とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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守り守れ

降魔向陽がFive_Over引きつけている間、神裂は全身の傷を負いながらもアックアに食らい付いていた

今にも倒れそうになりながら神裂は呟く

 

 

「私は……大馬鹿者です」

 

 

降魔向陽に気づかされた

仲間に対しどれほど傲慢で愚かな考えを突きつけていたのか

 

 

「…………、」

 

 

神裂は血まみれの唇を拭い、七天七刀を構え直す

自分が取るべき選択は何か

 

(分かってる)

 

本当の意味で『仲間』達を救い出すための選択は何か

正々堂々と『仲間』であることを認め、光の中に取り残さないための選択は何か

 

(分かってる!)

 

絶対の敵、後方のアックアの間違いを正すために相応しい選択は何か

こんな自分に手を差し伸べてくれた少年の想いに応えることができる選択は何か

 

(分かってる!!)

 

1つが解ければ、あとは全てが連鎖的に紐解かれていく

七天七刀を握る両手から、ミシィ!!と音が鳴った

それが神裂火織の最後の力

史上最悪の強敵を前に、神裂火織は最後の行動に出る

 

 

「……、を」

 

 

それが聞こえたのは目の前にいるアックアだけではなかった

2人の聖人が戦う第5階層から30メートルほど上方で眺めていた天草式の面々の耳にも確かに届いていた

 

 

「……、して、ください」

 

 

世界で20人もいない本物の聖人の声を

かつて天草式十字凄教を率いていた、元女教皇の声を

 

 

「力を貸してください、あなた達の力を!!」

 

 

最初、五和や建宮は何を言われているのか分からなかった

言葉の意味を脳が処理しても、それが自分達に向けられているものとは思えなかった

あれだけ絶対に届かないと思っていた神裂火織が

所詮は生まれた時から持っているものが違うのだと思っていた神裂火織が

大切な仲間を傷つけたくないと言って貧弱な自分達に背を向けた、あの神裂火織が

 

協力を求めている

自分1人では倒せない敵を倒すための協力を

 

つまり神裂火織が示した行動の意味は、こういう事だったのだ

単なる重荷としての仲間ではなく、共に肩を並べる戦力という意味での仲間として

神裂火織が認めてくれたのだ

 

言葉にすればそれだけだが、そこに、どれだけ重たい価値があることか

それを感じることができるのは神裂火織の仲間の彼らだけだろう

その時を、その瞬間を、どれだけの間待ち焦がれたか

無気力感から武器を落とした者は、その武器を拾い上げた

拒む者などいなかった

いるはずがなかった

 

教皇『代理』の建宮は束の間の重いにがおりたとばかりにそっと息を吐いた

 

 

「…行くぞ」

 

 

建宮斎字は天草式十字凄教の仮の指導者として、最後の指示を出した

一言では足りなかったのか、彼は万感の込めてもう一度

 

 

「行くぞ!!我ら天草式十字凄教のあるべき場所へ!!」

 

 

叫び声と共に、我先にと第4階層に空いた大穴から飛び降りる

しかし、その途中で彼らの景色が一瞬で切り替わった

気づくとリーダーと認めた、たった1人の女性を守るように布陣が組まれていた

 

 

「弱者に救いを求めるだと……。それほどまでに、命が惜しいのであるか」

 

 

アックアは険しい表情で告げる

その間違いを正そうと神裂が口を開く前に、

 

 

「そんなんじゃねぇよ」

 

 

上空から声が降り注いだ

この場にいる全員が聞き覚えのある声だった

ズゥゥン!!!と低い地響きが聞こえたと思ったら、第5階層と第4階層を区切る壁が破壊された

轟音と共に現れたのは笑みを浮かべる降魔向陽だった

 

 

「それは、そんなちっぽけなモンじゃねぇんだよ。かつては学園都市第1位すら苦しめた呪いだ。それを乗り越えることで、どれほど強くなるのかは俺が一番知ってるさ」

 

 

あれほどの勢いで落下してきたというのに降魔は音もなく地面に降り立つ

神裂達とは別の場所

まるで彼女らとアックアを挟むような位置

 

そして首をポキリと鳴らして

 

 

「さぁ、最終ラウンドだ。テメェに俺らが超えられるかな」

 

 

戦闘は始まった

 

 

「根拠なき希望は単なる妄想」

 

 

アックアの全身にも力が溢れる

 

 

「そんなもので私を超えられるとでも思ったのであるか!!」

 

 

くだらないものを薙ぎ払うように振われたアックアのメイスの射程圏内へと、神裂火織と降魔向陽が臆することなく突っ込む

七天七刀と降魔の蹴りがアックアのメイスと激突し、衝撃波を生み出す

しかし、その衝撃を殺すために複数の天草式の面々が防御術式を展開する

いかに精神論を振りかざそうが、互いの実力差は変わらないはず

しかし、ここにきて神裂はアックアと拮抗した

降魔向陽という実力者がいるからではない

それは、彼がこの場所にいることなんかよりも遥かに凄まじいものだ

 

しかし、その拮抗はまやかしだ

即座にアックアは反撃のために、魔力を練る

だが、

 

 

「だと思ったぜ」

 

 

アックアを囲む天草式の面々の間を縫うように移動してきた降魔がアックアの懐へ入り込む

硬く握られた右拳がアックアの鍛え抜かれた腹部へ直撃する

派手な轟音は一切しなかった

しかし、効果は絶大だった

 

 

「ご、ふっ……貴、様…何をした!」

 

「あ?説明は面倒だ。もう1発ぶん殴ってやるから勝手に想像しろ」

 

 

その言葉通りに降魔は次は左拳を振りかぶる

だが、アックアは降魔を蹴り飛ばすことで攻撃を防ぐ

無防備に攻撃をもらった降魔は地面に何度もバウンドしながら吹き飛ぶ

 

それを見ていた天草式の何人かが、降魔の元へ駆け寄ろうとするが

 

 

「止まる、な……。前だけ見てろ。自分達がすべきことを考えやがれ!!」

 

 

降魔の怒号が彼らの動きを止める

彼らが降魔の方ではなく、アックアの方へ向かっていくのを確認した降魔は笑みを浮かべる

 

先ほどの攻撃で感覚は掴み始めた

アックアが精製した魔力を操作し、降魔の攻撃のインパクトと同時にそれを破裂させる

今頃アックアの体の中では降魔によって掻き乱された魔力が暴れ回っているだろう

 

休んでいる暇はない

体を起こして天草式の元へ行こうとするが、

 

 

「ごぶっ、ぼうあ…!?」

 

 

口から真っ赤な液体が吹き出した

魔力を操作し、アックアの体内でそれを暴れさせた

それはもはや『魔術』といってもいい技術だった

しかし能力者に魔術は使えない

降魔向陽はそのルールを知らなかった

 

今まで経験したことのないようなダメージを負い、降魔の動きが止まってしまう

まるで血管にガラス片でも流し込んだように血管がボロボロになっているのがわかる

 

だけど、降魔向陽は立ち止まるわけにはいかない

 

 

「舐め、んじゃねぇぞ!!!!

 

 

まるで自分に叫ぶように降魔は咆哮する

すぐさま立ち上がり、走り出す

アックアに向かう途中、神裂がアックアに対して何かを言っている

必要な情報以外を遮断し、情報を整える

 

 

「降魔向陽!!!」

 

 

神裂が少年の名前を叫ぶ

一瞬、目が合ったのはたった一瞬だったが、その一瞬で降魔は彼女の考えを読み取った

体の傷を治すための能力よりも優先し、神裂とアックアの間に割って入る

アックアからの攻撃を降魔は全て掌握し、そらす

それはアックアには向かわず、彼の背後にある物を破壊した

瓦礫の山に埋もれていた背景の一つ、錆びついた有刺鉄線を

 

いまだに魔術の全てを把握できたわけはない

少し、ほんの少し魔術の世界へ足を踏み入れた程度の降魔にとってそれが何を意味するかは分からない

しかし、神裂火織を信じる

彼女は天草式という仲間を信じたのだ

降魔向陽が彼女を信じなくてどうする

 

 

「神裂火織!!」

 

 

今度は降魔が名前を叫ぶ

能力でできることは全てやった

神裂の中にあった勝利への道筋を読み取った

鍵となるのは、今も海軍用船上槍を持って戦っている少女だ

 

 

(『聖人崩し』か。理屈はまだ分からねぇが俺がやるべきことは決まってる!!)

 

 

水を操り、天草式の面々に攻撃を仕掛けようとするアックア

五和がその脅威に気づいた時にはすでに攻撃は放たれていた

降魔は躊躇なく五和の前に躍り出る

アックアからの攻撃から彼女を庇うような形で

 

ゴギィンッ!!とアックアの水の魔術と降魔の反射がぶつかる

 

 

「降魔さん!?」

 

 

ここで彼女が戦線を離脱すれば待っているのは敗北だ

その敗北は上条当麻の命に直結する

 

 

(逸らし、きれねぇ……っ!!)

 

 

魔力の流れを解析してもアックアという男の魔術の底が見えない

やがて、降魔の反射で逸らされた水が降魔の衣服の端を引っ掛かる

メキメキメキメキッ!!!と降魔の肋骨が悲鳴を上げる

そしてそのままぐるん、と後ろにいた五和もろともに吹き飛ばされる

 

 

「チッ!!!」

 

 

降魔は痛みも、口から漏れる血も無視して演算を働かせて能力を切り替える

風を操作し、降魔達を包み込むような強風を発生させる

勢いを殺して地面に降り立った降魔を五和は心配そうな目で見る

そんな彼女の視線に気づいた降魔は、いつものやる気のない目ではなく、真っ直ぐ何かを決意したような目で五和を見ながら

 

 

「心配すんな。お前はあの野郎をぶちのめすことだけを考えろ」

 

「はい!!」

 

「いいか一回しか言わねぇからよく聞け」

 

 

降魔は五和に渾身の作戦を告げる

それを聞いた五和は、納得がいかないと言った表情をするが、降魔は返事を聞かずに再びアックアの元へ走り出してしまった

そんな彼の背中を見つめる五和にできることは『聖人崩し』の準備をすることだけだった

 

 

聖母の慈悲は厳罰を和らげる( T H M I M S S P )

 

 

アックアが上空でメイスを構えながら何かを唱える

それを見てまずいと思えたのは2人だった

この攻撃を喰らったことのある神裂と魔力の流れを見ていた降魔だけだった

 

 

「|時に、神に神に直訴するこの力。慈悲に包まれ天へと昇れ《T C T C D B T P T R O G B W I M A A T H 》!!」

 

 

莫大な速度で一直線に落下するアックア

夜景の光を浴びたメイスが青白い尾を引いていた

 

 

(まずい!?)

 

 

あらかじめに配置された無数のワイヤーが防護の人を築くが、アックアの一撃はそれらを容赦なく食い破る

 

頼みの綱は五和の『聖人崩し』だが、術式の下準備が終わっていない

このままでは間に合わない

 

 

「「諦めて……」」

 

 

神裂火織は、七天七刀へ手を伸ばす

降魔向陽は、能力を切り替えた

 

2人の実力者が肩を並べ、瓦礫だらけの広場を強く踏みしめる

反撃のためではない

全ては防御

古今東西のあらゆる記号を寄せ集め、即席で術式を組み、神裂火織は盾となる

学園都市のあらゆる能力を寄せ集め、瞬時に演算を終わらせ、降魔向陽は盾となる

 

 

「「諦めてたまるか!!!!」」

 

 

後方のアックアが、全力を持って地面へ落ちる

光が吹き荒れ、その場にいた全員の目が、耳が、鼻が、舌が、肌が、全ての感覚が消えてなくなった

 

破壊

五感が吹き飛んだ

あるのは圧倒的な白

本物の破壊とは、純粋な消滅とは、これほどまでに何もないのか

 

だが、直後に気付かされた

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後方のアックアが放った一撃は本物だ

降魔と神裂が盾になったところで木っ端微塵になっていただけだろう

まるでアックアの術式そのものが消えてなくなったかのようだ

 

心当たりがあった

 

 

「ま、さか……」

 

 

善悪強弱問わず、異能の力というものを問答無用で打ち消す行為

そんな馬鹿げたことができる人間を、彼女らは1人だけ知っていた

 

上条当麻だった

 

アックアの魔術攻撃を正面から押さえつけ、握りつぶすような勢いでメイスを掴む少年がいた

 

 

「な…ッ!?」

 

「………、……」

 

 

驚愕するアックアに、血まみれの上条が何かを呟いた

そのまま上条はメイスにもたれ掛かる様に倒れ込んだ

それ見ていた神裂が動いた

アックアが驚いた一瞬の隙をつき、神裂は七天七刀を放り投げ、まるで丸太でも掴むような体勢で巨大なメイスごとアックアの肩を封じにかかる

 

 

「貴様ら!!」

 

 

満身創痍の2人は同じところを見ていた

すなわち天草式十字凄教の五和だ

槍を持った少女が突進しながら、向かってくる

 

 

「お、おおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

 

アックアの筋肉が爆発的に膨らみ、戦意ある雄叫びを上げながら

手刀を突き出す

ガッキィィィンッッ!!とアックアの手刀と少女の槍が正面衝突する

正真正銘最後の激突

 

しかし、それは呆気なく終わってしまった

 

少女の槍が衝撃に耐え切れずに真ん中あたりでへし折れる

両者の勢いは止まらずにアックアの手刀が少女のお腹に突き刺さり、貫通する

神裂はその光景を信じることができなかった

失敗したのだ

作戦は失敗し、アックアはもう二度とこのような隙を見せないだろう

仲間が殺され、上条当麻も殺される

 

絶望が神裂火織を包み込む

 

 

「ぶふ、おえがぁ」

 

 

腹を貫かれた少女が勝ちを確信したアックアを見ていた

その目には絶望など一切なかった

それどころか口から血を垂らしながら意地の悪い笑みを浮かべていた

 

 

「そ、うか……。俺が、五和に視えてるか」

 

 

アックアだけでなく、この場にいた全員の景色が切り替わった

そこには腹を貫かれた五和などいなかった

腹を貫かれているのはとある少年だった

今まで五和だと思っていたのは降魔向陽だったのだ

 

降魔が全員の精神に干渉し、自分自身が五和に見えるように操っていた

これが五和に告げた作戦だ

圧倒的な隙は生まれた

 

そこへ歯を食いしばりながら、駆ける少女がいた

 

 

「当てます!!!!」

 

 

咆哮がアックアの後方から聞こえた

『聖人崩し』

本物の五和の槍が分解され、一本の雷撃へと形を変える

物質的な束縛を超えた術式が、この場を制する一撃と化してアックアへと襲いかかる

 

ドバン!!と空気が震える音がした

降魔が意識を失う前に見たのは渾身の一撃をアックアに突き刺した五和の姿だった

 

 

 

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