見覚えのある扉
聖ジョージ大聖堂と呼ばれる教会の扉だ
先ほども降魔向陽はこの場所を訪れていた
手荒な真似はできる限りせず、最小限の動きでこの教会に入った
だが、今回は違った
電極を切り替え、その悪魔のような能力を解放する
そのまま扉を派手に蹴り飛ばす
ただの教会の扉が降魔の一撃に耐えられるはずもなく、扉は音を立てて吹き飛ばされる
「よお、帰ったぞ。言い訳を聞く気も失せた。さっさとアイツがいるところまで案内しろ」
中で機械類を片付けていたシスター達がギョッとした顔で入り口にいる降魔を見る
騎士団長と呼ばれていた男の姿はなかったが、目的の人物である最大主教はいた
彼女は椅子に座りながらシスターに指示を出していた
降魔の登場に多少は驚いたようだが、すぐにシスターと話し始めてしまった
「オイ、優先順位を考えろよ三下。テメェらの抱えてやがった面倒ごとは解決した。次はテメェらが俺に付き合う番だ」
「…そんなに殺気を巻き散らせずとも聞こえているわ」
「テメェの下らねぇ世間話に付き合う暇も意味もない。もう一回だけ言うぞ。アイツの場所へ連れてけ」
少年は降魔向陽としてではなく、学園都市同率第1位としての怪物として忠告をする
既に電極は切り替えてある
あとは脳が司令をするだけで悪魔的な能力は解放される
「ふぅ、そのように焦らずとも案内はしたりけるわ」
最大主教はそう言うと、シスターを数人呼び、指示を出した
指示を受けた数人のシスターが降魔のところまでやってくる
「…そっ、しょれでは案内させていただきます!!」
先ほどの殺意が濃すぎたのか、哀れなほど噛んでしまっている
よく見れば全身が小刻みに震えている
それはそうだろう
魔術の総本山であるイギリスに単身で乗り込み、騎士たちを黙らせ、ハイジャックの問題をいとも簡単に解決した
彼女らから見れば、目の前にいるのは得体の知れない怪物
鼻で笑いながら先導するシスター達についていく
しばらく歩くと、聖ジョージ大聖堂とは違った雰囲気を持つ教会にたどり着いた
魔術についてはかじった程度の降魔だが、能力で魔力の流れを見る
そうするとこの教会も魔術的には何か重要なものだと言うことだけはわかった
中に入ると、そこは病院のような施設だった
忙しなく動いているのはシスター達だったが、怪我人などがベッドで横になっていた
降魔を案内しているシスター達は教会の奥の部屋に向かっていく
そこで降魔は嫌な汗が噴き出たのを自覚した
「えと、私たちは部屋の外で待っていますので…はい。帰るときにまた声をかけてください」
そう言われ、降魔は部屋に入る
部屋の中には古めかしい教会とはかけ離れた最先端の機械が所狭しと並んでいた
中央のベッドには1人の少女が寝かされており、彼女には多くのチューブや電極が繋がれていた
「は?」
自然に電極を切り替えていた
全身に力がみなぎるが、これは破壊するための力ではない
少女、セレナと呼ばれる降魔の姉の体の状況を一瞬で把握する
眼球損傷、右腕は複雑骨折、左腕と左足の切断、内臓もぐちゃぐちゃだ
当然意識はない
そんな家族の惨状を目にした降魔向陽の脳内からぶちり、と何かが切れるような音が聞こえた
脳の血管でも切れたのかと錯覚するほど頭が熱くなる
かろうじて手が動き、電極を切り替えて通常モードに戻した
全身が震えるのがわかる
怒りか恐怖かはわからない
だが、そんな震える手で携帯を取り出して真相を知っていそうな奴へと電話をかける
電話の相手は数コールで出た
「オイテメェ、理由を説明する気はあるんだろうな!?」
「このタイミングで電話をしてきたってことは彼女と会えたのか」
「テメェにかけて正解だったぜ。その様子だとコイツがこんなになってやがる理由を知ってるな?話せ」
電話をかけたのは土御門だった
学園都市にいながら魔術の世界にも詳しい二重スパイ
その男ならば降魔とセレナの関係も彼女の怪我の理由も知っているだろうと考えた
もし仮に目の前に土御門がいれば手荒な行動をとっていたかもしれない
「もちろん話させてもらう。まず上方のセレナだが、9月30日にアックアに回収された後の動きはこっちでも追えていない。おそらく表から姿を消して裏で何かしらの情報を漁っていたんだろう」
「で?」
「彼女が何の情報を調べていたかはわからないが、彼女が再び表に現れたのはイギリス清教にコンタクトを取ってきたときだった。話を聞いていたのはイギリスの上層部である最大主教、騎士団長、王室派の連中だ」
「待て。魔術の世界のルールにゃ詳しくねぇが、セレナはローマ正教とかいう組織の一員だろ。なんでイギリス清教にコンタクトを取った」
「正直な話だが、そこらへんは俺にもわからない。ついでにセレナとイギリスの上層部とで何の話をしたかのかもだ」
降魔は携帯を肩で挟みながら椅子に座る
そのまま懐から拳銃を取り出し、残りの弾数を確認する
別に能力さえあれば戦闘に問題はないが、こんな世界に身を置いている以上は己の所持する武器の確認くらいはしておく
これから何があるかわからないのだ
不測の事態に備えるに越したことはない
「だが、その話し合いで何かを決めた彼女が向かったのはバチカンだった」
「バチカンってことはローマ教皇にでも会いに行ったのか?」
「彼女がローマ教皇に会いに行ったのかはわからないが、そこである男と戦闘になった」
「ある男だと?」
「あぁ、セレナと同じ『神の右席』の一員で、リーダー格の実力を持つ右方のフィアンマだ。そこで彼女は、」
「フィアンマとかいうゴミクズに叩き潰されたって訳か…」
「あぁ、瀕死の彼女を最大主教の指示で俺が回収した」
降魔は拳銃を懐にしまい、目を瞑る
そして、低く、地獄の底から響くような声で
「よかったよ。もし仮にコイツが死んでりゃお前もイギリスも俺が完膚なきまでに叩き潰してたぞ」
「降ちん…」
「だがよ、勘違いするんじゃねぇよ。俺の家族がボロボロにされてんだぞ。イギリスの上層部には話を聞かせて貰うぞ」
「すまないと思ってる。降ちんの家族が巻き込まれるのを阻止できなくてな」
「ふン、悪いと思ってやがるなら俺がそっち帰るまでに俺のお気に入りの煙草を調べて俺の機嫌をとる準備でもしとくんだな」
「あぁ、そうさせて貰うにゃー」
そう言うと電話は切れた
彼と話したおかげで少しは冷静になれた
やるべきことは決まった
とりあえず、イギリスの王室派とか呼ばれてる連中に会わなくてはいけない
椅子から立ち上がり、眠っているセレナの頭を優しく撫でる
そのまま病室の扉を開け、付近で待機していたシスターに声をかける
「そこで寝てる奴の安全を確保しろ。それと、王室派とかいう奴らの現在の居場所を教えろ」
「え、えと…」
「チッ、もういい」
情報は今の一瞬で抜き取った
王室派の連中はバッキンガム宮殿で禁書目録とその保護者との話し合いがあるらしい
インデックスと上条がいるならちょうどいい
だが、その前に少しやることがある
イギリスに忠告をしなければいけない
「悪いが、ちっとばっかし手荒な手段でいかせてもらうぞ」
そう言って降魔は演算を終わらせた
景色が一瞬で切り替わり、目的の場所であるバッキンガム宮殿の目の前に到着する
使い捨てのライターで煙草に火をつけながら、
「王室派とか言う馬鹿どもはどこに居やがる」
門番のような騎士に問いかける
しかし、騎士達は観光客の悪ふざけとでも思っているのか降魔を適当にあしらう
馴れ馴れしく騎士の1人が降魔の体に触れた瞬間だった
その騎士の腕がへし折れた
まるで腕の関節が増えたように綺麗にへし折られた
騎士の絶叫が響く
そこでようやく事の大きさに気づいた
剣を引き抜き、降魔を睨みつける
それぞれが同時に降魔目がけて剣を振るう
しかし、その剣は少年の内臓どころか皮膚にすら届いていなかった
まるで少年と剣の間に何か壁でもあるように騎士達の剣が降魔の体の数センチのところで停止しているのだ
「やっぱり便利だよなベクトル操作って。殺すつもりなら反射に設定してテメェらの腕をへし折れるし、痛めつけるだけならテメェらの力のベクトルと同じ力のベクトルを操れればこんな風に寸止めみたくできるしな」
「な、何を……」
「どうせ説明してもテメェらじゃ理解できねぇだろ」
そのまま一歩踏み込む
たったそれだけの行為で降魔を囲っていた騎士達が一気に吹き飛ぶ
そのまま降魔はバッキンガム宮殿に入り込む
「へぇ、気持ち悪いくらいに精密に組み込まれてるな」
降魔は波を読み取り、逆算してバッキンガム宮殿に編み込まれている魔術がどのようなものなのかを予測しながら堂々とバッキンガム宮殿へ近づく
途中で降魔はある建物に目をつけた
そこは門番などの騎士が出入りしていた警備室のような建物だった
煙草を放り投げながら扉を蹴破る、その中には人はいなかった
先ほどの降魔の襲撃の際に全員出てきたか、応援を呼びに行ったかのどちらかだろう
別にどちらでもいいか、と降魔は考えながら
目的の機械を見つけ、椅子に座り煙草に火をつける
設定をバッキンガム宮殿全体にする
彼が持っているのは無線機だった
しかもただの無線機ではなく、バッキンガム宮殿全体に放送を行える規模の無線機だった
スイッチを入れ、降魔はゴホンと咳払いをする
「…あー、聞こえてるか王室派の馬鹿ども。誰の家族を利用しやがったか分かってんだろーな」
既にバッキンガム宮殿にいる全ての戦力が降魔を止めるためにこの場所に集まってくるだろう
しかし、降魔は笑みさえ浮かべて
「テメェらにお礼がしたくて日本からやってきました降魔向陽と申します。ぎゃはは、覚悟しろテメェら」
吸い終わった煙草を壁に押し付けて消したところで、ドゴォン!!!降魔がいた警備室の壁が吹き飛んだ
降魔は避ける素振りもせずに椅子から立ち上がっただけだった
「よお、さっきぶりだな」
「…なんのつもりだ貴様」
降魔の目の前にはローラと一緒にいた男がいた
確か、騎士団長とか呼ばれていた気がする
「何のつもりだって?そりゃこっちのセリフだ。俺ァ言ったよな王室派の馬鹿どもに会いにきたって」
指の関節をポキリと鳴らし、
「どうせコッチの様子を眺めてやがんだろ?だったら別にそのままでいい聞けや。テメェらが利用したセレナのことで話があんだよ。俺の家族を巻き込みやがったんだからそれはそれは大層な言い訳があるんだろうな。場合によっちゃバッキンガムに編み込まれてやがる魔術を何個か吹き飛ばすぜ」
返事はなかった
無言のまま騎士団長が飛び出した
対する降魔も薄気味悪い笑みを浮かべたまま飛び出した
ガッキィィンッッ!!!と
降魔向陽と騎士団長の2人の間に何者かが割り込み、2人の動きを強引に止めた
「そこまでです」
数日前に共に戦ったはずの魔術師
神裂火織だ
騎士団長は急に現れた神裂に驚いている様子だが、降魔の表情は変わらなかった
「降魔向陽。これはあなたがやったのですか?」
どうやら彼女は入り口付近に倒れている騎士たちを見て、ここまで駆けつけたようだった
彼女の顔は真剣であった
「あぁ、イギリスの馬鹿どもには多少は痛い目を見てもらわなけりゃ気が済まなかったもんだからな」
悪びれる様子もなく、煙草を吸いながら答える
降魔向陽、神裂火織、騎士団長の三人にピリついた重苦しい空気が流れる
「おーい神裂。急にヘリコプターから降りてどうした……って降魔?」
タイミングが良いのか悪いのか上条当麻がインデックスに頭を噛まれている状態でやってきた
だが、上条がやってきたところで騎士団長は降魔に敵意を向けることをやめない
自分の国、ましてや、女王の側でこれほどの暴虐が行われたのだ
もはやテロと一緒だ
流石の上条とインデックスもようやくこの異様な雰囲気を感じ取る
騎士団長も降魔向陽もこの場を譲る気はないようだ
しかし、この場を支配するのは彼らではなかった
「速やかに武装を解除しろ。許可なく女王の城へ踏み込むこと、それ自体が罪となるぞ」
声のする方に目線を向けると1人の女性が立っていた
年齢は50歳前後だろうか
白と黒のツートンカラーのドレスを身に纏っており、その手には奇妙な剣が握られていた
ネットサーフィンが趣味である降魔にはすぐに分かった
『彼女』こそが英国の女王であるエリザードだと
だからこそ、降魔の動きは早かった
懐から引き抜いた拳銃を躊躇なくエリザードへ向ける
一国の長にこんな真似をすればその場で射殺されても文句は言えない
その証拠に降魔の近くにいた騎士団長と神裂が動いた
騎士団長は彼のそばにいた騎士の剣を取り、降魔の首筋へ
神裂火織は剣を使わずに降魔の手を掴む
「貴様」
「喉元に刃物当てられた程度で俺がビビると思ってんのか?」
「降魔向陽。あなたにも思うところはあるでしょう。しかし、ここは抑えてくだい」
「……」
降魔は何かを考えるように目を瞑った
そしてため息を吐き、グシャリと自身が持ってた拳銃を握り潰した
バラバラになった拳銃の残骸を放り投げ、
「…チッ、この場は引いてやる。だが、俺の家族を巻き込んだ件についての説明はしてもらうぞ」
「うむ。それは当然させてもらおう」
そう言うとエリザードは踵を返して歩いて行ってしまう
「いつまでガラクタを押し付けてんだ」
いまだに首元に当てられている剣を掴み、力を込める
それだけで騎士団長が持っていた剣は粉々に砕かれる
「神裂に感謝しろ。これ以上俺の機嫌を損ねてみろ、吹き飛ぶのがテメェの頭だけだと思うなよ?」
それだけ言うと降魔は神裂と上条達と一緒にエリザードについていく
神裂達の後ろを歩きながら降魔は少しばかり己の未熟さを反省する
やはり自分の家族が問題に巻き込まれてしまうとどうしても頭に血が昇ってしまう
首輪をつけてもなお自身の暴力性は完璧には消え去らない
「…普通ねぇ」
どうやら普通に暮らすにはこの能力は大きすぎるみたいだ
幻想操作という能力に降魔が振り回されているようだ
「それは言い訳か……」
まるで自分自身を嘲るように呟く