とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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打ち砕かれた幻想

『電話の女』は車内で部下の報告を待っていた

彼らには教会の地下で戦闘不能にした降魔向陽の回収を命じていた

降魔には数え切れないほどの銃弾を撃ち込んである

死んでいないにしろ起き上がるのは不可能なほどの損傷だ

 

降魔向陽は生命維持装置に回収され、学園都市にとって都合よく能力を使うだけの機械になるだろう

もはやそれは人とは言えないが、自分には関係ない

しかしこれで自分の任務は全て終わった

学園都市との契約のもとようやく自由な生活を手に入れられる

女はヘルメットの下で口角を上げる

 

そこで死に損ないを回収するだけなのにやけに回収が遅いことに気づいた

数人いれば少年ひとり担いでこの場所まで来るのに時間はかからないだろう

時間がかかりすぎている

 

 

(ゴミ共でもこれくらいの仕事はできると思っていたんですが所詮はゴミでしたね)

 

 

女はため息を吐き、車から降りる

 

教会の扉はすでに壊れてしまっている

その轟音が女の耳に飛び込んできたのは瓦礫を避けながら教会へ入ろうとした瞬間だった

ズドォンッッ!!!何かが教会の壁を突き破った

そしてヘルメットをしていてもわかるような強烈な鉄の匂いを嗅ぎ取った

壁を突き破ったモノは水っぽい音と共に教会の前の道路に撒き散らされる

 

それは、人だった

格好を見るに『カースト』の下部組織の人間

いや、人間だったものだ

 

バッと視線を血だらけの肉塊から教会の奥へ向ける

この教会にいる人間で、こんな真似ができるのは1人しかいない

 

 

「よオ、さっきぶりだなア」

 

 

正体を見るよりも早く聞き覚えのある声が聞こえた

女は目を疑った

少年、降魔向陽は先程自分が確実に戦闘不能にしたはずだ

義手も動かず、電極を切り替えることもできない彼にあれだけの傷をどうにかすることはできないはずだ

 

 

「何故……あれほどの銃弾を浴びて意識を保っていられるはずがない」

 

「ア?テメエのものさしでこの幻想操作を測るんじゃねエよ」

 

 

女は一瞬でピンときた

彼の能力は他者のAIM拡散力場をコピーして使用する能力

これまで彼がコピーして使えるのはひとつずつだった。同時に2つ以上の能力を使うことはできないのだ

この土壇場でそれを可能にしたというのか

だが、考えられるのはそれしかない

 

 

「銃弾によって傷ついた内臓類は未元物質で修復、破れた血管はベクトル操作で正確に循環させる。義手は超電磁砲で動かす、痛む体は心理掌握で強引に命令を下す」

 

 

ペラペラと聞かれてもいなことを話しだす

新たな扉を開いたことによってアスリートでいうゾーンに入っているのだ

アドレナリンなどの興奮作用のある脳内物質がドバドバと溢れているのだろう

 

それだからって、

 

 

「そんなことが可能なはずが…」

 

「アア、そんなこと体晶を使っても無理だっただろオな」

 

 

降魔は猟奇的と思えるほど不気味な笑みを浮かべる

 

 

「だけどな、俺は死に際で自分の能力の核心に触れた!!」

 

 

そのまま彼は首筋にあった電極に触れた

降魔はそれを躊躇なく一気に引きちぎった

 

それ見ていた女は驚愕した

降魔向陽は7月27日に原因不明の攻撃により脳の一部を損傷している

そのせいで能力を使うには外部の演算装置に頼らなければいけなくなっていた

それを支える機械を彼は自分の手で引きちぎったのだ

 

 

「こんなガラクタももウ必要なイ。この幻想操作を止められるやつなんざ誰1人としても存在しねエ」

 

 

なんらかの能力を使って脳の損傷を修復したのか

女に詳しいことはわからなかったが、確実に降魔向陽は能力者として一段階上の存在となったということだけは理解できた

 

一歩、また一歩と女は後ずさった

対する降魔はその場から動かず、ただ手のひらを向ける

ただそれだけの行為で降魔から遠ざかったはずの女が降魔の方へ引き寄せられる

凄まじい勢いで引き寄せられる女目掛けて蹴りを打ち込む

 

 

「ぐっ!!?」

 

 

ごりごりごりっ!!と彼女の体の中の異様な音が降魔の足を通じて伝わってくる

躊躇は全くない

足を思い切り振り抜き、女の体を吹き飛ばす

 

 

「あっ、おぐ、おぶぇ!!!?」

 

 

女の口から吐瀉物が溢れ出るが、被っているヘルメットがのせいで外には漏れず、顔が汚れる

だがそんなものを気にする余裕などなかった

彼女の体の中で痛みが炸裂し続ける

内臓が傷つき、骨がへし折れた

 

降魔はニヤニヤと君の悪い笑みを浮かべながら右手の二の腕辺りを触っている

グシャア!!一切の躊躇もなく降魔は右腕を握りつぶした

ちょうど降魔の義手が接続されている場所だ

用が無くなった義手を投げ捨て、いとも簡単に失ったはずの右腕を再生させる。同様に左腕も修復する

まるで調子を確かめるように両腕を動かす

 

 

「…化物が」

 

 

吐き捨てるように女は呟く

その呟きに反応するように降魔は狂気に染まった目で彼女を見る

 

 

「化物、ねエ。俺をこんな化物にしたのは誰だ?テメエら汚イ大人共だろオが!!!!!」

 

「………」

 

「よーし決めたぞ。とりアえずテメエは死刑。こんなクソみたいなこと考エた上層部の連中も死刑だな」

 

 

まるでレストランでメニューを決めるくらいの気軽さだった

あっさりとした死刑宣告が女に告げられる

一歩、また一歩と地面に倒れている女に降魔は近づく

女は悟った。降魔向陽との距離がゼロになった時が自分の命の終わりなのだと

 

ダンっと女の真横の地面を降魔は踏みつける

それだけの行為で女の体が浮き上がる

しかし女の体を優しく浮き上げたのではない

凄まじい衝撃で女の体を強引に浮かせたのだ

 

女の体はちょうど降魔の目線辺りまで浮いた

人間が衝撃でそれほどの高さまで浮かぶには、考えられないほどの衝撃が必要だ

余すことなく女の全身を衝撃が叩く

 

降魔の目線にいた女の首を乱暴に掴む

そのまま吊り上げ、首に指を食い込ませる

 

 

「遺言はアるか?せっかくだから聞イてやんよ」

 

「…これは、呪いです。あなたは、この呪いを…解くことは…絶対にできない」

 

「ア?何言ってやがんだテメエ」

 

 

本気で何を言っているのかわからないと言った具合に降魔は首を傾げる

あまりの恐怖で壊れたのだろうか

グッと降魔は女を掴んでいない方の手に力を込める

目の前のゴミを処分するため、降魔は躊躇なくその手で彼女を貫くだろう

 

しかし、降魔の動きが止まった

この場面において絶対は降魔向陽だ

彼を止められるものなど存在しないはずだ

だが、その少年がいつまで経っても動かない

 

降魔の視線は女ではなく、別の何かに釘付けになっている

女は首を絞められながら視線を動かし、彼の見ているものを追いかけた

 

自分が潜伏していた教会へ続く道路の真ん中に、誰かが立っていた

そこには『暗部』という闇と何も関係ない一般人が立っていた

 

そこにはツンツン頭の少年が立っていた

降魔の人間関係を把握している彼女は彼が誰なのかすぐに理解した

 

 

上条当麻だ

 

 

その姿を見ている降魔は苦虫を噛み潰したような表情をしている

 

 

「…なんでこの局面でお前が出てきやがるんだ」

 

「降魔……」

 

「ここは学園都市の裏だぞ。お前みてエな表の人間はさっさとさっさと帰れ」

 

 

降魔は再び目線を首を掴んでいる女へ向けて

 

 

「俺はこの女を殺さなくちゃいけねエんだ。俺の復讐の邪魔をするってんならお前だろウが容赦はしねエぞ上条!!!」

 

 

そこにいたのは上条のクラスメイトである降魔向陽ではなかった

そこには学園都市が生み出した怪物である幻想操作がいた

 

既に降魔向陽は追い込まれている

暗部の女の罠に嵌り、呆気なく殺されかけた

ここで上条とぶつかることを恐れて女を逃せば再びこのような悲劇が繰り返される

それこそ次は降魔の家族にまで魔の手が及ぶかもしれない

それだけは絶対に避けなければいけない

 

だったらここで上条当麻を倒す

殺しはしない、だが数時間は動けないほどのダメージを与える

 

いまだにこの場所から離れようとしない上条を睨みつけ、首を掴んでいる手に力を込める

呻き声のような声が女から漏れるがそんなものは気にはしない

そのまま女を思い切り投げる

凄まじい勢いで投げられた女は、教会の壁に激突して動かなくなる

あれほどのダメージを与えればすぐには動けないだろう

 

 

「さアて、てめエはこの幻想操作の前に立ってんだ、それなりの覚悟はできてんだろウな」

 

「覚悟があるかないかじゃない。お前は間違ってる。だから俺はここでお前を止めてみせる」

 

 

降魔はこの復讐には正義があると信じている。邪魔をいているのは上条だ

上条はこんなことで誰かが傷つくのは間違っていると信じている。だから降魔を止めなくてはいけない

 

 

「調子に乗るんじゃねエぞ。超電磁砲や一方通行に勝てれば俺に届くと思ったのか?」

 

「……」

 

「テメエに見せてやるよ。AIM拡散力場を操る正真正銘の化物ってやつを」

 

 

 

上条の持つ幻想殺しは魔術や超能力などの異能の力に対して絶大な効果を発揮する

しかし弱点がないわけではない

幻想殺しに処理できる異能の種類、個数、量などに限界があること

それに上条自身の身体能力は人間の範疇のため、多方向から同時に飛んでくるものには反応できない

 

これだけの情報があれば十分だ

殺しはしないが、数時間は動けない程度に痛めつける

 

降魔はただ黙って腕を振るった

生み出されたのは烈風、だけではなかった

炎、電撃、氷など様々な能力が一斉に上条へ襲いかかる

 

超能力者級の能力で一気に押し切る

 

言葉を挟む暇もなかった

降魔が生み出した破壊の嵐は、爆音と衝撃波を生み出した

圧倒的な破壊は上条だけではなく、上条の周りの地面や建物すら破壊した

 

 

(悪イな、これは俺の復讐だ。邪魔するのが例エお前でも容赦はしねエぞ。さっさと表の世界に帰って今まで通りの日常に帰れ)

 

 

終わりだろう

死にはしない程度に加減はしたが、それでもすぐに動けるほどの威力ではない

降魔は上条から目を離し、教会の壁の近くで気を失っている女の方へ向かおうとする

さっさとあの女を殺し、アレイスターの元へ行かなくては

これ以上俺の周りの善人を巻き込むな、と忠告をしなければならない

 

せっかくならば意識があるうちにできるだけ残酷な殺し方をしたかったが、これ以上面倒ごとに巻き込まれるのは御免だ

さっさと殺してしまおうと降魔は考えた

 

がさり、と。降魔の背後で、何か物音が聞こえた

ただ物音が聞こえただけなら降魔は微塵も気にしなかっただろう

しかし、物音が聞こえてきた方向が方向だ

その方向は、先ほど上条を仕留めたところだ

 

ゆっくりとした動きで降魔は後ろを振り返る

ソレを見た瞬間、冷たい何かが降魔の背筋を走り抜けた

 

 

「は?」

 

 

そこには確かに二本足で立っている少年がいた

上条当麻だ

本当に意味がわからなかった

確かに死なないように加減はしたが、それでもそれなりの怪我をしていないとおかしいはずだ

それなのになぜ

 

 

「なんでお前は立ってやがる!!?」

 

 

驚愕に顔を染めながら降魔は叫ぶ

直撃すれば生身の人間など木っ端微塵にできる威力だ

例え直撃しなくとも地面や建物の破片で仕留めることは容易いはずだ

 

理屈なんてわからなかった

幻想殺しという特別な右手があろうと、それだけでどうにかできるはずがない

だけどあの少年は立っている

 

これが上条当麻か

どんな逆境に立たされようとその足で立ち上がる正真正銘のヒーロー

 

 

「…面白エよ、クソヒーロー野郎が」

 

 

そう呟きながら降魔は口角を上げた

多方向からの攻撃が通じないのならば、幻想殺しでも打ち消せないほどの攻撃を多方向から撃ち込む

そもそも、だ

幻想殺しが効果を発揮するのは異能の力に対してだ、降魔の胸にある拳銃を使えば一瞬で上条を行動不能にすることができるだろう

だが、降魔の中に眠る第1位としての何かがそれを許さなかった

 

だから、降魔は五指をこれでもかと開き、空気を掴み取った

そのまま空間を切り裂くように腕を振るった

 

彼によって制御された空気がギュルン!!と渦を巻く

局地的な嵐が起きる

制御された風速120メートルの暴風は、竜巻としても最大級のM7クラス。自動車や家の屋根すら引き剥がす大気の暴力は、もはや並のミサイルを超えている

その竜巻が1つではない

数えるのも億劫なほどに発生した破壊の竜巻は辺りの建物を巻き込みながらあらゆる方向から上条へと襲いかかった

 

爆音と衝撃が撒き散らされ、地盤そのものが低く揺れた

 

息を切らしながら、降魔は爆心地を睨み続ける

これは防げない。防げるはずがない

例え竜巻を打ち消そうが、どれかひとつでも直撃すれば挽肉になる

 

そうでなければおかしいはずだった

 

 

「ッッ!!??」

 

 

もはや言葉など出なかった

上条の戦闘を何回か見てきた降魔は、上条の強みを強大な相手に対して取れる臨機応変の戦術だと思っていた

強大な能力者や魔術師が気づかない裏をかいて真正面から突っ込み、その小さな死角を突くように強力な拳を叩き込んでくる

それが彼の強みだと思っていた

 

しかしそれは違った

初めて上条当麻を相手にしてみて分かった

この少年の本当の強みは、諦めないという想いだ

例え何があっても諦めずに真っ直ぐ突っ込んでくる敵というものがこれほどまでに恐ろしいことに気づいた

 

その証拠に降魔は感じたことのない恐怖を感じた

学園都市の闇で何度も命のやり取りをしていた少年が、無能力者の少年に恐怖した

 

その恐怖を振り払うように一歩踏み出す

そのまま一歩、また一歩とそのスピードは徐々に上がっていた

地面を蹴る足の力の『向き』を操作し、あっという間に砲弾のようなスピードへ到達する

8月21日に一方通行はこのように上条当麻に突っ込み、彼に負けた

降魔はその場面を目撃しているはずだった

しかし、彼の頭の中からはそんなこと抜け落ちていた

 

確実に自分の手で上条当麻を倒す

そんな思いだけが彼の中を支配していた

 

 

「俺の復讐の邪魔すんっじゃねエエエエよ!!!!」

 

 

砲弾のようなスピードの中で降魔は自らの標的を正確に捉えていた

右の拳を握っている少年の懐まではあっという間だった

既に降魔は拳を振りかぶっている

あとはこの勢いのままこの拳を振り下ろすだけでいい

 

その瞬間、至近距離にいる上条当麻と目があった

真っ直ぐすぎる瞳と目があったのは恐らく1秒にも満たない時間だろう

しかし、降魔はその時間を1秒以上に感じた

直後、降魔の鼓膜を上条当麻の声が揺らした

 

 

「俺はお前を止める。それはお前のためだけじゃない!!お前のことを想っている奴らのためにも俺はお前の復讐なんて幻想をぶち壊してやる!!!!」

 

 

気づいた時にはもうすでに手遅れだった

目の前には硬く握られた拳があった

 

 

「だからお前が思い描く日常ってやつへさっさと帰ってこい!!!!!」

 

 

衝撃が走った

それは確実に降魔向陽を揺らした

硬い拳ではなく、上条当麻の言葉によって

 

降魔は拳を振り切れず、拳を振り切ったのは上条の方だった

 

 

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