藤原千花は育てたい ~恋愛師弟戦~   作:ころん

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10月
【13】前生徒会 と お食事会


 初花家での食事会は次の休日に早急に実行されることとなった。もちろんかぐやの強い要望によって、である。

 当初はお昼過ぎから集まって、ディナーを共にして解散、という予定だったのだが。

 

 「ヒ…ヒィ」

 

 初花家の門の前でとてつもなく情けない声を出したのは石上だった。

 

 「僕、忘れてました。初花が生粋の金持ちだってことを」

 「うちのアパートが何件入るのか考えたくもないな」

 「四宮の別邸と比べても数倍以上はありますね」

 

 ここは初花『本邸』または、『本家』である。

 四宮『別邸』と比べてもあり得ないスケールなのである。

 

 「ここでディナー??僕テーブルマナーとか知りませんけど??追い出されたりしません??」

 「お父様も僕も別にそういうのは気にしないので、大丈夫かと」

 「金持ちの気にしないってレベルと庶民の気にしないのレベルは絶対違うだろ!!」

 

 石上のネガティブスイッチが入ってしまった。

 ただ、白銀はそれに共感できる部分はあった。彼とて一般庶民、こんな家でディナーなど、困ったもので、今日はかぐやもいるので、格好悪いところは見せたくないのである。

 

 「うーん。じゃあ予定を変更しますか!」

 「へ?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 初花家、中庭。

 季節の花を中心に、身近な花を使って彩られた庭園である。

 カジュアルな場として用いられることが多い、初花家の庭だ。

 

 「な、なんか。ごめんなさい…」

 

 そこでは急ピッチの作業でティータイムの用意がされている。

 ティーセット及び、お菓子を中心とした軽食が並べられていく。

 

 「大丈夫ですよ。僕も配慮が足りなかったです」

 「そうだな。相手に合わせて用意をするのは初歩中の初歩。まあ友人関係だから構わないが」

 

 そんな風に教えを息子に授けるのは、初花司、初花家現当主である。

 

 石上の悲しい心配からディナーを、アフタヌーンティーへと変更になったのだ。

 

 「私が幸の父の、初花司だ。名前だけは有名だが、そんなに恐縮はしないで欲しい…ここでは幸の父でしかないのだから」

 

 ビビりまくってる石上を主に見ながら司は言った。

 この人新聞の1面でよく見る…と微かな声で石上は呟いた。

 それを無視しながら各々が自己紹介をした。

 

 「君たちのお陰で、私はこうして息子と顔を合わせられてるんだ。感謝してもしきれないぐらいだ」

 「いえ、私たちはそこまで…」

 「一番の立役者がいないですね」

 「そういえば藤原先輩は…?」

 

 その心配に対して、初花親子は目を合わせて、幸はちょっと目をそらしながら言う。

 

 「チカ先輩は寝坊…?です」

 「藤原先輩さすがですね」

 

 ちょっと石上は元気になった。

 

 「また起こしてきますね。くつろいで待っていてください」

 

 言いながら、幸は屋敷の方へと歩いて行く。

 それを見送った後、口を開いたのは司だった。

 

 「君たちは皆生徒会だと聞いたのだが、どうだい?次の選挙も誰か出馬を?」

 「はい。立候補するつもりでいます」

 

 答えたのはもちろん白銀だ。

 

 「ほう。四宮家のご令嬢ではなく、君が。まるで私の時のようだ。面白い」

 「幸さんのお父様も学生時代生徒会に?」

 「そんな堅苦しい呼び方ではなく、司さん、とでも呼んでくれ。同じ学校のOBなのだから。私は1年の時の生徒会選挙に負けてね。2年連続で副会長だったよ」

 

 初花は選挙の神――それは白銀もかぐやも石上もよく聞く言葉だ。マスメディアが好んで使うからである。

 そんな彼でさえ、負けたことがあるのかと、皆驚く。

 

 「どんな方に負けたんですか?」

 「妻だよ。桜と言ってね。幸によく似ているんだ」

 

 そう言って司は胸元から家族写真を取り出した。いつも持ち歩いているのである。彼の宝物の1つだ。

 

 「本当にそっくりですね…」

 「瓜2つじゃないですか」

 「…幸せそうな写真、ですね」

 

 かぐやはこんな家族写真なんてとったことはない。共に写った写真は、無表情で固いもの。まるで証明写真だ。

 親子3人笑顔で写ったその写真は、とても眩しかった。

 

 「あぁ。だからこそ――私と幸が、疎遠になっていたここ数年は、本当につらかった。妻が起きるなんて奇跡を毎日願うほどにだ」

 「あの失礼ですが、奥様は亡くなったのでは?」

 「流石、四宮家の娘さんだ。いや――勘違いしないで欲しい。嫌味などではなく、純粋に感心したんだ。そんな昔の事故を覚えているなど」

 「最近、知る機会があったもので…」

 「確かにあの事故で、妻は死んだ、ことになっている。実際には生きているが意識が戻っていないんだが――初花家にとって弱みになり得るからこそこれには箝口令をしいている」

 

 それを聞いたかぐやの顔は、苦いものになった。

 

 「それを四宮の者である、私に伝えるのは」

 「確かにリスキーだろう。だがそれ以上に息子の、そして私自身の恩人には誠意を持って伝える必要があるとも考えているんだ。それが――初花だ。君もよく教えられただろう」

 「はい。愛も恩も、倍で返すものであると」

 「そしてそれが四宮家とは相いれないものであると、私とて重々承知している。だがこれが初花としての在り方だ」

 

 決して、四宮と初花は相いれない。それは昔から今に連なる1つの常識である。

 

 微妙な雰囲気が4人の中に流れた中。

 

 

 「あっ!みなさんごめんなさーーーーい!!!」

 

 

 屋敷の方から少女が走ってくる。

 それはもう全力疾走だ。

 

 「ついついうたた寝を…。食べてすぐに寝るなんてロカボガールの名が廃りますね!!あれ?何か元気ありませんか?食べましょうよ」

 「藤原先輩…なんでそっちから?」

 「昨日からお泊りしてたんですよー!!え?なんですかその顔。私、変なこと言いました?」

 「ほう…お泊り、ねえ」

 「かぐやさん、なんか怖いですよ?」

 

 この藤原千花、最近では週末毎に初花家に殴り込みをかけているのである。

 彼女の父は泣いている。

 

 「ふ、ふしだらですよ藤原先輩」

 「石上君。何想像したんですか?ぶん殴りますよ?」

 「無理もないだろう…言う方にも問題がある」

 「みゆき君までひどいです!!!」

 「汚らわしい…」

 「かぐやさん!?!?」

 

 やれやれ、と司は肩をすくめた。

 

 「そろそろ私は仕事に戻ろう。本当に君たちには感謝をしている。ぜひいつでも遊びにきてほしい――なんだったら私がテーブルマナーについて教えよう」

 「本当にお手数かけました!!」

 「全くもって構わないよ。ただまあそういった所作は妻や幸の方が得意だがね、本当に幸は私たちに憧れてマネをしてはすぐに追い越していくんだから――おっとすまない。余談だったね。うちの料理人たちが幸の友人たちのために気合を入れて作ったんだ――ぜひ堪能していって欲しい」

 

 そして、司が場から離れようとしたときに、ちょうど戻ってきたのが幸だ。

 

 「お父様?仕事ですか?」

 「あぁ。私がずっといては話にくいこともあるだろう。家にはいるから何かあったら呼ぶといい」

 

 そう言って、司は幸の髪を軽く撫でて、屋敷に戻ろうと歩みだす。

 それを止めたのは幸だ。

 

 「あ、お父様。今日はチカ先輩の家に行くので、夕食はそちらで頂きます」

 「は!?俺との夕食は!?」

 「残念ながらまた明日です」

 「俺も藤原の家に行くか…」

 「さすがにお父様同伴は恥ずかしいですよ。あとニュースになるのでやめてください」

 

 藤原父は娘を奪われた恨みに、よく息子を奪っていた。

 そんなやり取りに石上は呪詛を吐き出した。

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