Side レイネル
私がリアス部長の眷属悪魔に転生してから、ずっと気になっていた事があった。
何が気になるのかというと…朱乃さんの、私達堕天使だった者を見る目だ。
何と言えば良いのかな…何か嫌悪している様で、けれど分かり合いたいとも思っている様で…分かりやすくするなら、複雑な想い、かな。
そればかりじゃない。
いっちゃん、私達堕天使だった者と話をしていた時にこう言っていたよね…朱乃さんと私、何処か似た様な気配がしたって。
いっちゃん曰く、天使だった頃の私と、朱乃さん…過去に朱乃さんの気配を感じた時に似ていると思ったみたい…何だか凄いね、そういった気配に鋭いなんて。
其処までになる程、私がいなくなってから、ずっと厳しい訓練を積んで、はぐれ悪魔とも渡り合って来たんだよね、凄いな、いっちゃんは…おっとっと。
ともかく、いっちゃんの話を踏まえると、朱乃さんは天使、或いは堕天使から部長の眷属悪魔に転生したという事になる。
…でも此処で1つの問題が出て来る、朱乃さんが今17歳の高校3年生だと言っている事が果たして本当なのか、という事だ。
仮に本当であったとすると、天使であるという線は消える…私が天使として生まれるまで数世紀という長い間、新しい天使は生まれなかったからだ。
故に天使からのルートなら、年齢を偽っているとしか考えられないが、悪魔陣営と天使陣営は今でも敵対関係、おまけに私と1つしか違わない部長と経歴豊富な天使、果たして部長に屈服させられるのかという疑問点も残る。
だとすれば、17歳だとしている年齢は本当で、堕天使から転生したと思うのが自然な線だと思う。
…けれど私が堕天した10年前からグリゴリでお世話になっていたが、堕天使の誰かが悪魔陣営に寝返ったという話は聞かないし、悪魔の領地に入ったという話すらも聞いていない…アザゼル様からの厳命で禁止されていたからね。
となればグリゴリに所属していないはぐれという可能性もあるけど…
…あ、そういえば以前、アザゼル様からこんな話を聞いた。
最高幹部であるバラキエル様の家族が、その親族に襲われ、妻である人間が亡くなった、と。
バラキエル様の1人娘は助かったものの、グリゴリの保護を拒否し、それ以来行方が分からない、と。
…もしかして?
「朱乃さん、今日の訓練の前に1つ、聞きたい事があるけど良い?」
「はい、何ですか?」
「単刀直入に聞くよ…バラキエルって堕天使に心当たりは?」
「!?」
聞いた瞬間、私の周囲の空気が一気に冷え込んだ様な気がした…
「な、何故あの人の名を?」
「私がアザゼル様やシェムハザ様に目を掛けられていたのは話したよね?そのアザゼル様から少し気になる話を聞いたんだ…バラキエル様と、人間の女性との間に生まれた1人娘の事をね」
「それが私ではないか、と?あ、あら嫌ですわそんな、何を根拠に」
「根拠?明確な物は無いよ、ただ気になっただけ。いっちゃんから少し気になる話を聞いたからね…朱乃さんと私、似た様な気配がしたって言う、ね」
「わ、私とレイネルさんが、ですか?」
「うん。その話を踏まえれば…考えられるのは2つ。貴女が天使か堕天使か…そのどちらかから、部長の眷属悪魔になった…という事。そして貴女の年齢、部長との力関係をも考慮したら…天使であるという線は無い。そして10年間グリゴリでお世話になった中で悪魔陣営に寝返った情報が入って来なかったとなれば(バチィッ!)…!」
私の推理を喋っていると突然の殺気を感じたので飛び退くと、私が元いた場所に雷らしき物が飛んで来た…まさか今の、朱乃さんが?だとしたら…
「…余りあの人との過去を詮索しないで頂けますか?幾らリアスの眷属同士だとしても、限度という物がありますわ…!」
「…さっきからバラキエル様の事をあの人呼ばわりしているって事は…関係者みたいだね。もしかして件のバラキエル様の1人娘って(ドゴォォォォン!)く…!」
「あの人の名前を一々呼ぶなぁぁぁぁぁ!」
くっ…かはっ、強烈な一撃が来たね…全身が凄く痛い…流石は「神の雷光」と言われた、バラキエル様直々の雷撃…!
こんな一撃を躊躇なく振りかざして来るとは…随分と触れたくない過去みたいだけど…!
「っ!?れーちゃん!?」
「朱乃先輩!?」
「…一体何を!?」
あ…いっちゃん達…不味いなぁ、不格好な姿晒しちゃったね…
「れーちゃん!しっかりして!」
「…あ、いっちゃん…ごめん、ちょっとヘマしちゃったみたい」
「朱乃先輩!何してんすか!」
「…落ち着いて下さい!」
「離して下さい!」
「…態度が気に食わないから雷撃?図星刺されたからお得意の技?随分と都合の良い思考をしているんだね、バラキエル様の娘」
「なっ…!まだ言いますか!」
「落ち着けっつってるでしょ!レイネルも煽るな…って、え?」
「…レイネル先輩、何故それを!?」
へぇ…小猫ちゃんは仔細を知っている様だね…確か小猫ちゃんは幼少期に部長の眷属になったんだっけ…なら知っていても可笑しくは無いね。
「いっちゃんと佳奈にも教えるわ。彼女は…朱乃さんは、堕天使の最高幹部、バラキエル様の娘よ!」
「な…本当なのかよ…それ…!」
「朱乃さんが…堕天使の娘…どおりでれーちゃんと気配が似ている筈だ…」
「…ええ、そうですわ」
私の断言に肯定する朱乃さん…それから朱乃さんは話始めた。
バラキエル様と人間の母、
しかしながら堕天使と契りを結んだ事で朱璃さんが親族から目の敵にされ、刺客を送り込まれた過去。
その度にバラキエル様が撃退したが、それが却って怨恨を募らせる結果となった過去。
そして…バラキエル様が留守のタイミングで入り込んだ刺客に朱璃さんを殺害された過去。
「何度恨んだか分かりませんわ…母を見捨てた父を、欲望の余り周囲を省みない堕天使を…そして、そんな忌まわしい存在に生まれてしまった自分を…何度、何度恨んだことか…!」
「そ…そんな事が…」
「アタシらを何か複雑そうに見ていたと思ったら…そんな過去が…!」
「…朱乃先輩…!」
…プチっ、ていう音が聞こえた気がした時には、いっちゃんの手を振り払っていた。
「!れーちゃん!?」
「っ!?」
「お…おいレイネル!?」
「一体…一体何を!?」
「甘ったれてんじゃないわよ(パァン!)このバカ女!」
「!?」
さっきから黙って聞いていれば…イライラする事ばかり並べて…!
「欲望の余り周囲を省みない?肝心な時に見捨てた?娘の癖に、バラキエル様の事をちっとも理解していないんだね!バラキエル様だって、好きで貴方の母を、愛した人を見殺しにした訳じゃ無い!恨みを買いたかった訳じゃ無い!貴方の事をどれだけ案じていたか…貴方に分かる?たった1人の娘だよ…どんなに拒絶されても、可愛くないと思う訳が無いわ!」
「だけど…だけど!私はただ、家族皆で幸せに暮らしたかっただけなんです!それを…それを父は、堕天使は奪ったんです!ぶち壊しにしたんです!父と母が結ばれなければ…人間の両親の下に生まれていれば良かったんです!」
「貴方はもう喋るなぁ!(ゴッ!)」
「くぅっ!?」
「私が堕天使になってからの事は皆にも話したし、貴方の母を殺されてからの辛さも分からなくもない…だけどね、それで大事な人を、愛する人を、掌返しの様に逆恨みするのはお門違いよ!少なくとも私は、いっちゃんを恨んだ事も、恋をしなければ良かったなんて思った事も一度たりとも無いわ!」
「!」
「!…れーちゃん」
「確かに私も貴方と同じく、私を想ってくれている人から、その人の想いから逃げたよ。こんな姿見られたら嫌われる、欲望に塗れた存在なんて好きになってくれる筈が無い、なんて身勝手な理由でね。その点、貴方とは五十歩百歩だし、そしてそれが原因で人間としてのいっちゃんを殺した。許される事じゃない。どれだけ償っても償いきれない、重い罪だと思っている。だけどね、私がいっちゃんに抱いた想い、それが揺らいだ事なんか一度だって無い!それだけは確かよ!」
「!」
「貴方だって…本当はバラキエル様を想っているんでしょう?父親として、慕っているんでしょう?今からでも遅くないわ…ちゃんと話し合わないと。血の繋がった家族は掛け替えの無い存在だよ。失ったら、無くしてしまったら、お仕舞いだよ」
私の今抱いている想いの丈を全て話した…そしたら朱乃さんは、
「…わ、私は…う…うぁぁぁぁぁぁぁ!」
泣いた、泣きじゃくっていた…言い過ぎたかな?でも…後悔は無い。
かなり荒療治だけど…大切な人に向き合って欲しいから。
私と同じ轍を…踏まないでほしいから。
「今まで…辛かったんだよね?苦しかったんだよね?だったら泣いて良いよ。今までの辛苦、全部涙で流すと良いよ」
「お父様…お父様…うぁぁ…あああ…!」
朱乃さんは、ずっと泣いていた…
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「朱乃姉さんに、そんな過去があったんすね…」
「大切な人に見捨てられる辛さ、か…何と苦しかったであろう…」
「しっかしレイネルさんマジ姉御キャラって感じだったねぇ」
「朱乃さんの辛さを癒すレイネルさん…これも神の御導きなのですね!」
「…僕達何で、物陰で見ているんでしょう?」
「今更出にくいわ…けれど、これで良かったみたいね。朱乃も過去と向き合える様になったみたいで」
私達以外の6人が、一部始終を物陰で見ていたと知ったのは少し経ってから…ちょっと恥ずかしいなぁ。
けれど、色々あった訓練も、こうして終わった…色々と収穫ある訓練だったね。
さ、明日のレーティング・ゲーム、頑張るよ!