魔法つかいプリキュア! 〜勇者イサム伝説〜【凍結】   作:秋葉ばっこ

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お久しぶりです。
性懲りもなく戻ってきてしまいました。

アニメでいうところのAパートは、2020年に書き溜めたもの。Bパートから新規で書き下ろしているので、少し書き方が変わってたりするかもしれません。他人からしたらどうでもいいか……表記ブレや誤字があったら、ドシドシ報告して欲しいです。

執筆自体が久しぶりすぎて、よくわからない回になってしまったでござる。
まあ、とりあえずどうぞ。
 


LEVEL03:商店街で超展開!?目覚めるルビーの力!

『あら、みらい? 魔法つかいは見つかったの?』

 

 魔法の水晶から聞こえてくる声の主は、みらいの祖母である結希かの子だ。

 勇たちが覗きこむ水晶には、電話越し(?)にみらいを気にかけている彼女の姿が写っている。

 どう返答したらいいものか、みらいは小さく唸って、

 

「見つかったっていうか……わたしもなれちゃいそうなの!」

『えっ?』

「魔法つかいのリコちゃんに会って、ネコがワンって喋って。ほうきで空を飛んで。それからそれから色々あって──」

 

 当然、テレビ電話ではない為に、こちらの姿は相手に伝わっていない。

 だがしかし、みらいは忙しない身振り手振りで事の次第を話している。

 そんな様子を見て呆れたのか、リコはやれやれと肩をすくめた。その両隣では、校長と勇がそれぞれ微笑を浮かべている。

 

「……とにかく色々あって! おばあちゃん、わたし入りたいの! 魔法学校に!」

 

 勇を除いた面々の表情が、険しいものとなった。

 本題はここからだ。突拍子もないみらいの懇願に、結希かの子がどう出るのかが、今後の話し合いを左右する。

 みらいとリコは口を結び、そわそわと浮き足立ったままだ。

 断られたらどうしようか。彼女たちの頭の中は万が一のことでたくさんだった。

 それから、短い沈黙があって。

 

『そうかい』

 

 返ってきた返答は意外にも、彼女たちだけではなく、授業を申し出た校長にとっても望ましいものであった。てっきり、適当にあしらわれてしまうとばかり。

 かの子は優しい声音で続けた。

 

『みらいが決めたことなんでしょ? 応援するよ』

「わああ~……! やったあっ!」

「モフ~!」

 

 机の上で大人しくしていたモフルンも、みらいに抱きつき喜び合う。

 

『お父さんとお母さんには言っておくから。がんばりなさい』

「ありがとう、おばあちゃんっ!」

 

 かの子は受話器を片手に微笑む。傍からすれば、あられもない宙へと向けているように見える彼女の眼差しが、不思議とこちらにいるみらいを見据えているかのように思えた。

 ある程度の話もついたところで、みらいが電話(?)を切り上げる。

 静観に徹していたのか、手を頭の後ろで組み佇んでいる勇へと、リコの声がかかった。

 

「次はあなたの番ね」

「俺も?」

 

 家族に連絡をするようにと、リコが催促するのだが、

 

「ん、俺はいいかな」

「いいってことはないでしょう。あなたにも、あなたの帰りを待ってくれている人が」

()()()()

「……っ」

 

 瞬間、時間が凍りついたかのように静寂がおとずれた。

 食い気味に放たれたその言葉を聞いて、リコはなにも答えられなくなってしまう。

 しばらくして、いたたまれない空気を察した勇が「あ~……」と、人差し指で頬を掻きながら。

 

「家には誰もいないんだ、今。しばらく誰も帰ってこないだろうし……まあ大丈夫かな、はは」

 

 言いながら、勇は伏し目がちに視線を逸らした。

 気のせいだろうか? はにかんでいるはずの彼の表情が、どことなく寂しそうに感じられるのは。

 海底のように静まり返った部屋の中。どう声をかければいいものか、とモフルンを抱いたままのみらいが固唾を呑み込む。

 

「……そう」

 

 出会ったばかりの自分が、とやかく追求していいものではない。

 

 そう思ったリコは、尻すぼみに相槌を打つことしかできなかった。

 一方で、校長はその様子を沈黙を守ったまま見据えていた。勇の持つ本と、ダイヤに続き出現した『リンクルストーン・オパール』に、じっと思いを巡らせながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法界にやってきてから驚きの連続だ。何度驚こうとも、飽きを感じさせないとでも言わんばかりに、気づけば青天の霹靂が訪れる。

 髪を撫でていく風がとても心地いい。みらいと勇は床に手をつき、身を乗り出す勢いで大空からの景色を堪能していた。

 

「おお~……! 魔法のじゅうたん、ワクワクもんだ~っ!」

「ひゃっほ~! たか~い、すご~い!」

 

 子供同然にはしゃぐ二人の傍では、ぽよぽよとモフルンが弾んでいる。

 魔法のほうきだけでなく、魔法の絨毯までもが存在するなんて。

 操縦しているのは、津成木駅の魔法界・魔法学校行きのホームにもいた働きもののお化け。操行にハンドルを用いるのはどうかと思うが、ここまで来れば野暮というものか。

 むつまじい雰囲気に肩の荷が下りたのだろう。めっきり言葉数を減らしていたリコが、ふと先程の出来事を振り返る。

 

「それにしても、よく許してくれたわね」

「おばあちゃん、いつもわたしを信じてくれるんだ。だからなんでも正直に話せるの」

 

 すぐ隣にいたリコへと振り返り、みらいは嬉しそうに答えた。

 なにか感慨深いものがあるのか、リコは少しだけ目を伏せてから、優しくふうんと答える。

 

「リコちゃん、ありがとね」

「えっ……?」

「買い物に付き合ってくれて!」

 

 こうして彼女たちが離れ島にある街へと向かっているのは、ほうきやら学生服やら──これからの学業に必要になるであろう必需品や、魔法に関するアイテムを買い揃えるためだ。

 にこにこと礼を言うみらいに、リコはツンとした態度で返す。

 

「……校長先生に頼まれたから。それに、わたしも補習授業の準備があるし」

 

 そう言って、リコは傍らにある魔法のほうきへと目をやった。

 ボロボロとまではいかないが、三人乗りなどの無茶をしていたせいか、細かい傷がよく目立っている。穂先も乱雑に暴れてしまっていて、素人目にもメンテナンスが必要だとわかるだろう。

 それからすぐのことだった。数十秒も経たないうちに、モフルンが大きい声を発して立ち上がったのは。

 

「モフ、街が見えてきたモフ!」

「うわあ〜……おっきい場所だなあ〜!」

 

 モフルンと勇に続き、みらいも感嘆の声を漏らしている。

 魔法界の中心にそびえ立つ魔法樹──魔法学校が鎮座する島ほどではないが、空の道中でちらほらと視界の隅に映っていた島々と比べれば、その大きさは瞭然だ。

 

「ちなみにあれ、ぜ~んぶお店だから」

 

 彼女が言うには、眼下に広がる巨大な繁華街には、あらゆる魔法の道具が揃っているのだとか。

 魔法界の住人たちは、この場所を『魔法商店街』と呼び慕っているらしい。期待に胸を弾ませるネーミングに、勇たちは目を輝かせた。

 まだかまだか、と待ちきれない二人をリコがなだめている。忙しない彼らを乗せる絨毯は、ゆっくりと商店街の広場へと降り立った。

 

「「……まねきねこ?」」

「モフ~」

 

 到着して一番に目がついたのは、広場の中心にある大きな猫の銅像だった。その下で、勇とみらいが小首をかしげる。

 魔法つかいを象徴するのであろう、可愛らしいケープを羽織っている猫の右手には、どこか年代を感じさせるランプが握られていた。

 不思議とそれに視線が吸い寄せられる。ランプに灯る炎を見ていると、胸の奥からなにか暖かいものが湧いてくるような。

 揺らめく灯火に勇が釘付けになっていると、リコが同じように銅像を見上げながら言った。

 

「この像は街のシンボルでね。『情熱の炎』を守っているの」

「情熱の炎……って、この猫が持ってるランプの?」

 

 勇がそう尋ねると、

 

「この街には古い伝説があるんじゃ」

「フックさん!」

 

 いつの間にか彼らの背後に立っていた、ひとりの老人がそう答えてくれた。

 リコと面識があるようで、彼女からフックと呼ばれたその人物は、淡々と『情熱の炎』について語り始める。

 

「その昔、この街が深い闇に覆われた時のことじゃ。光を失い、街は荒れ果て、人々が輝きを失いかけた──その時!」

「ゴクリ……」

 

 街のシンボルだけあって話慣れているのだろう。すらすらと言葉巧みに語られる伝説に、勇はすっかり聞き入ってしまっている。

 そんな彼の反応に手応えを感じつつ、クライマックスと言わんばかりの抑揚で、フックは続けた。

 

「突然、炎が吹き出した! 炎は人々の心に希望、そして情熱をもたらしたのじゃ。闇は消え、街は再び活気を取り戻したそうな……炎は人々の情熱を宿し、今でもこうして燃え続けておる!」

「おお~っ! かっくいい~っ!」

 

 拍手喝采(しているのは勇だけだが)が起こった。

 また、みらいも再び興味深そうに情熱の炎を見上げている。

 

「お嬢さん、反応のいいお坊ちゃん。ペガサス横丁の伝説もまたすごいぞ!」

「ペガサス横丁!? 聞きたい聞きたいっ!」

「おお、そんなに聞きたいか! まだ若いのに見所あるのう。では、遥か昔……」

「ああ、もうっ……!」

 

 放っておけばいつまでも入れ込んでいそうだ。

 見かねたリコが割って入り、勇の手を引っ張り連れ出そうとする。

 

「買い物があるからいかないと! ほら、行くわよっ!」

「ええっ、まだ始まったばかりなのに」

「わがまま言わないの! フックさんてば、話し始めたら止まらないんだから」

「は~い……」

 

 不服ながらに了承する勇のその姿は、まるで親に叱られた子供そのものだ。単にリコが世話焼きなだけなのかもしれないが。

 そんな微笑ましい光景に、みらいが目を細めていると。彼女の腕の中にいたモフルンが、くんくんと鼻を鳴らして。

 

「甘いにおいがするモフ~」

 

 勇たちはモフルンの言葉に立ち止まり、周囲を見渡す。

 体ごと回すようにして広場に視線を走らせるが、特に変わった様子は見受けられない。強いていえば、フックが名残惜しそうにこちらを見つめているぐらいだろう。

 

「あっ、あれじゃない?」

 

 みらいの視線の先には、移動式の売店からわたあめを受け取る子供の姿があった。

 魔法界にもわたあめが? ……ともかく、キラキラと存在感を放つそれは、奇々なことに少年の手の中でふわふわと漂っていて。

 

 じゅるり。

 

「「「おいしそ~っ!!」」」

「もう、お菓子食べに来たんじゃないから!」

 

 保護者(リコ)の苦難は、まだしばらく続きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「商店街で一番腕がいいと評判の、フランソワさんの服屋よ」

「「おお~……!」」

 

 店先のショーケースに並んだ服は、勇たちの元いた世界でも流通していそうな衣類から、魔法つかいが常用しているローブなどと様々な品ぞろえだ。

 

「腕はいいんだけど……」

 

 リコは複雑そうな面持ちで店の扉を開いた。

 

「リコちゃあああん!! いらっしゃ~い!!」

「う、ど、どうも……」

 

 開口一番……いや、邂逅一番と言うべきか。

 店内に入った瞬間これだ。頬に手を当ててくねくねと出迎えてくれているのが、恐らく話に出たフランソワその人だろう。

 あまりの勢いに、リコは思わず後ろへと身を引いてしまっていた。

 そんな彼女をよそに、勇とみらいはというと、

 

「わあ~っ」

「あのローブ、かっこいいなあ」

 

 特に気にしていない様子で、店内をふよふよと浮かんでいる品々に夢中になっていた。

 そんな二人の存在に気づいたらしい。フランソワは軽い前傾姿勢になると、彼らの装いを観察ながらに称賛し始める。

 

「まあ、ナシマホウ界のお洋服じゃな~い! センスいいわね~!」

 

 近くで見れば見るほど、長身と細身の目立つ女性(?)だ。切り替えの早さも相まって、勇とみらいもたじろいでしまう。

 

「それに……」

 

 フランソワは次に、覗き込むようにしてみらいの持つモフルンへと顔を近づけた。

 

「あらかわいい~!」

「モフルンモフ!」

「キイエアアアアアアアアアアッ!!? 喋ったあああああ!!」

 

 店内に、絶叫とも黄色い声ともとれる、耳朶をつんざくようなフランソワの声が響き渡った。

 その叫びとは裏腹に、みらいから掠めとる勢いでモフルンを掲げたかと思えば、華麗なピルエットまで魅せる始末。洗練されたその動きは、現役のバレエ選手に引けを取らないまである。

 

「この子、喋れるのねえ! ふわっふわでキュートねえ~~~ん!」

「ぐる゛じい゛モ゛ブ~!」

 

 掴みどころがよくわからないが、悪人ではなさそうだ。モフルンに頬ずりしているフランソワを見ながら、勇はそう思った。

 そんな彼女(?)の言葉が気になったのか、苦しそうに呻くモフルンを横目に、みらいがリコへと問いかける。

 

「ねえリコちゃん、ナシマホウ界ってなに?」

「あなたたちが住んでる世界を、魔法界ではそう呼んでるの」

「そうなんだ」

 

 と、いけない。またもや本来の目的から脱線してしまっていた。

 リコは両手を広げると、自分の世界に浸っているフランソワへと訴えかけるように。

 

「あの、この子たちに魔法学校の制服を!」

 

 それを聞いた途端。

 フランソワはポイ、とモフルンを手放して。

 

「校長先生から話は聞いてるわよっ!」

 

 彼女(?)は片目を瞑りウィンクを飛ばすと、得意げに魔法の杖を取り出した。

 持ち手は糸巻きに似た形状をしていて、先端は縫い針のように鋭く尖っている。扱いを間違えれば怪我をしてしまいそうだ。

 

「さあ、素敵な制服を仕立てるわよ! キュアップ・ラパパ~、採寸なさい!」

 

 魔法の合言葉を皮切りに、洋裁道具がひとりでに動き出す。

 

「キュアップ・ラパパ~。チョキチョキ、縫い縫いよ~!」

 

 リコが言っていた通り、腕は確かなものらしい。採寸から縫製まで、文字通りあっという間に済ませてしまったのだから驚きだ。

 

「うわあっ……! 素敵~!」

「それに、とっても動きやすいよこれ!」

 

 数分後には、リコと同じレイヤード風のワンピースに身を包んだみらいが。

 そして、彼女たちの赤やピンク色とは違い、青を基調とした制服とズボンを着用した勇の姿が、姿見に写っていた。

 

「二人共、お似合いよ~!」

「可愛いモフ~!」

 

 うんうん、とリコも無言のまま頷いている。

 

「さあて、あなたには~……これがいいわ!」

 

 再びフランソワが洋裁道具を操ると、すぐにぬいぐるみ一個分が入る大きさの、可愛らしい肩掛けのポシェットが完成した。

 スポン、とみらいの持つポシェットへと飛び込んだモフルンが、フランソワに感謝の意を示す。

 

「ありがとうモフ~!」

「「ありがとうございますっ!」」

 

 続いて、勇とみらいも元気よく頭を下げた。

 

「いいの? サービスしちゃって」

「──」

 

 リコの横やりに答えるように、フランソワが杖を振るう。すると、ふわりと糸をつけた針が浮かび上がり、立ち尽くしているリコの周囲を漂い始めた。

 

「ちょ、ちょっと……?」

 

 ほつれている袖のボタンを直しながら、フランソワがからかうように。

 

「またほうきで落ちたでしょ?」

「お、落ちてないしっ!」

「女の子は身だしなみが大切よ? もちろん、男の子もね」

「……ありがとう」

 

 リコが気恥ずかしそうに礼を述べると、フランソワは上機嫌にウィンクを送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法学校のとある一室で、校長は誰かに語りかけるようにぽつりと呟く。

 

「魔法界とナシマホウ界。二つの世界の少年少女の出会いがリンクルストーン・ダイヤ……そしてリンクルストーン・オパールの目醒めを呼び、その輝きが彼らをプリキュアへと導いた」

 

 そしてリンクルステッキまで、と付け加える。

 

「伝説とされている存在が、次々に我々の前に現れつつある……」

 

 彼は机上にある水晶へと、おもむろに両手をかざし言った。

 

「魔法の水晶よ、答えよ。全ての出来事はあの力へと繋がっているのだろうか」

『──あの力。リンクルストーン・エメラルドのことですね?』

 

 彼の問いかけに答えるのは、淡い光と共に水晶に浮かび上がった黒い魔女のシルエット。

 校長が頷くと、ちょうどのタイミングで教頭が姿を現した。その表情には柔らかみがなく、どこか焦燥を感じさせるいかつさがある。

 彼女は腰に手を当て、水晶に目を向けたままの校長へと問いかけた。

 

「校長先生。ナシマホウ界の子はどうなりましたか?」

「ああ、教頭か。それなら」

『お買い物しているところですわ』

 

 先程のシルエットはなりを潜め、魔法の水晶には商店街を談笑しながら歩く勇たちの姿が映し出される。

 教頭はそれらの光景が信じられないといった様子で、目を丸くしていた。

 リコはともかくとして、ナシマホウ界から来た二人まで。問題はそれだけではない。彼らが身につけているのは──

 

「魔法学校の制服っ!? まさか……!?」

「ああ。入学させようかと」

「なんてことをっ……! 本校始まって以来の大事件ですよ、これは……!」

 

 血相を変え唸る教頭。そんな彼女の反応とはあべこべに、校長はやんややんやと愉快げに、水晶に映る景色に見入るのだった。

 物語の舞台は、果物屋の前で客引きを受けている勇たちの元へと戻る。

 

「キュアップ・ラパパ! 溶けろ~い!」

 

 店員が詠唱と同時に魔法の杖をかざすと、みかんを覆っていた氷がしゅわああ、と冷気と共に溶けていった。

 以前リコに見せてもらった魔法とは違い、みかんの皮を剥いただけではなく、身がひとつひとつに分かれて食べやすくなっている。

 一連の動作を勇たちが眺めていると、

 

「ひとつ食べていきなよ」

「いいんですか? ちょっと硬いけど美味しいんだよね~……わあ、柔らかくて美味しいっ!」

「固くないモフ~」

「はは、硬いのは解凍魔法の失敗だよ」

 

 店員がそう返すと、リコは不満げに「わたしは失敗してないし!」とぼやいた。

 試しに彼女も一粒食べてみるが、予想以上に美味しかったらしく、思わず汗をにじませる。これもこれでありだ、と強気に構えていたが。

 同じく咀嚼を終えた勇が、小さく漏らす。

 

「ん、俺は固めのほうが好きだな」

「魔法学校の校長先生みたいなこと言うんだね、キミ。あの人は氷のまま食べちゃうんだけど……」

「へえ、今度やってみようっと」

「やめなさい!」

 

 リコに軽くはたかれながら、勇は解凍されたみかんをもう一口頬張った。

 ……やはりなにか物足りない。今度から冷凍みかんを食べる時は、リコに魔法をかけてもらおう。

 そんなことを考えていると、店員が呆れたようにぼやく。

 

「しっかし、校長先生もいい歳だろうに歯が丈夫だよねえ。見た目も若いんだけどさ」

「ふぇ、いい歳?」

「見た目も若いって……」

 

 みらいと勇が口々に疑問を唱えていると、リコがお茶目に答えた。

 

「校長先生の年齢はナゾ。魔法学校の七不思議のひとつよ」

 

 二人の脳内に、うましうましと冷凍みかんを噛み砕く校長のイメージが浮かび上がる。

 言われてみれば、容姿と言動が噛み合っていないというか。それだけでも気になるというのに、残り六つの七不思議とやらはいったい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に勇たちが向かったのは『グスタフ魔法ほうき店』。

 みらいはリコが持っているものと同じ、初心者用のほうきを目利きしてもらい、リコもまたほうきの修繕を依頼した。

 それらのメンテナンスが終わるまで、と現在彼らは水場に囲まれた小さな広場のベンチに腰を下ろし、魔法のわたあめを味わっている。

 口いっぱいにわたあめを頬張り、ハムスターのようになっている勇へとみらいが尋ねた。

 

「それにしても、イサムくんはよかったの?」

ふぁうわ(なにが)?」

「ほうき。校長先生がお願いしてくれてたの、わたしの分だけだったみたいだから……」

 

 みらいの言う通り、グスタフが手がけてくれているものの中に、勇のものとなるほうきはなかった。彼女がばつが悪そうにしているのはその為だろう。

 校長が伝え忘れたのかもしれないと思ったが、話を聞いてみるとなんと、名指しで用意する必要はないと頼まれたのだそうだ。

 考える素振りもなく、勇はわたあめを飲み込みながら答えた。

 

「ゴクンッ……まあいいんじゃない? だって俺、魔法の杖も持ってないしさ。ほうきだけあってもしょうがないよ」

 

 言われてみれば、とみらいとリコははっとする。

 みらいという例外もあるが、魔法の杖とは本来、魔法界の住人全員が当たり前に所持しているもの。それを持たない勇には魔法を使うことも、ましてや魔法のほうきを扱うことなどできない。

 それらを踏まえ承知した上で、勇はあえて魔法界に残る選択をしたのだ。

 みらいは胸を撫で下ろすが、新たに生じた疑問に首をかしげる。

 

「けど、校長先生はイサムくんにも授業を受けて欲しいって言ってたよね? どうしてだろう」

「確かに妙ね。杖もほうきも使えないのに、彼まで一緒にだなんて……」

 

 リコはわたあめを平らげる勇を一瞥し、みらいと同様に腰を据えて考える。

 

「気にしすぎだって。大丈夫だよ、俺にはなんたって呪文があるし! いざとなったら空でもなんでも飛んじゃうもんね!」

 

 考え込む二人を安心させようと、勇は力こぶを作るジェスチャーでアピールした。空いている手の中には、例の呪文とやらが記されている本が握られている。

 何も考えていないというか、楽観的というか。説得力は皆無でも、彼なら本当になんとかしてしまいそうなのだから困る。

 

「とにかくさ、これで俺とみらいも魔法つかいの仲間入りってことだよね!」

「むう、道具が揃っただけじゃ魔法は使えないわ。それならわたしだって、苦労してない……」

「リコちゃん?」

 

 段々と口ごもっていくリコの名を、みらいが心配そうに呼んだ。

 すると、浮かばない表情を浮かべていたリコが、静かに口を開き始める。

 

「わたし、聞いたの」

 

 彼女の話を要約してみれば、そう遠くない内にリンクルストーン・エメラルドが復活し、ナシマホウ界に現れるかもしれないのだという。

 加えて、絶大な力をエメラルドが秘めていると同時に、闇の魔法つかい──恐らくバッティたちが狙っているとも。

 校長と魔法の水晶が話しているのを、部屋の前を通りかかったリコが、偶然にも聞いてしまったらしい。

 

「エメラルドを見つければ、校長先生やみんなに認めてもらえる立派な魔法つかいになれるって思ったの」

 

 だから勇たちの住むナシマホウ界へと来たのだ、とリコは続けた。

 ひととおり話終えると、みらいが突然立ち上がって。

 

「すごいなあ、リコちゃんは!」

「えっ……?」

「知らない世界に、たったひとりで飛び込んで。叶えたい夢があるんだもん!」

「ま、まあね……」

 

 みらいは両手を広げ褒めそやす。

 心の底からの励ましに、リコは嬉しそうに口元をほころばせた。

 

「でも、立派な魔法つかいって、どんな魔法つかいなの?」

「それは……それより、あなたは? 夢とか目標とかはないの?」

「決まってない、というか。あんまり考えたことなかったかも……」

 

 でも、とみらいは付け足して。

 

「リコちゃんみたいに、なにか見つけたいな!」

「そ、そう。それで……あなたはどうなの?」

 

 すっかり照れくさくなり、リコは大人しくしていた勇へと話を振った。

 すると、彼は待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。

 懐から取り出したリンクルストーン・オパールを空に向けるように掲げると、勇は恥ずかしげもなく自身の夢を謳った。

 

「俺はね、勇者になりたいんだ!」

 

 ──ああ、そういえば。

 初めて自分たちがプリキュアになった時。バッティ率いるヨクバールに襲われていた際にも、似たようなことを言っていたのを、二人は思い出す。

 

「イサムくんの言う勇者って、ゲームや漫画に出てくる?」

「うん。俺もいつかは、世界を救うような勇者になるんだ! 絶対にね!」

 

 彼の言葉はいつだって嘘混じりけのない、晴れ渡る快晴のように澄み切ったものだった。だからこそ、目指している目標もまた本当なのだろう。

 あの屈託のない眼差しを見れば、誰しもが一概に言えなくなってしまうだろう。馬鹿げてはいるが、笑い事にもできないと。

 

 ……そう、笑ってはいけないのだ。

 例え、口元に食べカスをくっつけていたとしても!

 

「ぷ、ふふ……あはははっ! もう無理っ……!」

「ふふ、ちょっと。笑っちゃ失礼よ……くふっ」

 

 最初にダムを決壊させたのはみらいだった。

 続いて吹き出してしまうリコに、勇は唇を尖らせ不満を垂らす。

 

「二人とも酷いよ! 人がせっかく真面目に喋ってるのに!」

「だってあなた、お弁当つけてるんだものっ……! あははっ!」

「え、あ、本当だ! どうして言ってくれなかったのさ!」

 

 人並みの羞恥心は持ち合わせているようで、ほんのりと頬を紅潮させながら、勇が珍しく不機嫌に腕を組んだ。

 それもすぐに鳴りを潜め、彼は手元のリンクルストーンに再び目を落とす。

 

「せっかくプリキュアになったんだもん。この力を人の為に役立てたいんだ」

 

 ──まただ。

 家族に連絡する必要はないと言い切った時と同じ、遠い目。リンクルストーンを通して、どこか遠くの情景を見ているかのような、郷愁の眼差し。

 

「ねえ、どうしてイサムくんは勇者に──」

 

 なりたいの? と、みらいが言いかけた時だった。

 どこからか伸びてきた二本の白線が、リンクルストーンを持つ勇の腕にまとわりつき、もう一方がみらいの首に下がるリンクルストーン・ダイヤを奪い取ったのは。

 

「ああ〜っ!?」

「え、ちょ、うわわわ──っ!?」

 

 二本の白線──大きな糸のようなものは、蛇腹に蠢きしなると、あっという間に飛んできた方向へと引っ込んでいく。当然、片腕を掴まれたままの勇と一緒に。

 みらいとリコは顔を合わせ頷くと、慌てて彼の姿を追いかけ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法商店街を駆け抜けていく。

 

「待て〜っ!」

 

 彼女たちが向かう先には、黒装束に身を包み、妖しげな笑みを浮かべる人物の姿があった。不可解な点を挙げるとすれば、その人物が屋根の縁に逆さまに立っていることだろうか。

 二人が妙な既視感を覚えていると、黒装束の人物が口を開いた。

 

「こいつがダイヤ。で、こっちが話に聞いていた、オパールのリンクルストーンとやらかい」

「リンクルストーンとイサムくんを返して!」

「こんな小娘共に手こずるとは、バッティも情けないねえ……」

 

 みらいたちにとっての仇敵であるバッティ。

 そんな彼の悪態をつく人物の隣では、糸でぐるぐる巻きにされた勇がぶら下がっていて。

 

「俺、わたあめみたいになっちゃった。なはは」

「案外、平気そうね……」

 

 わたあめというよりかは、蜘蛛の巣にかかってしまった、小さな羽虫のよう。

 勇はじたばたと暴れてみせるが、しっかりと手足の動きを封じられているらしく、糸に包まれた体がただただ揺れ動くだけ。とてもじゃないが脱出は厳しそうだ。

 

「いくら前回の更新から時間が経ってるからって、こんなのってないよ〜っ!」

 

 少年の悲痛な叫びはさておき。

 奇抜な登場の仕方といい、バッティの名前といい、なにか嫌な感じがする。

 そんな予感を裏付けるように。上下逆転している人物が、身にまとった黒装束を翻しながら、みらいとリコの前に降り立った。

 

「アンタたちなら知ってるよねェ。このスパルダにエメラルドの在り処を教えなッ!」

 

 スパルダと名乗った、闇の魔法つかいの姿があらわになる。

 濃鼠色の肌。胸部や腕、下腹部や足を覆い隠す体毛からは、おおよそ人間とは思えない、鋭利な漆黒の棘が見え隠れしていた。

 これならバッティの方がよほど人間らしい。ひと目で人外だとわかる禍々しい外見に、リコがたじろぎながら。

 

「っ、そんなの、こっちが知──」

「教えないっ!」

 

 言い切るよりも先に、みらいが声を張った。

 

「人のものを盗るなんて……! 知ってたとしても、絶対に教えないっ!!」

 

 必死の剣幕で訴える彼女の頬には、汗が滲んでいる。

 それにも関わらず、みらいは眼前の恐怖に尻込むよりも、リンクルストーンを奪われたことに対する憤りを選んでみせた。

 そんな決死とした明言にも、スパルダは一切動じることなく、それどころか口角を大きく歪ませて。

 

「立場がわかってないようだねえ。アンタたちに選択の余地はないのよ」

「この感じ……やばいっ! みらい、リコ、早くここから離れ──!」

 

 言葉尻に、周囲に漂うエネルギーが渦を巻き始める。

 勇が二人に退避を呼びかけるも、時は既に遅く。

 

「魔法入りました! いでよ、ヨクバールッ!」

『ヨクバールッ!!』

 

 どこにでも落ちていそうな石ころと、冷凍みかんをすり混ぜたかのような、巨大な怪物がその場に顕現した。

 人々が行き交う道とはいえ、ここには様々な店が立ち並んでいる。閉鎖的空間にヨクバールを無理やり召喚したことで、周囲の建物はおろか、勇がぶら下がっている塔までもが巨体に耐えきれず、倒壊を始めてしまう。

 

「きゃあ……!」

「ううっ……!」

「でえええ──っ!? やばいやばい〜っ!」

 

 ヨクバールが誕生した衝撃で、みらいとリコが倒れ込んだ。倒壊に巻き込まれているであろう、勇の絶叫も聞こえてくるが、それどころてはない。

 しばらくして、ヨクバールが巻き起こった砂塵を吹き飛ばし、彼女たちの前へと姿を現した。

 

 ──大きい。

 

 冷凍みかんの左右を守るようにして、荒々しい岩肌がコーティングされている。

 注目すべきは、そのマッシブな手足だ。岩石をそのまま削り取ったかのような四肢が、一際大きな存在感を放つ。猛威がそのまま歩いていると言っていい。

 

『ヨクバーッ!』

 

 有無を言わさず、ヨクバールが豪腕を振るう。

 それだけで、魔法商店街にある建物の数々が、ただの瓦礫と化していった。

 呆然と立ち尽くすみらいとリコの周りから、次第に喧騒が湧き上がる。ヨクバールに怯え惑う、魔法界の住人たちの金切り声だ。

 

「フフ、魔法はこうやって使うのさ!」

 

 してやったり、とでも言うように、スパルダは続ける。

 

「──こんなもんじゃない。ドクロクシー様がエメラルドの力を手にすれば、世界を暗黒に……全てを闇が覆うッ……! 心が踊るだろう?」

「そんな……!」

「モフ……」

 

 なお破壊の限りを尽くすヨクバールが、雄叫びを上げた。

 

「しかし、逃げるだけとはねえ。情けない連中だよ」

 

 何も出来ずにいるみらいたちをおちょくるように、スパルダが挑発めいた言葉を、避難に徹する人々へと投げかける。

 これ以上の狼藉は見過ごせない。みらいとリコは変身すべく、お互いの手を握ろうとするが。

 

「リコちゃん……!」

「モフ、みらいのダイヤがないと、プリキュアにはなれないモフ!」

「……っ!」

 

 モフルンの言う通り、リンクルストーン・ダイヤはスパルダの手にある。

 加えて、リンクルストーン・オパールの持ち主である少年は、瓦礫に埋もれ行方不明。危惧すべきプリキュアの存在は封じたも同然だ。

 息を呑んでいるみらいを、冷酷を孕んだ眼で一瞥すると、スパルダはヨクバールへと指示を仰いだ。

 

『ギョイ……!』

 

 筋肉質な手足が引っ込む。両サイドの岩に蓋をされ、ヨクバールは巨大な石巌となって襲いかかってきた。

 

「「きゃあああ〜っ!!」」

 

 塵埃(じんあい)を撒き散らしながら転がるヨクバールに、変身できない二人は逃げおおせるべく、悲鳴交じりに走ることしかできない。

 このまま進めば行き止まりだ。彼女たちは押しつぶされまいと、左方に繋がる曲がり角へと、進行方向を紆曲させた。

 

「はあ、はあ……ここって……」

「情熱の炎があった広場モフ!」

 

 必死に逃げているうちに、初めに訪れた場所へと戻ってきてしまったらしい。

 息を整える間もなく、ヨクバールがみらいたちの背後を取る。スパルダも前方に立ち塞がったことで、完全に挟み撃ちの形になってしまった。

 

「フフ、逃がさないよ」

 

 スパルダの糸で出来ているのだろう。周囲を見渡してみれば、街中の上空を覆うようにして、文字通りの包囲網が張り巡らされていた。

 ほうきをメンテナンスに預けているリコやみらいはともかく、これでは魔法商店街の人々までもが逃げられない。

 立ちすくむ彼女たちへと、スパルダが言い放つ。

 

「エメラルドの在り処を言わないのであれば、この街ごと消してやろうか?」

「──っ、うう……!」

 

 万事休すか。

 リコは己の悔しさに震えながら、来た道を振り返った。

 

「──」

 

 あれほどまで活気に賑わっていた街が、人々が、今や見る影もない。ここにあるのは、災厄に取り憑かれているかのような惨状だけ。

 リコの脳裏に、子供のころから慣れ親しんできた人々の顔が、しきりに浮かんでは消えていく。

 

「──!」

 

 これ以上、思い出を見捨てるような真似は出来ない。彼女の拳に力が入る。

 痺れを切らしたスパルダが、二人を問い詰めた。

 

「さあ、どこだいッ!」

「だからあなたには──」

「絶対に教えないっ!!」

 

 まるで、先程の焼き直しをしているかのようだ。

 前回との相違点は、怒りのままに啖呵を切ったのが、みらいではなくリコであるということ。

 

「わたしの大切な、みんなの街に……なんてことしてくれるのよ──っ!!」

 

 彼女に──いや、リコだけではない。二人の想いに呼応するかの如く、街の中心に灯る『情熱の炎』が激しさを増す。

 辺りが紅色に照らされていく中、スパルダは手元のリンクルストーン・ダイヤと、オパールをチラつかせながら。

 

「フン、今更どうしようっていうんだい」

「くんくん……甘いにおいがするモフ!」

 

 その瞬間、十字の閃光が瞬いた。

 光の柱が立ち上ると、街を覆い隠す糸が、触れたそばから焼き尽くされていく。

 煌めきの中心では、金のフレームに形どられた赤色の宝石が、少女たちの新たなる門出を、今か今かと待ち望んでいた。

 

「──いくわよ!」

「うんっ!」

 

 差し伸べられたリコの手を握ると、みらいは力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、積み上げられた瓦礫の山の中で、少年が独り唸っていた。

 

「ぐぐっ……! 変身さえできれば、こんなの簡単に抜け出せるのにィ……!」

 

 ここから脱出するのもそうだが、まずはこの拘束をどうにかしなくては。

 イモムシのようになっている現状、手足は当然使えない。となればやはり、呪文を使って束縛を解くほかにない。

 

火炎呪文(メラ)は──ダメかも。火だるまになっちゃうよね、多分」

 

 思いつきで動くのはまずい。瓦礫の外にいれば話は変わってくるが、閉じ込められている現状で炎など使えば、そのまま酸欠に陥る危険もある。

 試していたかもしれない未来を想起し、顔を真っ青にした勇が、ぶんぶんと首を振る。

 

「うう、どうすればいいんだよお……」

 

 手を動かせれば、氷系呪文(ヒャド)の応用で、氷のナイフを造るなど出来たかもしれないが。

 ……こうなれば仕方がない。多少の自爆ダメージを覚悟で、真空呪文(バギ)を唱えよう。拘束を緩めるぐらいは可能な筈だ。

 

「よ、ようし、真空呪文(バギ)だ──っ!」

 

 勇を起点に、小さなかまいたちが周囲に発生する。

 恐怖が幸いしたのか、出てきた真空は微小なものだった。これならば切り傷も浅く済む。

 

「いいぞ、このまま調整していって……ああもう、じれったいなあ!」

 

 ちんたらと待っていられるか。今この瞬間にも、みらいやリコは、あのヨクバールに襲われているかもしれないというのに。

 我慢できずに魔法力を全開にした結果、行き場を失ったそれが暴発を起こし──瞬間、スパルダの糸ごと瓦礫を吹き飛ばした。

 爆発の中心地で、黒焦げになった勇が、黒煙混じりの咳を吐き出す。

 

「ゲホ、ゲホッ……! な、なんだ今の!?」

 

 呪文が爆発した。

 いや違う、爆発を起こす呪文なのか──?

 

「──って、考えてる場合じゃなかった。みらいとリコを探さないと!」

 

 すっかり焦げついてしまい、アフロとなった髪型を整えながら、勇が勢いよく走り出した。

 不思議と、彼女たちが今いる場所がわかる。リンクルストーン・ルビーが発する力を、無意識に感じ取っていたのかもしれない。

 直感が導くままに足を動かしてみれば、あっという間に商店街の中心へとたどり着いた。

 

「あそこにいるのは──ミラクルとマジカル!?」

 

 驚く勇の視線の先では、燃え上がるような赤を基調とした、新たなる衣装に身を包んだ二人のプリキュア──ルビースタイルの姿があった。

 

「二人の奇跡、キュアミラクル!」

「二人の魔法、キュアマジカル!」

『魔法つかいプリキュア!』

 

 それぞれツインテールになっていたりと、ダイヤスタイルとは細かい差異が多々あるが、それよりも。

 

「──へ、変身しただと!?」

 

 おののくスパルダを横目に、遠くからミラクルたちを見守っていたモフルンへと近づき、勇が耳打ちする。

 

「ねえモフルン、あれは一体……」

「ルビーのプリキュアモフ〜! ルビーが新しい力をくれたモフ!」

「ルビー……へえ、ダイヤ以外にも、変身できるリンクルストーンがあるんだね! 格好いいなあ〜!」

 

 しばらくの間、きゃっきゃと勇がはしゃいでいると、

 

「い、行け、ヨクバールッ!」

『ギョイ──ッ!!』

 

 ヨクバールが再び手足の生えた姿へと変貌し、禍々しい双眸を煌然と輝かせ、上空へとその巨体を跳ばした。点が巨影となり、ミラクルとマジカルを闇に濡らす。

 まずい。あのままでは、二人が押しつぶされてしまう──!

 

「ミラクル、マジカル──ッ!!」

 

 衝撃に巻き込まれぬよう、モフルンを抱えた勇が叫んだ。

 せせら笑うスパルダの声が聞こえ、思わず彼は歯噛みする。

 

「イサム、あれを見るモフ!」

「え、あっ……!?」

 

 勇が驚いたのは、ミラクルたちが押し負けてしまったからではない。

 ……その逆だ。なんと二人はヨクバールを受け止めるだけでなく、溢れんばかりのパワーで跳ね返してしまったのである。

 

「凄い力モフ!」

 

 あのパワーがあれば、ヨクバールを倒すことができるかもしれない。

 ならば、こちらもやれることをやろう。そう思った勇はモフルンを地面に降ろすと、スパルダへと睨みをきかせた。

 吹き飛ばされたヨクバールがスパルダへと迫る。彼女はミイラ取りにならぬよう、後ろに跳躍しながら右手を突き出す。

 

「──ハッ!」

 

 吐き出された糸を巧みに操り、ヨクバールを退けるつもりなのだろう。

 

「させるかっ!」

「何──!?」

 

 勇がすかさず真空呪文(バギ)を放ち、連続した円で構成された即席の投網を、バラバラに切り裂いた。

 衝撃を殺すことはかなわず、ヨクバールはそのままの勢いで、スパルダへと突っ込んでいく。

 

「チッ……!」

 

 ──が、彼女が被弾することはなかった。

 彼女は遠方へと新たに糸を撃ち込み、無理やりに縮ませることで、器用にも自身を遠ざけ回避したのだ。

 

「なんだってんだい、今の変な魔法は……!」

「バッティって奴に聞かなかったの? 例え変身出来なくても、俺には呪文ってのがあるんだよ」

「──!」

 

 逃げた先には、呪文の書を片手に立ち塞がる、勇の姿があった。

 力を封じ込めたとばかり。バッティが報告を怠っていたのもそうだが、目の前の少年の言動が、あまりにも鼻につく。何故なら、

 

「ダイヤにオパール……と、よかった。どっちも無事だ」

 

 どさくさに乗じて、自分が奪った筈のリンクルストーンを、どちらも取り返されてしまったからだ。

 咄嗟にヨクバールから避けた際にでも落としてしまったか。なんにせよ、スパルダにとっては屈辱以外のなにものでもない。

 

「このガキが……! リンクルストーンをこっちに渡しな!」

「へへ〜んだ、絶対に嫌だもんね〜!」

 

 勇はべろべろばあ、と舌を出しながら、モフルンがいる場所へと戻っていく。

 逆上したスパルダが、青筋を立てながら彼の後を追おうとするが、勇の新たな呪文がそれを許さない。

 突如として発生した小規模の爆発に阻まれ、スパルダがたまらず後ずさる。

 

爆裂呪文(イオ)ってとこかな」

「チィ、またしても──!」

 

 それと同時に、勇のおっとりとした顔つきが、厳めしいものへと変わった。

 次は牽制だけではすまない。そう言わんばかりに、彼が手のひらをかざすと。

 

『プリキュア! ルビー・パッショナーレ!』

『ヨクバ〜ル……』

 

 ルビーによる光の奔流が、ヨクバールを貫いた。

 プリキュアの二人がヨクバールを浄化したことで、勇が我に返る。

 

「グウ……! プリキュア、そして小僧ッ……!!」

 

 怒りに震え、プリキュアの二人と勇を睨めつけるスパルダ。

 最後まで怒りに顔を歪めたまま、彼女は「オボエテーロ!」と言い残し、去っていった。

 途端、ヨクバールに破壊されてしまった街並みが、まるで何事もなかったかのように修繕されていく。

 戦いを終えたミラクルとマジカルを労うべく、勇が駆け寄──

 

「まさか、アレは……!」

 

 ──ろうとした所で、あることに気づく。

 広場の周りが、いつの間にかたくさんの見物客で賑わっていたのだ。

 今日会ったばかりではあるが、話好きのフックを始めとした、見知った顔ばかりが並んでいる。これはまずいかもしれない。

 

「伝説の魔法つかい、プリキュア──!?」

 

 ……ああ、やっぱりか。

 フックの発言を皮切りに、たちまち口喧しさが増していく。生ける伝説を目の当たりにすれば、こうなってしまうのも仕方がない。

 さて、この場をどう切り抜ければいいものか。ミラクルに至っては、何をすべきかわからず困り果てたのか、観客に手を振りファンサービスまでする始末。

 

「ど、どうも〜……あはは……」

「な、なにしてるのっ、行くわよ……!」

 

 マジカルに半ば強引に連れられ、ミラクルは人気のない場所へと跳び去っていった。

 

「置いていかないで欲しいモフ〜」

「そうだよ。待ってよ、二人とも……って……?」

 

 広場に残された勇とモフルンに、注目という名の視線が集まる。

 

「あの子って、リコちゃんたちと一緒にいた……?」

「おお、聞き上手の坊ちゃんじゃないか!」

「そういや、うちの店にも来てたな」

 

 さああ、と血の気が引いていく。

 

 ひょっとしなくても、この後に待っているのは質問攻めだったり……?

 

 マジカルの反応からして、みらいとリコがプリキュアであることはバレてはいけないらしい。

 人々からもみくちゃにされる想像の末、彼がとった行動とは。

 

「──()透明化呪文(レムオル)っ!!」

 

 燃費がいい割には使い道がない、と高を括っていたこの呪文を唱える日が来ようとは。

 何が起こるかわからないパルプンテ同様、勇がみらいたちと出会う前から覚えていた、用途不明の呪文シリーズである。

 

「に、逃げるよモフルン! この呪文は一分しか効果がないんだ……!」

「モフ〜! 急いでみらいたちと合流するモフ〜!」

 

 その場から人間(とぬいぐるみ)が消えてしまったことで、蜂の巣をつついたような騒音が連鎖していく。

 そんな姦しいざわめきを掻き分け、勇はモフルンを抱き抱えたまま、ミラクルたちが向かった先へと消えていくのだった。

 

 いや、もう消えているのだったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イサムは レベル4に あがった! ▼ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回のステータス

 

イサム

 

せいべつ:おとこ

レベル:3

 

最大HP:34

最大MP:21

 

ちから:17

みのまもり:10

すばやさ:10

たいりょく:15

かしこさ:10

うんのよさ:255

攻撃力:17

防御力:12

EXP:90

 

そうび

E:普段着 防+2

E:呪文の書

 

じゅもん

・メラ

・バギ

・ヒャド

・イオ

・パルプンテ

・レムオル




爆裂呪文(イオ) 消費MP5
小さな爆発を起こし、敵全体にダメージを与える。
今回は呪文の書からではなく、咄嗟の行動から発現し覚えた呪文。
低レベルの癖に、呪文の習得スピードが早過ぎないか?

透明化呪文(レムオル) 消費MP1
しばらく透明状態になる。
一分間で効果が消えるのは、今作オリジナルの設定。絶対に薄い本のような展開にはさせないという、強い意志を感じる。

勇くんがただただ、スパルダからヘイトを買うだけの回になってしまった。
物語としてはまだ序盤だし、まあ……

木剣は前回折れてしまったので、今回は出番なし。
それどころか変身すらさせてあげられなかった。
ルビースタイルお披露目回なんだから許せ!俺TUEEEEEさせたいわけじゃないねん!


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次回はそのうち。
早ければ今月中。遅くて10年後。

オリ主との絡みが見たいメンバー(あなたの推し)は?

  • 朝日奈みらい
  • 十六夜リコ
  • 花海ことは
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