「思い出したくも無いだろうが…聞かせてくれないか?お前が思い出した過去を、話せるだけ」
「そうですな、イッセー君には付き合って貰っているし、木場ちゃんにも話していなかったから丁度良かった」
「僕もどうしても気になっていたんだ…君が生き残っていた事について、さ」
フリードの聖剣への憎しみ、木場の反応、そして『全て思い出した』という口振り…これでフリードが聖剣計画の被験者だった事は明らかだが、そうなると、木場が言っていた様に問題点が残る…毒ガスで木場以外が皆殺しにされた中で、何故フリードが生き残ったのかが。
そんな俺達の想いを察したのか、フリードは話し出した…過去の有りのままを。
「イッセー君のお察しの通り、俺も聖剣計画の被験者でさぁ、木場ちゃんとは同じ被験者として仲良くさせて貰いやしたが…あの日、俺も他の皆と同じく『不良品』とされて毒ガス室に放り込まれやした。木場ちゃんだけは他の皆と協力して脱出させる事は出来やしたが、結局それだけで力尽きて…毒ガスに苦しみながら、俺は怨嗟の声を上げ続けましたよ、『俺が何をした、俺がどんな罪を働いた、俺が何故こんな苦しい死に方をしなきゃならない』って、ずっと…今思えば皆だってそうだったのに、身勝手な物でしょう?…何かの皮肉か、その怨嗟を運命は聞いちまった…その『死の淵』何てタイトルが付きそうな状況下で、俺の血が、血管が騒めくような感覚を覚えたんです…多分、俺の『刺客の血』はその時目覚めたと思いますよ…その後はぶっちゃけ覚えていないんですが、多分俺の『刺客の血』で体内に入った毒を分解したんだと思いますぜ…そう、俺だけ、死に損なっちまった…残った他の皆が苦しみながら死んだ中、俺だけ死ねなかったんすよ…挙げ句、後遺症でそれまでの記憶を失った俺は、それからも教会のエクソシストという名の、狗みたいな仕事をさせられ、それで使うだけ使われてポイ捨てされた訳でさぁ…それからはイッセー君が知っている通りです」
「そうか…やっぱり皆は…」
「…フリード」
予想していたとはいえ…改めて聞くと、2人が背負う『無念』という十字架はどれだけ重いだろうと思い知らされる…神の名の下で、罪なき子供たちが良い様に弄ばれた挙げ句惨い方法で殺害され、生き残ったフリードが記憶を失っている事を良い事にそれからも使い倒した…ふざけるなよ…!木場が、フリードが、彼らの亡き旧友たちが何をしたって言うんだ!
「イッセー君の幼馴染だとか言っていたあのムカつくクソビッチとの写真に写っていた聖剣で思い出した時は、何で俺だけ生き残っちまったんだろうって思いましたよ…思って悩んで、訳が分からなくなってイライラして…その節はどうも迷惑掛けやした。けど俺が…俺があの場で神器を覚醒させて助かったのには意味があるんじゃねぇのかって思う様にしたんです…聖剣に復讐する為に、聖剣計画とか言う冒涜的なバカを風化させない為に…」
「僕もだ…部長は僕に聖剣に対する復讐心に囚われない様、忘れる様、気に掛けてくれていたみたいだし、僕も最近まで忘れていた…でも、やはり忘れる事は出来ない。僕やフリードだけ残して皆が惨い殺され方をして、首謀者はのうのうと生きているかも知れない…そう思うと…どうしても許せない…!」
…木場とフリードに重くのしかかった『無念』の文字、そして心に絡みついた聖剣への復讐心…これを晴らすには、やはり…待てよ?
「この件…もしかしたらその首謀者も一枚噛んでいるかも知れねぇぞ?」
「何だって!?それは本当k」
「木場ちゃん、そのネタはもう良いっての…で、何でイッセー君はそんな事を?」
「腐っても鯛、じゃないが教会は天使陣営の総本山、故に体裁って物がある。秘密裏にそんな計画を実行していた事が分かれば首謀者は唯で済む筈が無い。故に何が何でも秘密を守り通そうとする筈だ。被験者たちを毒ガスで始末したのも、確実に息の根を止められると判断しての事だと思う。其処までして情報が漏れるのを恐れていたのに、脱走者が出たと聞いて何もしない筈が無い。その脱走者である木場の居所を探す内に悪魔になった事が判明したとしたら…」
「つまり…僕は知らず知らずの内に皆を…!?」
「いや…それは無いと思いますぜ?」
俺が立てた仮説に木場が戦慄を覚えるも、それは直ぐにフリードが否定した。
「俺が記憶を無くしてから教会にいた時の間だったんですがね、バルパー・ガリレイとか言う司祭が、追放されたと言う話を聞いた事がありましてね…何か聞いた事ある名前だなぁとその時は思ったんですが、過去の事を思い出して、聖剣計画の首謀者と同姓同名だった事が判明したんすよ。で、どうも追放された理由が、司祭にあるまじき冷酷非道な行いを行ったとかで…恐らく、聖剣計画がバレた処分だと思います」
「て事は…そのバルパー・ガリレイが関わっている可能性は無いと言って良いという事か?」
「言って良いと思いますぜ。追放された聖職者は秘密裏に悪魔祓いによって始末される運命にありやす。神器持ちの悪魔祓いだった俺は蹴散らしてやりやしたが、権力だけが取り柄のオッサンに逃れる術なんざ考えられませんて」
フリードの情報に納得する俺達…だが後に、俺の仮設の方が正しかったとはまだ知る由も無かった。
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「しかし、聖剣が3本も集まればその気配は強大な筈、増してや俺達悪魔は聖剣が放つ『聖なる物』の気配には敏感だ…まさか手掛かりの1つすら掴めないとはな…」
「相手は堕天使でも最高クラスの力を有するコカビエル、気配遮断も相当な物があるんだろうね…兵藤君ですら掴めないなんて、余程の実力があると見ていいね」
「案外、ガセネタ掴まれちゃいましたってオチだったりして」
「「それは無い(な)(ね)」」
そんな事をしたら天使陣営による事実上の宣戦布告だ…普段の調子を取り戻したフリードに突っ込みつつ、この街に潜入したコカビエルの手掛かりを捜索するも…収穫が無い。
木場が言っていた通り、相当な実力を有しているんだろうな…木場とフリードを救う為と、勇んで出たが、いざと言う時は部長を通じて魔王様に頼らざるを得なくなるかも知れないな。
と、先の事を考えていたその時だった。
「お、電話だ…匙の奴か、もしもし?」
『済まん兵藤!こちらで保護していた聖剣使いが脱走した!』
「なん…だと…!?」
電話に出た俺の耳に響いたのは、先程倒れ伏したイリナ達を保護していたシトリー眷属の中で俺の知り合いである匙の、切羽詰った声だった。
おいおい、マジかよ…下手に動き回られてコカビエルに始末されるのを危惧したのもあって聖剣エクスカリバーを破壊したって言うのに、それでも動き回りたいか!?
「大丈夫か匙!?こんな時の為に聖剣は破壊した筈だったんだが?」
『それがゼノヴィアって言ったか?あの青髪の奴が他に聖剣を隠し持っていて、それを振り回されて脱走を許しちまった、済まない!』
「ま、マジかよ!あいつら…!」
その聖剣を隠し持っていたと言うゼノヴィアは兎も角、丸腰のイリナを抱えては危険なのは明らかだ…そうまでして自分たちでやりたい気か…!