デビルサマナー葛葉ライドウ 対 帝国華撃団(仮)   作:おおがみしょーい

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「こちら大神! 指令部! 応答お願いします!!」

 

 大神は通信機に向かって声を張り上げるが、返事は、ない。

 

「くっ……やはり、駄目か……マリア! さくら君!! 誰かいないか!」

 

 大神は同じく、周囲にいたはずの仲間たちの名前を呼ぶが、やはり、返事は、ない。

 

 大神が今の状況を認識したのは、ついさっきだ。

 変化している日本橋周辺の状況に対処する為、仲間と一か所に集まっていたところに、歪んだ景色が襲い掛かってきた。

 そして次の瞬間、気が付いた時には、大神は一人になっていた。

 

 周囲の見た目は、今までいた日本橋と寸部変わらないが、明らかに自分たちが住んでいる世界とは異なるものであるという事を、五感で感じ取っている。

 

 景色自体は変わらないが、全体的に薄暗い霧のようなもので覆われていて、生物の気配もない。その代わり、ねっとりとまとわりつくように濃い妖気が光武・改を包んでいる様だ。

 

「これがさくら君の言っていた“神隠し”……という事か」

 

 大神は確認するように呟く。

 確かにさくらの報告していた状況に酷似している。

 

「とにかくここからでなければ……マリア達は恐らくあのまま作戦の続行を選択するはず、だとしたら少しでも早く合流できる月島方面に向かうべきか……」

 

 そう結論付けて大神が月島方面に光武・改を向かわせようとした、その時――

 

「ほう……今回はこの1体が巻き込まれたか」

 

 声が聞こえた。

 

「誰だ!!」

 

 自分以外に人がいることに驚きながら、その声の方向を向くと、そこには外套の剣士と一匹の黒猫が佇んでいた。

 

「さて、会ったはいいが。これからどうするか、なぁ、ライドウ」

 

 黒猫――ゴウトはライドウを見上げながら問いかける。

 大神はそんな声を聴きながら、1人と1匹を観察して、ある事に気づき、

 

「ね、猫がしゃべってる!!」

 

 驚きの声を上げた。

 しかしその声に、大神だけでなく話していたゴウト自身も、

 

「ほう……オレの言葉がわかるのか。確かになかなか強いMAGを感じる……この男、召喚士(サマナー)の素質があるかもしれんぞ?」

 

 と、驚きの声を上げた。

 

 そんなやり取りの中、相手に敵意がないことを感じ取った大神は、意を決して、外套の剣士に声をかけた。

 

「俺の名は大神一郎、陸軍秘密部隊、帝国華撃団・花組所属だ。君たちは何者で、この世界はなんなんだ? 知っていることがあったら教えてほしい」

 

 そんな問いかけに、

 

「この男の名前は葛葉ライドウ、帝都を守護する悪魔召喚士(デビルサマナー)。オレはそのお目付け役である業斗童子。魂を猫の器にいれられた咎人だ。」

 

 そう答えたのは、外套の剣士――ライドウではなく、ゴウトだった。

 

「ライドウにゴウト……帝都を守護すると言っていたが、君たちも帝国華撃団の一員なのか?」

「違う。帝都は帝都でも、この世界の帝都ではない……オレ達はこの世界の人間ではないからな」

「この世界の人間じゃない?」

「まぁ、この話は長い上にややこしい。ここを切り抜けたら話してやる。その前のまず、何も知らぬようだから、この“異界”について話しておこう」

「“異界”?」

 

 耳慣れない言葉に思わず大神は聞き返した。

 

「そう“異界”。今、オレ達がいるココが“異界”だ。悪魔たちが住み、跋扈する人の住む現世と紙一重の世界それが、異界だ」

「悪魔! やはり、あの新種の降魔は悪魔だったのか!」

「降魔? ああ……あの異形の悪魔は降魔という名なのか。降魔……降魔……なるほど、降ってきた魔、という事か……ふむ、この地に悪魔が出ずに、別のものが蔓延(はびこ)っているのも、何か理由があるのかもしれんな」

 

 大神の降魔という言葉に、ゴウトは思案したように呟いた。

 このやり取りの中は全て大神とゴウトが話している。

 ライドウは一言も発せずに、ただ真っ直ぐに、大神の搭乗する白銀の光武・改を見つめていた。

 

「話がそれたな……つまりここは悪魔の住処で、いつどこから悪魔が出てきてもおかしくはない、という事だ」

「脱出の手段はあるのか?」

「異界には必ず“主”がいる。その“主”を倒せば、異界は壊れ、現世に戻れる」

「なるほど……という事は、“主”を探さなくてはいけないという事か」

「まぁな……しかし、その必要もないだろうよ」

「ん? なぜだ?」

 

 ゴウトの言葉に大神が首を傾げたその時――

 

『人間ダ』

『人間ダ』

『オ前ノシャレコウベハ、何色ダァア!』

 

 先ほどまで日本橋にも顕現していた巨大な髑髏(しゃれこうべ)――ガシャドクロが大神たちの周りを囲むように地面から這い出てきた。

 

「悪魔たちは常に人間を狙っている。人間を喰らって自身の信仰を上げるためにな」

「なるほどな、黙っていても向こうから襲ってくるという事か! それで、コイツが“主”ということでいいのか?」

 

 大神の言葉を

 

「いや、違う」

 

 ゴウトが否定する。

 

「コイツ等はガシャドクロ。帝都に恨みを持つ怨霊の集合体だ。確かに悪魔ではあるが、この異界、かなりの広範囲であるのを見るとコイツ以外の強力な悪魔がいるとみるべきだ」

「なるほど、だがコイツ等を倒さないと、“主”の元にもたどり着けないという事か」

 

 大神はそういうと、光武・改が携えた「白狼」と「銀狼」の二本の大太刀を抜き放った。

 

「手を貸そう、帝国華撃団」

 

 そんな大神の行動に呼応するように、ライドウがはじめて口を開き、するり、と柔らかく刀――「赤口葛葉」を抜く。

 

「やれやれ、早くしろよ」

 

 ライドウの臨戦態勢をみて、ゴウトがすっと2人の間から距離をとる。

 

「すまない、恩に着る」

「かまわない」

 

 大神とライドウが短いやり取りをかわす。

 

『人間……人間……』

『オレサマ……オマエ』

『マルカジリ!!』

 

 大神とライドウの臨戦態勢に呼応したのか、ガシャドクロ達が一気に襲い掛かってきた。

 

「こいっ!!」

 

 大神が裂帛を轟かせ、ライドウは、すぅ……と、静かに腰を落とす。

 

 「白狼」・「銀狼」・「赤口葛葉」――魔を屠る3つ刃が、ぎらり、と煌めいた。

 

―――

 

『ヒィィ……』

『ナンダコイツラ』

『恐ロシイ、痛イ、怖イィィィィ……』

 

 狂気の言葉を発していた髑髏(しゃれこうべ)から、悲鳴のような声が漏れ始めた。

 その理由は明白だ。

 相対した大神、ライドウによって同族たちが(ごみくず)の様に切り刻まれていくからだ。

 大神とライドウは競うように次々にガシャドクロ達を屠っていく。

 

「てりゃ!!」

 

 大神の光武・改が「白狼」・「銀狼」を振れば、2体以上のガシャドクロが崩れ落ち、

 

「しっ――」

 

 ライドウが刀を突き立てれば、退魔の力によって、ガシャドクロは蒸発していく。

 

 勿論、数は圧倒的にガシャドクロ達が多い。

 ガシャドクロ達は周囲を取り囲み、同族が巻き込まれることを無視して巨大な腕を振るい、大神、ライドウに襲い掛かるが、その腕は2人の体捌きによって(ことごと)く、空を切る。

 

「ふうむ……なるほど、確かにあの大神とかいう男の駆るカラクリ人形、なかなかやる……しかしこやつらは所詮前座、そろそろ本命が出てくる頃合いか」

 

 二人の戦いぶりを、距離を置いた屋根の上から眺めていたゴウトが、少し感心したように呟くのと、大神とライドウの刃が最後のガシャドクロを貫いたのはほぼ同時であった。

 

 次の瞬間、大神の乗った光武・改のセンサーが、一際強い妖気を感知をした。

 けたたましい警告音が大神機のコックピットを包む。

 

「来たか!」

 

 大神がその方向に目を向けると、2体の悪魔が地面から浮き出てきているところだった。

 

 2体とも人の形をしていた。そして2体とも双子の様にほとんど同じ姿をしていた。両手を左右に広げ、十字架にはりつけにされたような態勢を取り、そのままの形でふわりと浮き上がってきている。

 頭には1本、長く太い“角”があり、髪は長く腰の位置まで伸びていた。その髪が顔にかかり、片目が髪で隠されている。しかし、見えているもう片方の目には爛々と狂気の光が点り、この世の全てを憎むかのように輝いていた。

 

『久方ぶりの人の世だな、アビヒコの兄者』

『ああ、久方ぶりの人の世だ、弟よ』

 

 2体の悪魔は懐かしそうにあたりを見回しながら話し出した。

 今までの悪魔たちと違い、流暢に人の言葉を話している。

 

『それにしても恨めしい』

『ああ、まったくもって恨めしい』

『我らを滅ぼし、彼奴らが築いたのがこの都か』

『我らが築きし、東の都。滅ぼされ塗り替えられた偽りの都』

『どうする、兄者』

『どうする、弟よ』

 

 2体の悪魔は互いに顔を見合わせ、互いの目を覗き込むと、次の瞬間、狂気の笑みを顔に張り付かせ

 

『喰ろうてやろうぞ!』

『ああ! 喰ろうてやろう!!』

 

 そう叫んだ。

 

「おい! くるぞ!」

 

 ゴウトが大神とライドウに警告の言葉を発する。

 

『我が名はナガスネヒコ(長髄彦)、朝廷に仇なす豪族の長』

『我が名はアビヒコ(安日彦)、ナガスネヒコの兄にして、同じく朝廷に仇なす者』

 

 2体の悪魔はそれぞれ名乗り、大神とライドウに向かっていく。

 

『“ヤタガラス”だな! あの時と同じく邪魔立てするか!』

『まずは貴様等から血祭りにあげてやるわ!!』

 

『 『 死ねぇい!! 』 』

 

 呪詛の様な裂帛と共に、2体は、大神とライドウに襲い掛かる。

 

「くっ! 人の大きさでなんて力だ」

「来い」

 

 初手の一撃を、それぞれ携えた刀で受け止めた大神とライドウが、2体の悪魔を睨み付けた。

 

――

 

 大神はアビヒコと、ライドウはナガスネヒコとそれぞれ一対一の様相で戦っている。

 

『はーっはっはっは! どうした“ヤタガラス”のカラクリ人形。そんな図体では我を捕まえる事かなうまい』

「くっ、ちょこまかと!」

 

 アビヒコは光武・改の周囲を滑るように飛び回りながら、時折その死角から鋭い一撃を放ち、そして離脱する。

 光武は基本的に、人よりも大きいサイズの敵との戦闘を想定している、その為、アビヒコの姿をなかなか捕捉できないでいた。

 

 一方、ナガスエヒコとライドウは初撃の位置からほとんど動かずに戦っていた。

 

『ぬっ……このナガスネヒコの動きについてくるとは、貴様、なかなかやるではないか』

「しっ――」

 

 ナガスネヒコはその両腕を、ライドウは赤口葛葉を相手に叩き込もうと交差させている――が、あたらない。

 双方、身体を巧みに捌き、相手の攻撃を()なし、そして、一撃を放つ。

 はたから見たら剣撃の嵐の様な応酬も、双方、傷一つつけられてはいないでいた。

 

「さて、ここからどう出るか……鍵はやはり、あの大神とかいう男になるか」

 

 先ほどと同じく、離れた場所から戦いを眺めているゴウトが、値踏みをするように改めてアビヒコと相対している、白銀の光武・改を見ながら呟く。

 

 互いに決め手に欠け時間だけが過ぎ去ろうとしていた時、

 

「このまま千日手では稼働限界が来てしまう……仕掛けるか――」

 

 大神はセンサーで稼働の残り時間を計算して勝負に出る事を決める。

 そしてその為に、カメラで周囲の位置関係をぐるりと見渡し把握すると、

 

「おおおおおおっ!!!!!」

 

 手に携えた、「白狼」・「銀狼」に霊力を込め、咆哮を響かせながらアビヒコに斬りかかる。

 

『はーっはっはっは! そのような剣撃、あたらなければどうという事もない』

 

 アビヒコはその一撃を、先ほどまでと同じように身を翻しながらするりと躱した。

 しかし、今までと違い大神の気迫がのった一撃だったため、その回避がいつもよりもおおきいものとなった。

 

――距離が、空いた。

 

「今だ!!」

『なっ! 貴様!!』

 

 その一瞬を見逃さず、大神はくるりと光武の方向を変えると、一直線にライドウと斬りあっているナガスネヒコへと疾走した。

 

「ライドウ!!」

 

 大神の掛け声に気づいたライドウは、光武の到達直前に、とん、と後方へ飛んだ。

 

「おおおおおおおおっ!!!」

 

 そこに後部6本のマフラーから蒸気を全開に駆動させた光武がナガスネヒコ目がけて突っ込んできた。

 

『ぬううう!! 木偶人形風情がぁ!!』

「ぜぁあッ!!」

 

 離脱し損ねたナガスネヒコの呪詛と、大神の裂帛が交差する。

 ぼとり――と、ナガスネヒコの左腕が地面に落ちた。

 

『弟よ!! おのれ、人形!!』

 

 アビヒコが弟を助けに、ナガスネヒコを強襲してがら空きになっている光武の背後に攻撃を加えようとしたその時、

 

「させない」

 

 その行動を予測していたのか、ライドウが光武の肩に飛び乗ってきた。

 そしてその手には拳銃――コルトライトニングカスタムが握られており、銃口は違わずアビヒコへとむけられている。

 

『ちいいいっ!!』

 

 アビヒコが銃口に気づき身体を捻るのと、ライドウの拳銃が火を噴いたのは同時だった。

 

 ぼとり、と、アビヒコの右腕が地面に落ちた。

 

『かああああああっ!! させぬっ!!!』

 

 アビヒコは痛みに耐えるかのように、絶叫を迸らせながら、口から“地獄の業火”を吹き出した。

 

「なに!」

「くっ」

 

 思わぬ反撃に、大神とライドウは炎を避けて距離をとる。

 

 仕切り直しの形となった。

 

『なかなかやるではないか』

『ああ、確かになかなかにやる様だ』

 

 2体の悪魔は、互いに腕を落とされ、手傷を負ったにもかかわらず笑みを浮かべながら話している。

 

『これでは奥の手を出すしかないな、兄者』

『ああ、確かに、出すしかないな、弟よ』

 

 そう言って2体の悪魔は、残った腕に妖力を込めると、後ろの地面に向かって放つ。

 するとそこから陣が浮かび上がり、そこから新たな悪魔が湧き出してきた。

 

 一言でいえば、それは土偶だ。

 古墳などに納められた土偶の形をそのまま模した姿をしているが……大きさが違う。

 その大きさは、大神が搭乗している光武・改よりも一回り大きいサイズで、その目の部分からは青白い不気味な光が漏れていた。

 

『うぉっ! うぉれは、何故ここにいるんだァァ!!』

 

 召喚された土偶はその物質的な姿からは、およそ相応しくない錯乱しているような声を上げた。

 

『こやつはアラハバキ。我等と同じく朝廷に滅ぼされし、今の治世を恨む者』

『さぁ! 今こそ我らが恨み晴らすときぞ!!』

 

 そんな2体の言葉に、

 

『うぉれはァ! 陰謀が大好きだあァァァ!!!』

 

 アラハバキは狂ったように意味不明な言葉を発しながら大神に向かい突撃してきた。

 その一撃を、2本の刀をクロスして受け止めた大神は、アラハバキと鍔迫り合いの様な状態となる。

 

「くうぅ……コイツ、さっきの奴より力が……強い」

『うぉ! うぉまえの相手はうぉれかァァァ!!』

 

 じりじりとした力の均衡の中で、大神は焦っていた。

 さっきまで、自分とライドウでアビヒコ、ナガスネヒコの2体を相手にして若干の優勢、という状態であった。

 つまり、同じ程度の力のある悪魔の登場は、この戦況を一気に劣勢に傾ける事になる出来事であるのは火を見るより明らかだ。

 

『どうした”ヤタガラス”のカラクリ人形』

『背後がお留守だぞ? あーはっはっは!』

 

 アビヒコ、ナガスネヒコから余裕の笑い声が響く。

 

「くっ……こんなところで……ッ」

 

 この状況を打破すべく、アラハバキとの鍔迫り合いを行いながら大神は周囲を見渡しながら考える。

 

 そんな時、アビヒコ、ナガスネヒコの前にすぅ、とライドウが立ちはだかった。

 

『ほう……ヤタガラスの狗……お前が我らの相手か?』

『一人で我等兄弟を相手取るとは、なんと無謀な!』

 

 立ちはだかるライドウを見て尚、2体の悪魔は余裕で笑っている。

 

「くっ……すぐに片づけててそちらに向かう! 一人では無茶だ!!」

 

 大神の声に、

 

「否、俺は一人では――ない」

 

 ライドウは管を構えて呟いた。

 そして呪を紡ぐと――

 

「召喚――斬り纏え――ヨシツネ!!」

 

“悪魔”……否、“仲魔”を召喚する。

 

『はっはーっ!! コチとらアナーキーだぜ!!』

 

 ライドウの傍らに、烏帽子をかぶった若武者が顕現していた。

 

『ぬう!』

『貴様、召喚士(サマナー)だったのか!』

 

 2体の悪魔の顔色が変わる。

 

『ぬうおおお……さまなー! うぉれを騙したのかあァァァ!!』

「なんだ? 何が起こったんだ?」

 

 アラハバキすらも今のライドウの術に覚えがあるらしく、大神一人、取り残されている状況だ。

 

「あれは悪魔召喚。敵である悪魔の力を使役し、守護の為の力とする。葛葉ライドウの真の力……悪魔召喚士(デビルサマナー)の力だ」

悪魔召喚士(デビルサマナー)……」

 

 モニター越しにゴウトの説明をもらい、大神は小さくその言葉を反芻した。

 

「ヨシツネ……一体、任せるぞ」

『あぁっ? ライドウ……テメェ、誰に向かって物言ってんだ! 2体ともオレ様が切り刻んでやるよ!!』

 

 そういうとライドウの指示も待たずに、ヨシツネは右手に「薄緑」、左手に小太刀を逆手に持ってアビヒコに躍りかかった。

 

『久方ぶりの喧嘩だ!! 浅草ROCKで祭りと行こうぜ!!』

 

 腹の底から湧き出る様な戦いへの愉悦を迸らせ、ヨシツネが疾走する。

 

『くぅ! 貴様! 坂東武者の亡霊か!!』

『あぁん? そんな奴等と一緒にすんじゃねぇよ! オレ様はヨシツネ! 源九郎義経様だ!!』

 

 ヨシツネの嵐の様な斬撃を、アビヒコは身体を後方に進ませながら回避していく。

 

『兄者!!』

「お前の相手は――俺だ」

 

 一瞬のスキをついて距離を詰めたライドウがナガスネヒコに斬りかかる。

 

『いつもいつも……貴様達召喚士(サマナー)は、俺たちの邪魔を!!』

 

 ナガスネヒコの呪詛のような言葉も、

 

「それが、帝都の守護する刃たる、俺たちの使命」

 

 ライドウは涼しい顔で受け流す。

 

『ならばその刃! ここで叩き折ってくれる!!』

「来い」

 

 ライドウの刀と、ナガスネヒコの腕が交差する。

 再び嵐の様な応酬が始まろうとしていた。

 

「くっ――おおおおおおっ!!!!」

「ぬあんだとォォォ!!」

 

 大神が光武の出力を全開にして、刀を振りぬき、アラハバキを跳ね除ける。

 

「稼働時間が……あまり残ってないな」

 

 大神が光武の各種センサーを見ながら呟く。

 光武・改の稼働可能時間は3時間。

 しかし、今回の様に蒸気機関を全開に稼働させ続ければ、もちろんその時間は短くなる。大神の見立てでは、あと20分持つかどうか、というところだ。

 状況は膠着。否、悪くなっているかもしれない。

 しかし、そこで萎えるほど、大神の潜ってきた戦場は安くない。

 

「俺は敗けない!!」

『うぉれはホットな性格だあァァァ!!!』

 

 アラハバキが回転して突撃してくる。

 それを真正面から受け止めながら、2本の大太刀に霊力の紫電を纏わせ大神が迎え撃つ。

 

「俺は必ず、皆のところへ帰るんだ!! いくぞ!! 悪魔ども!!!」

 

 大神の猛き咆哮が、虚ろな“異界”にこだました。

 

 

――――

 

 

「――? 隊長?」

 

 花組の最後尾を走っていたマリアは大神の声が――というより、何かの気配を感じて、光武を止めて周りを見渡す。

 しかし、大神の姿も、その白銀の機体も、降魔の姿も、見つける事が出来なかった。

 

「マリアはん、どないしたん? なんか見つけたんか?」

 

 紅蘭の通信にマリアは小さく首を振り、

 

「いいえ、なんでもないわ。先を急ぎましょう」

 

 そう言って光武を再び走らせた。

 

(しっかりしなさいマリア。隊長の帰る場所は私が守るのよ)

 

 マリアは息をすぅ、と吸い込むと、息を落ち着かせて仲間の後を追う。

 

 しかし、本来のマリアであれば、先ほど足を止めた時もう少し慎重に周囲を警戒していたであろう。

 大神が不在の中、周囲だけでなく仲間全員に目を配る必要が出たため、いつものマリアなら気づいていたであろう些細な事象が、見逃されてしまっていた。

 

 マリアの光武が過ぎ去った後方、停留所に停車して、避難して誰も乗っていないはずの路面電車が、

 

 ――ガコン

 

 と、ひとりでに車輪を回していた。

 

 


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