RAINBOW X STORY 作:山形りんごをたべるんご
夜。翔琉は自室のベッドに寝転がり、真姫から言われたことを考えていた。みんなの為……その想いだけじゃ自分の望む曲は作ることが出来ない。その意味をずっと考えているのだが答えを出せないでいる。
「一体どういう意味なんだよ……?」
頭を強く掻く。
ウルトラマンとして戦っている時、誰かを守りたい、みんなを助けたいという想いがあれば強くなれるということは感じていた。気持ち的なものではあるが、その想いが力になるのは他のウルトラマン達を見ていても間違いない筈。みんなの為という想いで為せないことは無いと思っていた。しかしどうやら作曲は違うらしい。帰った後も挑戦したのだが結局行き詰まり、何も浮かんで来なかった。
「…………わかんねえ」
上半身を起き上がらせる。何が足りない?欠けている物は何か?思考を働かせて探すが解らない。立ち上がってカーテンを開く。夜空には星と月が光を放っている。溜め息を吐いた後、彼は部屋を出るのであった。
昼間よりは暑くないが、それでもジメジメとした気温の夜。翔琉は気晴らしにと秋葉原方面に向けて走っていた。彼の住む江東区の家から秋葉原までは約8km程の距離があるが彼は息切れすることもペースを落とすことも無く走り、気付けば大通りまで来ていた。
昼間と変わらず街は賑わっており、昼間以上の灯りで照らされている。人の間を抜けながら走る翔琉。そして彼は気付いたら、ある場所の前に辿り着いていた。
「ここって……」
彼が今いるのは音ノ木坂学院という女子校の前。ここはあのμ'sが通っている学校でもある。思わず立ち止まり、その外観を彼は眺める。歴史を感じさせる校舎が、月明かりに照らされていて幻想的に思えた。
「あ、翔琉君!」
声を掛けられ振り返ると、そこには穂乃果の姿があった。運動し易そうな服装をしており、翔琉同様彼女も走っていたのだろう。
「高坂か。さっきぶり」
「うん。翔琉君もランニング?」
「まあ、ちょっと気晴らしにな」
彼の言葉に「そうなんだ」と返す穂乃果。そして翔琉の隣りに立って音ノ木坂の校舎に目を向ける。
「どう、うちの学校は?」
「なんて言うか、でかいな」
「でしょー!まあ、虹ヶ咲には負けるけどね」
「うちは規格外だからな。お前らもいるし、きっと良い学校なんだろうな音ノ木は」
一陣の風が吹き木の葉が揺れる。まるで校舎が、彼に対して礼を言っている様。
「この学校はね、少し前まで廃校になりそうだったんだ」
「廃校に?」
「うん」
少子高齢化の波、UTX学園や虹ヶ咲学園の様な設備の充実した学校の台頭により入学希望者が減少したことなどが原因で、音ノ木坂学院は廃校の危機に直面していた。学校を維持する予算は無くなって来ていたが大人の事情から国立扱いにして運営し、廃校にならずにいた音ノ木坂。しかし、それにもとうとう限界が来たのだ。
廃校になると知った時、穂乃果はショックで倒れてしまったらしい。
「だから私は、廃校を阻止する為にスクールアイドルになったんだ。私達の学校を、未来に遺したいって思ったから」
幼馴染である海未、ことりの3人で始めたスクールアイドル。μ'sという名を授かり、花陽、凛、真姫、にこ、そして絵里と希が、紆余曲折有りながらも仲間となった。
ギリシャ神話において、主神ゼウスと記憶の女神ムネーモシュネーの娘である9柱の芸術を司る女神達のことを指し、音楽を意味するミュージックの語源となったと言われるムーサ。その別名であるミューズを由来したグループであるμ'sは忽ちトップクラスのスクールアイドルとなる。そして遂には、入学希望者を集めることに成功して廃校を阻止したのだ。
「この学校の生徒や先生、卒業生、これから入学する後輩達。みんなの想いが集まって力になって、私達は学校を守ることが出来たんだと思うんだ!」
「そりゃすげぇや」
改めて校舎に目を向ける翔琉。
穂乃果はこの学校のみんなの為を思ってステージに立ち、廃校を阻止した。みんなの為を想って前に進めた彼女と、みんな為を想いながらも進めないでいる翔琉。一体何が違うのか分からず眉を顰めてしまう。
「翔琉は、今もみんなの為にって思ってる?」
「ん?ああ、まあな……」
「私はね、私がこの学校が大好きで、無くなるのが嫌だからどうにかしたいって思ったの。それで、偶然スクールアイドルを見て、これをやりたいって思って始めたんだ。その時は周りのこととか全然考えて無かったし、海未ちゃんにも無茶苦茶とか自分勝手とか我が儘だーとか、散々言われちゃったなぁ」
「あはは」と照れる様に笑う穂乃果。海未とことりを無理矢理巻き込み、偶然であったピアノの弾ける真姫に作曲を頼み、とにかく行き当たりばったりで始めたスクールアイドル活動。生徒会長の絵里や過去にスクールアイドルとして活動した経験のあるにこから当時目の敵にされていたとか。
「難しいことや大変なことはたくさんあった。けど、何としてもやり切りたいって思ったの」
無謀な夢から始まった挑戦は多くの人を巻き込み、いつしかみんなの夢となっていた。それを叶える為に、彼女はひたすらに前に向かって走り続けたのだ。
「まだやり切れてはないし、叶えたい夢と目標も増えた。だからこれからも、私は私の我が儘でみんなと一緒にスクールアイドルを続けていくんだ」
「我が儘……。みんなじゃ無くて、自分の為か」
「うん、そうだよ。自分のやりたいことを、思いっきりやってやるんだ!」
穂乃果の太陽の様な笑顔により、曇っていた翔琉の心に一筋の光を差し込んだ。
「自分……そうか自分か!」
記憶を失う前、彼はスクールアイドルを応援したいという思いから行動を始めた。それはきっと彼女達の為であり、自分の為でもあるのだろう。彼女達が頑張っている姿を見たい、そしてそれを応援したいというエゴで彼は動いていたのかも知れない。
過去の自分が本当はどんな想いで彼女達の為に行動していたのかは分からない。けど、彼女達だけでなく自分のことも含めたみんなの曲を作るということが今の彼に足りていなかったことなのだろう。そしてきっと、過去の自分が感じたであろう想いが、胸の奥に芽生えて来ていた。
「ありがとな高坂!答えが見えた」
「本当!?」
「ああ!最高の曲、今なら作れる!間違いねえ!」
痞えが取れ、心が弾む様な気分だった。今すぐこの感情を曲にしたくてうずうずしている。
「こうしちゃいられねぇ、作曲するから俺帰るわ!」
「え、あ、翔琉君!?」
「またな高坂!!」
胸に湧くメロディーを楽譜に書き記すべく、翔琉は一気に駆け出す。悩みを振り切り進み出した彼の背中を、穂乃果は微笑みながら見送るのであった。
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天地家には母の優里香と、悩んでいて元気の無かった彼を心配していた歩夢がいた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
歩夢は出された麦茶を飲む。
「本当に翔琉は幸せよねぇ〜。高校生にもなってこんなに可愛い幼馴染が心配して家まで来てくれるなんて、今時なかなか無いシチュエーションよ〜。それで、2人はいつ付き合うの?」
「んッ!?ケホッ、ケホッ!え、ええっ!?わ、私はその……!?」
「真っ赤になって可愛いわぁ〜。私はいつでも歓迎だからね?」
驚き吹き出しそうになりながら赤面する歩夢にそんなことを言う優里香。揶揄ってくる彼女に歩夢はたじたじである。
「それに早くしないと、かすみちゃんや愛ちゃんに取られちゃうかも知れないわよ?」
「そ、それは確かに……。最近果林さんも怪しい気がするし……」
「幼馴染の位置に安心してちゃダメ。ガンガン攻めていかなきゃ」
「わ、分かりました……?」
「私はみんなこと応援してるけど、歩夢ちゃんとは昔からの付き合いだし、少しだけ贔屓してあげるからね」
そんなこんな話していると玄関が勢い良く開き、彼が帰って来た。
「ただいま!!」
「お帰り翔琉。夜だから静かにね」
「お帰りなさい翔琉君」
「あっ、すまん。そして歩夢、来てたのか」
「お邪魔してます」と返す歩夢。彼は台所の方に行き、冷蔵庫や棚を物色してお菓子や飲み物を掻き集める。
「どうしたの翔琉君?」
「何か色々と吹っ切れてよ。今なら最ッッッ高に良い曲が作れる気がするんだよ!だから部屋に缶詰するわ!」
そう言って彼は歩夢達の返答を待たずに集めたお菓子やらを持って部屋へ向かった。部屋に着いた翔琉は記憶を失う前に買っていた電子ピアノの前に座り、ヘッドホンの端子を挿して耳に付けた。そして鍵盤に指を落としてメロディーを奏で、それを楽譜に記していく。時折食べたり飲んだりしながらも集中し作曲を進めるその姿はとても活き活きとしていた。扉を少し開けてそれを見た歩夢と優里香は微笑み、邪魔にならない様にそっと扉を閉じた。
「この想い……きっとこれが……!」
穂乃果との邂逅で見つけた自分の想い。それはきっと、初めてスクールアイドルを見た過去の自分と同じ。その想いの名は────
「ときめき……!」
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「出来たぞおおおおおおおお!!!」
「ひゃう!?」
「ひゃあ!?」
「うわぁ!?」
翌日。大声と共に部室に飛び込んで来た翔琉。先に部室に着いていた9人のメンバー達はこれ迄に無い程テンションの高い彼に驚いてしまう。
「ど、どうしたですか先輩!?」
「びっくりした〜……!?彼方ちゃんお目めがパッチリになっちゃったよぉ〜」
「何かあったのかけるん?」
「翔琉さん、もしかして……?」
「ああ!曲が完成したぜ!!」
そう言って数枚の紙と音楽プレイヤーを机に叩きつけた。それを見て皆は「おおー!?」と感嘆の声を上げる。紙は楽譜だけで無く、何と歌詞の書かれた物とダンスについて書かれている物まであった。彼は一晩で勢いのまま、一曲丸々作ってしまったのだ。
「とりあえず聴いてくれ」と言ってプレイヤーから曲を流す。流れて来るのは彼が弾くピアノのと歌声。それを聴いた彼女達は感動してまた声を上げた。
「すっごーい!」
「翔琉、これ本当に貴方が!?」
「ああ、どうよ?」
「素晴らしい曲です先輩!」
「うん、私も凄く好き。璃奈ちゃんボード《わぁー!》」
「凄い、凄いよ翔琉君!」
大盛況となっている翔琉の曲。しかし、ここである疑問が起こる。
「この曲って、誰が歌うんですか?」
同好会はソロのスクールアイドルだ。つまりこの曲を歌えるのはメンバーの中で1人だけということになるとみんなは思っていた。とても良い曲なので皆自分が歌いたいという気持ちになっている。だが翔琉は首を横に振った。
「この曲はさ、みんなで歌って欲しいんだ」
「みんなで、ですか?」
「でもそれって、私達のやり方に反するじゃないかしら?」
「そうだな。でも、俺はみんなでこの曲を歌っているところを見たいって思ったんだ。自分勝手な我が儘なのは百も承知してる。でも頼む、みんながステージで最高に輝いてるところを見せてくれ!」
頭を下げて懇願する翔琉。同好会やみんなのやり方に反している酷い我が儘だというのは分かっているが、それでも彼はみんなでこの曲を歌っているところ見たかったのだ。
怒られるかと思ったが、彼女達は誰一人として嫌そうな顔などしていなかった。
「もちろんだよ!貴方の頼みだもんね!」
「かけるんからのお願いじゃ断れないもんね!」
「先輩のお願いわぁ、かすみんが叶えますよぉ!」
「みんなで叶えるでしょ、かすみさん。もちろん私も賛成です!」
「彼方ちゃんも翔琉君の為にバッチリ起きて頑張るよ〜!」
「ふふっ、そんなに頼まれたら断れないわね」
「みんなで繋がって歌えるの楽しみ!璃奈ちゃんボード《ドキドキ!》」
「翔琉君が頑張って作ってくれた曲。これに込められた想いをみんなで歌うね!」
「みんな……」
彼の我が儘をみんな受け入れてくれた。そのことに胸が熱くなって来る。
「ねえ、この曲のタイトルを教えて?」
歩夢からそう聞かれ、彼は笑顔を見せながら応えた。
「曲名は、《TOKIMEKI Runners》だ──」
他人だけでなく自分の為にも。それに気付き彼はまた一歩前に進むことが出来ました。そして生まれた曲が……。
次回、「トキメキを駆けろ」
μ's編ラスト!
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