デビルサマナー葛葉ライドウ 対 帝国華撃団(仮)   作:おおがみしょーい

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取り合えず思い浮かんだシーンを


邂逅

 上野公園、その太く古い桜の古木の前で二人は邂逅した。

 満開の桜である。

 いくら蒸気機関が発達したこの太正の世だとしても、深夜に近い公園は漆黒の闇に包まれている。

 しかし、そんな闇の中でも、月明かりに照らされた桜の古木の姿ははっきりと見る事が出来た。

 風もないのに花びらが散り始めている。風ではなく、花びらが自らの重みで枝から離れているのである。

 そんな桜の花びらが舞い散る中で、真宮寺さくらと漆黒の外套を着た男は視線を交わしていた。

 

「加代さんをこのようにしたのはあなたですか?」

 

 さくらは傍らにぐったりと生気のない様子で倒れている女性――行方不明の依頼を受けて探していた――加代に目を向けながら外套の男に問いかけた。

 

「……違う」

 

 男は静かに、しかし、はっきりと否定の言葉を発する。

 その声は落ちついてはいるが、想像以上に若い男の声だった。

 

「じゃあ、加代さんが何故ここで倒れているか、知っていますか?」

 

 さくらは質問を変えて問いかけた。

 

「……」

 

 男はその問いに対して、沈黙で返してきた。

 

 短い問答のなかだが、さくらは半ばこの目の前の男が、一連の事件に関係があるであろうことを確信していた。

 

「あたしはこの帝都の治安を守るものです、一緒に来ていただけませんか?」

「……断る、といったら?」

 

 そんな男の返答に、

 

「力づくでも……」

 

 そう言ってさくらは黒い瞳で真っ直ぐに、闇から溶け出てきたかのような外套の男を、見据える。その双眸には帝都を守る帝国華撃団としての矜持が点っていた。

 男はそんなさくらの視線を揺らぐことなく受け止めている。

 

 意を決し、さくらは、すっ……と腰を落とした。

 自らの愛刀である『霊剣荒鷹』を腰に据え

 

「ふぅぅぅぅ……」

 

 と、口をすぼめて息を吐く。

 北辰一刀流、居合の構えだ。

 息と共に、恐れ、不安、力み……様々なものが抜け落ちていくのがわかる。そして、改めて目の前の男――よくみれば少年のようだ――に目をやる。

 

 漆黒の外套を着た少年だ、

 その外套から覗く衣服もまた黒一色。それはよく見ると學生の着る詰襟の學生服であるのがわかる、それ故の黒一色。また、頭には同色の學生帽。しかしながらその鍔下からのぞく貌は、衣服に対して白蓮なほどに白かった。白い芍薬を思わせる肌の色だ。

 目張りを施されたかのようなハッキリとした切れ目の双眸は何処までも鋭く、眉は細い柳葉。すっきりと鼻筋が通っていて、陶器を連想させる艶やかな頬には、そこに不釣り合いなほどにピンと鋭角に尖った揉上げが張り付いていた。『白顔の美少年』と呼ぶにふさわしい容貌である。しかし、そんな役者の様な容貌ながら、ひどく大人びた、しんとした静謐がその少年の周囲を包んでいる。

 

 少年の身体が、ゆらりと揺らめいたように見えた。

 するり、と柔らかく刀が抜かれていた。

 構えはとらず、切っ先はだらりと地面を向いている。

 少年はただ、立っていた。静かな水の面のように、構えもせずにたっていた。

 

 気配がない。

 

 さくらは早くなりそうな動悸を抑え、相手を観察しながら、そのことを感じていた。

 共に白刃を抜きあっている。

白刃を抜きあって向き合えば、いやでも緊張する。緊張は、身体を強ばらせ、動きを硬くするが、その緊張は、うまく扱えば気迫へと変化し、動きに、力と疾さを生むことになる。

 緊張を力に変えた時、自ずと、その気配が立ち姿から届いてくる。

 それが届いてこないのだ。

 人が、この様な境地に立つことが可能なのか。

 可能である、と少年の立ち姿が言っている。

 

 のまれるな! ――相手の水の面にさざ波をたてるのだ

 

 さくらは自らを鼓舞すると

 

「喝っーー!!」

 

 裂帛を轟かせた。

 

「北辰一刀流 免許 真宮寺さくら――まいります」

 

 そう名乗ると、すっ……と身体を少年の方へと滑るように歩を進めていった。

 

「……葛葉ライドウ」

 

 白顔の少年――ライドウもさくらの名乗りを受けるように呟くと、さくらと同じ速さで歩を進め始めた。

 

 間合いが詰まる――

 

 ぴたり、と二人の動きが止まった。

 

 互いに間合いの際についたのだ。

 もう半歩、踏み出せば互いの刃が、互いの身体に届く。そんな距離で二人は止まっていた。

 二人の間の空気がぴん、と張り詰める。

 ぱんぱんに空気の詰まった風船に少しづつ、少しづつ、空気を入れこむように、二人の間の空気が、張り詰めていく。

 そして、その風船が割れる寸前に――

 

 き゛ぇ゛え゛え゛え゛ん゛!゛!゛

 

 人とも獣とも違う叫び声と共に、闇から何かが二人に襲い掛かってきた。

 

「しっ!」

 

 それにいち早く対応したのはライドウだった。

 ライドウはすぐさまその間合いから半歩後ろに下がると同時に踵を返し、鳴き声の主を一刀のもとに切り伏せる

 

「降魔?!」

 

 一呼吸程遅れてさくらも倒れた加代守るように闇に向けて刃を振るう。

 闇夜に紛れているが、明らかに人でも獣でもない異形のものを二人は切り伏せていく。

 

「さくらくん!! どこだ!!」

 

 向こうで大神が自分を呼ぶ声が聞こえた。

 

「大神さん、こっちです! 加代さんもいます!!」

 

 さくらは刀を振りながら、精一杯の声を張り上げた。

 その直後、複数の気配がこちらに向かって走ってくるのを感じた。

 

 ……き゛ぇ゛き゛ぇ゛

 

 その気配を察したのか、異形のものはちりぢりに闇に消えていった。

 

「……」

 

 それを見届けたライドウは刀をおさめると踵を返す。

 

「まって!」

 

 加代を一人にすることが出来ず、その場を動けないさくらは、ライドウの背中に声を投げるが、ライドウは振り向かずに闇へと溶けていった。

 

 ――にゃあ

 

 ライドウの後ろを、どこにいたのか翠色の眸をした黒猫が後を追うように走っていく。

 

「さくらくん、大丈夫か!」

 

 そしてその直後、仲間たちがさくらの元に駆け寄ってきた

 

「大神さん……はい、大丈夫です。 加代さんも気を失っているだけみたいです」

「そうか、よかった……」

 

 大神はさくらと加代に目立った傷がないことを確認し、心の底から安堵したように息を吐いた。

 

「しかし、さくらよ。なんか大立ち回りしてたみてぇだが、なんだ? はぐれ降魔でもいたか?」

 

 辺りを見回して警戒していたカンナの言葉に、

 

「はい、実は……」

 

 さくらが返答しようとした時--

 

「隊長!」

 

ランプをもって同じく周囲を警戒していたマリアが鋭く声を上げ、地面の一角を照らして見せる。

 

「どうしたんだ、マリア――これは……」

 

その声に反応して、地面を見た大神の言葉が詰まる。

 さくらもカンナもその光の先を覗き込む。

 そしてそこには、今まで自分たちが戦ってきた降魔とは似ても似つかない、異形のものが身体を真っ二つに裂かれて死んでいた。

 

「まるで、戯曲に出てくるグレムリンみたいね」

 

 その容貌をみたマリアが誰に聞かせるでもなく、呟く。

 さくらも演劇に携わるものだ、グレムリンといわれてよく見れば、確かに西洋の戯曲に出てくる悪戯好きの小鬼に似ている気もする。

 しかし、今見ているものは、そんな戯曲に出てくる何処か愛嬌のある小鬼とは似ても似つかない、まさに妖魔と呼ぶにふさわしい容貌をしていた。

 

「あ!」

 

 誰かの声にさくらが再び目を上げると、先ほどのグレムリンがしゅわしゅわと黒い霧のように輪郭がぼやけ、闇に消えてしまった。

 

「一体全体、何がどうなってんだ?」

 

 カンナが頭をバリバリとかきながら、グレムリンが消えた地面を睨み付ける。

 

 ……

 

 カンナの問いかけに、皆一様に答えを持たず黙り、沈黙がその場を支配しそうになった、その時、

 

「よし、ここはまず、加代さんを家に連れて戻ろう」

 

 大神が沈黙を断ち切るように声を上げる。

 

「ええ、そうですね、今回の任務は加代さんの捜索。まずはそれが最優先事項ですね。カンナ、彼女を頼める?」

「おう! まかせとけ!」

 

 大神に同意したマリアの言葉にカンナは勢いよく応えると、ひょいっと、倒れていた加代を抱きかかえる。

 

「さくらくん、まずは戻ろう。話はあとで聞かせてくれ」

「はい」

 

 未だグレムリンが消えた地面を見つめていたさくらの肩に手を置いて、大神がさくらに語り掛ける。

 

 この帝都で、再び何かが起ころうとしている。

 そして、その中心にいるのは、恐らく自分が対峙した漆黒の外套を着た少年であることをさくらは感じていた。

 

 桜の花びらがひらりひらりと舞っている。

 

 そんな花びらの舞い散る漆黒の闇の先を、さくらは一抹の不安と共に見つめていた――

 

 

 

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