降魔の家で飯を用意する人間は降魔とリアだ
降魔は主に朝食と昼食の弁当などの担当
リアは夕食と降魔がいない時の朝食などの担当
今日も今日とて自身で作った弁当を食べながらやけに盛り上がっているクラスメイトたちを見ていた
「脱走だ!!脱走してコンビニへ行くんだ!!!」
4時間目の歴史の授業の際に上条が教師に何気なく放った話のせいで4時間目の時間がオーバーし、購買や食堂に行けない状態になってしまったのである
こういう時に弁当でよかったと心底思った
馬鹿騒ぎするクラスメイトを見ながら小さいハンバーグを口に入れる
途中で上条と目が合い、降魔の弁当を見てきたのでミートボールを見せびらかせて頬張る
何やらギャーギャー騒ぐ上条を放っておきながら残りを食べ進める
弁当を食べえた降魔はいつも通りに屋上へ行こうと教室を出る
やはり食後は煙草が吸いたくなってしまう
だが、馬鹿正直に学校の喫煙所を使うわけにもいかないだろう
昭和の不良よろしく屋上で誰にも見つからないようにこっそりと煙草を吸っているのである
いつも通りに屋上への扉を開けると、そこには先客がいた
この時期に好き好んで屋上へ出てくるやつはあまりいない
別に普通の生徒ならば降魔も気にせずにいただろうが、そこにいたのは大人の色香たっぷりの先輩系女子だった
降魔向陽とは学校とは間反対の場所で会っている雲川芹亜だった
「チッ」
舌打ちをしながら降魔はいつもの物陰へ向かう
屋上から去ってもいいのだが、あの女のためだけに煙草を諦めるのはなんだか腹が立つ
煙草を取り出し、Zippoで火をつける
「ふぅむ。Zippoとはなかなかいい趣味をしてるようだけど」
いつの間にか降魔のそばまでやって来ていた雲川を煙を吐きながら見る
「…別に俺の趣味じゃねぇよ。家族からのプレゼントだ」
「問題は無事に解決したか後輩」
「ふン、お前らが寄越した情報のお陰でな」
「そいつは結構だけど。それであの時の約束は覚えているか?」
「あぁ、忘れてねぇよ」
コイツらには借りがある
降魔向陽はコイツらのために動かなくてはいけない
「お前には私のお願いを2つほど聞いて貰うけど」
「さっさと話せ」
「いい覚悟だ」
雲川は降魔の隣に座りながら携帯をいじる
しばらくすると、降魔の携帯が震えた
どうやらメールのようだ
「あ?」
差出人は『ヘソだしカチューシャ』とかいう変な名前
どこで降魔のメアドを知ったのかは知らないが、メールを送ったのは雲川だろう
しかし、そんな些細なことはどうでも良かった
それ以上にメールの内容が衝撃的なものだったからである
「2日ほど前にイギリスと学園都市の上層部に後方のアックアとかいう奴から手紙が届いた」
「……、」
その手紙を撮った画像が雲川からのメールには添付されていた
その内容は、これより上条当麻の粉砕に赴く。止める気であれば全力で挑むようにされたし
一種の果たし状のようだった
「私の手元にやってきたのも今朝なんだが、私1人ではあの少年は守れん。そこで学園都市が誇る最強の超能力者の出番だというわけだけど」
雲川芹亜は上条当麻という少年をよほど大事にしているのだろう
それこそ降魔が家族を大切に思うように
だからこそ彼はお気に入りの煙を吐きながら答えた
「上条は守る。後方のアックアとかいう馬鹿は俺の手でぶちのめす」
思い出されるのは9月30日の出来事
降魔向陽と血の繋がりのある上方のセレナの仲を再び引き裂いた男
彼女との戦闘で疲弊していたとはいえ学園都市最強である降魔を1発で沈めた男
「それは頼もしいことだけど」
降魔は携帯で彼の家族にメールを送る
夕飯はいらないこと、明日の朝食と弁当は用意できないこと
そして必ず帰るということ
それだけで彼女らは降魔がこれから何をするかを理解してくれるはずだ
「とりあえず1つ目のお願いはわかった。で、2つ目は?」
「…あの少年の情報を提供してくれればいいだけだけど」
「あ?上条の情報なんざ知ってどーする気……、いや、やっぱいい」
彼女の真意をわかりかねて携帯をしまいつつ彼女の顔を確認するとそこには学園都市の裏に潜むブレインなどはいなかった
代わりにいたのは1人の少年のことを想う1人の少女だった
流石の降魔も彼女の想いに気づき余計なことを言うのはやめた
「…面倒だが、お前には借りがある。これくらいの仕事はしてやる」
そう言うと降魔は吸い終わった煙草を掌から生み出した炎で燃やし尽くし、彼女の返事を待たずに屋上から出ていく
居室へ向かうために階段を下っていると降魔の携帯が震えた
携帯を開くとリア達からメールが届いていた
変な顔文字やら喧しい記号やらが盛り沢山のメールを消去せずに携帯を閉じる
彼にしては珍しく優しい笑みを浮かべながら教室へと戻る
◇◇◇
「……うはあ」
放課後、上条当麻は下駄箱で重たい息を吐いていた
上履きから下履き用のバッシュに履き替えて校門を出た
そこには今も顔を真っ青にしている少女が佇んでいた
「私ったら…役たずにも程があります……」
少女の名前は
天草式十字凄教に属する魔術師だ
上条当麻とは何度か顔を合わせている
彼女は魔術サイドの属するはずなのだが、なぜ科学サイドの総本山である学園都市にいるのだろうか
とりあえずそこら辺の疑問を解消すべく上条は五和に聞いてみる
「…後方のアックア、という名前は覚えているでしょうか?」
「確か、神の右席の1人…だよな。9月30日に会ったことはあるけど」
そう、学園都市で前方のヴェントと上方のセレナを降魔向陽と一緒に倒した後に横槍を入れてきたのが後方のアックアだ
あの降魔向陽を一撃で吹き飛ばした男がこれまでの敵とは格が違うことくらい上条にも理解できた
「その、アックアがどうしたって言うんだ?まさか、またどっかの外国の街で、妙なことを始めようとしてるのか」
「い、いえ、そうではなくて……」
「…?」
「後方のアックアの狙いは、あなたにあるようなんです」
「は?」
「ええと、イギリス清教と学園都市の双方に、アックアから果たし状が届いているんです。そこには数日以内に上条当麻を…うーん、襲撃するから用心しろ、と」
五和は困ったように言葉を選びながら上条へ伝えた
当の上条はというと神の右席や後方のアックアに命を狙われるということの重大さにいまいちピンときていなかった
どこに向かうわけでもなく、なんとなく繁華街の方へ足を向けながら上条は考える
そんな彼らを尾行するように少し離れた位置で見ている少年がいた
(3、6、2、4……いや、もっといるか?奇妙な気配のせいで正確な数がわからねぇな)
煙草に火をつけながら降魔と同じように上条達を囲んでいる奇妙な奴らを観察する
長い間暗部で活動していた降魔ですら正確な数が把握できない
まるで群衆に見える風景のように紛れているのだ
仕草や服装などから学園都市の人間ではないことはわかった
そうなると上条を護衛しにきた魔術師といったところだろうか
目的は降魔と同じようだが、どうすればいいか降魔は迷っていた
後方のアックアの戦闘能力は降魔自身が身に染みてわかっている
魔術師の連中は後方のアックアという強者に対してこの程度の戦力で足りると思っているのだろうか
早めに魔術師の連中に素性を明かし、協力して後方のアックアへの襲撃へ備えた方が良い
そう思いながらまずは上条に接触しようと一歩踏み出した瞬間だった
「…さっきからアイツらをつけているお前さんは一体何者なのよ?」
いきなり真後ろから声をかけられた
ついでに降魔の喉元にはフランベルジェと呼ばれる大型の波打つ剣が添えられるというオマケ付きでだ
だが、降魔は一切の動揺を見せずに咥えた煙草の煙を吐きながら両手を上げる
「あそこのツンツン頭のクラスメイトだ。ただ…」
両手が空いている時点で降魔にとって重要なあるアクションを起こせる
首に装着されているチョーカー型の電極のスイッチを切り替える
たったそれだけで降魔向陽という人間の保有する全ての武器を展開できる
「な……ッ!!?」
既に真後ろにいる男の身動きは封じてある
超能力者級にブーストされた念動力で男の全身を拘束する
そのままクルッと後ろを振り返る
目の間にはクワガタのような髪型にダボダボのTシャツとジーンズ。首には小型の扇風機が4つという奇抜な格好をしている男がいた
その男に向かって降魔は煙草の煙を吐きながら、
「お前ら外の連中にもわかりやすい肩書きを言うとしたら、学園都市同率第1位の幻想操作だ。ヨロシクね」
「………ッ」
「ちょーどお前らに声をかけようとしてたんだわ。余計な手間が省けてラッキーという訳で俺の喉元に剣を添えた事は許してやんよ」
男を拘束したまま降魔は吸い終わった煙草を掌の炎で燃やす
「見たところお前がアイツらを囲ってる奴らのリーダーだな?後方のアックアの襲撃について話がある」
それを聞いた瞬間、天草式十字凄教の教皇代理である
学園都市にいる学生からその名前が出てくるとは思ってもみなかったからである
様々な可能性を脳に巡らせている途中で、自身の体を拘束していた何かがフッと消える
少年はただ首元のチョーカーを弄っていた
「…面倒ごとは嫌いなんだ。お前らが俺を信じれねぇってんならかかってこい。テメェらまとめて薙ぎ払ってやんよ」
「お前さんは…」
「だが、俺のことを少しでも信じる気があんなら協力しろ魔術師」
そこで建宮は悩んだ
この少年が言った事は全て真実だろう
恐らく天草式が全員で勝負を挑んでも勝つ事はできない
だったらこの少年と共に後方のアックアに挑んだ方がいいだろう
「お前さん名前は?」
「…降魔向陽」
「俺は建宮斎字だ。よろしく頼む」
「あぁ、これでお前らの組織と俺は協力するってことでいいな」
「いや、お前さんを信用するかしないかはこの作戦次第なのよな」
「あ?」
そう言うと建宮はサッカーボールを素敵なバッグから取り出した
「その名もフリーキック大作戦!!!」
説明を聞くと
降魔達の前を歩いている上条と五和という少女を建宮達はどうにかしてくっつけたいらしい
そのためにここからサッカーボールを上条にぶつけて五和の方へ倒れさせる。と言うのがこの作戦らしい
あまりにも馬鹿らしいがこれをしないと彼らは信用しないという
「チッ」
降魔は首元にある電極を弾き、チョンとサッカーボールを足で触れる
たったそれだけでサッカーボールは凄まじい勢いで発射され、数多の障害物を避けて上条の側頭部へ激突する
あまりの勢いで上条の頭が隣で歩いていた五和の胸の谷間へと突っ込んだ
コイツらはこれが見たかったのだろうか
とりあえず降魔は携帯を取り出し、上条が五和の胸に顔を埋める様子をカメラで撮る
その画像を雲川にメールで送信しておく
「ブラボーだ。これからよろしくなのよな」
そう言うと何故か建宮達は四方八方へと散っていった
最後に建宮が携帯を弄っている降魔の肩をポンと叩いて
「アレも頼むのよな」
そう呟いて建宮も景色へ溶け込んでいった
なんのことだ?と降魔が首を捻っていると
「人が色々抱えて困ってるってのに……変なモンを追加でゴロゴロ押し付けてんじゃないわよ!!!」
その声がした方向に目を向けると、そこには前髪から雷撃の槍をズバンズバン!!と連続で発射しながらこちらへ向かってきている御坂美琴がいた
建宮達は御坂美琴にいち早く気づき、その処理を降魔にさせるためにあんなことを言ってどこかへいったのだ
ビリビリと電撃を撒き散らしながら接近する御坂を見ながら煙草へ火をつける
「ちょっとアンタは一体何をしてるわけっ!?こっちがどれだけ悩んでると思ってんのよ!!」
「チッ、喧しい奴だな。大方お前の悩みなんてあそこの馬鹿のことだろーが」
そう言って降魔が上条の方を指さす
上条はいまだに五和の胸にめり込んでいた
しかも『うっ、ううん……』とか言いながら少女の膨らみをわし摑みしていた
「あの馬鹿……いつまで母性の塊に甘えているのよーっ!!!」
御坂の注意が上条へ移ったのを確認し、降魔は電極を切り替えて姿を消す
「あっ!!」
降魔という犯人もいなくなってしまった
しかし標的がいなくなったからといって御坂の怒りは収まらなかった
本人へ直接裁きを下すべく上条の元へ突っ走る
◇◇◇
「うはぁ」
上条当麻は本日何度目かもわからないため息を吐いていた
本当に散々な1日だった
どこから飛んできたかわからないボールが側頭部へ直撃し、何故か怒っている御坂美琴から逃げ、逃げている最中に降魔が現れ、護衛の五和が彼を見て槍を組み立て、そんな彼女を羽交い締めにした
そんな上条当麻の前に新たな問題が立ち塞がる
それは、
「で、とうま。こうようはともかく、何で天草式のいつわが隣にいるの?」
本日最大のデンジャラスチェックポイントのインデックスである
上条は全身から脂汗を垂らす
そんな汗を拭きながら上条は
「い、いや、それはですね、ええーと……、なんて説明したらいいのかなー……?あははは…」
と、隣にいた五和がキョトンとした顔で
「つまりですね、『神の右席』の」
「でぇやあ!!」
上条は突然大きな声を出すと、五和の首元にチョップ
そのまま腕を首に巻きつかせると、そのまま内緒話に移行
「(いっつわさーん!!インデックスには黙っておいてはいただけないでしょうか!?)」
「わっわっ」
「(アックアの狙いはどうやら俺だけみたいだし、インデックスに矛先が向かない事はいいことだと思うんだ!!だからインデックスに余計なことを言って変なところへ近づかせるのはやめようそうしよう!!ねっねっね)」
「わわわわわわわわわわわ」
内緒話と言っているが降魔には丸聞こえだ
まぁ上条に言っている事は降魔にもよくわかる
自分の命に代えてでも守りたい人にわざわざ自分の命が危ないですよー、と伝えてそいつが戦場に出てきてしまったら最悪だ
降魔でも上条と同じ行動を伝えるだろう
「……いいもん」
インデックスはそう言うとプイッと上条をから顔を逸らし、テレビの方を向いてしまった
それを見た上条が何やら慌てながらインデックスの方へ行き、何やら謝罪をしている
「えーっと、降魔さんでしたっけ。あなたは……」
「学園都市に送られた後方のアックアからの果たし状を見た上層部が俺を上条の護衛として寄越しただけだ」
先ほど自己紹介はしたとはいえ、五和は降魔のことをあまり信頼していないようだ
「別に無理に信用なんざしなくてもいい。お前らは戦力が増えてラッキーくらいの認識で構わない」
「いっ、いえ!!別にあなたのことを信用してないわけじゃないのですが」
「どっちにしても俺は後方のアックアには借りがある」
長い間亀裂が入っていた降魔向陽とセレナの関係がせっかく修復しかけたというのにあの男がそれを再び引き裂いた
降魔にとってそれだけで拳を握り、戦う理由になる
「そ、そうだ。猫ちゃんにお土産があるんですよー」
降魔の雰囲気に息を呑んだ五和が大きなバッグから『猫のお食事会・三ツ星プラチナランク』と側面に書かれた超高級そうな金色の缶詰を取り出す
上条の家で飼っている三毛猫はこんな高級なものに慣れていないのか何やら慄きながら近づいている
「…なぜ五和のカバンの中に肉や野菜が?天草式マル秘サンマ魔術に使うとか?」
「いえ、ついでなので近くのスーパーで食材を調達しておいたんです。いくら警護のためとはいえ、ただ居候するのは気が引けますから。家事の方は任せてください」
数秒の空白を用いて上条は五和の殊勝なコメントの意味を理解すると首だけを動かし無言のままインデックスの方を見る
「なっ、なに、とうま。何で空気の流れが一変してるの?」
「自分の胸に聞いて御覧なさい。上条さんに全部任せきりで、今までお手伝いをしてこなかったのは誰ですか?」
「う、うん。それはごめんだけど……。あっ!!そんなことを言って無理矢理逆転しようとしてる気じゃ…!!」
五和はすでに台所へ行っており、感動している上条の後頭部に噛み付いているインデックスを眺めながら降魔はベランダへ行って煙草に火をつける
煙を吐いて自分のすべきことを考える
後方のアックアは叩き潰す
完膚なきまでに叩き潰してセレナを取り戻す
今後彼女に降りかかるであろう障害を叩き潰す
全ては『母親』との約束だ
あまり過去のことが好きではない彼が珍しく過去のことを思い出していると
「こっ、この本格的な和食の匂いは何なのかーっ!!?」
唐突に少女の叫び声が上がったと思ったら、ベランダにある『火災時とかの緊急事態以外は壊さないでね的に各部屋のベランダを区切っているボード』を遠慮なく破壊しながら侵入してきたのはメイド服を着ている少女だった
「チッ」
これはなかなかの面倒ごとだ
少女はそのまま上条の部屋へ侵入し、何やら五和と話をしている
もう上条のところで夕飯を食うのは諦めよう
適当にコンビニにでも行って何かを買おう
そう決め、降魔は首筋の電極を切り替えてベランダから降りる
綺麗に着地をして、電極を通常モードへ戻す
杖をつきながら携帯で近場のコンビニを調べる
そのまま上条へどこかへ行くようなら連絡するようにメールをする
どうせ近くで建宮達が上条を見張っているのだろう
ならば少しくらい離れても大丈夫だろう
夕飯のついでに煙草も買わなくては
カチン、カチン、とポケットの中でZippoを弄りながらコンビニへ向かう