とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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静かに切られた火蓋

回収運動の代表者的な立ち位置である御坂美鈴への襲撃事件から数日が経った

御坂美鈴の考えが変わり、一応回収運動とやらは落ち着いたみたいだ

しかし、降魔向陽の抱える問題は解決の糸口すら見えない

彼が抱える問題は大きく分けて2つある

1つは『0930』事件の際に傷つけてしまった少女への対応

もう1つは和解した降魔の姉が『神の右席』の男に連れ去られてしまったこと

 

 

「…クソが」

 

 

暗部組織『カースト』の隠れ家のひとつである射撃訓練場にあるソファに寝転びながら煙草を吸う

山積みの空き缶と吸い殻を見れば彼がここでどのような生活をしているかわかるだろう

 

降魔が煙草を消してエナジードリンクを飲んでいると、入り口から1人の少女が入ってきた

彼女は降魔が所属する暗部組織『カースト』のメンバーの1人だ

またか、と降魔は思う

ここのところほとんど毎日ここへやって来ている

彼女には他の隠れ家で生活するように言っているのに降魔が寝泊まりする射撃訓練場へやってくる

 

降魔が寝転がるソファとは別のソファに自分の荷物を置き、射撃の訓練を開始しようとする

 

 

「オイ」

 

 

そんな彼女を降魔が呼び止める

 

 

「…なに?」

 

「少し話そう」

 

 

降魔がそう言うと、少女は少し驚いた表情を見せた

それはそうだろう。今まで降魔が彼女と話すことは数える程度しかなかったのだ

 

 

「お前を取り巻くクソみてぇな事情についてだ」

 

 

降魔は煙草に火をつけながら話し始める

少女はそれを黙って聞く

 

 

「お前が何かやらかしたのか弱みでも握られてるのかは知らんが、それもそろそろ終いだ」

 

「え…、」

 

 

どういうこと、と言おうとしたが、言葉が出なかった

ここへやってきたのは自分の意思ではなかったが、表の世界に帰ることはもう諦めていた

嬉しいという感情がくるよりも先に疑問がやってきた

 

 

「上層部の連中が何を考えてるか知らねぇが、この組織は俺1人でどーにでもなる」

 

「そ、それは、私はもういらないってこと?」

 

「あぁ、お前に負債があるなら俺が引き継ぐ。弱みを握られてんならそれを取り除く」

 

 

降魔の言葉に少女は目を見開く

そんなうまい話があっていいのだろうか

この少年がなぜ暗部にいるのかはわからないが、きっと彼は今までもこんなことをしてきたのだろう

学園都市の闇によって暗部へ堕ちてきた人達の負債を引き継ぎ、弱みを潰し、そうして彼ら彼女らを解放する

 

 

「な…んで、そんなことを……?」

 

 

自分の声が震えているのがわかる

 

 

「理由が必要か?」

 

「うん」

 

 

少女の返事に降魔は少し黙った

そして煙草の煙を上に吐き、口を開いた

 

 

「ふン、アイツらへの償いだ」

 

 

少女には『アイツら』が誰かは分からなかったが、少年の表情が少し悲しそうな顔をしていたのだけはわかった

そんな彼の表情がやけに懐かしく思えたような気がした

 

 

◇◇◇

 

10月9日

学園都市の独立記念日である今日は、その内部に限り祝日になる

普段ならば学校へ行っているはずの学生たちが多くいるからか街全体は少し賑やかな印象だった

『カースト』に所属する少女は街を歩きながらそんなことを思っていた

 

先日降魔向陽から言われたことは彼女の心に残っていた

数日後には正式に暗部組織から抜けられるという

今日はそのことについての話があると言われ、降魔向陽が最近生活している射撃訓練場へ向かっている最中だ

 

そこで少女はあることに気づいた

彼女の後ろを歩いている二人組の男の様子がおかしい

暗部での生活の仕方を降魔に叩き込まれていた

 

暗部で生活している人間の挙動は普通に生活している人たちとは明らかに違う

目の動きや歩き方などの挙動を見ればすぐにわかる

それに後ろの男たちは先ほどから明らかに自分を尾行してきている

 

 

(敵対組織…?)

 

 

近々暗部組織同士の激突の可能性があると降魔向陽から聞かされていた

学園都市同率第1位の少年がいる暗部組織に属しているから自分もマークされているのだろうか

 

もう少しで自由が手に入るのだ

降魔向陽ではないが、面倒ごとは御免だ

そう思い、近くの路地裏に入ろうとする

しかし、その直前で白衣を着た学者のような老人とぶつかってしまう

 

 

「おっと…」

 

 

後ろにいる二人組の男に気を取られて目の前にいた老人に気がつかなかった

相手は転ばなかったがよろけてしまっていた

こちらからぶつかってしまったのだから謝った方が良いだろうと思い、口を開こうとした瞬間

白衣を着ている老人の口角が不自然に吊り上がった

ゾクっとそれを見た少女の背筋に何か冷たいものが走り抜けた

 

 

「な、にが……?」

 

 

力が抜けて地面に倒れそうになるところを誰かに支えられる

おそらく後ろから自分を尾行していた男達だろう

必死に抵抗しようとするが、能力使用のための演算はおろか手足を振り回すことさえできなかった

 

 

T:MQ(タイプ:モスキート)と呼んでくれたまえ。もっとも、以前馬場君が使っていたもに改良を重ねてナノデバイスの巡りを早くしているがね」

 

 

霞む意識の中、白衣を着た老人の声だけが耳に入ってきていた

あと少しで自由を手に入れることができたのに

そんなことばかりしか思うことはできずに、彼女は自分が入ろうとしていた路地裏へ連れ込まれる

 

 

「さて、アレイスターには悪いが超能力者同率第1位の降魔君にはここで退場してもらおうか」

 

 

そう言うと彼もそのまま路地裏へ入っていった

 

 

 

 

 

 

 

「チッ」

 

 

いつもの射撃訓練場で降魔向陽は舌打ちをしながら煙草を吸っていた

彼が苛立っているのには理由があった

今日は彼と同じ『カースト』に所属する少女とここで話し合いをする予定だったのだ

指定した時間を過ぎてもなお彼女から連絡は一切ない

 

今日話し合うのは彼女の今後に関することだ

降魔は少女を学園都市の闇から解放しようとしていた

既に『カースト』に指示を出す『電話の女』にも了承を得ていた

思うところがあるとすれば『電話の女』が不気味なくらい降魔の意見に従順だったことだ

 

pipipipipi!!!!

 

机の上に置いてある仕事用の携帯が鳴った

ディスプレイに表示されているのは例の少女の携帯の番号だ

寝坊でもしたのか、と降魔は適当な予想をしながら電話に出る

 

 

「オイ、いつまで俺を待たせ、」

 

『聞こえているかね第1位』

 

「あ?」

 

 

携帯から聞こえてきたのは聞き覚えのない男の声だった

声の特徴からして年齢は高めだろう

向こうは電話に出た降魔が学園都市第1位ということを知っていた

それはつまり、降魔と少女の関係を知っているやつだろう

 

 

(チッ、他の暗部の連中に捕まったか)

 

 

できればこうなる前に彼女を暗部から解放したかったが、過ぎたことを悔いても仕方がない

降魔は煙草に火をつける

 

 

「その携帯の持ち主は?」

 

『おや、君がそんな心配をするとは思わなかったよ』

 

「誰だか知らねぇがテメェにそんなことを言われる筋合いはねぇよ」

 

 

降魔は電話の男の正体よりも少女の安否の方が気になった

その事実に降魔自身気づいていなかった

 

 

『彼女は無事だよ。ナノデバイスによって意識は失っているがね』

 

 

それを聞いて降魔は少しだけ安堵の息を吐く

しかし、電話の男はそれを感じ取ったのか意地悪そうに告げる

 

 

『だが、こっちには君に恨みを持っているメンバーもいてね、このままじゃ彼女の無事は保証できない』

 

(チッ、アイツを攫ったのは俺が目的か)

 

 

降魔は煙草のフィルターを噛みちぎりそうな勢いで歯を食いしばる

だが、その動揺を電話の男に悟らせないように平常心を保つ

 

 

『我々『メンバー』は学園都市の上層部からの命令に従い君を排除することになった』

 

「あ?」

 

『彼女を闇の世界から解放したいのだろう?ならば大人しく我々の指示に従った方がいい』

 

 

その情報は降魔と少女と降魔の組織の『電話の女』しか知らないはずだ

今度こそ降魔は煙草のフィルターを噛みちぎった

落ちた煙草を気にしている余裕はない

学園都市の闇に潜む怪物としてのスイッチが入る

 

 

「はンっ、『メンバー』だか何だか知らねぇが、ゴキブリ並みのしぶとさだな。いやぁ素直に尊敬するぜ。プッチンプッチン叩き潰してもすぐに湧いてきやがる。いっそのことテメェらの組織の名前『ゴキブリ』にでも変更した方がいいんじゃねぇか?」

 

『君は状況を理解しているのかね。このまま通話で彼女の悲鳴でも聞かせた方がいいのかい?』

 

「そーだな。そっちの展開の方が燃えるから聞かせてくんねぇか」

 

 

降魔は電話の男を煽りながらテーブルの上のパソコンであらゆる情報を精査していた

 

 

『あまり調子に乗らない方がいいぞ若造』

 

「おーけー。とりあえず指示には従ってやる。持ち物はカルシウム豊富なムサシノ牛乳でいいか」

 

『…また連絡しよう』

 

 

降魔が笑いながそう言うと、ブツッと電話が切れた

新しい煙草に火をつけながら会話の内容を分析する

 

 

(暗部の人間にこれだけ挑発すれば相手に自分の優位を見せつけるために必ず人質に手を出す。だが、それがなかったってことはアイツ(あの少女)には何らかの利用価値がある。恐らく上のオーダーはアイツの回収。俺への復讐はあのゴミ共の独断ってか)

 

 

少し危険な駆け引きだったが、得れた情報は大きかった

煙を吐きながら脳内であらゆる情報を整理する

 

その中でも特に降魔が気になったのは降魔と少女と『電話の女』しか知らない情報を『メンバー』が知っていたことだ

自由を待ち焦がれていたあの少女がそんな大事な情報を吐くとは思えない

となると情報を『メンバー』に渡したのは『電話の女』以外あり得ない

だがなぜそんなことをするのだろうか

降魔があの女に少女の件を伝えた時の反応は別に悪くはなかった

 

 

(いや待て、そもそもアイツがこの組織に入れられた理由がおかしい。上の奴らは戦力増強とか言ってたがそれはあり得ねぇ。アイツを俺と一緒に居させることに意味は何だ?)

 

 

ジジジッ、と煙草が燃える音だけが降魔の耳に響く

 

 

(……アイツの正体に俺が気づくのを待ってるのか?)

 

 

今まで降魔はあの少女の素性を一切知ろうとしていなかった

だが、何かの拍子で降魔が彼女の情報を知るのを学園都市上層部は待っている

 

調べるだけの価値はある

机の上にあるパソコンを使って表の人間では触れられないような情報を降魔の持つ権限全てを使って調べていく

そこで降魔は気になるレポートを見つけた

 

一見すると何の変哲もない研究所で起きた事故のレポートのようだ

しかし、その研究所の名前には覚えがある

 

『特殊暴走能力者調整研究所』

 

かつて降魔向陽が在籍していた研究所だ

体晶と呼ばれる意図的に拒絶反応を起こさせ、能力を暴走状態にする薬品を使った実験が繰り返されていた

どれほどの量の体晶で人の体は壊れるのか、どんな能力者が体晶を使った方が良い結果を出せるのかなど

言葉通り、死んだ方がマシと思えるほどの地獄を味わっていた

彼が暴走し、自分と同じ『置き去り』の子供達を研究所もろとも破壊したのはこの研究所だ

 

そんな昔のレポートに比較的最近の日付で新しい項目が付け加えられていた

それを見た降魔の額に血管が浮き出た

あまりの怒りから彼の拳は異常なほど握りしめられており、血が滲み出ていた

 

『今後の降魔向陽への牽制のために在籍していた実験体のDNAマップからクローンを作成』

 

怒りが一定値を超えた

机ごとパソコンを蹴り飛ばす

机の上にあったものが床に散乱するが、そんなこと気にも留めない

 

 

(…そうか、そうだよな。あの研究所にいた奴らを使えば俺は確実に上の連中は俺に好き勝手命令できる)

 

 

ということは最近この暗部組織にやってきたあの少女は、あの研究所にいた奴らのクローン

あの時感じた懐かしさや苛立ちはこれが原因か

 

 

「舐めてんじゃねぇぞクソ野郎どもがァァァァァッ!!!」

 

 

乱暴に杖を取り、移動を開始する

とりあえずは『メンバー』とかいうクソ共を殺しに行こう

そのあとはこんな下らないことは考えていた『電話の女』だ

 

遠慮することはない

全てを壊してでも『メンバー』と『電話の女』を探し出す

必要ならば統括理事会の連中を殺してでも奴らの情報をもぎ取る

 

 

(殺す。『メンバー』の連中も『電話の女』も確実に殺そう。俺の触れられたくねぇ部分に土足で踏み込んできたお礼をしてやらねぇと話にならねぇ)

 

 

まずは情報収集だ

『メンバー』は恐らく降魔が所属する『カースト』と同レベルの機密情報だ

そこらへんの風紀委員や警備員の詰所からのアクセスでは話にならない

そうなると手っ取り早いのは統括理事会の誰かから聞き出すしかない

 

問題は12人いる統括理事会の誰を使うかだ

もうすでに事態は最悪の位置にある。ならば善人だろうが関係なく利用させてもらう

 

降魔は移動しながら携帯で統括理事会の連中の居場所を調べる

手頃な奴を見つけ、そいつに関する情報を確認する

 

 

貝積継敏(かいづみつぐとし)。それなりの情報を持ってるし警備は手薄。警戒するのはコイツが飼ってるブレイン1匹ってトコか)

 

 

狙いは定めた

あとは動くだけでいい

『メンバー』の指示に従いながら奴らに気付かれないように行動をする

奴らが気づいた時には既に奴らの喉元に牙を刺している状態が好ましい

 

 

(状況は俺好みのシンプルな形になった。あとは俺に勝った気でいるゴミクズ共を地獄に叩き落とせば最高だな)

 

 

ひとまず目指すべきは学園都市統括理事会の貝積継敏だ

奴は統括理事会の中では善人だ

降魔もいきなり善人を殺す趣味はない

時間があまりないが話をしよう。そう降魔は決めていた

だが、その話し合いを向こうが拒否したら仕方がないが暴力に頼らせてもらう

 

善人だろうが悪人だろうが関係ない

アイツらのためならば降魔は全てを殺し全てを壊す

 

降魔は久しく味わっていなかったピリッとした暗部特有の雰囲気を懐かしみながら貝積の隠れ家を目指す 

 

 

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