「え~迷える子羊にお恵みを~」
「どうか、どうか天におられる主に代わって哀れなる私達にお慈悲をぉぉぉぉ!」
…何これ?
昨日の匙からの連絡によって、この街に潜伏している堕天使の最高幹部コカビエルの捜索に加えて、徘徊しているイリナとゼノヴィアの捜索もする事となった俺達…昨日の一件もあるし会った所で攻撃されかねないと警戒していた俺達の目に映った光景、それは…
イリナとゼノヴィアが乞食の如くカンパを募っていた。
「何と言う事だ…これが経済先進国である日本の現実なのか。これだから信仰の『し』の字もない国は嫌いなんだ」
「駄目よゼノヴィア、文句ばかり言っちゃ…路銀の尽きた私達はこうやって異教徒達の慈悲無しには食事もとれないのよ?ああ何と言う事、パンの1つすら買えない私達!」
「…なあイッセー君に木場ちゃんあいつら昨日俺達の所に交渉という名の脅迫をしたクソ聖剣使いだよな?」
「…ああ、うん、確かそうだった…と思うよ、僕は」
「嘘だッ!」
「イッセー君気持ちは分かるけど一先ず落ち着いて焼き鳥野郎にひっついていた中華ビッチじゃあるまいし」
「フリード、君も落ち着いて、さっきから長々と息継ぎしないまま喋っているよ?」
「ああ、悪い悪い。で…何か予想より早く見つかったし、思ったより簡単に交渉に持ち込めそうだな」
「だね。ご飯で釣ってみようよ」
「訳が分からないよbyQB」
「いい加減お前も落ち着けや」
フリードに突っ込みつつ、交渉の為に近づいた…これ以上やられても目立つばかりだからな。
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「美味い、美味いぞ!」
「小母さん、御代わり!」
「はいはいイリナちゃん、一杯食べてね」
一先ず俺の家に連れて行き、母さんに簡単な事情を説明して、ちょっと早い昼食を急ピッチで作って貰った…母さん、幼馴染達がバカですいません…
「はふぅ、ご馳走様でした!主よ、この心優しき悪魔達に祝福を」
「「(ズキィッ!)痛ッ!」」
「…飯作ってくれた人の息子に対して嫌味かお前」
「あっ…ご、御免なさい…」
今更ながら俺達は悪魔だっつーの…十字架を持ちながら感謝したイリナだったが、悪魔である俺達にとっては頭痛を催す事、厳しく注意した。
「それじゃあ母さんは買い物に出掛けて来るわね。後で出かけるんでしょう?戸締りは頼むわよ、イッセー」
「ああ、いってらっしゃい母さん…で、何で保護を振り切って徘徊していたかは見当は付いている…大方、俺達悪魔に任せるつもりは無いって事だろ?」
「無論だ、私達は教会の、引いては神の意志でこの任務を仰せつかった身、悪魔共の介入は許可しても、一任する訳には行かない」
気を効かせてくれたのか、母さんが家を出たのを皮切りに、俺達はさっきまでの和やかな空気から一転、天使陣営と悪魔陣営の交渉モードに切り替える…まあ予想通りだな、だが…
「悪い事は言わない…お前ら2人はこの一件から引け」
「何だと!」
「イッセー君!さっきゼノヴィアが言った筈だよ!」
「随分と直球で来たね…」
「何も俺達悪魔に一任しろとは言わん…唯、救援を要請して、到着次第本拠に戻れって事だ」
「無理だ、そうしている内に、確実にコカビエルはこの街で何かを仕出かすだろう」
「先延ばしには出来ないって事は、この街の管理をしているリアス・グレモリーの眷属であるイッセー君なら分かる筈だよ」
「…なら前言撤回、天使陣営は俺達悪魔陣営に一任するしか無いな」
「そんな事が出来るか!悪魔に任せるなぞ信用出来ん!」
「そんな事したら主に申し訳が立たないわ!それなら死んだ方がマシよ!」
「部長が言った筈だ、悪魔のプライドに賭けて、堕天使とは手を組まない、と。聖剣だって俺達悪魔には害悪でしかない…回収次第、お前達に渡す。それで良いだろう?」
「話にならない、それは信用以前の、私達の信仰に関わる話だ!」
「ゼノヴィアの言う通りよ!私達はこの任務を確実に遂行する、それこそが私達の、私達が信ずる神の望む答え(パァン!)!?」
「イッセー…君?」
「あれ、ひょっとして…イッセー君の堪忍袋が…爆発しちゃった感じ…?」
さっきから黙って聞いていれば…!
「この分からず屋が!お前らがやろうとしている事が、天使陣営にとっては、お前らが信ずる神にとってはマイナスにしかならないと、何故分からない!?」
「なっ!?」
「何ですって!?」
「良いかお前ら!お前ら昨日、俺と戦った結果どうなった!?たった10秒足らずであしらわれて、持っていた聖剣エクスカリバーを破壊されただろう!?得物があっても下級悪魔である俺ですら片手間で十分な相手、増してやその得物は無い…そんな相手が、堕天使の最高幹部であるコカビエルから聖剣を取り返すだと!?思い上がりも大概にしやがれ!俺が聖剣を破壊させなければ、逆にコカビエルに奪われる所だったんだぞ!?」
「そんな物やってみなければ分からない!それに得物なら持っている!エクスカリバーをも凌駕する、そんな得物が!」
「ゼノヴィアはそうだろうが…イリナは完璧な丸腰だろう!お前達の事だ、これからも2人だけで行動するに違いない…唯でさえ勝機が無い相手、それを非戦闘員となっているイリナを守りながら戦えると思っているのか!1人で戦うよりずっと難しい事なのは、悪魔祓いであるお前なら理解出来るだろう!」
「し、しかし」
「そのお前が持っていると言う、エクスカリバー以外の聖剣までコカビエルの手に渡る事を想像したか!?そうなってしまったら天使陣営の力は極端に下がるも同然、戦争になった時、3大勢力で最初に滅ぶは天使陣営になる事はほぼ確実なんだぞ!そんな結末を、神は望んでいるか!?ふざけるのも良い加減にしろ!」
「「!」」
「分かったなら直ぐに学園に戻って、シトリー会長の保護下で大人しくしていろ。何なら俺が護衛に回っても良い」
俺の一喝にシュンとなったのか、俺の指示に黙々と従う2人…だったが、
「…1つ聞いて良いか?」
「何だ?」
「仮に貴様が言っていた通りになったとしても、それは悪魔陣営にとってはむしろ喜ばしい状況の筈だ…敵陣営の弱体化程、戦場で望ましい事は無いからな。何故、それを態々言ったんだ?黙っていれば、私達の自滅が待っているのに」
何故だって…愚問だ。
「俺の彼女であるれーちゃん…レイネルは、元は天使だったんだ」
「な!?」
「天使様だったの!?」
「今から10年も前…イリナが外国に引っ越して行って直ぐ後の事だ。俺が小学校から帰る途中で、飛行に失敗して不時着している所を見つけたんだ。白い羽が背中から出ているし、まさかと思って聞いてみたら、案の定だったよ。どうやらはぐれ悪魔討伐の為に派遣されたみたいだったんだが、急きょ俺の家で保護して、数ヶ月の間、一緒に過ごしたんだ。彼女は、優しくて思いやりがあって、ちょっとドジだけど博識で、曲がった事は嫌いで…正に、天使の理想像を体現していたよ。そんな彼女に…俺は何時しか恋をしたんだ。でも当時の俺は恋の『こ』の字すら知らないガキんちょでさ、何が何だか分からなくなって、彼女に聞いたんだ…この胸のドキドキは何なんだ?って。そしたらそれが恋って奴で…彼女も、俺に恋していた事が分かったんだ。すげー嬉しかったよ、両想いだったんだなって。だけど…想いを告げた次の日、彼女は忽然と姿を消したんだ。何故か、分かるか?」
「ま…まさか?」
「…堕天したんだ、彼女。俺への想いが原因で」
「!?そ、そんな事が…」
「堕天した彼女は、こんな姿を俺に見られたくないが為に姿を消し、その身で天使陣営には戻れなくなったから、グリゴリに身を寄せたんだが…そこでの生活は地獄に近かったらしい。人間である俺に恋して堕天した愚か者だとか、能力に欠ける軟弱者だとか苛められて…10年が経って、ある神器保有者が持っていた神器を奪って見返してやろうという想いに躍起になる程になってしまった程に…お前達が『魔女』だとか言っていた、アーシアの神器『聖母の微笑』をな」
「な…!?」
「う、嘘でしょ…!?」
「グリゴリに無断でこの街に潜入して、アーシアも其処に赴任させる名目で、神器を奪う算段だったらしい…そして、其処で俺達は再会したんだ…最悪な再会をな」
「最悪な…?」
そう、少なくともれーちゃんにとっては最悪な再会を、果たしたんだ…
「俺、その時に人間として死んだんだ。れーちゃんの光の槍に貫かれて」
「な…!?」
「!?イッセー君…」
「その少し前、俺はとあるはぐれ悪魔の駆除をしていたんだが、その様子を、れーちゃんの協力者だったドーナシークという堕天使…今、式波塔也として駒王学園の教師をやっている悪魔だがな、そいつに見られた様で、脅威であり始末するべきと進言して来たみたいなんだ…その時は、彼女は俺だと知らなかったがな。で、彼女が俺の後姿を見つけて襲い掛かった所で俺が振り向き…俺は思わぬ再会に固まって、その隙に刺さってしまったって訳だ。彼女、泣いていたよ…自分の所為で俺が、ってな…でも俺は、10年間の罪を支払ったと思っている…そう、10年前に彼女を堕天させた罪を…結局、部長が悪魔として転生させてくれたお陰で、今こうして悪魔として生きているが。でもそんな再会を経たけど、彼女と再会出来た事は本当に嬉しかった。もう二度と、彼女を離したくないって思った。その時決意したんだ…大切な人を、失いたくないって」
そう、それが俺の決意。
「俺は大切な人…部長を始めとした悪魔の仲間達、バンドのメンバー、親友達、両親…そして、れーちゃんを失いたくないんだ!失わせない為に、コカビエルが起こそうとしている戦争を阻止したいんだ!」
「!そう…か…」
「ご…御免なさい…イッセー君…私…私!」
「兵藤君…そんな事を…!」
「イッセー君…アンタ男や…!最高の男や…!」
コカビエル…お前の好きにはさせない!