷つける男など怖いはずがない
「テメェらが馬鹿にされてきた理由は力のあるなしなんかじゃねぇ。今からそいつを見せてやる」
上条が一歩前に踏み出した
それを止めようとした御坂美鈴を降魔が止める
「これが俺とテメェの違いだ!!そんなつまんねぇ幻想なんか自分でどうにかしやがれ!!この馬鹿野郎がッ!!」
ゴン!!と鈍い音が響き渡った
警棒と拳がそれぞれの顔面に叩きつけられ、割れた額から血が溢れ、双方共にバランスを崩す
しかし、倒れたのは1人だけだった
もう片方は絶対に倒れなかった