とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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『普通』の少年

 

ガララッと扉が勢いよく開かれる

本来であればこういう場所の扉は静かに開けるべきだ

しかし、そんなことが頭から吹き飛ぶほど降魔向陽は焦っていた

 

 

「はぁはぁ、」

 

 

いきなり扉が開かれたことで、俯きながら座っていたエルドがビクッと肩を震わせて入り口を見た

そこにいる息を切らした少年を見た瞬間、治めたはずの涙が溢れる

ゆっくりと近づく少年にギュッと抱きつき、涙を流す

 

 

「…無事か」

 

「は、はい。でも、お姉ちゃんたちが……」

 

「大丈夫だ。こんなことでお前の姉ちゃんも美鼓も死んだりしない」

 

 

降魔は優しく、頭を撫でながら彼女を安心させる

しばらく頭を撫でていると、嗚咽が消えて規則的な吐息が聞こえはじめた

安心して眠ってしまったのだろう

そんな少女を抱えて、ソファに寝かす

 

そこでようやく

降魔はベッドに寝かされている2人の少女を見る

ギチチッと杖を握る手に力が入る

 

 

「……ッ!!」

 

 

神裂やセレナと話をしていなければ、また力任せに暴れていただろうか

それとも己の不甲斐なさを恨み、無気力なっていただろうか

心は酷く荒れているが、脳は不気味なほどに落ち着いている

これからどうするのか

そんなことを考えていると、コン、ココン、と特徴的なノックがした

降魔は眠っている3人の少女の髪を撫で、病室から出ていく

病室から出ると、そこには誰もいなかった

だが、降魔は迷うことなくいつも利用している喫煙所に向かう

 

 

「…状況は?」

 

 

喫煙所に入ると包帯を巻いている少女が2人いた

カガチと鬼灯

降魔向陽の元上司と元部下

 

 

「暗部に彼女を攫われました」

 

「そうか」

 

「…ごめんなさい。私たち、全然役に立てなかった」

 

「謝るな。お前らも、あっちの病室で寝てるアイツらも悪い奴はいねぇよ。悪ぃのは、この計画を実行しやがった何処かのクズ野郎だけだ」

 

 

降魔は煙草を吸いながら改めて彼女らを見る

かなりボロボロだ

彼女らも降魔向陽の家族を守ろうと必死に戦ったのだろう

そんな彼女らを責める理由はない

 

 

「リアの居場所に心当たりは?」

 

「申し訳ないのですが、居場所どころか犯人すらわからない状況です」

 

「チッ、状況は最悪だな」

 

 

流石の降魔もこの後の動きについて考えないといけない

だが、手がかりはほとんどゼロ

そこへ、ガチャっと誰かが喫煙所の扉を開ける

そこにいたのは、息を切らしながら点滴のスタンドを杖の代わりにしているヴルドだった

無理に動いたからだろうか

彼女に巻かれている包帯は所々ズレていた

 

 

「ロシア、成教だ」

 

「…無理すんじゃねぇ。寝てろ」

 

「あの時、あの襲撃は、ロシア成教の魔術師、が、リア殿を…」

 

「わかった。大丈夫だ」

 

 

降魔はそう言うと煙草を消し、ヴルドを抱える

 

 

「ボロボロのお前らにこんなことを頼むのは、申し訳ないと思う」

 

 

降魔は背を向けて、2人の少女へ話しかける

 

 

「人でなしと罵ってくれて構わない。クソ野郎と蔑んでくれても構わない。だけど、」

 

 

敵はわかった

これから降魔は、家族を取り戻しに行く

だから、

 

 

「俺の、家族を守ってくれ」

 

 

それを聞いた2人の少女は驚いた

かつて降魔向陽を殺すために生まれた少女は、無表情のまま拳を握りしめた

かつて降魔向陽を苦しめるために生まれた少女は、笑みさえ浮かべて指の関節を鳴らした

 

その言葉を待っていた、と言わんばかりに

 

 

「「任せて」」

 

 

それを聞いた降魔向陽は安心した表情で喫煙所から出ていく

病室に着くと、優しくヴルドをベッドに寝かせる

この場所であればカガチや鬼灯、あの医者が彼女らを守ってくれる

であれば、降魔向陽はリアを取り戻しに行ける

 

 

「…ダメ、だ。貴様を、1人で行かせる訳には、いかない」

 

 

彼女らから離れ、戦場へと向かおうとする少年をヴルドは彼の服を掴んで、止める

怪我をしているはずなのに少年はその手を振り払えない

 

 

「怪我人は大人しく寝てろ。問題は全部俺が、」

 

「また!!貴様は、1人で傷つくのか!?いい加減に周りを頼れ!!私だって、私たちだって貴様の隣に立てる!!」

 

「………、」

 

「だから言え!!だから吐き出せ!!!貴様の、降魔向陽の弱音を!!」

 

「………ッ!!」

 

「助けてくれって!!力を貸してくれって!!支えてくれって!!もっと、もっともっともっともっと!!私たちを頼れ!!」

 

 

はぁはぁ、と息を切らしながらヴルドは降魔向陽に対して声を荒げる

その目にはいつの間にか涙さえ浮かべていた

 

降魔はしばらく黙っていた

ピ、ピ、ピ、ピ、と機械的な音だけが病室を包む

 

やがて

 

降魔向陽は、ゆっくりとした動きで、震える唇を動かした

ぽろりと、今まで我慢してきたものが溢れるように

こう言った

 

怖いよ、と

 

 

「怖い。敵の正体も目的もわからない。なにもわからない状況で大事な家族を連れ去られて怖くないはずがないだろ!!だけど、動かないと。もしかしたらって余計なことを考えちまう。魔術のことなんざ理解できてない。こんな俺が行ったところでリアを救えないかもしれない。俺の命なんてどうでもいい。だけどっ!!アイツが、お前らが傷つくのだけは、嫌だ!!不安なんだよ。怖いんだよ。どうしようもなくどうしようもないんだよ」

 

 

初めてだ

学園都市のトップに君臨していた少年が俯きながら自身の弱音を吐き出した

今まで『家族』の前ですら言えない本音をぶちまけた

だからその思いに『家族』である彼女らは応える

 

 

「だったら、言ってください、と美鼓は貴方に要求します」

 

 

いつ意識が戻ったのか

降魔向陽の本音を聞いていた美鼓が口を開く

 

 

「助けて、と。たったそれだけの言葉で私たちは力を貰えます、と美鼓は貴方に微笑みかけます」

 

「言うんだ。貴様の口から」

 

 

降魔は俯きながら、口を開いた

 

 

「……助けてくれ」

 

 

あの学園都市同率第1位である降魔向陽が

あれほど家族を巻き込むこと嫌がっていた降魔向陽が

己の弱音を吐き出し、助けを求めた

 

だから、『家族』である彼女らは『家族』である彼の思いに応える

 

 

「もちろんです、と美鼓は貴方に初めて頼られてなんとも言えない気持ちになります」

 

「ふン、はじめから私たちを頼れ」

 

 

それを聞いた降魔は立ち上がり、涙を拭く

不安なんてものは無くなった

今ならなんでもできるような気持ちにさえなった

 

 

「とりあえず、リア殿を助けにいかなければいけないな」

 

「あぁ、ロシア成教が相手だ。ヴルドは俺と一緒に来てくれ」

 

「そのつもりだ」

 

 

降魔は電極を切り替える

あの医者に処置をしてもらったとはいえ、彼女はまだ怪我人だ

だから降魔の肉体再生で彼女の怪我を治療する

少しずつだが、彼女の怪我治療されていく

その事に気づいたヴルドは病人が着ているような服からいつもの修道服へと着替える

 

 

「美鼓は…」

 

「お前はリアの帰ってくる場所を守ってくれ。リアは俺たちが必ず連れて帰る」

 

「…わかりました、と美鼓は重要なミッションを与えられやる気の満ちた声で返事をします」

 

「頼むぞ。ここは任せる」

 

 

降魔はそう言うと、ヴルドの怪我の調子を確認して部屋から出ていく

その後を追うようにヴルドがベッドから起き上がり、部屋から出て行こうとする

扉に手をかけ、一瞬だけエルドを見る

 

 

「……美鼓殿。エルドを頼む」

 

「わかりました。では、美鼓もお願いがあります、と美鼓はヴルドを見つめます」

 

「わかっている。リア殿は必ず連れて帰る」

 

「…彼もお願いします」

 

「心得た」

 

 

そう言うとヴルドは病室から出ていった

残された美鼓は薄暗い天井を見る

 

 

「…貴方に頼られるというのはこんなにも嬉しいのですね、と美鼓は彼らの無事を祈ります」

 

 

今はただ彼らの無事を祈ることしかできない

だが、彼らであれば大丈夫だろう

 

 

◇◇◇

 

 

「これからどうする」

 

「…ロシアへ行く。リアを探す。リアを助ける。馬鹿どもをぶちのめす。リアを連れて帰ってくる。以上だ」

 

「探すって……。ロシアの広さを知らん訳ではないだろう」

 

「別に1発でリアの居場所へ行けるなんて思ってねぇよ。まずはロシア成教の魔術師を見つける。あとは芋づる式にロシア成教の上層部へ近づいてリアの居場所を吐かせる」

 

「それで?どうやってロシアに行く気だ」

 

「今回は俺も全力でいく。俺の持てるもの全てを使ってでもリアを助け出す」

 

 

降魔とヴルドは病院から出て病院近くにある公園へと足を運んでいた

ばた、ばた、ばた!!と空気を叩く連続的な音があった

猛烈な突風に公園の木々が軋んだ音をたて、ヴルドはほとんど反射的に自分の髪を押さえる

ヘリコプターではない

広い公園の真ん中にゆっくり降りてきたのは、翼やエンジンの角度を大きく変えたティルトローター機

 

 

「こ、これは……、まさか貴様のか」

 

「馬鹿言うな。俺の所有物じゃねぇよ。クラスメイトのグラサン陰陽師にオーダーした」

 

 

着陸した汎用小型輸送機に乗り込みながら、降魔は心の中で金髪グラサン野郎に感謝をする

機内に入り、適当な席に座る

そんな彼の隣にガチガチに緊張した様子のヴルドが座る

そういえば、彼女らを学園都市に連れてきた時もこんな風に緊張していた気がする

そんな過去を思い出して降魔は笑みを浮かべる

 

 

「そんなくっつくな。心配しなくても音速ほどの速度は出ねぇよ」

 

「そ、そうか?ふむ」

 

 

落ち着いたようだが未だソワソワしているヴルドを見ながら機内を見回す

まぁ音速とは言わないが、普通の飛行機の何倍かの速度が出るため、そのうちヴルドはダウンするだろう

だが、降魔はそのことを彼女に告げずに煙草を取り出し、火をつける

 

(到着まで3、4時間ってところか。別に能力を使ってもよかったんだがな)

 

機体が動き出し、超音速旅客機ほどではないが、強烈なGと内臓を圧迫するような不気味な感覚がやってくる

降魔は慣れているため、別に意識を飛ばしたりしないが、ヴルドは既に白目を剥き、よだれを垂らしながら意識を失っていた

 

降魔はいつも変わらずに煙草を吸いながら、ヴルドを眺める

能力を使えば、ロシアなどすぐに着くだろう

だが、飛んで行くにしろ、空間を移動するにしろヴルドにかなりの負担がかかるだろう

であれば、確実でそれなりに負担が少ないこの機体での移動を選んだ

 

降魔は席から立ち上がり、機内の後方へと向かう

厳重な扉があったが電子ロックにパスワードを打ち込むと、扉が開かれる

そこは、武器庫のような場所だった

多種多様な銃やナイフ、グレネードが並べられていた

 

いくつかの拳銃を握り、感触を確かめる

別に、能力があるのだから武器などなくても困らない

だが、今回は全力でいくのだ

能力が通じない相手がいる可能性もゼロとは言えない

 

 

「……とりあえずは、こんなもんか」

 

 

いくつかの武器を装備し、降魔は冬用の真っ黒いコートを羽織る

電極の調子を確認しながら、ヴルド用のコートを選ぶ

武器庫から出ると、今度は機体の前方へと向かう

本来であれば乗客が入ることはできないエリア

操縦桿がある操縦席だ

 

 

「これなら問題はねぇか」

 

 

操縦席に施錠はされておらず、席には誰も乗っていなかった

自動的に操縦桿や様々なスイッチが動いている

恐らく土御門が気を利かせ、操縦者がいないタイプのものを選んだのだろう

 

一通りの確認が終わり、降魔は席へ戻る

ふぅ、と息が漏れ出る

この数時間で様々なことが起こりすぎた

流石の降魔も少し疲れた

 

 

「……無事で、いてくれよ」

 

 

こんな時でも眠気はやってくる

そういえばイギリスに行く前からほとんど寝ていない

目を瞑ると、思い出されるのは、家族との思い出だった

 

(待って、ろ。すぐに、行く、からな)

 

意識が消える前に思い出したのは彼女の笑顔だった

 

 

 

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