あの時テキサスが壁の中に消えてから、ボクの心は完全にテキサスに惹かれていた。
あの時誰よりも多く感染者をなぎ倒した時から、ボクは脳裏に昔のテキサスを思い浮かべた。
彼女はまるで正義の味方のように剣を振るう。その認識は正しいのかもしれない。市民のために己が身一つだけで巨悪に立ち向かう英雄、ロドスの人らから見ればそう見えているだろう。
しかし何も知らない一般人やウルサス軍警、そしてレユニオンから見れば彼女はただの虐殺者、大量殺人鬼だ。
殺しを躊躇せず行い、怒りにも憎しみにも身を任せることもなくただ冷酷に。不思議なほど返り血を浴びない彼女はキルスコアに比例して不気味さを増していく。
同胞がテキサスの刃に屈していくたび、覆面共は心に復讐の炎を滾らせているように見えた。武器を握る手に力がこもり、仲間の無念を晴らそうとするものから突撃していく。
だがそれは非常に愚かな行為だ。現実は常に非情で、いくら心に誓いを立てようが手を差し伸べてくれるわけではない、敵を打ち倒せるほどの力を授けてくれるはずもない。
その結果、テキサスの周りには死体、死体、死体。彼女の剣が、ただ血潮を吸い放題しているだけだった。
ボクの身体が感激に震える。表面にこそ昔ほどのテキサスは現れていなかったが、やっていることはボクが望む──いや、それ以上のことだ。
分かっている。これを考えているボクはきっと、醜い笑顔をしていることだろう。
だけど許してくれよ、やっとボクはボクの求めるテキサスに出逢えそうなんだから!
次は何をしてくれるんだい、テキサス。
ボクは一挙手一投足を見逃さないように、テキサスだけを視界に入れ続ける。正直任務もドクターなんかもどうでもよかった。
「くたばれ!」
右から一人、覆面の暴徒がボクに襲い掛かる。
──鬱陶しい。ボクは今テキサス以外には構ってやれないんだよ。
振り下ろされた鉄パイプを左手の長剣で弾きながら、もう一本の得物で男の胴体を抉る。
「がっ……」
くぐもった声を吐きながらマスクの内側から赤色を垂れ流す。止めと言わんばかりにボクは右腕を横へ凪ぎ、苦しむ男の首を撥ねた。
何度も見た生物の死に際。ボクはそれに何の感慨も抱くことなく見届けた後、テキサスの観察を続けた。
気が付けば彼女は壁を抜けたときのように、無数の刃を噴水に突き刺していた。
──始まる!
あの時とほとんど同じ状況に、思わずボクは胸を高鳴らせた。
そんな時、突然三匹の猟犬がテキサスへと向かった。道中にいたボクをわざわざ無視してまでだ。
せっかくの催し物を妨害した犬に一瞬殺意を覚えたが、テキサスは流石の手際ですぐに片付ける。
その顔には少しの怒りを秘めているようにも見えたが、ハッとしてもう一度注目するといつもの無表情がそこにはあったため、きっと見間違えだろう。
ノータイムで作業に戻る彼女の姿はもはや手慣れた仕事人で、まるで何百回も同じような作業をしてきたように感じさせた。
「ん……」
「ラップランド」
まるで舞を踊るかのように剣を一振りした彼女は、突如としてボクに声をかけた。
「あっ、どうしたんだいテキサス?」
予想だにしない出来事にボクは反応を遅らせる。そういえばこうやって向こうからボクに対して話しかけてきたのはいつぶりだろうか。
「なんでもない」
しかしテキサスはそう言って強引に話を終えると、そのまま後ろへと飛びのく。そこには彼女自身が溜めに溜めた大量の刃があった。
これで彼女はこの前壁の中に消えた。次は一体何をしてくれるんだろう?
その期待を裏切ることなく、テキサスは身体を自ら切り刻みながら、
──空高く宙を舞った。
「……は?」
何かが起こると覚悟していても、予測不可能なことが起きれば少なからず困惑してしまうものだ。それをボクは身を持って体験した。
だが空を飛んで彼女はどうするつもりなのだろう。あのままではどう着地しても肉塊に様変わりしてしまう。
ボクは興味半分焦り半分でテキサスを追う。
「……この霧は?」
そんな声が聞こえた気がしてボクはとっさに振り向いた。アーミヤの声だ。
何を言っているんだ。霧なんかどこにも……。そう言おうとしてボクはとてつもない違和感に襲われる。
今までいた場所とはまるで別の場所にいるような感覚。というか、まさしくここは別の場所だ。
街並みがことごとく違う。走ってきた道にあった建物がここには一つもない。
まるで突然ここに瞬間移動してきたかのようだ。
アーミヤの言う通り霧が出始める。そしてそれはあっという間に濃くなり、中から多くの兵士たちが姿を現した。
正直状況が読み込めていない。不思議なことが起こり過ぎる。
しかし困惑している暇はなさそうだ。どうみても向こうの敵たちは戦いを所望している。
これから起こるであろう大闘争を見据えて喉を鳴らしながら剣を掴む。
「──たすけてくれ」
「今、……なんて?」
丁度ボクの隣にいたテキサスが弱々しくそう言った。それは、いつもの彼女からは想像もできない声だった。
驚いて隣を見ると、目線だけを向けて彼女がボクを見ている。
「どうしたんだい?怖くなったのかい?」
「そうじゃ、な──」
珍しく憔悴したような様子になっているテキサスを動揺しながらもからかうが、彼女はすぐに否定、しようとして口を閉じた。
「あれが敵の指揮官か?」
ドーベルマンがそう言い、同時に敵が武器を構えた。見たところ相手の指揮官とやらはボクやテキサスと同じループス族の女で、周りの雑兵とは一回りも二回りも違うオーラを放っていた。
敵は武器を構える。それと同時に、ロドスの面々も一斉に臨戦態勢を取った。
そんな中最初に飛び出したのは、弱音を吐いていたテキサスだった。
彼女は武器を抜くこともなく、ただまっすぐに向かっていく。それはあまりにも無防備で命とりな行動だった。
敵のループス族はもちろんそれを見逃すこともなく反撃しようとする。ボクは見ていられず、すぐに助けに出ようとした。周りのやつらもほとんどが同じような行動をしていたようだ。
「ぐうっ!?」
それらはあの女が放った苦悶の声によって全てかき消された。ループス族の女が、まるでテキサスの周りに何かがあるかのようにズタズタに切り裂かれたのだ。
女はすぐさま飛びのき、大きく目を見開いた。
いったい何が起こったのか分かった者は、きっとこの場に誰もいなかっただろう。武器すら持たないテキサスに近づいたあの女が一瞬にしてボロボロになった理由に説明がつくはずもないのだ。
「おやおや、散々じゃないかクラウンスレイヤー」
「……メフィスト!聞いてくれ、あそこの奴は危険だ、今すぐ奴を仕留めさせてくれ」
後ろから、白装束の小さな子供が現れる。右腕の腕章から、彼もレユニオンとやらの組織の一員であることが読み取れる。
「油断しただけじゃないのかい?あんな女にボロボロにされるなんて墜ちたものだね」
「そんなものじゃない!奴は……!」
「ふん、ともかく、君はもう自分の仕事をやり終えたはずだよ。もう戻ってくれるかい」
「余計なことを……!」
「君にはまだやることが残ってるだろう?」
「……チッ。お前が惨めに負ける姿が楽しみだ」
「ふーん。そこまで言うかぁ」
クラウンスレイヤーと言われた女はそう言うと、いくつかの部隊を連れて撤退していく。それに代わるように、メフィストと呼ばれた子供が前に出た。
「君たち。さっきはクラウンスレイヤーが迷惑をかけたね」
「……お前たちの目的はなんだ」
ドーベルマンがそう言うと、メフィストは顔に浮かべた笑顔を崩さず言う。
「別に君たちにかかわるのに理由なんかないよ。ただ興味がわいただけさ」
「興味……?」
アーミヤが怪訝な表情を浮かべる。
「どうやら君たち、ただの製薬会社じゃないみたいじゃないか。立派な部隊なんか連れちゃってさ。だから、君たちとゲームをしようと思ってね」
「子供のわがままに付き合っている時間はない」
ドーベルマンが吐き捨てるのと同時に、彼女はアーミヤに耳打ちするように見えた。
辺りに大きな爆音が響く。何かと思ってみると、ボクらの頭上に色付きの光が上がっていた。信号弾だ。
「信号なんか送って、何をしているんだい?」
「黙っていろこのガキが」
またドーベルマンが耳打ちすると、アーミヤは首を横に振った。
「おやおや、ここを逃げ出す作戦でも立てているのかい?いけないなあ。僕はただ、君たちを“おもてなし”しているだけなのに。なのに無視して帰ろうだなんて──」
「アーミヤ!強行突破だ!」
「はい!皆さん!」
そう言うと、ボクを合わせたオペレーター達が武器を構えた。ついに抗争の始まりだ。
「ひどいじゃないかぁ!」
メフィストが右手を振り上げる。その瞬間、周りの覆面達が鬨の声を上げながら突っ込んでくる。
「ハハハハッ!」
ボクは真っ先に飛び出す。こういう滅茶苦茶な戦いは大好物だ!
手ごろな敵を見つけ、剣を振り下ろす。するといとも簡単に剣が敵の身体を二つに分かつ。
その勢いのまま隣にいたやつも切り裂く。情けない悲鳴とともに地面に伏した。
新たな獲物を手にかけようとボクが地面を蹴ると同時に、後ろからテキサスが飛び出した。
「ギャアアアアッッ!?」
「うわああっ!」
「なっ──」
彼女はまたも素手で敵集団に駆け込むと、ある一定の距離に近づいた敵兵が一斉にぐちゃぐちゃに加工された。
血しぶきと悲鳴を上げながら続々と骸が増えていく。テキサスが動けば動くほど、地獄絵図は広がっていく。
ロドスの人間も、メフィストとかいうガキも、そしてもちろんボクも。誰もが呆然としていた。
瞬きをするたびに死体が増える。その中心には常にテキサスがいる。
──これだ!こういうのが見たかったんだ!
見たこともないほど凶悪な戦い方……いや、アーツだろうか?それを駆使しながらテキサスは通る先にあるすべてを薙ぎ払い、消していく。
凶暴すぎる、凶悪すぎる。酷すぎる!あそこまで彼女が非道になったのを、ボクは初めて見た!
「F3、E5!あいつを止めろ!B4、B5何してる!後ろからぶった切れ!」
メフィストの指揮に従い、四名の男たちが武器を振るう。だがテキサスは動かなかった。
──例に漏れずその四人も謎のアーツに吹き飛ばされたのだが。
「くそ、クソッ!どうなってる!術師、ありったけのアーツをあいつにぶつけろ!早く!」
「無駄だ」
「えっ……?」
その瞬間、メフィストの後ろに待機していた術師隊が片っ端から倒れた。
「こんな……こんな!」
「うわああああああっ!」
メフィストの顔が確実に歪んでいくうちに、さらに別の場所からも絶叫が聞こえてきた。
ボクは振り向いてその声がする先を見る。
「道を開けよ!」
「うわぁ!?」
またもや覆面達のくぐもった悲鳴が連続する。
「ニアールさん!」
ようやく見えたその姿は、凛々しい騎士を連想させる姿だった。
「アーミヤ、無事でよかった。状況は?」
「それが……、テキサスさんが圧倒していて、私たちはほとんど手を出せていません」
「なんと……。とにかく優勢なら都合がいい。早く撤退するぞ!」
周りのメンバーたちが各々肯定の意を示す。
「カジミエーシュの騎士、二アール。お迎えに上がりました、ドクター」
ニアールはそう言って、ドクターの前にひざまずく。
それと同じくして、テキサスが敵地から帰ってくる。彼女は血の一滴も浴びてはいなかった。
正直、ボクは戦慄している。あまりにも、彼女は強すぎる。
離れ業、なんて域ではない。この世の物とは思えない力で敵を圧倒し、あの優秀そうな指揮すら無に帰してみせた。
文字通り、一騎当千の戦いをなして見せたのだ。
ゴクリと唾を飲む。テキサスは一体、まだどれほどの力を秘めているのだろうか。ボクは尊敬とかを通り越してもはや恐怖を覚えていた。
テキサスが怖くてたまらない。なのに、どうしてこんなにも胸が高鳴るのだろう。どうしてこんなにも愛おしく感じるのだろう。
あの狼は狂っている。ボクはそう確信した。
ふと思い出す。
「──たすけてくれ」
テキサスはあの時、なぜボクに助けを求めたのだろうか?彼女はこんなに強いのに。一人であれだけの軍勢を相手にできるのに。
それを考えてしまった今のボクの頭には、こびりつくように疑問が残っていた。
次回もラップランド視点が続くと思います。
これからの展開についてどんなのがいいのか唐突に知りたくなったので回答オッスお願いします
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圧倒的なプレイスキルによる無双ルート
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バグ盛りだくさんのさらにカオスなルート
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ガバでタイム壊れる^~なガバガバルート