藤原千花は育てたい ~恋愛師弟戦~   作:ころん

16 / 27
恋をすると人は変わるよね、って。
短いです。


11月
【16】藤原千花 の 独占欲


 藤原千花は、目を覚ました。

 その言葉が示すように、本当に、深夜パッチリと目を覚ましたのだ。千花は寝起きが悪い方ではない、寝ることは好きだが、別にロングスリーパーではない。そうは言っても深夜に目を覚ますことは珍しかった。

 

 枕元にあるスマホで時間を確認しようと、手を動かそうとして、その重みを感じて自分の手の位置を自覚した。

 多少、寝ぼけていたのであろう。段々と意識がはっきりしてくる。

 

 

 「さちちゃん、かわいい」

 

 目の前で眠る恋人の、安心しきった顔を確認して、呟いた。

 

 背中に回していた手を、そのまま背中に沿って、頭の方へ。

 髪を優しく撫でると、汗で多少しっとりとしていて、それは昨夜の残滓とでも言うべきか。

 

 ひとしきり髪を弄んでから、時間を確認すると、まだ眠り始めてから1時間程度しか経っていなかった。

 まあ、寝てしまった正確な時間は分からないのだが、ポツポツと2人で話していたら、いつしか夢の中に落ちてしまっていた。

 

 

 「ふふふ。なにをしちゃいましょうか」

 

 起こさないように、小さな声で呟いて。

 

 すっかり目は冴えてしまっていて、もう1度眠るのはなんとなく勿体ない気がした。

 幸い、翌日は休みだった。特に用事もなくて、勉強をしてから、適当に過ごすつもりだったのだ。

 

 千花は今度は頬を撫でてみた。

 相変わらずの柔らかい感触だった。

 

 まじまじと顔を見つめてみた。

 長いまつ毛が羨ましくなった。

 

 胸に手を当ててみた。

 規則的な鼓動が、なんだか心地良かった。

 

 もう1度背中に手を回して、抱き寄せてみた。

 これが一番、満足感があった。

 

 布一枚にさえ、邪魔をされないその感覚に。

 

 「すき」

 

 私にも、こんなに何かに固執する感情があったのか、と。

 

 千花は何かを好きになることが多い。それは恋愛的な意味ではなく、友人を好きになったり、ゲームを好きになったり、学校を好きになったり、好きなものが多い。

 それでも、何かに固執することは少なかった。

 独占欲なんてものとは無関係だと、自分で思っていたのだ。

 きっと恋人が出来たとして、お互いの自由を愛するのだ。そんな風に思っていた。

 

 それでも、実際に恋人が出来た今なら。

 

 目の前の可愛い恋人は、変わった。実際のところ『変わった』と表現するべきか、『元に戻った』と表現するべきかは千花にはわからない。でも、千花から見てなら、確実に変わったのだ。

 

 初めて出会った時の無感情さは消えて、表情豊かになった。

 何かを押しとどめたような、無機質な言葉ではなく、感情豊かな言葉になった。

 無理をした笑顔なんか消えて、綺麗に笑うようになった。

 

 それはきっと成長だ。

 

 少年が、もがき苦しんで、それでも手を伸ばして、得た成長なのだ。千花はその努力を愛した。

 変わりたい、でもどうしたらいいかわからない、どうしたいか分からない。その迷いを愛した。

 いつか、本心を打ち明けてくれたときの。その成長を愛した。

 

 その全てを知っているのは、千花だけだ。

 こうして寝顔を眺められるのも、その素肌に触れられるのも、指を絡めるのも。

 口づけるのも、愛を囁くのも、愛を営むのも、千花だけだ。

 

 でも、もし、それが他の人に向けられたら、と思うだけで。

 そんなことないはずなのに。

 苦しくなるなんて、そんな気持ちが自分の中に生まれたことを驚いたのだ。

 

 

 ――私にしか向けられなかった微笑みが、他の人に向いた。

 そこに恋愛感情はなくて、ただの友人関係でしかないのに。

 

 ――私にしか向けられなかった優しさが、他の人に向いた。

 そこに恋愛感情はなくて、ただの友人関係でしかないのに。

 

 (それでも、たまに、息苦しいのが。独占欲なんでしょうね)

 (――変わったのは、私もです)

 

 

 「…ちかせんぱい?」

 

 そんなことを考えながら髪を撫でていれば、薄く目を開けたのは幸だ。

 

 「あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたね」

 「んー。へいき、です」

 「まだ夜なので寝ちゃって大丈夫ですよ?」

 

 ちょっと寝起きが悪いことを知っているのも、私だけなのだ、と。そんなところに喜びを感じて。

 

 「ちかせんぱいは?」

 「私は目が冴えちゃったので」

 「じゃあおきます~」

 

 幸は体を起こして、眠気を覚ますように首を振った。

 

 「おっけー、です」

 「何をするって感じでもないですよ」

 「んーーー。おふろ?」

 「それは後にしましょ」

 

 まだ眠気がとれていないのか、小さくあくびをした幸を見て、千花は幸を抱き寄せた。

 特に抵抗もなくて、また2人してベッドに倒れる。

 上に乗る形になった、幸と目があった。

 

 何か会話をするでもなく、自然と口づける。

 

 何度か唇をくっつけては、離して。

 離しては、くっつけた。

 

 少し口を開いて、舌を迎え入れて。

 何度か絡めて。離して。

 

 指と指を絡めて。

 火照った肌と肌が更にくっついた気がして。

 

 千花は胸に小さな痛みを感じた。

 

 「たべちゃいました」

 「たべて、いいですよ」

 

 薄く歯形がつくぐらい噛まれて、その痛みさえ愛おしかった。

 胸の上あたりから、今度は首筋に。

 軽く吸われて、少しの間、痛みが続いて、赤い花が咲いた。

 

 「あした、やすみだから」

 「私も」

 

 返すように、首筋に口づけて。強めに吸ってみて。

 ついた――つけた、その痕に。

 赤く、咲いた、独占欲の象徴に。

 言いようのないほどに、心が満たされるのだ。

 

 「サチちゃん」

 「なんですか?」

 

 でも、まだ欲張りな心もあって。

 それに逆らう気はなかった。

 

 「もういっかい、しましょう」

 

 まずはまた、深く口づけた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。