とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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初めてのモノ

それはもはや戦闘と呼べるものではなかった

大人が小さな子供との腕相撲で手を抜きながら戦っているかのようだった

この場合の大人が正体のわからない敵で子供が降魔だった

 

学園都市最強をここまで軽くあしらえる存在がこの世界に何人いるだろうか

 

降魔が多種多様な攻撃を加えるたびに、降魔の体を翼のようなものが貫く

単純な金色ではない

白色の芯を含む、青ざめたプラチナのような翼

 

理解などとうに及んでいない

 

 

「ーーーーッッ!!!!」

 

 

だが、いくら体を貫かれて攻撃されようが降魔は歯が砕けるほど食いしばり、声を上げない

激痛による絶叫だけはダメだ

彼女に、カガチに聞こえてしまう

ただでさえアレイスターという曲者と交渉するのだ

降魔のことを心配ししてしまっては交渉に影響が出るかもしれない

それだけはダメだと降魔の決意が全身に力をみなぎらせる

 

 

(ちく、しょウが!!一体どーなってやがるアレは!?)

 

 

アレに加えられる怪我は超能力者級に強化した肉体再生で治せる

能力を二つ以上同時並行で使うことは今までの降魔ならばできなかった

しかし、カガチとの戦闘で自身の能力の確信に触れた

そのおかげで今は二つ以上の能力を同時並行で使うことができている

それができていなかったら最初の一撃で降魔は命を落としていただろう

 

しかし、いずれ限界は来る

 

 

「ふむ、ここまで私に食らいついてくる者も珍しい。君への興味がますます湧いたよ」

 

 

そこで初めて降魔は目の前の化け物の声を聞いた

透き通るような声なはずなのに違和感が拭えない

 

 

「舐めてんじゃねエぞ!!!クッソ野郎がアアア!!!」

 

 

言葉に耳を貸す余裕も必要もない

手を緩めずに降魔は学園都市のAIM拡散力場を使って攻撃を加える

しかし、その攻撃はアレのプラチナ色の翼によって呆気なく薙ぎ払われ、返す刀で降魔の肉体に致命的と思える傷をつける

 

 

「ぶふ、ぅ」

 

「やれやれ少しは話を聞いたらどうなんだ。話を聞けば私を倒せるかもしれないのに」

 

 

傷つけられた内臓から迫り上がった血が降魔の口をこじ開けて吹き出る

それでも降魔の瞳は己の敵を捕捉し続ける

 

 

「まずは自己紹介をさせてもらうよ。かつてクロウリーと呼ばれる変わり者の魔術師に、必要な知識を必要な分だけ授けた者……『エイワス』と名乗ろう」

 

「…テメエの目的は、なんだ」

 

「先ほども言っただろう。君に興味を抱いたからこうして姿を現している」

 

 

降魔は口元を汚す真っ赤な液体を服の袖で拭いながら立ち上がる

少しずつだが能力での再生が間に合わなくなっている

このままいけば待っているのは死だけだ

 

 

「アレイスターの提案したゲームが君にどういう影響を与えるのかが気になるのでな、ゲームを続行させてもらおう」

 

 

もはや攻撃すら目で追えなかった

気がついた時には青ざめたプラチナの翼が降魔の腹部を再び貫いていた

そのまま降魔の体を持ち上げ、宙吊りにした

 

 

「ーーーーーッ」

 

「ここまでしても悲鳴を上げないのか」

 

 

落ちそうになる意識を強引に繋ぎ止める

漏れ出そうになる絶叫を強引に飲み込む

 

こんなものか、とエイワスは簡素な感想を抱いた

少々興味を抱いたが蓋を開けてみれば未成熟もいいところだ

息があるのは、学園都市に存在する肉体再生などでなんとか命を繋いでいるからだろう

しかし、それだけだ

命を繋ぎ止めることで精一杯

ここからの起死回生などない

 

 

「………?」

 

 

そこで降魔は慣れ親しんだナニカを感じ取った

それは彼がいつも感じ、使っているものだ

AIM拡散力場を操る彼だからこそ感じ取ったもの

 

ガシッと降魔の手が腹部を貫通しているエイワスの翼を掴む

たったそれだけの行為でエイワスの翼に不自然にノイズが起こり始める

そのノイズは次第にひどくなり、エイワスの翼が完全に消え去る

拘束を逃れた降魔は傷の再生など後回しに別のことに全演算を注ぎ込む

 

 

「…テメエの、目的も正体もわからねエが、俺の前に姿を現したことを後悔しやがれ」

 

 

イメージするのは複雑なバランスで立っているトランプのタワーだ

一枚でもトランプを抜き取ればそれだけでバランスは崩壊し、全て瓦解するはずだ

それができる能力を降魔は持っている

AIM拡散力場を操る降魔向陽がエイワスを構成するAIM拡散力場を掴み取る

 

バキリ、とエイワスの体の中心が細かく砕けるような感触があった

 

エイワスの存在を司る、AIM拡散力場の集合体の結晶にエラーが生じているのだ

黄金の髪の毛の先からザラザラと分解が進んでいる

 

 

「正直舐めていたよ。流石はAIM拡散力場を操る超能力者だ」

 

「……ゲームは終イだ」

 

 

ボタボタ、と血が溢れる音がする

複雑に絡まったAIM拡散力場を操作するのに全演算を注いでいる降魔に自身の傷を再生する余裕はない

だが、これでゲームは終わりだ

アレイスターはエイワスによって降魔が簡単に薙ぎ払われると考えていたのだろうが、それはここで覆された

 

エイワスの体が半透明に透け、頭部の中心に三角柱のようなものが見え隠れしている

それがないかは降魔にはわからないが、それさえ壊せばエイワスはこの場に留まっていられないだろう

体の傷が酷く、思うように体が動かない

それでも力を振り絞って、拳銃を引き抜き、エイワスの頭部に照準を合わせる

 

 

「汝が欲する所を為せ。それが汝の法とならん」

 

 

歌うようにエイワスは呟いた

震える手で引き金に力を入れる

 

銃声が炸裂し、水晶が砕けるような音が聞こえた

それを聞いた降魔はその場に倒れる

 

 

「ごほッ、がふ」

 

 

息を吸って吐くたびに口や傷口から血が溢れる

先ほどの複雑な演算を放棄し、自身の体を延命させるための演算を開始する

 

息を潜めながらしばらく演算を繰り返していると、痛みが引いてきた

どうやら能力は正常に働いてくれたようだ

血で汚れた手で煙草を取り出し、火をつける

先ほどまでの激戦を制した自分の体に褒美をあげるようにお気に入りの煙を体に入れる

 

 

(アレイスターの切り札は倒した。後はアイツだ)

 

 

アレイスターと交渉をしているはずのカガチが気になる

時間は十分すぎるほど稼いだはずだ

良い結果であれと降魔は思う

 

ゆっくりと立ち上がってアレイスターとカガチがいる場所へ向かう

 

 

「及第点、といったところかな」

 

 

本物の絶望が降魔向陽に襲いかかった

彼の真後ろからエイワスの声が聞こえたのだ

先ほどから追いついていない理解が一周回って再び遠ざかってしまった

疑問が尽きることなく、降魔の頭を駆け回る

 

 

「テメエ、」

 

 

振り向きざまに攻撃を加えようした降魔の全身に衝撃が走った

最初は打撃かと思ったが、それは違ったようだ

強烈な力が叩きつけられたと思ったら、次の瞬間には壁が顔に激突していた

それが床だと理解するのにたっぷり数秒はかかった

遅れて血が自身の体から流れ出る感覚や、痛覚がやってきた

 

余すことなく全身に正体不明の斬撃が襲いかかったのだ

 

今度こそ降魔は喉が枯れるほどの絶叫を上げた

我慢の問題ではなく、その絶叫は生物としての生存本能として少しでも痛みを誤魔化すために出るものだ

 

 

「ご…がッ、ああああああああああああああああああああ!!!??」

 

 

降魔の能力での再生が追いつかず、血が溢れる

真っ暗で何も見えない

目をやられたのか、それとも激痛のショックで視覚が遮断されたのか

真っ暗い世界で降魔は喉が引き裂かれるほど叫ぶ

 

 

「本来ならば私はあそこでダウンしていただろうね。ただ、アレイスターは思ったより慎重にセキュリティを構築しているようだ」

 

 

延命させるために優先順位が高い傷から治療していく

そうしている間にも、エイワスの言葉が続く

 

 

「どうやら私が思っている以上に、私の防壁は堅牢に作られていたらしいんだよ」

 

「がふっ……、クソッたれが」

 

 

必死に起きあがろうとする

しかし、エイワスによってつけられた傷が酷すぎる

降魔の命令に体が追いついていない

 

あの家に帰ると誓ったのだ

例え何があろうがあの家に帰り、彼女らと会うのだ

会って彼女に謝る

誰でもない、降魔自身がそう決めたのだ

 

 

「……どうやら私には変形機能があるらしいぞ?」

 

 

再びエイワスのプラチナ色の翼が不気味に蠢く

もはや降魔向陽に抵抗するだけの力は残されていなかった

そしてその翼が降魔を捕捉した瞬間だった

 

 

「待ってください」

 

 

1人の少女が降魔向陽の前に躍り出た

 

 

「アレイスターの提案したゲームならもう終わりました」

 

 

カガチがここにいる理由

それはアレイスターとの交渉を終わらせたということだ

 

 

「もう私たちがここにいる必要はない」

 

「そのようだな。では、私もこの場から離れるとしよう」

 

 

それだけ言い残すとエイワスは空気に霧散するように消えていった

あれだけ圧倒的な力を撒き散らしていたものがこうも簡単に退くと逆に不気味だが、今はそれでいいだろう

 

改めて倒れている少年を見る

酷い怪我だ

かろうじて意識はあるようだが、延命のための演算に集中しているからか少女のことに気づいていない

 

 

『殺せ』

 

 

少女の中に存在するナニカが耳元で囁く

慌てて耳を塞ぐが、その声は一向に消えない

 

 

『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』

 

 

自分の意思とは裏腹に手が伸び、彼の首を掴む

必死に抵抗するが徐々に力がこもる

そこで少年はようやくカガチの姿を見た

 

 

「……本当、に済まなかった。お前に…殺されるんなら、俺はしょうがないと思う」

 

「……ッ」

 

 

少年の目から透明な液体が溢れる

後悔を異常なほど詰め込んだような涙だった

 

 

「俺を…殺したいっていう思いが、お前、の本当の気持ち…なら俺は文句も言わずに死ぬ」

 

 

延命のための演算は止まっているのか

エイワスのよって負わされた傷から涙以上に血が溢れる

 

 

「だが、それがこの街によって悪意的に作られたものなら俺は黙って死ぬわけにはいかない」

 

 

降魔の顔が濡れる

それは降魔向陽が涙を流したからではない

ではなぜか

 

降魔の顔を覗き込むようにしている少女から液体が垂れたのだ

涙だ

カガチもその瞳にいっぱい涙を溜めながら降魔の首を絞めていたのだ

 

そして、

 

 

「…あなたを、殺したく、ない」

 

「それは、お前の思いか?」

 

「…はい」

 

 

それを聞いた瞬間、降魔向陽という超能力者に再び力が宿る

致命傷を負わされていようが関係ない

内臓など飛び出ても構わない

今は、この少女の涙を止める方が何よりも優先だ

 

既に演算は開始している

心の問題だろうが、体の問題だろうが関係ない

少女の目の前にいるのは学園都市のAIM拡散力場を操る幻想操作だ

どんな問題だろうがあらゆる能力を駆使して必ず解決する

 

そして現に降魔の首を絞める力が弱くなりつつある

 

 

『ありがとう。今度は私を救ってくれたね』

 

 

幻聴かもしれないが、降魔は確かに聞いた

それは確実に『あの少女』の声だった

目頭が熱くなるのを自覚する

この少女を救ったところで降魔の罪がなくなるわけではない

だけど降魔向陽はこの少女を救いあげる

これ以上ダメになったら本当の意味であの少女に顔合わせができない

 

笑みを浮かべ、降魔は最後の演算を丁寧に終わらせる

そして手を伸ばし、少女の額にデコピンをする

 

 

「さぁ、帰ろうぜ」

 

 

そう言い放った

体のあらゆる場所を血で汚し、ボロボロの少年が立ち上がって少女の手を掴む

演算を開始し、空間を飛び越えて趣味の悪いアレイスターの居城から姿を消す

 

 

◇◇◇

 

 

「本当にいいんだね?」

 

「あぁ、構わねエよ」

 

 

降魔向陽はカガチとやってきた病院で冥土帰しと話をしていた

カガチは冥土返の指示で精密検査へ行っている

その間に降魔の治療だったが、その前に降魔にはやっておかなければいけないことがあった

 

 

「…せっかく正常な脳に戻ったのに能力を意図的に制限するために電極をつけるなんてね」

 

「これは戒めだ。怒りに身を任せて暴力を撒き散らすなんざもウ二度とごめんなんだよ」

 

 

その言葉に嘘偽りは一切なかった

暴力という武器に簡単には縋らない

人を助けるために負った傷を忘れないために

学園都市が生み出した怪物ではなく、降魔向陽という人間として生きるために

 

 

「まぁ君がそれを望むのなら僕はそれを尊重しよう」

 

「助かる」

 

 

そう言って降魔は冥土帰しのいる部屋から出て行った

そのまま彼はあの少女らがいる部屋へと足を進める

 

目的の部屋の前に着くと、降魔は扉をノックする

返事を待たずに扉を開き中へ入る

 

 

「…体の調子は悪くねエよウだな」

 

 

そこには瓜二つの顔をした少女が2人いた

違いは髪の長さや色といったところか

1人の少女は説明を求めるような顔で

もう1人の少女は何故か申し訳ないような顔で

2人揃って入り口にいる降魔を見ていた

 

 

「状況の説明をして欲しそウな顔をしてやがるな」

 

「…当然」

 

「細かイ説明をしたイところだが、俺も体がボロボロなんでな手短にさせてもらウ」

 

 

冥土帰しの応急処置をされているとはいえエイワスとの戦闘で降魔の体はボロボロになっているのだ

蓄積されたダメージがいまだに抜けきれていない

 

そこから降魔は、手短に全てを話した

過去に研究所で暴走し、少女を殺したこと

彼女のDNAマップからクローンを作ったこと

作られたクローンのうち1人は、降魔の所属する暗部組織に加入させられたこと

もう1人は降魔の標的になるためだけに彼を命令する立場に就いたこと

 

そして学園都市上層部が彼女らを使って降魔向陽を操ろうとしていたこと

その計画を降魔とカガチが打ち砕いたということ

 

 

「…そう。そういうことだったのね」

 

「ま、急に言われても現実味がねエかもしれんが、事の顛末はこれだ」

 

 

降魔はそう言うと扉へ手をかけ、メモ用紙を2人に放り投げた

 

 

「俺の意識が戻った後ならいつでもイイ。電話をかけてこイ」

 

 

それだけ言って彼女らの病室から出て行った

降魔向陽が出ていった後の病室は重たい空気が流れていた

それはそうだろう

今日だけでいろいろなことが起きすぎた

 

 

「…2人揃って作り物の体に偽物の心。あなたは恨みますか?」

 

 

まず口を開いたのはカガチだった

 

 

「恨まないって言ったら嘘になる。だけど、それ以上にこの世界は優しかった」

 

 

ある超能力者の少年は不器用ながらも自分を助け出そうとしてくれた

あるツンツン頭の少年はそんな彼の暴走を止め、彼を救ってくれた

 

 

「そう…ですか」

 

「あなたはどうなの?」

 

「私は、わからない」

 

「わからない?」

 

「私はただ降魔向陽を殺すことだけを目標にしていました。それが例え学園都市に植え付けられた感情だとしても、それが私の全てだった」

 

「………、」

 

「その全てを壊し、私に広い世界を見せてくれたあの少年の優しさがあるはずのない心に響きました」

 

 

敵と味方という壁を壊されて手を組んだ

エイワスという正体不明の敵を目の前にしてもカガチを囲う闇を壊すために拳を握っていた

そして最後には学園都市によって植え付けられていた感情を壊し、本心を聞いてくれた

 

今まで無表情だったカガチは笑みを浮かべながら煙草を吸っている灰色の少年を思い浮かべる

 

 

これから彼女らが世界の理解を得るにはたくさんの障害があるだろう

しかし、その障害を壊すために隣に立ってくれる人がこの世界にはたくさんいる

それを知った彼女らの背中には自由という大空へ飛び立つための立派な翼が生えていた

 

 

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