あたし、エクシアはテキサスとコンビを組んで長く経っていた。
息もつかせぬ連携。誰よりも信頼できる戦友。
仲良くなるのに長く時間が掛かった分、あの子があたしに貸してくれる力は折り紙付きだった。
そんな彼女は最近様子がおかしい。それは大体ロドスにドクターの救出作戦とやらで呼び出される少し前からだった。
とある夜中、あたしはテキサスのやつと仕事の関係上寝床を共にした。こうして一緒に寝るのは何度も経験しているから、あの子がいつも何をするのかしないのか、ということは知っている。
意外にもあの子は寝つきがよく、夜中に目覚めるなんてことはほとんどない。あたしの頭の上の眩しい輪っかが近くにあっても全然起きそうにもないくらいだ。……といってもひとたび敵に襲われれば飛び起きて対抗するんだけど。
それなのに彼女は、敵が来る気配があるわけでもないのに夜突然目を覚ました。お腹をすかせてなかなか寝付けずにいたあたしは、その様子をバッチリと目撃する。
薄く目を開けながら、あたしは横目でテキサスを見る。何やら悪夢でも見たかのように、彼女にしては珍しく憔悴した様子で表情を露わにしていた。
息を荒く、動揺するように。異常だな。それがあたしが一番初めに抱いた感想だった。
テキサスは急いで部屋を出ていく。
「うっ、ぐっ、~~~~~~っ」
「うわ……?」
それは紛れもなく、胃の内容物を戻す時の音だった。
聞いていたあたしは激しく驚いた。いつも死と隣り合わせの危険な行動をして、どんなにつらい仕事をこなしても血以外は絶対に吐かない彼女が、弱音すら通り越して胃の中身をゲロったんだ。
心配だったし、怖かった。明日は空から銃弾の雨でも降るんじゃないか、と思うくらいには戦慄した。
一体あの子はどんな内容の夢を見てしまったのだろう。彼女の仏頂面を陥落させるほどの悪夢は、どれほど恐ろしいのだろう。想像するだけでも身震いがする。
トイレを流す音がしてすぐにテキサスは戻ってきた。見間違えじゃなければ、あの子の顔には薄く涙が流れた跡があった。
テキサスがあたしの顔を覗き込む。あたしはテキサスに余計な心配をかけないよう、細く開いていた目蓋を閉める。
「すまない……すまなかった、エクシア」
小さく、本当に小さく呟かれたその言葉を、敏感になっていたあたしの耳は聞き逃してはくれなかった。
寝よう。こんなことはもう、忘れてしまおう。
そう思っても、聞こえてしまった言葉が気になって、あたしの意識は結局沈むことは無かった。
◆ ◆ ◆
「ラップランド。頼むから、絶対に私を押し倒し返さないでくれ」
「……へ?」
ボクを床に押し倒して開口一番、テキサスはそんなことを言い放った。
何を言っているのか、そして何をされているのか。ボクはしばらく理解できなかった。
周りの目が一気にボクらに集まる。当たり前だ。隣でこんなことをおっぱじめて気にならない奴なんかいるもんか。
「突然なにしてるんだいテキサス。流石のボクでも困惑せざるを得ないんだけど」
「分かってる。だけどお願いだ。あいつが諦めるまで動かないでくれ」
「さっきから何を言って……」
そのときボクはテキサスのおぞましいほどの剣幕に言葉を失った。何故か分からないが、今は彼女に従った方が賢明な気がしてくる。
しかしそれでも気になる。彼女が言ったことについてはまだボクは一つも理解していない。
「そもそもあいつってなんなんだいテキサス。というか何で押し倒したりなんか」
「それは……」
だがテキサスは頑なに答えようとはしなかった。躊躇をしているとでもいうべきだろうか、とにかく彼女は口をつぐんでいた。
正直ボクとしてはなんでもいいから答えが欲しかった。周りの目が痛いし、そろそろ我慢の限界だ。
「なあ頼むよ。いったいこれは何のつもりなんだい?」
「いいからじっとしていてくれ!あと少しであいつが諦めるんだ、今回は誰も死なずに……ッ!?」
そう呻くテキサスのしっぽが、突然誰かに掴まれた。彼女の顔が柄でもなく歪む。
背中越しに赤い影が見える。それには見覚えがあった。
──ロドスの暗殺者、レッドだ。
「落ち着いて。しっぽに元気ない」
「なっ」
レッドはテキサスの尾を撫でるように触る。どの種族にも関わらず、尾は神経の詰まった繊細な部分だ。テキサスの身体が跳ねるのも無理はない。
彼女はボクからテキサスを奪い、そのまま床に押さえつけるように馬乗りになった。
その動作をした瞬間、テキサスが絶望の表情に覆われる。
唐突に彼女の腕がレッドを掴み、巧みに引きはがす。レッドはなすすべもなく床に伏し、再度飛び掛かろうとしていた。
「いやだ──」
その時だった。テキサスが悲鳴とともに床の中へと消えたのは。
ボクとレッドの間に沈黙が訪れる。思考が止まる、時間が止まる。きっとボクは唖然とした表情をしているだろう。隣の暗殺者もそれは同じだ。
「今、何をした?」
レッドに問いかける。今の状況はどう見てもこいつがやったとしか思えなかった。
しかし彼女は必死に首を横に振って否定を示す。
「わからない。わからない……!」
そりゃボクだって分からないよ、アンタが何かやったとしか思えない!
そう怒鳴ろうとしたとき、突然目の前が暗転した。
──そしてボクは、戦場に立っていた。
「そう簡単にチェルノボーグが脱出できるなんて、思わないことね」
目の前に立っていた女が突然何かを投げた。危機感を覚え、ボクは全力で離れる。
爆音が廃墟となった広場の中心に響き渡る。投擲物から巨大な炎が放たれ、肌を焼く。
あれは爆弾か!そう直感しながら、突如広がった戦場で何とか立ち上がる。
唐突のこと過ぎて意味が分からない。どういう状況か、本当に分からない。だが戦わなければならないということだけは本能が理解していた。
テキサスはやはり傍に居た。彼女の顔はいつも通り無だった。
ふと後ろを向くと、呆然とした様子でレッドが立っていた。まだ彼女は何もわかっちゃいないんだ。
「目を覚ませ暗殺者。さっきのことが理解できないのは分かるけど、今はとにかく戦う時だ」
「……わかっ、た。レッド、戦う」
レッドは意外と物分かりがよく、指摘してやればすぐに我を取り戻した。
「プレゼントは気に入った?それじゃあ自己紹介でもしようかしら」
爆弾を投げつけてきた銀髪の女は少し微笑む。
「私のことはWとでも呼んで。私はあなたの隣のその人に会いたくて、ずっと待ってたの」
「それって、ドクターのことですか」
アーミヤが顔を凄む。そんな様子に怯えることなく、Wと名乗った女は話を続ける。
「いくつか聞きたいことがあって。悪いけどその人を、私に渡してくれないかしら」
「そんなこと聞くまでもないだろう?答えは“いいえ”だ」
ニアールが強い口調でそう言った。
「まあまあ慌てないで。そういえば、私さっきあなたたちと同じような服の集団を見つけたの。偽装はしていたようだったけどね」
「偵察チームの皆さんでしょうか?よかった、無事だったんですね」
「あらあら、やっぱりお仲間さんだったのね。そんなあなたにいいニュースがあるわ」
Wはにっこりと笑う。
「彼ら、もう二度と戻ってこないみたいよ」
「──え?」
それを聞いた瞬間のアーミヤは、それは悲痛な顔をしていた。敵の口から仲間の訃報を告げられたのだ、彼女の性格ならそうなるのも無理はないだろう。
「貴様ッ!」
真っ先に武器を構えたのはドーベルマンだった。彼女の顔は怒りに囚われていた。
「そうやって人殺しを楽しんで、……この畜生が!」
「そんな正義の味方みたいな顔が出来るのね、あなたには。あなたたちだって、もう何人も殺してきたでしょう?」
「……くっ」
「……ドーベルマンさん。あいつの話なんか聞かなくていいです」
いつもの彼女からは想像もつかないほどに感情を、怒りをあらわにしながら、アーミヤは一歩前に歩み出る。
「あなたたちは間違っている!それだけは胸を張って言えます!罪もない市民を虐殺するなんて非道、誰が許せますか!」
「あっそう。まあいいわ?そうやって、あなたの下僕といっしょにかかってきなさい、うさぎさん」
「……皆さんは下僕なんかじゃない!皆さん!」
アーミヤの言葉に呼応するように、ロドスの軍勢は一斉に武器を抜いた。
Wもまた、反撃のための爆弾を手にした。
──そしてその爆弾を、テキサスの刃が貫いた。
「こうなったら、今回は誰もやらせない。──殺させない」
「……ふーん。面白いわね。一緒に遊びましょう、そこのオオカミさん」
その言葉を皮切りに、両者は目にも止まらぬ速さで激突する。戦いの火蓋が切られたのだ。
剣とナイフの剣戟。ともに攻撃を弾き、かわす。決定打となりそうな攻撃は出そうにもない。
ボクも援護に入ろうにも敵には隙が無く、テキサスにとっては邪魔になりそうだ。
だからボクたちに出来ることは雑魚共の処理だけだろう。テキサスならきっとやってくれる。そう信じて、二人だけの舞台を作り上げていく。
「よそ見厳禁よ」
そんな声が聞こえたと思えば、Wがボクに爆弾を投げつけようとしていた。
慌てて回避行動をとろうとする。だがWの右手を、テキサスの左手がひっつかむ。
「そのパターンはもう、何度も見た」
爆弾を持つ手を捻り、そのままテキサスはWの左腕に蹴りを入れた。
「ぐっ」
そして何かがポロリと落ちた。恐らく起爆装置だ。
「よそ見をしていたのはお前のほうだろう、W」
赤い刃が空を切る。Wがすんでのところで回避したのだ。
「エクシア!」
「おっけー!」
そこへ、合図とともにエクシアが現れる。彼女は手に持つ守護銃の照準をしっかりあわせると、引き金を引いた。
乾いた銃声が連続し、大量の薬莢が空を舞う。硝煙が空気を濁し、ともに鉛が音よりも早く飛来していく。
Wは身を捻り回避を試みる。巧みな動きで多くの弾を避けたが、少なからず彼女は被弾しているように見えた。
「チッ……」
エクシアの守護銃の弾薬が切れるのと同時に、Wは舌打ちをした。
「この感じ懐かしいわね。──あなた、アーミヤと言ったわよね」
Wは指をアーミヤに指す。
「覚えたわ、アーミヤ。欲しいものは手に入った。だからもうどうでもいいわ、さっさと行きなさい」
「身勝手な……!」
Wは振り返ると、そのまま歩き出した。
「次に会えるのを楽しみにしているわ。──ドクターさん」
そして戦場が煙に包まれる。晴れたころにはもう、Wの姿はなかった。
「レユニオンが……撤退していく。……我々も撤退しよう、アーミヤ。天災が近づいてきている」
「……。そうですね。そうしましょ──」
ドーベルマンとアーミヤの会話が、鈍い何かの音によってさえぎられる。
誰もが音のした方へと顔を向けた。そしてそこには、
「──テキサス!」
意識をなくし、地面に倒れこむ狼の姿があった。
次回こそはRTAを進めます。
これからの展開についてどんなのがいいのか唐突に知りたくなったので回答オッスお願いします
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圧倒的なプレイスキルによる無双ルート
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バグ盛りだくさんのさらにカオスなルート
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ガバでタイム壊れる^~なガバガバルート