とある科学の幻想操作   作:モンステラ

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戦いの火蓋

 

むくり、と意識が急激に覚醒する

先に目が覚めたのは、ヴルドだった

彼女の場合、寝ていたというより、意識を失っていたのだが、先に起きたのは彼女だった

出発してから2時間ほどが経過していた

ヴルドは自身の目の前に座っている少年を眺めた

少年の方は目を瞑り、規則的な吐息が聞こえていた

 

(寝ている、のか)

 

未だに慣れない強烈なGの中、自身に掛けられている見覚えのないコートを確認する

恐らくはこの少年が用意してくれたものだろう

 

(クマが酷いな。多少は寝ているのだろうが、規則正しい生活はしていないのだろうな)

 

そう思いながら、髪を撫でるヴルドは気づいていない

降魔が人の前で無防備な姿を晒し、さらに体を触られても寝ていることがかなり珍しい事に

 

 

「…こうして見ると、中々可愛らしい顔立ちをしているな」

 

 

こんなまじまじと降魔の顔を見ることなどなかったため、ヴルドはじっくりと観察する

パチリと降魔の目が何かに反応したように覚める

 

 

「うわっ、急に目を覚ますな!!」

 

「…理不尽すぎんだろ」

 

 

降魔は目を擦りながら周囲を確認する

そのまま窓の外を確認する

 

 

「チッ、最悪だ」

 

 

降魔はそう言って席から立ち上がる

何のことだか理解が追いついていないヴルドのシートベルトを外す

 

 

「いつでも動けるようにしておけ」

 

「…何が起こっているんだ」

 

「面倒ごとだ」

 

 

降魔がそう言った瞬間に、けたたましい警報音が鳴る

それを聞いた降魔は操縦席へと向かう

ヴルドも彼についていく

 

 

「これは、」

 

 

操縦席にあるレーダーのようなものを見る

自分達が乗っている輸送機の背後にピッタリと何者かがくっついている

既に日本の領空から他の国の領空に侵入しているのだろう

正規の手段を使っていない不審機が自国の領空を侵入したらどんな国でも迎撃の戦闘機が出てくるだろう

 

『こちらはロシア空軍。所属不明機に告ぐ。君たちは戦闘区域にいる。直ちにこの場から離脱せよ』

 

恐らく後ろにいる戦闘機からの通信

降魔は考えを巡らせ、操縦席の窓から見える外の景色を見る

 

『最後の警告だ。直ちにこの場から離脱せよ。進路を変えないのであれば、撃つ』

 

その通信が切れた直後に、再び警報音が鳴る

これはレーダー照射を受けた際の警報だ

しかも、このレーダーは攻撃の際のレーダーだ

 

 

「お、おい。どうするつもりだ」

 

「…………、」

 

 

降魔は考える

そもそも最初の通信の際に気になる点がいくつかあった

恐らくまだロシアには辿り着いていない

であるのにも関わらず、ロシア空軍が出てきたこと

そして後ろのパイロットが言っていた「戦闘区域」という言葉

 

 

「チッ、クソが」

 

 

この場にいるのが降魔だけであれば、すぐにでも能力を使い、後ろの戦闘機を撃墜していた

だが、今その選択は取れない

降魔は無線機をとり、チャンネルを先ほどの通信に合わせる

 

 

「こちらは日本の学園都市の輸送機だ。こちらに戦闘の意思は、」

 

『やはり学園都市か。悪いがここで撃ち落とす』

 

 

その通信が返ってきた瞬間、今度こそ降魔は電極を弾いた

隣にいたヴルドの腕を掴み、演算を瞬時に終わらせる

景色が切り替わり、全身を空気で叩かれる

持てる能力を使い、ヴルドにかかる負荷を最小限にする

 

(チッ、やっぱり学園都市っていうワードに反応しやがった、状況は最悪になりつつあるが、)

 

空中で戦闘機を確認する

ちょうど今、戦闘機からミサイルが切り離された

無人の輸送機にそれを回避する手段はなく、ミサイルが直撃し、爆発を起こした

 

(やられっぱなしは気に食わねぇな)

 

ヴルドを抱えていない方の手をかざし、不可視の力で戦闘機を掴む

そのまま戦闘機を振り回す

あまりの衝撃に耐えられず、戦闘機からパイロットが脱出する

それを確認した降魔は、戦闘機を握りつぶす

 

(これでおあいこだ)

 

爆発した戦闘機を確認し、降魔は演算を切り替える

空間移動を選択する

これであれば、数回空間移動をするだけで地上に辿り着けるだろう

面倒臭いが、目的地まで地上から向かうことになりそうだ

 

降魔の予想通り、数回ほど空間を移動すると、真っ白い地上が見えてきた

フワッと地上へ降り立つ

 

 

「…おい、無事か」

 

「き、きさま!!貴様、いきなり何をするのだ!!」

 

「うるせぇな。あのまま機内にいてみろ、仲良く爆発してたぞ」

 

「だからといって、他に方法があっただろう!!」

 

「あれが最善だ。その証拠に、着いたぞ」

 

 

既に降魔とヴルドはロシアに入っている

降魔は煙草に火をつけながら、電極の調子を確認する

ヴルドも何やら自身の装備を確認しているようだ

 

 

「…行くぞ」

 

 

そう言って降魔は歩き出してしまった

その後を追ってヴルドも歩き出す

 

 

「行くといっても当てはあるのか?」

 

「ロシアの魔術師を見つける」

 

「…だから、その魔術師がどこにいるのかわかっているのか?」

 

「………、」

 

「ノープランだろう」

 

 

図星だった

降魔にしては珍しく計画を立てられていない

普段であれば、目的を達成するために緻密な計画を立てていただろう

だが、今回ばかりは相手が未知数すぎる

緻密な計画を立てることを諦め、己の直感に従うことにした

それに

 

 

「…下手に計画を立てちまうと、計画がほんの少し狂った場合に一瞬動きが止まっちまう」

 

「まぁ、そういうものか」

 

「それに魔術師を見つけること自体はそんなに難しいことじゃない」

 

「どういう」

 

「ロシアが学園都市に宣戦を布告した」

 

「そ、れは」

 

「あぁ、戦争だ」

 

 

そう言って降魔は立ち止まった

そのままある一点を指差す

 

 

「どうやら俺は面倒ごとに巻き込まれる運命らしい」

 

 

降魔とヴルドの目の前には必死に走る少女がいた

別にそれだけであれば、何ともない光景だ

しかし、その少女の後ろ、彼女を追いかけるように数台の装甲車が走っていた

それも必死な少女を甚振るように少女の走るスピードと同じ速度で走っている

 

 

「な、んだ。あれは…」

 

「どういう状況なのかは知らねぇが、ガキを追っている方に魔術師が何人かいやがる」

 

「行くぞ!!」

 

 

そう言ってヴルドが走り出してしまった

それを見て降魔は舌打ちをして電極を切り替える

 

 

 

「はぁ、はぁはぁ」

 

 

段々と足が重くなっている

だが、背後には武器を持った大人が何人もいる

捕まったら何をされるかわからない

それに何としてでもあの場所へ行かなくてはいけない

 

ばすん、と少女のすぐ近くの雪が弾ける

後ろを確認しなくてもわかる

銃を使ったのだ

 

銃声は連続して聞こえる

この距離で当てれないということはないだろう

わざと外してこちらの恐怖心を煽っているだけだ

 

心臓が痛い

かなりの距離を全力で走っているからだけではないだろう

酸素が足りず、思考が正常に働いているのかもわからない

 

(だけど、走らきゃ)

 

限界でも関係ない

一歩踏み出す

だが二歩目は出なかった

 

突如、右足に激痛が走った

受け身など取れず、転んでしまう

激痛の原因を見た

真っ白い雪を真っ赤な液体が染めていた

 

(痛いよ。痛い痛い怖いよ)

 

撃たれたという事を考える暇もなかった

恐怖が、激痛が彼女を襲っていた

少女を追いかけていた車から武器を持った大人が降りてくる

ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべていた

 

現実から逃げるように目を瞑る

そんな彼女の耳に入ってきたのは、希望に満ち満ちた声だった

 

 

「そこまでだ。悪党」

 

 

ゆっくりと少女は声のする方へ目を向けた

そこには見知らぬ女性が立っていた

その女性はコートのポケットから何かを取り出し、それをこちらへ投げた

 

投げられたのは宝石だった

漆黒の中に青や緑が入り混じる宝石『ヌーマイト』が爆ぜた

 

爆散したヌーマイトは少女を武装をしていた大人たちを包み込んだ

 

 

「大丈夫か。怪我を見せてみろ」

 

「ぁ」

 

女性に敵意がないことはすぐにわかった

その女性は血まみれの右足を見て顔を顰めた

ポケットから何やら綺麗な石を取り出し、それを傷口の近くに置く

たったそれだけの行為で石が発光し、傷が治ってしまった

 

 

「頑張ったな。もう大丈夫だ」

 

「あ、なたは…?」

 

「私か?私はただの修道女だ」

 

 

そう言って女性は笑顔を見せた

自分を安心させようとしている笑顔だとわかった

その女性の笑顔の後ろで大人たちを包み込んでいた何かが霧散した

女性が何をしたかわからないが、彼女が何らかのお方法で襲撃者たちを拘束していたのだろう

しかし、それが破られた

 

 

「お姉さん!!」

 

「大丈だと言っただろう」

 

 

女性は優しく頭を撫でた

銃口を向け怒鳴っている大人たちなど微塵も脅威に感じていないようだった

次の瞬間には女性と大人たちの間に少年が立ち塞がった

 

 

「誰に銃口向けてやがんだテメェら」

 

 

灰色の少年は低く呟いた

そのまま五指を開き、空間を引き裂いた

ギュルン、と空気がうねり、発射された

空気の槍は正確に武装した大人たちに突き刺さり、吹き飛ばしてしまった

 

 

「そのガキから事情を聞いてろ」

 

「わかった。何をする」

 

「魔術師から情報を引き出す」

 

「……穏便にだぞ」

 

「わかってる」

 

 

そう言って少年は歩き出す

先ほど吹き飛ばした武装した大人の1人を掴んで車へ運び込む

車内は思ったより狭かったが、これであれば外から何をしているかはわからないだろう

すでに降魔の絶対的ラインを破っているロシアの魔術師に容赦などない

 

降魔は魔術師の口に車内に落ちている適当な布を詰め込む

そのまま拳を握り、魔術師の顔を殴打する

一度では意識を取り戻さなかったため、続けて何発も打ち込む

 

 

「むぐっ!?がうあ!!」

 

「生憎とテメェらと遊んでいる時間はねぇんだよ。痛い思いしたくなけりゃ俺の質問に答えろ」

 

「………」

 

「ロシア成教のトップはどこだ」

 

「むが、まっ、が」

 

 

答える気がないのか、魔術師は呻き声を上げるだけだった

そもそも口に詰め物をされている時点で話せるとは思わないが、降魔にはそんなこと関係ない

降魔は躊躇なく、魔術師の手の人差し指を引きちぎった

 

 

「むううううううああああ!!!!!」

 

「指はあと19本だ。どこまでの被害で済むかはテメェ次第だ」

 

 

降魔は、魔術師の中指を握りながら口に詰め込んだ布を抜き取る

 

 

「ロシア成教のトップはどこだ」

 

「しっ知らない!!本当に知らないんだ!!俺みたいな下っ端がそんな情報を知るわけないだろっ!!!!」

 

「あ?そんな舐めた情報で納得するとでも思ってんのか?もう一本いっとくか?」

 

「やめ、やめてください!!じ、じゃあ!!俺たちの上官の場所なら!!」

 

「…言え」

 

 

ガタガタと震えながら自身が所属する組織のことを全て口にする

たったそれだけでこの苦しみから解放されると信じて

 

だが、目の前の少年はそれだけの情報では満足しなかった

 

狂気的とも呼べる

見るものを恐怖のドン底へ突き落とすような笑みを浮かべ

中指を引きちぎった

 

 

「がっ、あむ」

 

 

絶叫はできなかった

降魔は再び魔術師の口に布を詰め込んだ

 

 

「オーケー。次の質問に移ろうか。あのガキを狙ってた理由だ」

 

「ひっ」

 

「…言え」

 

 

もうダメだと悟った

魔術師の恐怖心が限界を超えた

ぐるんと意識が断ち切られる

 

 

「チッ、悪党なら悪党らしく振る舞え」

 

 

気を失った魔術師の脳内からありったけの情報を抜き取り、煙草へ火をつける

そのまま降魔は自身の体に血の付着がないことを確認する

装甲車のドアを蹴破り、外へ出る

 

 

「クソが。面倒ごとばかり起きやがって」

 

 

あの少女を襲っていた奴らの記憶を読み取った

どうやら奴らの狙いはあの少女の住んでいる集落らしい

 

(とりあえず、あのガキを集落まで届けるか。そのあとはこのゴミ共の上官に話を聞くか)

 

ヴルドの方を見ると、彼女はすでに少女と楽しそうに談笑していた

流石は修道女だと降魔は素直に感心した

 

 

「とりあえずそのガキを集落まで届けるぞ」

 

「待って、ください。私はエリザリーナ独立国同盟に行かないと」

 

「あ?エリザリーナだと?」

 

「ひっ、ど、どうしても行かないと…」

 

「おい怖がらせるな」

 

 

降魔は煙を吐きながら考える

 

(確かロシアから独立した小国の集まりだっけか)

 

先ほどの魔術師もこの少女をエリザリーナに行かせないよう指示を受けていた

であれば少女の集落で何らか問題が発生し、エリザリーナに助けを求めに行っている最中だったということだろうか

 

 

「…ヴルド、ガキの話は?」

 

「この子、ソフィアという名前なのがだが、彼女の集落では大人が全員どこかへ連れて行かれたらしい。そこで現在の集落で一番年上の彼女がエリザリーナ独立国同盟へ助けを求めに行く途中だったとのことだ」

 

「……なるほどな」

 

「どうするつもりだ」

 

「ガキがエリザリーナへ行ったところでエリザリーナに集落を助けられるほどの力はねぇだろうな」

 

 

いくら戦時中といえどロシアは大国だ

たかが小国の集まりが大国に勝てるとは思えない

 

 

「おい、お前には今二つの選択肢がある」

 

「………、」

 

 

降魔は少女と目線を合わせながら口を開く

 

 

「一つは、エリザリーナへ行って助けを求める。こっちは門前払いされる可能性もあるし、力を借りれない可能性もある」

 

「…もう一つは?」

 

「俺らに助けを求める。お前にとっちゃ正体もわからない奴だが、並大抵のことなら解決できる」

 

 

降魔は真っ直ぐソフィアを見ながら選択を迫る

ソフィアは困ったように彼女のそばにいるヴルドを見る

ヴルドは少女と目が合っても何も言わず微笑むだけだった

 

 

「助けて、ください」

 

「それは俺たちに言ってるのか?」

 

「はい!!私たちの集落を助けてください!!」

 

「良い答えだ。集落の正確な場所を教えろ」

 

 

そう言って降魔は立ち上がった

 

 

「(良いのか?いくら子供が困っているからとはいえ、リア殿の救出が遅れるのではないか?)」

 

「(問題ねぇよ。あのガキを襲っていた魔術師の上司はガキの集落付近にいる。そいつはかなりの情報を持っているはずだ)」

 

 

小声でヴルドとやり取りし、降魔は輸送機の中にあった地図を開く

ソフィアから集落の場所を聞き、電極を切り替える

 

 

 

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