虎徹勇音は説明を聞き終えた後、その内容を紙へとまとめた物を四番隊隊士に配るための準備に取り掛かるため執務室出ていった。
そうして執務室には望月転理と卯ノ花烈が残った。
「望月さん」
「どうかしたか卯ノ花さん」
「大丈夫なんですね」
卯ノ花烈の言葉を受けた転理は一瞬のうちに始解し周囲の霊子を完全に支配した。そして支配した霊子を使い完全に外界との接触の無い異界へと執務室を変貌させた。
「何か合図でもくれよ
「今はその名は名乗っていません。烈とでも呼んでください」
「あー、すまん。つい昔の癖で呼んじまった。“烈”これでいいか」
「ええ、やちるはもう他の方の名前ですから」
転理はつい呼んでしまった名前を謝り、霊子を操り二つの椅子と机を作り出し煙管を取り出しながら腰掛けた。
卯ノ花烈は湯飲みとかりんとうを転理と自分の前に置き椅子に腰掛けた。
「ああ、確か今の剣八の」
「ええ、あの子の名付けだそうで」
「嬉しそうだな烈」
「そうですね。それだけ意識しているということですから」
転理は話を聞きながら煙管の火皿に霊子で作った刻みたばこを詰め霊子を操ることで火を着けゆっくりと喫った。
卯ノ花烈は何処か懐かしそうにその様子を見ていた。
「相も変わらず不思議な香りですね貴方の煙草は」
「俺が作り出すのは霊草や薬草も混ぜた特別製だからな。まあ、麒麟寺にはあまり好まれなかったがお前はそんなに嫌ってなかっただろ」
「ええ、普通の煙草の香り等より好きですね」
「まあ、俺が好きなように作ったから材料費と希少性が馬鹿みたいに高くなったがな」
「確かその煙草を欲しがる方に譲っていましたね」
「俺にとっては
そう言いながら転理は喫い終わった灰を霊子にほどいていった。
そして、煙管を片手で弄びながら卯ノ花烈に問い掛けた。
「で、どうして急にそんなこと言い出した」
「壊れたはずの斬魄刀があるのです。不審に思うでしょう」
「そこまで伝わってたのか。それなら不審に思われても仕方ないか」
「それで大丈夫なのですね」
転理は卯ノ花烈のもう一度の問いに苦笑いを浮かべ答えた。
「寝ても問題ない程度には」
「それは、千年前よりは大丈夫そうですね」
「それでも気は抜けないが、生きてきた中で一番問題ない程度には大丈夫だ」
卯ノ花烈は聞き終わると湯飲みを持ちお茶を飲んだ。
転理はそれを見てかりんとうを食べ始めた。
「それにしても意外だったな。お前がいくら不信に思ったとはいえ、元柳斎が確認していない訳がないと知っているだろうに」
「そうですね。総隊長が救護の要である四番隊に貴方を任せた以上は問題無いと判断されたからでしょう。ですが、貴方の能力は勇音や四番隊隊士にとっては危険過ぎる。であれば、四番隊を預かる者として聞く必要があるでしょう?」
「───」
卯ノ花烈の言葉に転理は湯飲みに伸ばしていた手を止め目を見開いた。
「わかっていたが実際に見ると衝撃が凄いな。お前が誰かを気遣う様は」
「そうですか?昔から変わらないと思いますが」
「冗談にもならないことを言うなよ烈。本当に気遣っていたと言うなら十一番隊の頃の隊士の名前を誰でもいいから挙げてみろ」
「それは……」
「だろうな。まあ、顔を見れば思い出すかも知れんが、いきなり言われて思い出せる程興味もってなかったからな。だからこそ、さっきの言葉に驚いたんだが」
「どうやら私は千年前から大きく変わっているようですね」
卯ノ花烈は自分の変化を実感しているようだった。
転理は卯ノ花烈の様子を愉しそうに観ていた。
そして、湯飲みのお茶がなくなる程度の時間が経った頃、転理は片手で弄んでいた煙管で軽く机を叩き音を鳴すことで意識を切り替えると。
「それじゃあ、秘密にした方がいいかもしれない話も終わったことだし。そろそろ俺がしなくちゃいけないことの確認をしていきますか」
「ええ、そうしましょうか。貴方を一番隊ではなく四番隊に配置した。総隊長はなにやら急いで治療体制を強化したい御様子です。何かを感じているのかもしれません」
「みたいだな。まあ、俺をいきなり御膝下である一番隊に置かない辺り大規模な戦争位は見越してるかもしれないな」
「であれば、出来るだけ早く貴方を組み込んだ組織の再編が必要ですね。貴方を普通の隊士と同じ扱いにしては預かった意味がありません」
「なら、出来るだけ早く馴染めるように回道の矯正教室を開く許可をくれ」
「いいでしょう。雑用等の振り分けも調整してより長く回道の訓練を出来るように手配しなければいけませんね」
「ああ、となると護廷十三隊全体での───」
時間の許す限り話し合われた内容は未来を大きく変えることはなくとも。
少しだけいい方向へと未来を変え始めた。
それは、ただの死神ではない
いずれ来る敵への強みになることを今の段階では誰も知らない。