――仲直り大作戦。
そんなちょっと頭の弱そうな作戦を2人は立案した。
幸の部屋で、2人はたくさん話をした。
幸のことも、千花のことも、お互いのことを教え合った。
――その時初めて、2人は本当の師弟になれたのかもしれない。
その作戦は当日に決行されることになった。
千花が幸の家に訪れたのはお昼過ぎ。
話し合いという名前の雑談が終わる頃にはおやつ時になっていた。
そして2人は生徒会室にいた。
もう他のメンバーはいない。
夕暮れの生徒会室、千花と幸だけが、この場にいる。
幸は片手にスマホを構えて、目を合わせて、頷いた。
何度かの呼び出し音が流れた後に。
『幸か。珍しいな、どうした』
初花司、その人であった。
『お父様、お願いがあります。聞いてくださいますか』
『あぁ、もちろんだ――何か困ったことでも?』
その声を前に聞いたのはいつだったか。
2人は家にいても、顔を合わせることすら少ない。
必要事項さえ使用人を通すことが多かった2人。
『秀知院学園、生徒会室へ来てくださいませんか』
『――どうして。そこへ』
『お話したいことがあります――どうしても』
『サチは、お父様に言わなければいけないことがあります』
千花が聞いたその声は、
今までで一番力のこもったもので。
『…分かった。少し待てるか』
『いつまででも、待っています』
電話を切って、千花と幸は再び目を合わせて、頷きあった。
「サチちゃん、大丈夫?」
「大丈夫じゃない、です」
言葉通りに少し顔色の優れない幸。
しかしその言葉を聞いて千花は笑った。
「――サチちゃん。素直になりましたね」
「もう師匠に、嘘はつきません」
「お父様にもその調子ですよ」
それから太陽は段々と低くなっていくなか、
2人は語り合い続けたのだ。
☆☆☆
初花司が秀知院学園に訪れたのは4か月振りのことであった。
以前来たのは自らを育ててくれたこの学び舎に、息子を入学させるためだ。
学力に問題はなかったものの、時期に問題はあった。
紆余曲折を経て無理やりねじ込んだのだ。
しかしこんなにも早くもう一度赴くことになるとは考えていなかった。
そして、思い出の生徒会室へ。
二十数年前と場所は変わっていない。
事務室で保護者の名札を受け取り、足早に向かう。
彼にとって、最愛の息子の珍しいお願いであったのだ。
扉が、見慣れた扉が見えてきた。昔から何も変わっていなかった。
いや、多少はボロくなったのは当たり前であったが。
扉の前には一人の女子生徒がいた。
「サチちゃんのお父様です、よね」
確信めいた声色をして、その女子生徒は問いかけた。
「あぁ、君は。幸の友達かな?」
「――私は、サチちゃんの師匠です」
師匠。それは司にとって懐かしい響きであった。
いつか彼の妻が息子に教え込んでいた。彼自身も師匠と呼ばれたものだ。
「そうか。君が――ありがとう。幸は君のおかげで昔のように、可愛くなっている」
使用人たちから息子の近況を聞くたびに、司は嬉しかった。
あの事故があって、前の学校で嫌な思いをして、ずっとふさぎ込んでいた息子が明るさを取り戻しつつあったからだ。
その話の中に出てきた息子の「友達」が彼女のことだったのだろうと察して感謝を伝えた。
司の言葉を聞いて、女子生徒は――千花は微笑んだ。
「実は私、不安だったんです。サチちゃんに色々勝手なこと言って、今日ここまで連れてきちゃったんです。でもお父様のその様子を見て安心しました」
「どういうことだい?」
「あとは――サチちゃんから聞いてください。きっとこの先は」
千花は扉を開いて、静かに宣言したのだ。
「ハッピーエンド――いいえ。ハッピーリスタート、ですよ」
☆☆☆
大きな窓を背にして幸は立っていた。
司の脳裏に浮かんだのは、あの日の情景だ。
彼と妻が結ばれた、あの日の。
キャンプファイヤーの音も、賑やかな声も聞こえないけれど。
彼と妻の間に天から贈られた宝物は、
夕焼けに照らされて、
本当に美しく育っていた。
「幸。着いたが――」
目と目があって息をのんだ。
あの日の、桜が乗り移ったかのような強い瞳に、視線を奪われる。
「お父様。伝えたいことがあります――聞いてくださいますか」
「――わかった」
ここ数年まともに目を合わせて来なかった。
遠巻きに見て、人づてに聞いてきた、改めて見た息子は。
彼の妻に本当にそっくりで、でもその瞳は、彼自身にそっくりだった。
「――サチは」
『――私』
あの日の妻と姿が重なって。
「お父様とお母様の子として生まれて幸せなのです」
『私、私!!!』
重ならないで。
「お父様、大好きです。愛しています」
『司。あなたを、愛してる。家柄も、何もかも釣り合ってないけど、待っていて、欲しい!!絶対にあなたの横に立て――』
桜と重なり。
「もう、待てません」
『無理だ、桜。俺は、待てない』
「今度はサチが、お父様を幸せにするのです」
『俺が――お前を幸せにする』
司と重なり。
「したいのです」
「聞かせてくださいお父様――気持ちを。サチは、このままでは嫌です」
――あの日の残響を超えて。届くのだ。
「やり直したいのです。親子を」
「お父様は嫌ですか、もうサチのことなど、嫌いですか!!!」
「それならそれで構わないです」
「サチは、サチは――お父様にもう1度愛させてみせます」
言い切って、言い切って。
そして、静寂が訪れて。
静かにそれは破られた。
「俺のことを恨んでいないのか」
「サチは、お父様を恨んだことなど生まれて一度もありません」
「あの日――新当主としてのお披露目に桜を連れ出したのは、俺だ。」
「病室で目を覚ましたとき、泣きはらした幸を見てどれだけ後悔をしたか。幸を見るたびに後悔の念が湧いた。いつも仕事ばかりで放りだしておいて、肝心な時に俺は母親を奪ったんだ――だから、恨まれても仕方ないと思っていた。もう俺の顔など見たくもないかと」
「お父様がサチを見てつらそうな顔をしているのは、お母様を思い出すからだと。だから顔を合わせないようにしたのです」
「あの日――サチはお母様を引き止めるべきだったのです。ずっと後悔していました」
「お父様も同じだったのですね――同じ後悔を抱えていたのですね」
わずかなすれ違いから始まった勘違いは、年月を経る毎に深くなっていった。
――でもそれが埋まるのは一瞬のことだった。
どちらともなく歩み寄って。
親子は抱きしめ合った。それは4年振りの抱擁だった。
「生まれてから、今もずっと俺たちの宝だ。嫌うことなど、あるものか」
「サチは――サチでいていいのですね。お父様とお母様の子どもでいて」
「当たり前だ。今まで悪かった。思い込みが激しいのは――本当に桜にそっくりだ。そして言葉足らずなのは――俺にそっくりだ」
「じゃあサチは、サチの大好きなもので出来ているのですね」
顔を見合わせて、笑いあった。
凍った時間は溶けて――少年は、笑い方を、思い出した。
☆☆☆
ぱちぱちぱち、と拍手が響いた。
「あ、師匠」
「ごめんなさい。やっぱり不安で聞き耳を立ててました――もう心配はなさそうですね!!」
ちょっと気まずそうに、しかし笑顔で千花は生徒会室へ入る。
「すまないな。君にも――いや、『師匠』にも感謝しなければな。ありがとう」
「サチちゃんのお父様にもそう言われるのはさすがに恥ずかしいですよ…」
「師匠が後押ししてくれたんですよ、お父様」
すっかり、外は暗くなっていた。
「お礼は後日改めてしよう――さて、もう遅い。『師匠』ももちろん家まで送っていこう。話の続きは車でしようか」
「はいっお父様!!」
「もー!!私は藤原千花です!!」
廊下へと足を踏み出した司であったが、それを聞いて一度止まる。
「藤原…?もしかして君の父上は」
「藤原大地といいますが、お父様を知っているんですか?」
「もちろんだ。仕事を共にすることも多くて――それはちょうどいい」
司は、いい笑顔を浮かべて、千花に提案をした。
「初花はそれなりの家だ。だが妻は天涯孤独の身でな。だから俺と妻が付き合う時は色々と面倒ごとがあって――さすがにあの面倒は子どもに経験して欲しくはない。本当に面倒だったんだ。つまりだ――いつでも、結婚していいぞ。千花さんならどこからも面倒な批判はでないだろう」
「へ?」
「お父様!!!」
「はははっ。それはまだ早いか。君になら俺も妻も安心して幸を任せることができそうだ――だが俺と妻は、俺が18になった日に結婚したからな。学生結婚ってやつだ」
思わぬところで四宮の調査に「如月」がひっかからなかった事実が明らかになる。
卒業時にはもう、「如月」は「初花」になっていたのだった。
☆☆☆
帰りの車の中では思い出話に花が咲いた。
司とて秀知院学園のOBなのだ。当時の学校の話はいくらでも出来た。
彼自身の話、妻の話、そして2人の出会いの話。
やがて、千花の家の前に着く。
千花の家の前で二人は、別れの挨拶をする。
明日からは夏休みだ。なかなか会う機会はないだろう。
そのはずだった。
「師匠、今日はありがとうございました。色々ありすぎて、実感はまだないけれど――僕は幸せです」
今までなら見られなかった柔らかな表情で幸は告げる。
「ふふっ。サチちゃんは成長しましたね。それじゃあもう師匠は解任ですか」
幸の隠された最終目標は、父親との和解だったのだ。
その目的を達した今、この師弟関係に意味はなくなってしまった。
「そうですね――でも僕、他にも教えて欲しいことができたんです」
「ほーほー!それじゃあ元師匠に聞かせてみなさい!元弟子よ」
「言ったらまた師匠になってくれますか?」
「私が教えられることならもちろんですよ!」
「じゃあ。教えて欲しいのは――」
いつもの調子で話を聞くために千花は前のめりになって、顔を近づける。
いつもの調子ではないのは幸だ。
両手で包むように、千花の頭を支えて。
――その頬に口づけた。
「――好きな人の、振り向かせ方、です」
「初めて会ったとき、笑顔に憧れました。こんな風に笑いたい、と」
「へ、へ?サチちゃん?」
「今はその笑顔に恋をしています。隣でずっと笑っていて欲しいです」
「大好きです。大好きなんです」
「チカ先輩に――愛されたいです。だから――ご教授、お願いしますね?」
告白と共に、幸は。
千花が今まで見た中で一番。
柔らかく、綺麗に、美しく、そして可愛く
今度は、片方が教え、片方が教わる一方的な関係ではない。
お互いに教え合う、師弟関係。
だって、2人とも恋愛経験は無なのだ。
そして師匠と弟子なんて、名ばかりの。
これは戦いだ。惚れさせる側と、惚れさせられる側の戦いだ。
――そう。これは。
『恋愛師弟戦』である――
「し、ししょうに、どーんと。ま、まかせていいですよ!!」
真っ赤な顔で放たれたその言葉は。
その宣言は、敗北宣言と同義ではあるけれど。
「告白は――奉心祭で改めてしたいです」
「…一緒に。シチュエーション、考えましょうね」
「はいっ!師匠!」
――初めて会った日の笑顔に惹かれたというのが、幸なら。
――初めて会った日の微笑に惹かれたのが、千花である。
戦の行き着く先は決まっているけれど。
ここに戦は開戦したのだ。
ある意味ここで一区切りです。(完結じゃないです!!)
一旦、ここまで読んでくださった皆さんありがとうございます。
たくさんの方に読んでもらえてとても嬉しいです。
ここまでの約3万文字は、長々と
オリ主(とその周りの関係)の紹介をしてきた感じになりました。
これから原作のエピソードに幸ちゃんを絡ませていく予定となります。
土日の更新はできないので、
来週の平日、どこかから更新することになると思います。
その時、また読んでくださったら嬉しいです!
まとめとして↓にここまでのオリ主紹介。
初花 幸(ハツハナ サチ)
性別:男性
部活動:未加入
誕生日:???
血液型:A型
身体的特徴:クール系お姫様→???
家族構成:父・(母)
どこかの国のクォーター(恐らく)。
強かな母と実直な父に愛をこれでもかと注がれて育てられた。
見た目は母似だが、目だけは父似。
両親が事故に遭ってから、自分のせいで父がつらい思いをしていると思い込み、自分を隠すようになった。
高校に入り、「このままではダメ」という思いが零れ、千花に弟子入り。
その結果、無事に仲直り?に成功。
本来の性格を抑えていた部分があり、
本来は周りの全てを愛するようなお姫様系お姫様。愛され上手。
これからきっと少しずつ元の性格が戻ってくる…はず。
かぐやと同じで、「本物の愛」だとか言うのに抵抗がないのに加えて、
人に「大好き」とか「愛してる」とか言うのに微塵も抵抗がない。
圧倒的な才女であった母と、努力上手の父のそれぞれ良いところを引き継いだ。
結果色々と能力が高いが、その設定が活かされる日が来るかは謎。