冬休みも過ぎ去り、3学期へと突入した。
今日も今日とて幸は職員室での補講を終えてから生徒会室へと向かっていた。
廊下の途中の時点でわいわいと話し声が扉の先から聞こえて、また何か愉快なことをしているのだろうと察する。
「こんにちは」
「会長だぁいすき♡」
「えぇ…?」
幸が生徒会室へと入った瞬間、なぜかかぐやが白銀に向かって公開告白をしていたのだ。
これには流石に幸も困惑の表情を隠せない。
白銀は顔を赤くして、自分の頬をぶっ叩いた。
それを見て、えぇ…と再びなる幸。
「あ、サチくん!」
千花の声に次いで、皆がそれぞれに挨拶を返す。
この特殊すぎる状況の中、とても戸惑っていたのは幸だけであった。
「サチくんもやりましょうよ!」
「何をやっていたんですか?」
「愛してるゲームですよ!」
愛してるゲーム!!
ルールは簡単。「愛してる」という言葉を筆頭に、何かしらの好意を示して、それに相手が照れたら勝ちだというシンプルなゲームである。
千花がざっくりとルールを説明して、幸は頷いた。
ちなみに、ゲームであったことにとりあえず安心をした。
「僕は誰と戦えばいいんですか?」
「まずはルール確認がてら私にやってみてください!」
「わかりました」
生徒会の面々はその成り行きを見届けるために、注目する。
今のところ千花とかぐやの二強であり、石上は雑魚である。
「2人は付き合ってるんだから、愛してるぐらいじゃ照れないんじゃないか?」
「確かに、初花ですしね」
白銀の疑問も石上の同意も尤もなものであった。
普段から愛を囁かないようなシャイなカップルならまだしも、あの初花幸である。
どう考えても普段から愛を囁きまくってそうである。
「だからルール確認なんですよ!私だって言われるのが分かってたら照れません!」
「確かにそうだよなあ。お手並み拝見、ってところか」
そんな会話がなされている間、幸は下を向いていた。
周りから見れば、何を言うか考えているようには見えた、が。
顔を上げると、その目にはうっすらと涙が。
「その、確認をしたいんですけど」
「どうしたんですか?」
おずおずと言った幸に、千花は問いかける。
「このゲームをしたってことは、チカさんは皆に『愛してる』って言ったんですよね」
「まあ、多少は…言いましたね」
「僕がいないところで、そんなの酷いです…」
へこんだように、傷ついたように、涙を浮かべながら。
雲行きが怪しくなってきたのを、全員が感じ取った。
「わーーー!ごめんなさい!!」
「本当に僕のこと好きなんですか?」
「好きですよ!!疑っちゃ嫌です!!」
「一番、好きですか?」
「当たり前ですよ!」
ええ…一体何を見せられているんだろう、と他の面々は思った。
目の前でカップルが痴話喧嘩をし始めたのだ。
「僕のこと、愛してますか?」
「愛してます!!」
その言葉を聞いて、幸は笑顔になった。
そして、涙に濡れた瞳のまま告げるのだ。
「えへ。僕も愛してます――だから、あんまり他の人のこと見たら、イヤ、です」
儚い笑顔と共に。
ちょっとした独占欲を示した。
いつもと違うその様子に千花は赤くなって――
「はいどーん。チカさんの負けですね」
「え、ええ!?今の演技だったんですか?」
ケロっとした顔で勝ちを宣言したのは幸だ。
確かに千花は照れていた。
「ホントですよ…?あんまりそういうことしてると――」
今度は、首筋に顔を近づけて。
口を軽く開けて。
かぷり、なんて効果音が付きそうな感じで。
首筋に軽く、本当に軽く歯を立てた。
「――首輪、つけたくなっちゃいます」
「さ、さちくん…?」
「ふふっ。どーん、ですよ」
「今のは…?」
「本当かもしれませんし――どうでしょう。どっちが、良いですか?」
問いかけるその声は淫靡な響きを持っていて。
千花は更に赤くなった。
かぐやは、「なるほど。こうすれば…」と心で呟いて、また間違った性知識を手に入れた。
「初花さん!!!ふ、ふしだらです!禁止です!」
「…残念です。じゃあ、しょうがないですね」
伊井野の制止によってそれ以上エスカレートすることはなかったが。
千花はオーバーヒートして停止した。
「次は、どなたにいきますか?」
幸は、微笑んだ。それは強者の余裕すら感じさせるものである。
(やっべーーーラスボスじゃねーか!!)
白銀は焦る。
先ほど、千花からの攻撃を、悲しい回想で回避したばかりなのに、もっとヤベー奴が襲来したのだ。
正直言って滅茶苦茶エロかった。同じ性別とは考えられないほどの色気だった。
しかも割と狡猾である。一筋縄では済まないような攻撃をしてきそうで。
だから、白銀は。
「あー。石上が初級だ」
「会長!?」
石上を売り飛ばした。
「石上さんですか、それでは」
「な、何する気だ?」
すたすた、と石上に近づき。幸はその手を取った。
もうその時点で石上の心には恐怖が蔓延した。何をされるか分かったものではないのだ。
しかし、その心に反して、幸は目を真っ直ぐに合わせてシンプルに口を開いた。
「石上さん。僕、同い年の友達って出来たことがないんです。だから、石上さんとお友達になれて嬉しいんです。石上さん――だーいすき」
「は、初花っ!」
「どーん、ですよ?」
「あああああ!」
今度は絡め手なしの直球勝負である。
もちろん石上は負けた。
(石上、お前…)
(石上くん、情けないわよ)
あまりの石上の雑魚さに白銀とかぐやは心の中でちょっとだけディスった。こんなところでカップルの心が一致してしまったのだ。
「次は、どなたに?」
人差し指を唇に持っていき、あざといポーズを決めながら幸は問いかける。
それすらも絵になっていることからも、幸は自分の美貌をよく理解していた。
「あのー、私。言われてみたいです。いいですか?」
「もちろんです。それじゃあ」
立候補をしたのは伊井野だった。
素直に好意を示された2人を見て、ちょっとだけ羨ましくなったのだ。伊井野は褒められたがりである。
この承認欲求の魔物は自ら負けに行っていた。
「伊井野さんは偉いですね~」
特にひねりもないその言葉であったが。
幸は、伊井野の髪に手を伸ばして。
「頑張り屋さんですね~」
優しく、優しく、囁くように。
そして、ゆっくりと頭を撫でた。
「頑張れて偉いですよ~」
「素敵ですよ~」
「ほら、今は、ちょっとだけ休んじゃいましょ~」
「いい子いい子~」
「はうぅ…」
「ふふっ、どーん、です」
「…最高でした」
「いや、そういう企画じゃねーだろ」
「石上、うるさい」
「理不尽か!!」
伊井野は負けた。でも心情的には誰よりも勝っていた。最高に癒されたのである。
白銀は戦慄した。この後輩のあまりの強さにだ。的確に相手のツボをついていく圧倒的な強者である。
「次は…どうしますか?」
ラスボスが問いかける。
次は白銀かかぐやしか残されていない。
難易度順でいくなら、白銀だろう。かぐやは何だかんだで普段はポーカーフェイスが得意なのだから。
「次は、俺だな」
「御行先輩ですか。わかりました」
白銀は覚悟をした。
この勝負に負ければ、彼女が出来たばかりなのに同性にも照れてしまう節操なしの称号を得てしまうかもしれない。眼前の後輩を同性とカウントするのか審議が必要そうではあるが。
「それでは…」
「待ってー!ダメ!ダメですよ!!」
制止したのは千花だった。
オーバーヒートから復活したようである。
「サチくんそれ以上はダメです!」
「どうしたんですか?」
そもそもこのゲームに幸を誘ったのは千花である。
止めるのが千花なのは謎だ。
「あわよくば、沢山愛してるって言ってもらおうと思ってただけなんです!!だからそんな愛を振りまいちゃダメです!!」
「…こすいわ」
「かぐやさん!?」
その問答を聞いて、幸は微笑んだ。
「そういうことなら止めておきます――ふふ、チカさん」
歩み寄り、腕を絡める。
もう片方の手は千花の頭に添えて、唇を耳に寄せた。
「あいしてます、いちばん、だれよりも」
甘く、蕩けるように。耳元で囁く。溢れる愛情を乗せて。
「ちゃーんと、あいしてる、って」
「いくらでも、いってあげますね」
欲を煽るように。
たどたどしくも、ゆっくりと、沁み込ませるように。
「まんぞくするまで――ベッドで、ね?」
そして、小さく音を立てて、頬に口づけた。
それを見ていた、生徒会の面々は顔を赤くして――
「はい。みなさん、どーんですよ」
パチン、と手を叩いて。また幸は宣言した。
「…」
「うっわ!」
「はえ!?」
「あああ!またやられた!」
「良かった…冗談だったんですね…」
安堵するように、言葉を漏らした伊井野に。
「うーん。冗談かどうかは、チカさん次第…ですよ。ね?チカさん」
「うあああ!ごめんなさいー!!もう許してくださいー!!!」
千花は逃亡した。
勢いよく生徒会室の扉が閉じて、幸は皆の方へと向き直り、言った。
「逃げられちゃいました」
語尾に音符でも付いているかのように至極楽し気に、だ。
(藤原…強く生きろ)
白銀は放心しながらそんなことを思った。
――その日の夜、彼らがどうなったかは、分からないけれど。
愛してるゲームは一人のラスボスのせいで、生徒会において満場一致で禁止になった。
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あまりお礼も出来ていませんが、
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