本日2話目の更新なのでご注意下さい。
秀知院学園1年生!生徒会庶務となった初花幸は今!
心の底から後悔をしていた。
始まりはなんてことない、単に放課後になったから生徒会室に向かっただけである。
廊下を歩いていると、生徒会室の扉が開いていて、幸の視界には、なんだか生徒会室の中でクネクネしているかぐやが入ってきたのだ。
どんな面白いことが?と、扉の影に隠れて中の様子をうかがった。ただそれだけだ。
――好奇心は、身を滅ぼすのだ。
「ちなみにパンツだとどういうのが好きですか?」
「ああ、俺の好きなパンツか――うーん。そうだなー…あんまりシンプルすぎるのは味気なくて好きじゃないな。多少ゴテゴテしてる位が俺的には…」
(な、な、な、なんて会話をしているんですか!!!下着のリクエストをするような間柄だったのですか!?告白はしてないくせに実は身体だけの関係はあると!?それはそれで結構ですが、サチの想いは滑稽なものでただのピエロだったのというのですか!?)
お前も付き合ってねーくせにキスはしただろ、という突っ込みは置いておいて、この2人の恋を応援すると決めた幸にこの状況は毒だった。
「具体的にはどんなパンツが好きですか?」
(なんで恥ずかし気もなくそんなことを聞くのですか!?セックスはしたのですか!?告白はしないくせに!!本当に秀知院の生徒はモラルも常識もないただのボンボンだったのですか!?)
「あれ?初花さん?そんなところで何を?」
「伊井野さん――今この生徒会室の中では、戦争が起きているのです」
「せ、戦争ですか?」
「今すぐ離れましょう。いつこっちに銃弾が飛んでくるか分からないのです」
絶対にこの会話をミコに聞かせてはならない、と察した幸ではあったが。
そうそう上手くいかないのが世の中である。
「会長のヤリチン!!!」
「ホントは黒のパンツ!!俺は黒のパンティが好きだーーーー!!」
タイミングが悪い時は、とことん悪いのが、世の理なのだ。
☆☆☆
かぐやは絶望のあまりに飛び出していった。
黒い下着を穿いていないミコも消えていった。
石上は既に仕事を持って帰っていた。
そして結局生徒会に残ったのは。
黒い下着が好きな会長と。
何か気持ちを裏切られた庶務と。
何も考えていない書記である。
「え、なんでこんなに雰囲気が暗いんですか?喧嘩ですか?」
「喧嘩だとして。喧嘩している奴に、喧嘩ですか?って聞くんじゃない」
「会長に棘があります…」
生徒会室の雰囲気は暗かったのだ。
「サチちゃんどうしたんですか!?昔みたいな雰囲気になってますよ!?」
「御行先輩に裏切られたのです…」
「違うんだ!!違うんだって!!よく分からないけど違うんだよ!!」
「ほら、ちゃんと言えないってそういうことでしょう?このヤリチン。最低なのです」
「なんで浮気がバレたカップルみたいになってるんですか!?」
完全に幸の雰囲気は闇堕ちしていた。
千花はあわあわとするばかりで。
白銀は頭を抱えて机に突っ伏していた。
「四宮がいきなり聞いてきたんだって…俺もよく分かってないんだよ」
「四宮先輩がいきなり?下着の好みを?このヤリチン。最低なのです」
「それを語尾にするのはやめろ!!本当なんだって!」
「…下着?…ヤリチン?何か聞き覚えが…」
「藤原書記…お前のせいか?」
千花の頭の中には先日の会話が蘇る。
石上の着替えの場面に、千花とかぐやの2人が遭遇してしまった時の話である。
「私のせいではないと思うんですけど…石上くんがボクサーパンツ穿いてる奴は全員ヤリチンって言ってました」
「石上のせいか!!!」
「人のせいにするんですか。このヤリチン。最低なのです」
「頼むから正気に戻ってくれ!」
幸の目は濁っていた。もう何も考える気はなかった。
「つまり、四宮は俺が穿くパンツの好みを聞いていた、ということか」
「そうですね~。ぷぷっ、会長は黒のパンツがお好み、と」
「そうやって何人に穿かせては脱がせてきたんでしょうね。このヤリチン。最低なのです」
「サチ庶務?もう誤解はとけたよな??」
「冗談なのです」
幸の目には光が戻っていた。
秀知院のモラルはある程度は守られていたのだ。
そんな話を大声でしてる時点でどうなんだ、というのはこの際いいのだ。
「くそ、誤解を解かなければ…」
「そうですね。ヤリチン扱いされたままはつらそうなのです」
「その前にその顔でそういうワード言うのやめないか??」
顔面偏差値77でお姫様顔と名高い生徒会庶務である。
以前摘発された際にはセックス連呼罪という罪状だった。
「でもかぐやさんも流石に会長がそんな人だとは思ってないのでは?」
「思われていたら心外だ」
「付き合って5回目のデートですると言っていましたね」
以前、幸は廊下でそんなことを耳にした気がするのだ。
「あぁ。高校生ならそんなもんじゃ――」
途中まで声に出して、白銀は気づいてしまった!!!
彼の目の前にいるのは「高校生のカップル」である、と。
目の前のカップルの目撃情報は白銀の耳にも嫌というほど届いていた。特にここ最近クラスでも。
『藤原さんまた姫とデートしてたでしょ!』
『あっ私も見たー!あの子珍しく髪巻いてたよね!!可愛かった~~』
『ねー!!めっちゃ気合入ってたよね!』
『あの皆さん私は??私に関しての感想はないんですか??』
『藤原さんも可愛かったよ~恋すると人って変わるんだね!』
『あの藤原さんが普通に見えたよ!』
『そーそー!!藤原さんを『飼える』なんて姫ってすごいんだね!』
『戦争ですか??受けて立ちますよ??』
そんな会話を耳にしたのだ。同じような会話はここ半年近く相当聞いてきた。
つまり目の前のカップルは5回目のデートなんて相当前にこなしているのだ。
いつもいつも生徒会室でいちゃついてはいるものの、絵面だけを見れば、女子同士で過剰な接触をしているようにしか見えないのだ。しかし実際のところ彼らは男女の仲、カップルである。
お付き合いにそのような性的な部分が含まれるのは必須である。
しかし、しかし!!それがけっこう身近な者同士となると、想像はあまりしたくないものである。
でも気になる。実際のところヤっちゃったのか気になるのだ。
想像したくない。でも気になる。
そんなアンビバレンスな思いを白銀は抱いたのだ!!!
「――ないか?どうだ?」
だからこその問いかけ。意見を求める感じを出しながら探りを入れたのだ。
「う~ん。そういったことを付き合う前からする人もいますし、結婚するまでしない、という人もいますよね」
「愛があればいつでもいいんじゃないですか?」
愛情さえあれば何でも全肯定サチちゃんである。
「愛さえあれば、とは言うが中々付き合っていない状態で、とは難しくないか?特にこの秀知院で考えれば、家柄などもあるだろう?俺にはなかなか分からない感覚だが…」
「そうですね。少なくともこの学校で不特定多数の方とセックスをしたら問題になると思います」
「だからその顔で直接的なワードやめない?」
幸はまた罪を重ねた。
「四宮にとっては、5回目でも早い。そういう気持ちがあったから俺はこんなに疑われているのではないかと思ってな」
「あ~確かにかぐやさんならそう思っててもおかしくないですね!」
それっぽい理由を付け加えて、白銀はまだまだ初体験の話を続けた。彼の頭脳はしょうもないことに使われている。
「秀知院の意見と一般の意見には様々なところで隔たりがあるだろう。だからこそ、今回も俺がズレていたのか、と心配なんだ」
「でも5回目、って意見は割と普通じゃないですか?私たちだって普通の高校生ですし、皆の意見の平均をとったらそれぐらいになりそうですよね」
千花は5回目肯定派のようだった。
「そうだな…まあデートの頻度にもよるところはあるか。まさか付き合ってすぐに『そういうこと』をする高校生もなかなかいないだろうしな」
「そ、そうですね。すぐにしちゃうなんてなかなかないですよね~」
普通に白銀は感想を言っただけなのだが。
千花の答は非常に歯切れが悪かった。
しょうもないことに頭を回している白銀はそれに敏感に気づいた。
「そうだな。付き合ってすぐに『神聖な行い』をするような、『ふしだらな奴』はいないよな。特に『この秀知院には』。そんな『みだれてる奴』は」
「そう、そうですよ!!もちろんです。あ、私喉かわいちゃったのでジュース買ってきますね~~~」
これは完全に
千花は逃げ出すように生徒会室から走り去った。
幸は首を傾げた。
白銀の好奇心は更に増した。
今この場には白銀と幸しかいない。
つまりここはボーイズトークの場である。多少の下ネタは許される無礼講である。
そして目の前にいる初花幸という少年、彼はそういった話題に一切の邪念を持たない。愛の営みを心の底から真の意味で『神聖』で『尊く』感じ、1ミリとて恥ずかしいとは思っていないのである!!
ここで聞くしかない!白銀の好奇心は限界に達したのだ!
「それで、2人は付き合ってからどれぐらいでしたんだ?」
白銀には珍しい直接的な問い!!この勇気をかぐやに出すべきである!!!
「うーん。正確には覚えてないんですけど」
「ああ」
いつもと変わらない、雑談の一部のような雰囲気のまま、幸は口を開いたのだ。
「お付き合いを始めてから、だと大体――」
「ああ」
白銀の心を裏切って。
「――30分。ですね」
「分!?!?」
その驚きに対しても、幸は首を傾げたのだった。
「僕もジュース買いに行こうかなあ…一緒に行きたかったのに、チカ先輩どうしちゃったんですかね?」
「お前がどうしちゃったんだよ!?さらっと流していい話題じゃなかっただろう!!」
「そんな興奮してどうしたんですか?」
「誰だってするわ!!!」
白銀とて流石に予想してなかった。
平均よりちょっと早いぐらいなのを恥ずかしがったんだろうな~程度であった。
2人がそれなりの家の子であることは、白銀もよく理解している。
だからこそ、千花はちょっと早いだけでもあの反応だったのだろう、と。
そんな思いをぶち抜いてきた情報だった。
「――昔、お母様は言っていました」
「いきなりどうした?」
財布を持って、立ち上がり、幸は宣言をした。
「肌を重ねれば重ねるほどに愛情は深くなる。人間の脳はそうできている――だから、離したくない人が出来たらさっさとセックスしなさい、と」
「あー!!その感じも母親譲りかー!!!」
幸の母親は強かだ、そして愛され方を全て可愛い息子に引き継いでいた。
「だから御行先輩も、愛の獲得をがんばりましょうね!」
「この話の流れでその話をださないでくれ!!」
『とりあえず1回セックスしてきてください』とかいつか言われそうで怖くなった白銀だった。