RAINBOW X STORY   作:山形りんごをたべるんご

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まずは第1話目、是非山形りんごを食べるながら読んでほしいんご





1.忘却ノ巨人

 

 

 

 

 

 

「俺は……誰だ………?」

 

 

 少年は鏡に映された自分の顔をまじまじと見る。しかし、自分が誰なのか全く思い出せない。名前が何なのか、何歳なのか、どんな性格なのか、これまでどんな人生を歩んで来たのか、何故ここにいるのか、何も覚えていなかった。見た目から分かるのは精々自分が男性であるという事くらい。襟足の少し長い黒髪、細い眉、翡翠のつり目で端整な顔立ちをしている。

 

 

「…………悪くは無いな」

 

 

 自身の頬を触りながら言葉を溢す。だが、今はそんな事言ってる場合では無い。どうにか思い出そうと頭を捻るが、やはり何も浮かんで来ない。

 

 

「んー…………ん?」

 

 

 ひたすら悩む少年。すると胸の内ポケットに違和感を感じた。手を突っ込んでみるとどうやら何かが入っている様子。取り出すと彼の手には、大きな端末の様な物があった。液晶が付いているが携帯にしては大き過ぎる。ボタンを適当に押してみたが反応は無し。 何だこれはと思いつつも、とりあえず自分の物っぽいのでポケットに仕舞う。自分のことが分かる物が何か無いかとズボンや上着のポケットを漁り始めたその時、部屋の扉が開かれた音がした。振り返ってみるとそこには9人の少女が、こちらを見て驚きの表情を浮かべていた。

 

 

「翔琉君!?」

 

 

 その中の1人である赤茶色の髪をした少女が彼に駆け寄って来て手を掴んだ。

 

 

「起きたんだね、急に倒れてびっくりしたんだよ……!?もう平気なの?まだキツいなら、寝てなくちゃダメだよ!?」

「お、おい……」

 

 

 彼が紡ごうとするよりも先に、他の少女達も彼の近くに寄って来る。

 

 

「もう!かすみん心配したんですよ!?」

「大丈夫?具合悪かったりしない?璃奈ちゃんボード『ハラハラ』」

「最近根を詰めてたみたいだし、疲れが一気に来ちゃったとか?」

「そんな時は彼方ちゃんと一緒にすやぴしようねぇ〜」

「先輩、あんまり無理しないで下さいね……?」

「曲作りは貴方に任せっぱなしだったからね……本当にごめんなさいね」

「キツい時はちゃんと言ってね?私達も手伝うから」

「とにかく、大事にはなっていない様でほっとしました……」

 

 

 少女達は矢継ぎ早に彼に言葉を掛ける。囲まれて困惑してしながら一人一人の顔を取り敢えず見る。尤も、内一人はどういう訳かスケッチブックに似顔絵を描いて隠している状態ではあるが。

 

 

「…………なあ」

「ん、どうかしたの?」

 

 

 少女に手を離させ、彼は皆を見ながら呟く。

 

 

 

「お前ら、誰だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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 暗い部屋。パソコンの画面だけが光を放っており、その前には青い瞳の少女が座している。椅子の上に体育座りをし、身体を背もたれに任せ、手には人形が握られている。蒼い瞳が見つめる画面の中には、黒いナニカが映されていた。

 

 

《始めるのかい……?》

 

 

 ソレは少女に喋り掛けた。少女はくすりと笑う。

 

 

「まあ、せっかくだし最初は試運転って感じかなぁー」

《おやおやおや……では、やるとしよう》

「うん、お願い」

 

 

 

 少女は持っていた怪獣の人形を画面の前に置いた。それに向けて画面の中の存在は、闇を纏った手を翳す。すると怪獣の人形の目が、赤く邪悪な光を放った––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「全生活史健忘……所謂記憶喪失だね」

「記憶喪失……」

 

 

 少年は病院に来ていた。そこで医師から自身の状態を聞かされている。

 

 

「倒れた時の状況を聞いたけど外傷性では無さそうだし、検査結果が完全に出ない事には断定出来ないけど症候性の可能性も低そうだ」

「はあ……」

「心因性、つまり心的外傷やストレスによって起こされた可能性が一番高いかも知れない」

「ストレス…………覚えは無いですねぇ」

 

 

 彼のその言葉に「それはそうでしょ」と医師は笑う。

 

 

「希望するなら、一晩入院して様子を見る事も出来るけどどうする?」

「いや、大丈夫っすよ」

「…………何だか、あんまり驚いたりしてないね?」

 

 

 言われてみれば、記憶を無くしてしまっているというのに彼は驚いたり慌てたりしていない。

 

 

「さあ?元々、こういう性格だったんじゃないんっすかね?覚えてないけど」

「過去に記憶喪失になった人を何人か診たけど、君みたいなタイプは初めてだよ」

 

 

 そう言ってまた医者は笑う。記憶を失って本来ならパニックになったりするものなのだろうが、彼は飄々としてまるで気にしていない。「その内戻るでしょ」……そんな言葉を溢した後、椅子から立って診察室を出る。 それから彼はポケットからあの謎の端末ともう一つ、生徒手帳を取り出した。そしてそこに書かれている名前を呟く。

 

 

天地(あまち)  翔琉(かける)……か」

 

 

 天地 翔琉。 それが彼の名だ。虹ヶ咲学園音楽科の2年生でスクールアイドル同好会の部長であるらしい。手帳のメモ欄にはスクールアイドルに関する事が細かい字で色々と書かれており、記憶を失う前の彼は相当勉強していた模様。

 

 

「ふむぅ……」

「翔琉君!」

 

 待合所に来た翔琉に声を掛けたのは上原 歩夢。彼と同じクラスで同じ部活、そして幼馴染みである少女。この病院までは彼の付き添いで来てくれたのだ。

 

「上原……でいいのかな?」

「もう、他人行儀じゃなくて良いよ?いつもは歩夢ちゃんって読んでたんだよ」

「歩夢…ちゃん……」

 

 

 彼と彼女は産まれた日も時間も同じで家も隣同士、これまでの学校ではずっと同じクラスという奇跡的な関係であった。仲もとても良く、いつも一緒に遊んでいたらしい。 と言っても翔琉はそんな事全く覚えておらず初対面の様な感覚である為、いきなり名前呼びは少し気恥ずかしくも感じられた。

 

 

「ちゃん……は何か違うな…………歩夢、でいいか?」

「え?う、うん、いいけど……」

「どうした?」

「何だか、少し雰囲気が違うなって思っちゃって……。あ、嫌とかじゃないよ!?ただちょっとびっくりしただけだから」

 

 

 どうやら今の自分は前の自分とは違う性格だった様だ。

 

 

「そうか……なんか、悪いな」

「うんん、大丈夫。私こそごめんね……君が一番辛いのに変なこと言っちゃって……」

「…………帰るか」

 

 

 このままだと重い空気が流れてしまう。そう感じた翔琉は話題を変え、とりあえずここを離れることを提案した。歩夢はそれに笑顔で首を縦に振り、2人は病院を後にする事になる。

 

 

 

 

 

 帰り道を並んで歩く翔琉と歩夢。微妙な距離が2人の間にはあった。

 

 

「でもまさか、翔琉君が記憶喪失になるなんて……。一体何が原因なんだろう?」

「さあなぁ。俺は何にも覚えてないから、調べようが無い。正に未知の、Xの記憶ってな。だったら謎のまんまで良いんじゃないか?」

「良くないよ!?もしこのまま記憶が戻らなかったらどうするの!?」

「そん時はそん時だろ」

「そんなぁ……」

 

 

 事態を全然重く受け止めていない翔琉に歩夢は困り顔だ。

 

 

「まあ、なる様になるだろ。迷惑掛けるけど、宜しく頼むよ」

「それは良いけど……」

「ほら、さっさと帰ろう。両親に説明とかもしなきゃならんだろうし、歩夢も着いて来て……というか、先歩いてくれ。俺家分かんねえし」

 

 

 「ほら」と言って彼女の背を軽く押す翔琉。溜め息を吐き仕方ないと思いながら、歩夢は彼の半歩前を進んでいくのであった。

 

 

 

 その時である。爆音が鳴り響いて大地が揺れ、大きな咆哮が轟いたのは……。

 

 

「うおおっ!?」

「きゃあ!?」

 

 

 倒れそうになった歩夢を、翔琉は咄嗟に抱き締め支えた。

 

 

「大丈夫か!?」

「うん……あ、あれ!」

 

 

 歩夢の指差した方向。そこに居たのは50メートル程の非常に巨大な生物・怪獣であった。

 

 

「んなっ……!?なんだありゃあああああああああ!?」

「怪獣!?」

 

 

 黒い巨体、鋭い爪と牙、地に打ち付けられる尾、背に並ぶ鋭い背鰭、黄色く発光する角……恐ろしい姿をしたこの生物の名は熔鉄怪獣デマーガ。デマーガは雄叫びを上げながら、大地を踏み鳴らして進んでいく。

 

 

「ど、どうしよう!?」

「取り敢えず逃げるぞ!」

 

 

 翔琉は歩夢の手を取って怪獣の向かってる方とは逆の方向に走ろうとする。だが、歩夢は何故か足を止めた。

 

 

「ちょっと待って!」

「おっと!?何だよ!?」

「あの怪獣……学校の方に向かってる……!?」

 

 デマーガの向かう数百メートル先には彼女達の通う虹ヶ咲学園があった。奴は口と背鰭から火炎弾を放ちながら進んでおり、このまま行けば学校は破壊されてしまうだろう。

 

 

「まだ学校にはみんないるのに!?」

「あ、ちょ、おい!?」

 

 

 歩夢は怪獣を追う様に走り出した。向かった所で何も出来る事は無いのだが、止まってはいられなかった。翔琉の制止も聞かず、彼女は全力で走っていく。

 

 

「何やってんだよアイツは……!?」

 

 

 追うべきか、追わざるべきか。自分も走った所で彼女同様何も出来ない。記憶の無い自分に親身になってくれた歩夢を見捨てるのは心苦しくはあるが、もし彼女が死んだとしても彼の責任は問われないだろう。幼馴染であるとはいえ、今の彼にその記憶は無く歩夢は他人も同然で、助ける理由など無いに等しい。

 

 

「ッ……」

 

 

 唇を少し噛む。歩夢の背はどんどん小さくなっていた。

 

 

「ああああああああああッ!!!ちくしょう!!!」

 

 

 地面を思いっきり蹴って、彼は駆け出した。 見捨てて逃げてしまった方が間違いなく楽なのだが、それをやりたく無いと彼の心が叫んでいた。

 

「待てゴラァァァァァァァァァ!!!……って俺足速!?」

 

 

 予想外の自身の走力に驚く翔琉。歩夢との距離は瞬く間に縮まっていき、遂には追い着き追い越した。

 

 

「翔琉君!?」

「学校にいる奴らに電話しろ!!どうにかして俺があのデカ物足止めする!!」

「どうやって!?」

「ンな事俺が知るかあああああああああ!!!!」

 

 

 絶叫しながら歩夢を置いて翔琉は走る。デマーガの進行速度はそこまで速く無く、体格差を考えたとしても今の翔琉の速度なら並走どころか追い抜く事も可能だろう。時折デマーガの火炎弾によって崩れたビルの瓦礫が落ちてくるが、彼はそれを見事に躱しながら走る。

 

 

「あれ?俺ってもしかして運動神経最高か?」

 

 

 そんな事を思っていた時、空に2機の戦闘機が見えた。航空自衛隊が乗る様な機体とは明らかに違う派手なその戦闘機は、デマーガに向けて光線やミサイルで攻撃。その進行を食い止めんとしている。

 戦闘機の攻撃が当たり吠えながら止まったデマーガ。仕返しとばかりに、奴は戦闘機に向けて火炎弾を連続で放った。だが戦闘機は2機とも華麗に旋回してこれを回避。更に攻撃を続けていく。その光景を、翔琉は思わず立ち止まって見るのであった。

 

 

「うお……すげぇな」

 

 

 

 

 

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 Xio(ジオ)。 Xeno invasion outcutters(未知なる外敵からの防衛戦闘部隊)の略。地球防衛組織UNVER(アンバー)の実働を担う特殊防衛チームである。Xioには幾つかの班が存在し、特捜班は怪獣による災害、宇宙人による侵略などに対抗するエキスパートであり、その日本支部は東京郊外に置かれている。

 デマーガ出現の報告を受け、特捜班はその撃退の為に隊員達を現地へと向わせた。基地ではオペレーター達や隊長、副隊長、数名の隊員が戦況を見守っている。

 

 

「状況は?」

 

 

 小柄な女性がオペレーターに尋ねる。幼く見えるが彼女こそ、Xio特捜班の隊長なのだ。

 

 

「時速20km前後の速さで進行してたデマーガだけど攻撃を受けて止まったよー」

「でも身体が結構硬いみたいでダメージはあんまり無いみたいだねー」

「大型ミサイルでも撃っとくー?」

「まだ避難終了してないよー」

 

 

 間延びした話し方で解説する同じ顔をした双子の少女。髪の結び目と目の色が違うこと以外は全て同じだ。彼女達がXioのオペレーターなのだが、中学生か下手したら小学生くらいにしか見えない少女達がこんな場所にいてパソコンを見事に操作しているのはかなり違和感が感じられる。

 

 

「避難が完了してないなら、派手な攻撃は出来てないか……」

「どう、致しますか?」

 

 

 隊長の隣に控えていた屈強で少し強面な男性が尋ねた。彼はXioの副隊長である。

 

「先ずは住民の安全確保が先。マスケッティαとβはデマーガを足止め、その間に地上部隊は避難活動を迅速に進めて」

《了解!》

 

 

 隊長の指示に現場の隊員達が応える。民間人を守る為、Xioは行動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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 一方で翔琉は、全力で走ってから先回りをしてデマーガの前方数十メートル先に立って……というか正確には放置された自動車を影にしてデマーガを見ていた。

 

 

「ハッ……迫力半端ないな」

 

 

 幸いデマーガは空の戦闘機に気を取られており、隠れてもいるから翔琉には気付く確率は低いだろう。

 

 

「さて、とりあえずこっから先に行かせない様にしたいんだがぁ…………マジでどうしよう?」

 

 

 勢いだけでここまで来たのはいいが、実際彼に出来る事は何も無い。あの戦闘機達に任せるのが一番賢いやり方だ。 

 

 

「バリケードでも作るか?まあ間違い無く蹴飛ばされるか、そもそも跨がれてしまうかだろうなぁ」

 

 

 どうするべきかと思案していると地面が大きく揺れた。デマーガが再び前進を始めたのだ。その速度は先程よりも速くどんどん翔琉がいる所に迫って来る。

 

 

「え、ちょ、やば!?」

 

 

 まずいと思い彼は駆け出す。しかし、最悪な事にその背後にデマーガの火炎弾が着弾した。爆発の衝撃を受けて、翔琉の身体は宙を舞い地面に叩きつけられる。

 

 

「がああああああ!?だあッ!?」

 

 

 ゴロゴロと転がった翔琉。派手に吹っ飛ばされたが大きな怪我はしてない様だ。

 

 

「痛ぁ………ん?」

 

 

 彼が地面に落ちた時、何かが懐から出て来た。保健室で見たあの大きな端末である。翔琉は這いながらそれに近付き拾う。すると彼の脳裏に、あるビジョンが映された。

 

 

「ッ!?な……んだ……!?」

 

 

 (もや)が掛かった様ではっきりとはしないそのビジョンに、彼は頭痛を感じる。何かを思い出せそうな予感がするが上手く集中する事が出来ない。 そしてそうこうしてる間に、デマーガが彼へと近付いて来ている……。

 

 

「しまッ……!?」

 

 

 けたたましい咆哮が鳴り、火炎弾が背鰭から次々と放たれた。それは翔琉の近くや付近のビルに炸裂して爆発。このままでは、確実に彼は死んでしまうだろう。 だが、まだ自分が何者なのか思い出せていないのに、こんな所で死ぬ訳にはいかない。翔琉は何かに突き動かされるかの如く、立ち上がって左手で持った端末を突き出す。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

 

 そしてその端末の上部のスイッチを押し込んだ。側面のパーツがX字に展開し、そこから光が放たれた––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《X UNITED》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眩い光の柱が地上から天に向けて放たれた。そしてそれが消えるとそこには、1体の巨人が顕現していた。 巨人の出現に怪獣から逃げていた人々や、映像を見ていた人々、Xioの面々、翔琉の事が心配で後を追い掛けていた歩夢、そして何より巨人に変身してしまった翔琉自身が驚いていた。

 

 

「何だよ……これ……!?」

 

 

 ふと横を見ると、高層ビルの窓ガラスに自身の姿が映されていた。40m以上はあるであろう巨体、赤と銀のそして黒のボディはメカニカルな印象を受け、胸元にはX型の水晶の様な物が青く発光している。 一体何がどうなっているのか?突如起こった大きな変化に彼は戸惑いを隠せない。そこへ……。

 

 

「ん?」

 

 

 デマーガが雄叫びと共に牙を剥きながら襲い掛かって来た…………。

 

 

 

 

 

 

 





本作にはXioそしてUNVERが存在するんご。ただ設定や隊員編成、使用兵器などもいくつか本編とは違っているので別物と考えてもらってほしいんご。

何故かウルトラマンに変身した翔琉。次回、X対デマーガ。是非お楽しみしてほしいんご。

感想、質問、高評価、山形りんご、是非お待ちしてるんご。

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