【8】四宮かぐや と 恋バナ
秀知院学園は夏休みに入った。
この夏休み、生徒会メンバーはそれぞれの形で夏を満喫していたのだ。ただまあ、心から満喫出来ているかは、謎ではあったが。
さて、そんな中、子どもの頃から世話をしてくれている使用人兼運転手と、仲直りしたばかりの父親の目の前で盛大に愛の告白をした初花幸少年の話である。
そんな彼は、意中の少女と仲を深めるために、夏を共に過ごして――おらず。別の先輩の家でもてなされていた。
「それでは始めましょうか。如月さん――いえ、初花さん」
「そう呼んでくださるとうれしいです。学園の方にも、これからは初花と名乗るように連絡しましたので」
今まで直系の後継者がいなかった初花家。
そこに稲妻のごとく、一瞬にして現れた、直系の後継者。
そう――初花幸は初花家次期当主として鮮烈なデビューを果たしていたのだ。
「ふふっ。あなたの登場で四宮の本家はとても荒れていますよ。いい気味です。あなたのお父様もなかなか人が悪いのね」
直系の相応しい後継者がいない場合、近い血の者から優秀な者を養子にして後継者とする、そもそも統括する家を変えてしまうなど様々な策がとられる。だが、何にせよある程度の争いは避けられないのだ。
初花の力は今、最盛期である。先代当主が総理を務め、現当主はここ数百年で最も優秀と言われ、その影響力を日々増しているのだ。
だからこそ、後継者問題というのは絶好の付け入るチャンスであった。他の四大財閥――特に四宮家にとって、自らの力を増す絶好のチャンス、そのはずだった。
「初花家の後継者問題は火種を抱えている『ように見えた』。しかし、あなたの登場と同時に、傍系の家全てがその次期当主の座を即座に承認――ぐらついて見えていたのは外見だけ、とんだピエロだわ」
「初花家におけるお父様の影響力は絶大です。身寄りのなかったお母様との婚約をそのままで成就させるぐらいですから」
「そうね――あなたのお母様はどこの養子にもならずにそのまま嫁いだ。情熱的ですこと――それはもう羨ましいぐらいに」
いわゆる「上流」と「普通」の人が結婚する場合、ある程度名のある家に養子で迎え入れてから、結婚をするのだ。家柄ロンダリングとでも呼ぶべきか。
しかし初花司はそんな慣例すら破り、全ての文句を黙らせて、そのままの「如月桜」と結婚をしたのだ。大層情熱的な話である。
「そんな優秀なお父様に次期当主と推される初花幸さんはどんな爪を隠しているのかしら」
「僕はまだ雛鳥ですよ――爪なんて生えそろっていない程の」
「そんな軽いものではないことぐらい、お互い痛いほど理解しているはずですけれど――四大『財閥』次期当主の座は」
ピリピリとした空気が流れる。
まるで一触即発の会話に聞こえたそれであったが。
幸はにっこりと笑顔を浮かべ。
近くに控えていた早坂は耐えられず吹き出した。
「ふふっ、四宮先輩。どーん」
「ええええー!何なの私のワード!何よ『財閥』って!初花さんも同じじゃない!ねえ早坂!!」
「二人とも同じワードというのも趣深いかと思いまして」
いつか生徒会で行ったNGワードゲームを行っていた。NGワードを考えたのは早坂であり、2人両方に『財閥』の紙を持たせて戦わせていたのだった。
「どうりで話題に付き合ってくれると思った…私、このゲーム弱いのかしら」
「かぐや様は変なところで素直すぎるところがありますので」
なぜこんなことになったのか。
そもそもの始まりは幸が生徒会メンバーの家を訪れて「心配かけてごめんなさい」をしていたからだった。まずは白銀の家、次に石上の家、そして最後にかぐやの家を訪れた。
そして夏休み暇すぎて暇すぎて、あまりに暇を持て余したかぐやが暇つぶしとして幸に1学期の生徒会の思い出を語り始めたのだ。
『藤原さんにこのゲームで負けたのが未だに納得できません』
『負けたんですか?確かにチカ先輩はこういうゲーム得意ですよね』
『…いつから名前で呼ぶように?師匠はどこへ?』
『ヒミツです。師匠は師匠ですよ?』
『――勝負をしましょう。私が勝ったら全て吐いて頂きます』
『――受けて立ちます。お母様とお父様をあらゆる遊びで叩きのめしてきた僕は強いですよ』
そんな会話があってから、このゲームは始まったのだが。
「僕が勝った時の条件がなかったですね」
「…そうね。何が欲しいの?兄の弱みとかかしら?」
「財閥の話からはもう離れていいんですよ」
「どーん…どーん…」
目を濁らせながらかぐやは呟く。
師弟に揃って負けたせいで彼女の自信は崩壊していた。
「初花様の女性関係の話を求めたのですから、かぐや様の男性関係の話をするのが釣り合いがとれて丁度いいかと」
「早坂!?」
早坂は疲れていた。夏休みに入ってから毎日のように会長からの連絡を待ち、自分から行動をしない主の愚痴を聞くのに疲れていたのだ。
だからちょっとその役目を後輩に押し付けてやろう、ぐらいの気持ちであった。
「白銀先輩の話ですか。いいですね。それでは、いつ告白をするのですか?」
「ちょっと初花さん?私の男性関係、それだけでなぜ会長になるのですか」
「――好きですよね?」
「そりゃあ会長のことは憎からず思っていますけど?仮に、仮にですよ。好きだったとして四宮の者が自分から告白など」
「愛を伝えるのに、家柄が関係あるんですか?ロミオとジュリエットだって周りから認められなくても愛を伝えあってるんです――愛してると伝えることの、なんと尊いことでしょうか」
早坂はびびった。
この後輩のあまりの押しの強さにびびったのだ。ちょっとからかってやろう、ぐらいの気持ちのはずだったのに。
「もーーー!!そんなこと言うんなら初花さんは告白出来るんですか?そうやって自分はできるよみたいな雰囲気だしておいていざ本番になったら出来ないんですよね!?ね!?大体あ、あい、愛してる…なんてよくそんな恥ずかし気もなく言えますね!!いっそ今から大好きな師匠に告白でもしてきてくださいよ!!!」
夏の暑さと大好きな会長に会えない鬱憤のせいで、かぐやは頭がおかしくなっていた。
いつもの10倍饒舌である。
「告白――しましたよ」
「はれぇ?」
「は!?!?」
思わず早坂も割り込んだ。彼女とて思春期真っただ中の高校生である。
そんなコイバナは聞き逃せなかった。
「じょ、冗談ですよね?ほら、師匠として大好き―とかそんな感じの」
「いいえ」
「なんかこう、秘密を伝える感じの告白とか」
「いいえ」
「――愛の告白?」
「はい」
かぐやは停止した。
早坂の顔はなぜか真っ赤になった。
「返事は、奉心祭で貰います」
「ほんとう…なんですね」
「はい。四宮先輩。――その件で僕は四宮先輩に感謝しているんです」
『しかし嫌なところ、弱いところ。そんなものが多少あった程度で揺らぐもの、それは愛なのですか。違うでしょう?全てひっくるめて愛せるのが本物では?』
『だからこそ――自分のダメなところを含めて、すべて愛させなさい』
思い出される言葉――それはいつか、2人が生徒会室で語り合った時の言葉だ。
「以前かけてくれた言葉が、お父様に向き合う時の、そしてチカ先輩に告白をする時の勇気になりました」
「だから、恩返しをしたいのです」
「――協力を、させてください」
それは、とても真っ直ぐな言葉だった。
言葉の裏の裏を読むかぐやにとって、眩しいほどの真心だった。
「ねえ、初花さん」
「はい。なんでしょうか?」
「ちょっと…ちょっとよ?恋愛などは関係なくです…すこーしだけ素敵と思っている人から、良く思われたいのは普通よね?」
早坂は目を見開いて、かぐやを見た。あの主が、多少ではあれ素直になるなど。
そしてそれを聞いて、幸は微笑んだ。
「もちろん。普通の気持ちです」
「じゃあお願いするわ――どんな浴衣が好きか、聞いておいて欲しいの」
「はい!お任せください!」
Q.なんで早坂は特に変装とかしていないの?
A.四大財閥同士はお互いがお互いに情報を探り合っているので、ハーサカ=早坂愛という情報を掴んでいて、掴まれている側もそれを承知しているので特に隠していない、という捏造設定だからです。