「分かった。受けよう」
この言葉を発したのは果たして何度目だろうか。数百?いや、千すら超えるかもしれない。
毎回がほとんど同じ時間を、私は幾重にも体験してきた。
どうしてこんな目に遭っているのかは分からない。ただある日突然、
「RTA、はぁじまぁるよー!」
なんて馬鹿らしい声が聞こえてきた時から、私の身体の主導権は完全に奪われたのだ。
この声には抗えない。あれが私にこう動けと命じるだけで、私の身体は操られ始めるのだ。
あいつを斬れと言われれば私はそいつを手にかけるしかない。それがたとえ敵でなかろうとだ。
ついでに同じ時間も繰り返し始めた。何かが終わり、振り出しに戻るたび、私はいつもエクシアの隣で目覚め、全てが再開される。
初めのうちは意味が分からず、ただ身を委ねていた。すぐにロドスに呼ばれるまでは必ず五日の猶予があった事に気が付く。私は逃げてみた。安直な考えだが、ロドスにさえいなければこのループからは脱せるのではないかと思ったのだ。初の無断欠勤となるだろうが致し方ない。
──五日目になると身体が操られ、ロドスへ向かわされる。ダメだった。
そのうちこの声が私に何をさせたいのかを理解し、早く解放されたいの一心で運命の時が来るまでに身体を鍛え、ベストコンディションにしようと試みた。
だがそれらは全て無意味だった。その時になった瞬間、身体の調子が毎回一定になるのを感じた。どんなに疲れていても、どんなに力にみなぎっていても。怪我をしていてもまるで初めから傷などなかったかのように元通りになる。
私は諦め、この声が目標を達成するのをひたすら待つことにした。
それは地獄の選択だった。ある時を境にして、この声は私の身体をめちゃくちゃに傷つけ始めたのだ。
敵との戦い以外で刀傷を負うのももちろん初めてだ。それは激痛だった。覚悟もできていないのに自傷行為を強制させられる。声が言うには『バグ』なるものを試しているらしい。何でもいいから刃の中に飛び込ませるのだけはやめてほしかったが、抗うすべはなかった。
私の身体が痛みに慣れてきたころ、『バグ』は突如成功した。私の身体が壁の中へと消え、周りの風景が透明になったのだ。
その声は嬉しそうだった。この頃になってくると私は怒りすら感じなくなってきていたが、何故だかこっちまで嬉しくなった。“こいつ”も無邪気に喜ぶこともあるんだな、と。
そう考えた私が愚かだった。こいつはただの悪魔だ。
レユニオンの兵士に飲み込まれ、仲間が一人亡き者にされたあるとき、私は「仲間を全員始末しろ」と命令された。もちろん狼狽した。声を聞くに、ただそれは失敗の憂さ晴らしのためらしい。もちろん私は抵抗した。持ちうるすべての力を駆使してだ。
だが無慈悲にも、私の得物はそのたびに必ず血に塗れたのだった。こいつは気がふれると私に仲間殺しをさせるのだ。
ラップランドも、レッドも、アーミヤも、ドクターも、エクシアでさえ、凶刃の前に伏せた。既にその惨劇は両手で数え切れないほどに繰り返された。
ラップランドの臓物を引き抜いた。レッドの心の臓を貫いた。アーミヤの首を刎ねた。ドクターの全身を切り刻んだ。エクシアの血潮を振りまいた。これは一例に過ぎない。もっと酷いことだっていくらでもやった。
こんなことやりたいわけがない。この惨状が繰り返されるたび、固定された無表情の下で私は毎度の如く絶望し、激しい罪の意識に苛まれた。
未だに彼女たちの死に際の表情が忘れられない。全て忘れられない。忘れたくとも昨日のことのように思い出せる。皆、ことごとく信じられないという顔をして息を引き取っていったことを。
特にエクシアだ。私は失敗するたびにエクシアの隣で目覚めるといった。──だからこそ最悪だ。彼女を手にかけたあと、何もなかったかのようにエクシアが接してくるのが本当に心が痛む。私はエクシアに心配される権利はないんだ。今の私に必要なものは、……侮蔑だ。私を赦さないでほしいのだ。そうでなければ、救われない。
仲間を殺した後のテイクは、誰とも関わりたくない。目を合わせたくもない。だがそれすらもできないのだ。既に身体の主導権を失っている故に。
だから私は祈るだけだ。頼むから失敗しないでくれ。頼むから死ぬのは私だけにしてくれ。頼むから、私の手を汚させないでくれ──。
「たすけてくれ」
そう声を出せたとき、遂にチャンスが訪れたと思った。この負の連鎖を断ち切るチャンスが。
今までは声すら満足に出せなかった。決められた定型文のみ、それもあいつが選んだものしか発言できない。
その制約が一時的になくなる。何回か声を出せるようになるのを経験して、憶測ではあるが法則性がつかめてきた。
あいつが『ムービー』や『イベント』と呼ぶ、私に直接的に介入されない出来事の時は、私は発言のみが許されるのだと。
ラップランドがこの期間中見たこともない反応を返したとき、私に何ができるのか考えた。
そして実行した。
──彼女らを説得して、このループを進行不可にすることを。
あいつは戦闘で事故さえ起きなければ仲間殺しはしない。それを利用する。
「ラップランド。頼むから、絶対に私を押し倒し返さないでくれ」
あの時そう発言したのは、バグを起こさないようにしてこれ以上進ませないためだった。ここであいつが諦めれば、即時時間が最初に戻されるため、犠牲が出ずに済む。
だが失敗した。レッドがバグの発動条件を満たしてしまったのだ。
仕方がなかった。彼女は何も知らないのだ、こんな偶然が起きることも仕方がないのだ。
──ふざけるな。結局私の言葉だけでは運命は変えられないというのか?ならばどうしろというんだ。指をくわえてこの惨劇を見ていろとでもいうのか。
暗転の後に対峙するのはW。私を含めたロドスを幾度となく爆殺し、あの声を何度も狂わせた因縁の相手。私はただ、あいつが上手くやってくれるのを願うだけだ。
──やった。ここを突破したのはいつぶりだ?とにかく安堵に包まれる。
死ぬ必要のない全員が生存したのを確認すると、私は気が抜けるような思いだった。
「ねえテキサス、あんまり無理はしないほうがいいよ」
「……!」
ロドスの基地に戻って、私はエクシアにそう言われた。一度も見たことのないイベントだ。……しまった、思考回路があいつに寄ってきている。気を付けなければ。
それでもエクシアにそう言われたのは事実だった。心の奥底から侮蔑を求めていた私だったが、その時は何故だか救われた気持ちになった。
宿舎で出会ったナイチンゲールにも、私の病巣を見抜かれた。これも聞いたことがない。
やはりいつもと比べて何かが変わっている。そう確信した。もしかすると今回は何かが起こるかもしれないと期待した。
間違いだ。
変わっているのは敵も同じのようだった。龍門のビルの屋上で、私は巨漢に襲われた。ブッチャーと呼称される怪力男だ。
不意打ちを受けた私の身体は麻痺し、途端に動けなくなる。嫌だ。ここで倒れれば、せっかく進展したのが無駄になってしまう。
動け。動け。そう何度も自分に言い聞かせても、うつ伏せに倒れた私の身体はびくともしない。
ブッチャーの斧が風を切る。驚異的な音を立てて私に迫る。
それでも私の身体は言うことを聞こうとはしなかった。
壊滅的な振動が私の中を走った。途端に視界が真っ暗になる。あっけない最後だ。
これでこのテイクは終了。期待も何もかも、泡になって消えた。
……。これでよかった。こうして私が力尽きれば、味方を惨殺することもない。
そうだ、これでよかったんだ。
──。
ここで諦めたら、この負のループはいつ終わる?
チャンスが訪れたと希望を抱いた意味は無駄に終わるのか?
ダメだ。それじゃダメだ。諦めるなんて私らしくない。いつから私はこんなに軟弱になったんだ。
いつの日か、この地獄に終止符を打たなければならないのだ。それは今回ではないかもしれない。それでも、私は無限にこの時間の中に囚われているわけにはいかない。
とっくに力尽きたはずの身体の中に鼓動を感じる。──まだやれる。まだ立ち上がれそうだ。
視界の中に光が戻る。このチャンスを逃せば次はないかもしれない。
肺の中を空気が満たす。右腕がもたつきながらも大地を掴んだ。
全身の筋肉に力が入る。だらしなく伸びていた両足が地面を蹴る。
「──ここで倒れるわけにはいかない」
私は再び剣を取り、倒すべき敵と対峙した。身体の主導権はまだあいつにあるようだった。
ぴくりとも動けない。何をやっている。脅威はまだ目の前にあるんだぞ。
再び斧が振るわれ、私の胴体を穿つ。たまらず私は倒れた。
舐めるな。これで終わりにはしてやるものか。不戦敗なんて認めるものか。
「──私は……まだ……!」
その意気に応えるように、私の身体は動き出した。
良くも悪くも磨かれた戦闘技術。それはしっかりと繰り出されたブッチャーの攻撃を見切り、避けた。
それを待っていたかのように味方の攻撃が後ろから殺到する。
鍛え上げられた男の身体を、穿つ、穿つ、穿つ。そして私を二度も殺した殺人者は遂に膝をつくこととなった。
久々に感じる痛みに脳が悲鳴を上げる。意識が朦朧となりながらも、何とか私は『バグ』の行使に成功した。
私一人では絶対にくたばってやるものか。私は諦めない。絶対に、だ。
不撓不屈Ⅰ
効果:5%の確率で立ち上がり、戦闘不能から復帰する。
↓
効果:彼女が諦めない限り、死の淵からも這い上がれる。
これからの展開についてどんなのがいいのか唐突に知りたくなったので回答オッスお願いします
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圧倒的なプレイスキルによる無双ルート
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バグ盛りだくさんのさらにカオスなルート
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ガバでタイム壊れる^~なガバガバルート