とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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選択の中にある信頼

 

「チッ、面倒かけさせやがって」

 

 

降魔向陽はイギリスにある教会にて舌打ちをしながら転がっている男の意識が失われていることを確認する

この教会はつい先ほどまで騎士派と呼ばれるイギリスの騎士達に占領されていた

それだけであれば降魔は無視をしていたが、無視できない理由があった

それは、この教会に降魔の姉である元ローマ正教の上方のセレナがいたからだ

 

この教会にもそれなりの魔術師がいたはずだが圧倒的な武力であっという間にこの教会は騎士派に占領されてしまった

だが、それを上回る力で教会を奪還した

たったそれだけの話だ

 

 

「…あとどれくらいの戦力が残ってる」

 

「え、えと……、戦えるシスターが数人ほど、でしょうか。先ほどの襲撃で多くのシスターが負傷してしまいました」

 

「負傷者の治療は」

 

「もともとここは病院のような役割を担っていたので治療の方は問題なく進んでいます」

 

 

降魔向陽は煙草を吸いながら教会に残っていたシスターから状況を聞き出す

煙を吐きながら降魔は、電極を通常モードへと戻す

ちょうど各地に送り込んでいた未元物質で創り上げた降魔の分身が各地の要所を襲撃した騎士派の連中を蹴散らし、傾いていた戦況を元に戻した

電極を元に戻したことにより各地の未元物質も姿を消しただろう

これで向こうは降魔向陽という圧倒的戦力に対して常に警戒をしなければいけなくなった

降魔としても未元物質で自分を増やし続けることはしたくない

ごく稀にだが、降魔の負の部分を詰め込んだようなエラー個体が発生する可能性もある

もう降魔に分身を増やすつもりはないが、敵はそれを知るはずもなく警戒し続ける

 

これである程度の時間と隙は稼げたはずだ

となれば降魔がすべきことは、目の前の少女のことだ

 

 

「セレナの治療はどーなってる」

 

「彼女の容態は安定しましたが、治療はまだまだ必要なはずです」

 

 

降魔のすぐ近くのベッドで横たわる彼女はいまだに目を覚まさない

できれば彼女をこの場から動かしたくない

だが、彼女がここにいるだけでセレナだけではなく、他のシスター達の命まで危険にさらされる

であれば、

 

 

「…あんまり得意じゃねぇんだがな」

 

 

降魔は電極のスイッチを切り替え、能力を発動させる

それはセレナの体を治療するための能力だった

学園都市にある様々な能力を使用し、彼女の体の治療を行う

 

 

「お前らはここで負傷者の治療を続けろ。俺はコイツを連れて戦力になりそうな奴らと合流する」

 

「え、彼女を連れてですか!?彼女の容態はあなたも把握しているはずです。彼女にはまだ治療が必要です」

 

「チッ」

 

 

降魔は舌打ちをしながら能力を使用する

能力での治療は問題なく進んでいるようだった

 

 

「バイタルは?」

 

「…血圧、脈拍、呼吸共に安定しています。一体何を、」

 

「細かいことは言ってもわかんねぇだろ。面倒ごとは嫌いなんだ」

 

 

降魔は彼女に繋がれている医療的なチューブなどを丁寧に取り外し、セレナを抱える

軽い

彼女の体重は想像していたよりもずっと軽かった

その事実に降魔は一瞬だけ顔を歪める

それに、

 

(慣れねぇな。自分以外の奴の体の治療なんざほとんどやったことねぇんだ。演算の半分以上が治療のための能力に割かれちまう)

 

 

万が一などあっていいはずがない

攻撃手段を削ってでも彼女の容態を安定させる

こんな状態で敵と遭遇すれば流石の降魔でも苦戦するだろう

だが、この能力使用だけはやめる訳にはいかない

 

 

「俺が離れた後に襲撃を受けたらこの番号に連絡しろ。連絡した後で5分くらい耐えりゃ敵を薙ぎ払ってやる。意識を失ってる馬鹿共は拘束して1ヶ所に固めておけ」

 

 

降魔はそう言って数字が書かれたメモ用紙をシスターに渡す

潜伏の際に探知を避けるために携帯の電源を切っていたが、こうなってしまった以上は意味はほとんどないだろう

携帯の電源を入れ直し、降魔は演算を開始する

 

目指すのは上条当麻のいる場所だ

良くも悪くも上条は面倒ごとの中心にいる

 

 

◇◇◇

 

 

最後の晩餐であった

首都ロンドンから退去していた『必要悪の教会』のメンバーを始め、水上レスキュー機を操っていた新生天草式、貨物列車から解放された元アニェーゼ部隊など

様々な宗教文化の人々が1ヶ所に集まっていた

 

 

「やっやべえ!!染みる…あったかいスープって胃袋だけじゃなくて全身に染みるものなんだ……ッ!!」

 

「この局面で軽いサラダとかありえねえってんです。こうっ、ガッツーン!!と胃袋にボーリング球が落っこちるみたいな重たい肉を!!」

 

「おかわり!!問答無用でおかわり要求する!!!」

 

 

降魔向陽がロンドン郊外の平原に到着した際に目に飛び込んできたのは、大小無数のシスターたちが修道女らしからなぬ暴飲暴食モードに突入している空間だった

さっきまで血生臭い世界にいたはずなのにいきなり場面が変わり、流石の降魔も呆然としてしまった

 

 

「チッ」

 

 

降魔は上条やインデックスの姿を確認し、少女を抱えたまま移動する

野営地の端っこ

騒ぎから少し離れた場所で椅子を何個か使用して寝かせる

煙草を取り出し、火をつける

目を瞑り、煙を吐く

 

 

「差し入れです」

 

「あ?」

 

「戦闘前なので、軽食をお勧めしますよ」

 

 

いつの間にか神裂が料理を持って、降魔の座っていた場所の対面に座っていた

そういえば朝からほとんど何も食べていない

神裂が持ってきた料理を降魔はパクパクと食べ始める

そんな少年を神裂は微笑みながら見つめる

 

 

「…俺が飯を食うのがそんなに珍しいか」

 

「いえ、ただ美味しそうに食べるんだなと思いまして」

 

「チッ、見せもんじゃねぇぞ。見んな」

 

「ふふっ、申し訳ありません」

 

 

ある程度の料理を食べ終えた降魔は、煙草を取り出して火をつける

煙を吸い込み、吐き出す

見慣れた煙を眺めながらも演算を働かせる

そこで降魔は演算の些細な変化に気がついた

 

それは、

 

 

「……ん、ぁ」

 

 

教会から続けてきた高度な演算が、比較的軽くなった

その事実は、少女の意識が戻ったことによるものだろう

 

 

「元気、じゃねぇみたいだが、無事か?」

 

「…こ、うよう……?」

 

「あぁ、お前の出来の悪ぃの弟だ。久しいなセレナ」

 

「ここはどこだ?なんで私は…、そもそも何故お前がいる?」

 

「ロンドン近郊だ。お前がそんなボロボロになってる理由は俺よりお前の方が詳しいだろ。むしろ俺に話せ。俺がここにいる理由はお前に会いにきただけだ」

 

「そ。アンタなら私がこんなザマになってる理由くらい把握してるでしょ」

 

「……まぁいい。お前は自分の体の心配だけしとけ」

 

 

降魔は煙草を吸いながら、考える

セレナの意識が戻ったことで演算の負荷が減った

これであれば戦闘に出る影響はほとんどないだろう

だが、問題は山積みだ

イギリスの第2王女が引き起こしているクーデターはいまだに収まる気配がない

 

(チッ、これならあの場面で未元物質を使ってあの馬鹿女をぶちのめしときゃよかったか?)

 

しばらく考え事をしていると、彼の近くで横たわっている少女から寝息が聞こえ始めた

意識が戻ったとはいえ、まだ怪我人なのだ

降魔はフッと笑みを浮かべて髪を撫でる

彼女の頭を撫でた拍子に、上着のポケットに入っていたZippoが滑り落ち、地面に落ちた

 

 

「傷がついちま」

 

 

拾い上げたZippoの傷を確認した瞬間、降魔の携帯が震えた

携帯を取り出すと、表示されている番号は見覚えのない番号だった

 

 

『も、申し訳ありません!!騎士派からの襲撃です……!!』

 

「…すぐ行く。後どれくらい持ち堪えられる?」

 

『数人のシスターが迎撃に当たっていますが………恐らく、数分で突破され』

 

 

ブツン、と途中で電話が切れた

面倒臭い状況になった

だからと言って見捨てる訳にもいかない

 

 

「おい、神裂。急用が入った。第2王女との戦闘が始まる前に連絡をよこせ」

 

「…わかりました。1人で行かれるのですか?」

 

「面倒だが、俺1人の方が早い上に確実だ」

 

 

そう言って降魔は電極を切り替えようとする

だが、再び彼の携帯が震えた

 

(チッ、これ以上面倒ごとを運んでくるのはどこのどいつだ……。あ?)

 

ディスプレイに表示されているのは、彼の携帯に登録されている数少ない番号だった

嫌な胸騒ぎがした

こういう場面で降魔の勘はよく当たる

それも悪い方は特に、だ

 

 

「もしも、」

 

『降魔さん!!お姉ちゃんが!!!お姉ちゃんと美鼓さんが!!!それと、それと、リアさんも!!!!』

 

 

電話の先から聞こえてきたのは涙声で叫ぶように助けを求めるエルドだった

何があった、と聞くよりも先に降魔の脳が状況整理を始めた

あの教会は、後どれほど持ち堪えるか

この状況でエルドが電話をかけてきた理由は何か

こんな非常事態のイギリスにセレナを置いていくのか

 

選択が迫られる

選択肢を間違えれば消えるのは人の命だ

だから降魔は震える喉をから声を出す

 

 

「落ち着け。深呼吸しろ。慌てなくても大丈夫だ。話は聞く。問題も解決する」

 

『うん…。すぅー、はぁー』

 

「状況を説明できるか?」

 

 

降魔の心は酷く荒れていたが、それを決して悟らせないようにいつも通りの声を出す

 

 

『…いつも通りに降魔さんのお家でご飯を食べてたら、急にお部屋が真っ暗になって、それで、誰かがお部屋に入ってきて……、』

 

「怪我はしてるか」

 

『私は、大丈夫。でも、お姉ちゃんと美鼓さんがいっぱい血が出て、倒れてた』

 

「わかった。今どこにいるんだ?」

 

『…降魔さんがいつも行く病院です』

 

 

彼女らは第7学区の病院に運び込まれている

となれば、あの医者が彼女たちの命を保障しているはずだ

あの医者の病院に運ばれていたという事実が、降魔の思考にわずかな余裕をもたらした

 

 

『大丈夫だ。すぐ行く』

 

「はい……」

 

 

電話は切れたことを確認し、降魔は歯を食いしばる

血液が沸騰しているのかと勘違いするほど体が熱い

 

静かに、降魔は机に置かれていたフォークを手に取る

そのまま自身の手のひらへと勢いよく、振り下ろす

勢いよく振り下ろされたフォークは、降魔の掌を貫通する

その自傷行為を見ていた神裂が驚きの声を上げるが、もはや降魔の耳にその声は届いていなかった

痛みで強引に自身の心を落ち着かせる

燃え上がっていた血液が体の外へ出ることで降魔の心はわずかな落ち着きを取り戻した

 

 

「何を、しているのですか」

 

「学園都市にいる俺の家族がどっかのクズに襲われた」

 

「………、」

 

「セレナを治療していた教会が騎士派の馬鹿共から襲撃を受けてる」

 

 

いち早く家族の元へ駆けつけたいが、教会にいるシスターを見捨てることはできない

セレナをこんな戦場に放置していい訳がないが、家族を見捨てるなどあってはならない

教会にいるシスターたちはこの瞬間も騎士派からの攻撃を受けているだろうが、セレナの側を離れることはできない

 

人の命がかかった選択が降魔に迫る

 

 

「降魔向陽」

 

 

優しく

神裂が血を流す降魔の手を取りながら、話しかける

 

 

「貴方は、私たちを信用できますか」

 

「…何を言ってやがる」

 

「貴方には、たくさん助けてもらいました。こんな時くらいしか貴方に恩を返せないでしょう」

 

 

神裂は降魔に目を真っ直ぐと見つめながら

 

 

「教会のシスター達と彼女は私が、いえ、天草式が必ず守ります」

 

「……、」

 

「貴方は貴方が成すべきことを為しなさい」

 

 

ハンカチのようなもので降魔の手を縛った神裂が言い放った

それを聞いていた少女も口を開く

 

 

「…行、け。お前に、お守りされるほど、落ちぶれちゃいねぇ」

 

 

それが決め手となった

降魔は何かを決めた真っ直ぐな目で彼女らを見る

 

 

「頼む死ぬな。お前らも、アイツらも」

 

 

そう言って降魔は電極を弾いた

姿は一瞬で見えなくなった

降魔の姿が消えた瞬間に、神裂の指示が飛ぶ

教会への増援t非戦闘員及び負傷者を後方へと下げる指示

 

その様子を見ながらセレナは向陽の顔を思い出す

 

(ごめんな。勝手に背負わしちゃって。こんなんじゃ姉失格だよなぁ。でも、最後は姉っぽくできたんじゃないか)

 

手のかかる弟は大丈夫だ

であれば、そんな弟のためにも自分は死ぬ訳にはいかない

彼に頼まれたのだから

 

 

 

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