RAINBOW X STORY 作:山形りんごをたべるんご
「
粘土が一度捏ねられる。
──
「古代ギリシャの演劇で使われていた手法です。劇の内容が錯綜して縺れた糸の様に解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在……神が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き物語を収束させる。それって、見方を変えれば物語の主人公もそうなんじゃないかって私は思うんです」
コツコツと足音を鳴らしながら、
粘土が平たく伸ばされる。
「どんな不幸も、どんな絶望も、物語の主人公は跳ね除けて最後には希望を掴み取る。望む未来を掴み取ることが出来る、絶対的な存在なんですから」
粘土が二つに千切られる。
「特にアナタの様な、存在しない筈の主人公はそうなんじゃないかしら?」
──
彼女はいつもと変わらない笑顔で目の前にいる。
「貴方を必ず私達は好きになる。貴方は必ず困難を乗り越える。貴方に必ず奇跡が起きる。用意されたシナリオは、貴方にとって素晴らしいものなのだから」
粘土がくっ付けられる。
「本当に不思議だよねぇ。訪れるのは貴方にとって……貴方を
気付けば目の前には
粘土がまた捏ねられる。
「ねえ、アナタは本当に、貴方が存在してると思う?」
──
「この世界は誰かによって作られた世界。誰かの都合で書かれた世界。誰かの
──
粘土が丸められる。
「つまりこの世界は創作物。誰かが書いたアナタにとって都合良い世界ってこと。私もアナタも、外の世界の誰かが書いたシナリオに従って動いているだけ。今この瞬間も……そうは思わない?」
──
否定する
「ねえ、先輩。物語には大きな柱があるんです。そしてそこから枝分かれして世界は広がっていく。でも、それと関係の無い場所で勝手に物語が産み出されてしまうこともあります。分かり易く言うと、二次創作ってものですね」
粘土が潰される。
「本来の物語を誰かが真似て作った作品。居ない筈の
眼前にいる
彼女達の言葉で、
粘土がまた丸められる。
「ねえ、
歩夢が
粘土が撫でられる。
「アナタは誰?
アナタは生きてる?
アナタは存在してる?
アナタに意思はある?
アナタの物語は必要?
アナタは……誰かに望まれてる?」
「俺は!/私は!」
隣りで誰かの声がした。先程まで重なり、混ざっていた筈の声だ。そして感じられる人の気配。
私の隣りに、その誰かがいる……。
俺の隣りに、その誰かが立ってる……
ゆっくりと横に目線を向ける。
ゆっくりと横に首を向ける。
次の瞬間、身体は弾かれて、闇の中に沈んでいった
丸くなった粘土が、ポツンと机に置かれている。
その真ん中が、地獄の門の様に開いた。
私は校舎の前で倒れていた様だ。立ち上がって周囲を見回す。辺りは真っ暗で夜なのかなって思ったけど、空には星も月も無い。ただ黒く塗り潰されただけみたいで気味が悪い。
後ろから轟音が鳴った。振り向いてみると、そこに居たのは丸くて大きなナニか。
「魔デウス……」
それが何なのか、私には何故か理解出来てしまった。形を変えて、魔デウスは動き出す。
終わりのシナリオ。それを書き始める為のキーボードが、叩かれる音が響いた様な気がした………。
俺は存在しない筈の存在。
誰かのエゴで生み出された存在。
架空の中の更なる架空。
物語の形を歪ませる異物。
消さなきゃ。居なくならなきゃ。
消えなきゃ。無くならなきゃ。
一つ、一つ、話を消していく。これで良いんだ。邪魔な
俺は不要な存在。俺は害でしかない。俺は……────
「……………違うッ!!」
疎まれる存在だろう。気に喰わない存在だろう。消えて欲しい存在だろう。でも、それでも俺はここに居る。誰かに作られた存在だとしても、誰かの意思で全て決められているとしても、この心は俺の物なんだ。
俺を生み出した誰かにも、俺を見てる誰かにも奪わせはしない。
景色が変わる。白い部屋。そして真ん中にある机の上にはノートパソコンが置かれていた。すぐにそれに近付いて画面を見る。キーボードが一人でに打たれ、文字が刻まれていく。
タイトルは「デ憂ス・穢クス・マキ無」。
ひたすらに世界を破壊していく怪獣・魔デウスの姿と、それをただ見ることしか出来無い主人公の話だ。主人公の名前は高咲 侑。彼女は何も出来ずに呆然として魔デウスの破壊活動を見るだけだ。そして話には、スカイマスケッティも登場していた。魔デウスにより、最も簡単に堕とされてしまっているが……。
「まさか……」
ポケットや懐に手を当てる。やはりデバイザーは無い。
恐らく話の中の世界は俺が存在した世界。そこに侑という少女が代わる様に飛ばされたのだろう。
恐らく彼女は、今俺と同じ立場にある。ならば……。
俺はキーボードを打つ。彼女にメッセージを伝える為に。
ひたすら破壊を続ける魔デウスに、私は何も出来なかった。そもそもただの女子高生があんな怪獣に出来る事なんて初めから無いんだ。
私も世界も、全てが終わる。もう大切な友達や幼馴染、家族と会うことも出来無い。ときめきを感じることも出来無い。ごめんね、みんな……。
《高咲!高咲 侑!!聴こえるか!?》
不意に、頭の中で声が聞こえて来た。これはあの時、私と重なっていた声だ。それが誰なのか、何と無くだが私には分かってしまった。
「天地 翔琉君……?」
《正解だ。いいか、良く聞け。お前は入れ替わって俺になっている。だから、ウルトラマンエックスに変身出来るんだ》
「ウルトラマン、エックス……」
ポケットの中にあった機械を取り出す。これがウルトラマンエックスに変身する為の物であると何故だか分かった。
「でも、私そんなこと出来無いよ……!?」
《出来る!俺が必ずエックスが勝つ物語を完成させる!》
………やるしかない。大切なものの為にも。
「信じてるよ翔琉君」
《ああ、任せろ侑》
私は機械の上にあるスイッチを押した───
閃光が迸り、ウルトラマンエックスが出現。先手必勝。ブーメランの様な形で上空に浮かんでいる魔デウスに向かってザナディウム光線を放つ。魔デウスはそれを受けて堪らず爆発。
することは無く、光線を吸収、増幅してエックスに返した。
───チッ、簡単には終わらせないってか。
エックスは横に飛んで光線を躱す。
魔デウスは球体になってエックスに突撃。その身体でエックスにのしかかる。エックスは苦しみの声を漏らしている。
隙を突いてエックスは魔デウスから離れる。そして光弾を放った。
しかし魔デウスにそんな攻撃は通用しない。
───くそ!負けるシナリオなんか、完成させはしない!
エックスは駆け出して魔デウスに突っ込む。強烈なパンチをその身体に叩き込んだ。
寸前で魔デウスは大きな口を開き、エックスを呑み込んでしまった。
───何!?
魔デウスの中、終わる事なき激痛がエックスを襲う。身体はボロボロ、心も折れ、もう反抗することは叶わない。ウルトラマンエックスはここで倒れ、世界は魔デウスによって終わりを迎え────させるかよ!!
エックスは目覚め、身体からエネルギーを放ち逆流させる。苦しむ魔デウス。エックスは高速回転しながら飛び、魔デウスの身体を突き破って体内から脱出した。魔デウスを背にして大地に降り立つエックス。そして振り返り、ザナディウム光線を再び放った。もう吸収することも耐えることも、躱すことも出来無い。光線は魔デウスに炸裂し、爆散させる。腕を下ろすエックス。ウルトラマンの活躍で、世界は守られたのだ。
〈完〉
「ふぅ……。何とか、なった……」
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「おはよう侑ちゃん!」
朝。学校に向かっている私に歩夢が声を掛けた。
「おはよう歩夢」
いつもと変わらない日。
当たり前だけど、大切な日。
青く澄み渡る空が輝いてるみたいだ。
「どうかしたの?」
「今日も明日も、ときめきを見つけられたら良いなって」
「ふふっ、そうだね」
私が笑うと歩夢も笑った。
大切な幼馴染。彼女とこれからもずっと一緒に入れたらなって思う。
「…………ありがとう」
「ん?」
「何でも無いよ」
私は走り出す。もう逢う事の無く、次第にその記憶が薄れて来てる友人を想いながら。
これから先の未来、どんな物語が待っているかは分からない。でも私はみんなと走り続ける。
虹の向こうまで────
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ベッドから起き、カーテンを開ける。朝日が部屋の中に差し込んで眩しい。
窓を開いてベランダに出る。
見上げると、青い空が何処までも広がっていた。
「翔琉君」
横を向くと隣りの部屋の歩夢がベランダに出てこちらを見ていた。
「おはよ」
「うん、おはよう」
俺は彼女に近付き、その頬に触れた。
「か、翔琉君……?」
俺も歩夢もここにいる。この世界に存在している。彼女だけじゃなく、この世界の全てが存在してるんだ。
それはきっと間違い無いこと。大切な人達が存在している、この世界を守りたい……なんてヒーローみたいなことを思ってしまってた。
「どうかしたの?」
「どうもしてないさ」
軽く頬を突いた後、空をまた見上げる。
「ありがとな」
「えっ?」
段々と記憶から消えていく何処かの友人に想いを馳せる。
俺の物語はまだ終わらない。誰かに否定されても駆け続ける。きっとそれが、生まれた理由なのだから───
憂いの物語。
穢れた物語。
無き物語。
喜ばれもすれば疎まれもする。
肯定もされれば否定もされる。
誰かの言葉で希望を得ることも、絶望に陥いることもある。
エゴの塊なのであろう。身勝手の極みであろう。望まれてないかも知れない。
それでも我々は、
多分それが我々の─────