とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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退屈しない日常

エレベーターに乗り、指定された階のボタンを押す

とある学区の高層ビルの最上階

 

ピンポーン、と機械音と共にエレベーターの扉が開く

 

 

「よく来たな。急だったから驚いたよ」

 

 

目の前には部屋の主であろう大学生の男両手を広げ、歓迎した

少年は案内されたソファに腰を下す

 

学園都市同率第1位の超能力者である降魔向陽は煙草に火をつけ、煙を吸う

そこは『雑貨稼業(デパート)』と呼ばれる男の隠れ家の一つなのだろう

降魔が以前来たところとはまた違っていた

 

 

「それで?ご注文の品は何かな。逃走用の車?隠れ家の鍵?今は開錠系の『センサー潰し』が結構お買い得かな」

 

「いつもの」

 

 

降魔は表情も声色も変えずに『雑貨稼業』の男へ告げる

そう言われると男はつまらなそうな顔をする

 

 

「つまんないなぁ、たまには他の商品も買ってよ。ほら、アルバム(カタログ)でも見なよ」

 

 

しかし、降魔は食いつかない

彼は横あいに目をやったまま、視線を固定させている

部屋の隅、ここからだとちょうど死角になっている位置に吊るされているナニカ

 

 

「『アレ』も商品か?」

 

「ん?そっちに興味あるのかな?ただ、アンタには悪いけどあれはオプションじゃない。俺の趣味だよ」

 

 

『雑貨稼業』の男はバツの悪そうな顔をし、そちらへ目線を移す

鎖で吊るされているのは15歳くらいの少女だった

白い肌に白い下着だけの少女が、両手を枷で戒められたまま、吊るされている

 

所々に青黒い痣を残す少女は、周知に身をよじることもなく、力なく小さく揺れていた

その瞳には何も写っておらず、ただただ、虚空を見つめていた

 

 

「そーか」

 

「そこそこ高かったんだよね。置き去り(チャイルドエラー)とは言え、流石は人間だな」

 

「・・・・、」

 

 

ケタケタ笑う『雑貨稼業』の男は目の前にいる超能力者のわずかな表情の変化に気がつかなかった

降魔は煙草を持つ方とは逆の手で、カバンの中から封筒を取り、男の方へ放り投げる

封筒の中から、100万円の札束が10個ほど飛び出した

 

 

「・・?」

 

「さっさと寄越せ」

 

 

いつもよりはるかに多い金額の札束を出され、男は少し動揺する

しかし、降魔の苛立ちに少し気がついたのか男はいそいそと商品の準備をする

 

しばらくすると、降魔がいつも吸っている銘柄の煙草を数カートンと銃の弾が置かれる

 

 

「ほらよ、これでいいだろ?お代が多いようだけど、他にも何か?」

 

「アレもだ」

 

 

降魔は顎で先ほどの少女を指す

それを見た『雑貨稼業』は唇を歪めて苦笑した

 

 

「おいおいおい、アンタってそういう趣味でもあるのか?それとも貧乳が好みな訳?」

 

 

男は少しも残念そうな顔をせずに、降魔を嘲笑うように話を進める

おそらく降魔からもらった金で新品を買えばいいとでも思っているのだろう

 

 

「ところで、こんなガキのどこに興味が湧いた訳?もしかして、他の男の手でボロボロにされた女じゃないと燃えないタイプなのか?」

 

 

男は少女の鎖を外しながら降魔に質問する

降魔はそんな質問を無視しながら新しい煙草に火をつける

 

 

「ほらよ、後は好きにしな」

 

 

少女を乱暴に降魔へ渡し、札束を仕舞い始める

 

 

「・・行くぞ」

「・・・・」

 

 

降魔は少女へ声をかけ、エレベーターへと乗り込む

少女からの返事はない

 

 

『雑貨稼業』の男はエレベーターへ乗り込む少年をチラッと見る

珍しい奴だ、素直にそう思った

今まで色んな相手を見てきたが、あんな奴は初めてだ

札を数えながら、エレベーターに乗り込む少年を見る

 

 

エレベーターは下ではなく、屋上へと向かっていた

別にそのまま下へ行っても良かったのだが、少女は下着だけなのである

自分のパーカーを羽織らせても良いが、それでも怪しい格好なのだ

 

屋上に着くと、ちょうど太陽が沈みかけているところだった

 

 

「掴まっとけ」

 

 

降魔はそう言って、少女を担いでビルから飛び出しだ

ギュッと降魔の服を掴む少女の手に力が入る

 

 

「・・・・!!??」

 

 

しばらく落下し、そのまま風の翼を背中に接続し、宙へ浮かぶ

黄金に輝く街を見下ろす少女の瞳に少しだけ、色が入った気がした

 

 

 

◇◇◇

 

 

「それで、この少女はどなたなのですか、とミサカはあなたを問いただします」

 

 

少女を連れて、家へ帰り、部屋に入れた

ジトっとした目で見ながら質問するのは同居人1号である

 

 

「んあ?新しい同居人だ、仲良くしろよ」

 

「はぁ、わかりました、とミサカはため息混じりに了承します」

 

 

こんな非常識なことを簡単に納得してくれる辺り、彼に絶大な信頼があるのだろう

 

 

「それで、お前名前は?」

 

「・・・」

 

「あ?喋れないのか?」

 

「・・・・」

 

 

最初の質問には無反応だったが

次の質問に少女はゆっくりと頷いた

となると耳が聞こえないわけではないのだろう

先天性か、後天性か分からないが、これでは面倒くさい

 

降魔は自分の着ていたパーカーを脱ぎ、少女へ渡す

 

 

「着てろ」

 

 

Tシャツになった降魔は玄関へ向かう

時刻は午後7時半

これならばギリギリやっている店もあるだろう

 

 

「ちょっと出かける」

 

 

それだけ言い残し、玄関から出ていく

必要なものは早めに揃えるに越したことはない

 

病院は明日でいいだろう

とりあえず増えた同居人の必要そうなものを買いに行く

 

 

 

 

 

女物の服とその他諸々の必要な生活用品を買い、降魔は暗い道を歩いていた

学園都市は完全下校時刻を過ぎるとバスなどがなくなるため、外をブラつく人が一気に減る

 

だが、明らかな違和感を感じとる

周囲に人の気配、詳しく言えばAIM拡散力場が感じ取れなくなった

まるで彼がいるこの場所だけ人がいなくなった感覚だ

 

演算も能力も問題はない

 

 

「・・・どーなってる?」

 

 

辺りを見回すと静寂と暗闇が彼を包み込む

しかし、よく耳を澄ますと何かが聞こえる

 

ガガッ!!!と何かが削れる音のようだ

面倒くさいがそこに行けば原因が分かるのだろう

 

 

しばらく歩くと見覚えのある女と男がいた

片方は長い日本刀を担いだポニーテールの女

もう片方はツンツン頭に学生服の男

 

その光景を見た瞬間、彼の行動は決まっていた

 

(Model_Case ACCELERATOR)

 

足下にかかるベクトルを操作し、音速を軽く超える速さで女の方へと突っ込んでいた

直後に見えたのは女の驚いた顔だった

 

◇◇◇

 

血だらけの少年は叫んだ

 

 

「テメェは何のために力をつけた!?」

 

 

ボロボロの右手で目の前の女の顔を殴る

しかし、力の宿っていない拳では女の意識を落とすことはできない

そのまま投げられ、地面へ倒れ伏す

 

血を流しすぎた

手を動かそうとするが、体は芋虫のようにしか動かない

 

 

(起、きろ・・・攻撃が、くる)

 

 

落ちそうな意識を何とか食い止める

攻撃はこなかった

 

そんなものする暇もなかった

 

凄まじい轟音が彼らを襲った

上条当麻(かみじょうとうま)はまた目の前の襲撃者の女が何か攻撃を仕掛けてきたのかと思った

 

しかしその予想は外れることになった

土煙が晴れ、目の前にいたのは先ほどまでの襲撃者ではなく見覚えのない少年だった

代わりにさっきまでいた女の襲撃者の姿が見えなくなっていた

 

 

「・・・よォ、あン時は世話になったなァ。ってもう聞いちゃいねェか」

 

 

おそらく上条に向けての言葉ではない

襲撃者の女へ向けているのだろう

 

灰色の髪の毛にやる気のない目

ジーンズとTシャツの少年

 

その少年は上条の目線に気がつくと

 

 

「あン?テメェにゃ興味ねェよ。さっさと失せろ」

 

 

それだけ言うと

吹き飛ばした女の方へ歩いて行く

ぐらり、と意識が揺れる

視界が暗闇に染まる

 

 

「・・・・な、にが」

 

 

一瞬だった

灰色の風が吹き荒れた瞬間、自分の体は吹き飛び、背中に衝撃が走っていた

軋む体に鞭を打ち、体を起こして辺りを見回す

 

 

「・・・よォ、久しぶりだなァ」

 

 

見覚えのある少年がこちらへ歩いてきていた

確か、あの子を保護しようとしていた時に現れた少年だ

 

これはあの少年がやったのだろうか

 

 

(何度、邪魔をすればッ!!!)

 

 

思った時にはもう体は動いていた

自身の刀を掴み直し、力を入れる

自分の体は特殊だ

常人では反応することもできない

 

 

七閃(ななせん)!!!!!」

 

 

少年へ向かって七つの太刀筋が襲いかかる

一瞬と呼ばれる時間に七度殺せる技

瞬殺という言葉がふさわしい最高の技だ

 

少年は何も言わずに俯いている

反応などできるはずがない

 

七つの太刀筋が少年へ触れた瞬間、舞ったのは紅い鮮血ではなかった

舞ったのは自身の刀につけていた鋼糸(ワイヤー)

 

 

「なっ!!?」

 

「そンなショボいモンで俺に届くとでも思ったか、」

 

 

降魔の姿が消える

いや、空間移動などではなく、人間の反応速度を大幅に超えた速度で降魔が地面を蹴った

 

 

「なァ!!!??」

 

 

気がつくと自身の腹部に少年の細い足が食い込んでた

 

 

「ぶッッ!!!!」

 

 

迫り上がる血を撒き散らして、吹き飛ぶ

自分の体が特殊にできていてもこの少年はそれを超えてきた

 

 

「・・・っと、こんなもんか」

 

 

能力を切り、吹き飛ばした女の方を見る

既に意識はなく、手にしていた日本刀も何処かへいってしまっている

 

トドメを刺そうか迷ったが、めんどくさくなり、踵を返してアイツの生活用品を取りに帰る

 

降魔向陽はそのまま家へ向かう

その途中でピンク色の髪をした幼女とすれ違った

 

何やら慌てている様子だったが自分には関係ない、とすぐに思考を切り替える

 

 

 


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