「ういっす、早速始めようぜ」
「やっぱイッセーが来てくれねえと始まらないからな」
「ほんと、バンドの華だもんな」
「全くだ。昨日、練習に行けないと松田達から聞いた時は『大丈夫か…』と思ったぞ」
「本当に悪かったな、松田に元浜、それに匙」
昨日のはぐれ悪魔の駆除も難なく成功し、この街でのはぐれ悪魔の話も聞かなくなった事から、数日振りにバンドの練習に顔を出せるようになった。
そんな俺が愛用のエレキギター、ヤマハ・PACIFICA112JLと、ギターアンプ、ヤマハ・THR10を手に軽音楽部の部室を訪ねると、案の定そこにはGRIDのメンバーである松田に元浜、それに少し色素が抜けた感じの短髪が特徴的な、コーラス兼キーボード担当の
此処まで来れば分かる奴もいるだろうが、GRIDの名前の由来は、メンバーの名前のイニシャル(『G』enshiro、『R』yota、『I』ssei、『D』aisuke)だ。
「じゃあ早速始めようぜ。曲はどうする?」
「そりゃあ、出だしは『アレ』しかないだろ?」
「そうだな、『アレ』か」
「よし分かった、『アレ』だな」
「「「「『BraveHeart』!」」」」
ギターから掻き鳴らす、何度も跳ね上がる豪快な低音から、俺達の演奏は始まった。
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「よし、今日の練習は此処までにしようか」
「そうだな、暗くなっちまったし」
「久々だったにしては、上手く出来たな。それじゃあな」
「おう、また明日な」
演奏練習も一通りこなして解散、俺もまた荷物を纏め、校舎を出た。
そんな最中、ふと気になっていた事をドライグに聞いてみる事にした。
「…ドライグ、気付いているか?匙の奴なんだが」
『ああ。あの人間から、悪魔の気配がした』
「やっぱドライグも気づいていたか。数日会わない内に悪魔に転生したって事になるな。リアス・グレモリー先輩か、或いは生徒会長の
そう、バンドメンバーである匙…あいつから、数日前には感じられなかった『悪魔の』気配を、今日は感じる事が出来た。
つまりそれは…匙がこの数日中に悪魔に転生した、という事になる。
…俺達が在籍している駒王学園、実を言うと悪魔の中でも名門で知られる家柄『元72家』の一角であるグレモリー家が設立した学校で、その影響から重役も悪魔関係者で占められている。
また、グレモリー家の令嬢であるリアス先輩、更には同じく元72家の一角のシトリー家の令嬢であろう支取蒼那…ソーナ・シトリー先輩が、この駒王学園に生徒として在籍している…恐らく人間界で見聞を広めて来い、という意味からだろうな。
入学して直ぐ、駒王学園の敷地内から悪魔、それもかなりランクの高い存在らしい気配…リアス先輩とソーナ先輩の気配がしたので調べてみたら…案の定だった。
他にもこの地はグレモリー家が、悪魔関係の管理を担当しており(早い話が、3大勢力間での『領土』って事になるな。人間が認知しているかは知らねぇが)、主に街に侵入したはぐれ悪魔や、他勢力の存在の駆除を行っているそうだ。
そして2人の他にも複数、2人が転生させたらしい悪魔が、こちらも生徒として在籍している。
学園でも(良い意味で)有名な存在である姫島朱乃先輩に木場祐斗、塔城小猫ちゃん…更に生徒会役員である
…余談だが朱乃先輩と小猫ちゃんからは、悪魔としての気配以外にも人とは違う何かの気配がした。
特に朱乃先輩からは…何処かで会った様な存在に似た気配がしたんだが…気のせいだよな、まさか朱乃先輩が…
「どういう経緯で匙が悪魔になったかは分からないが…警戒する必要は無いな。リアス先輩とソーナ先輩は幼馴染だと聞いているし、下手な動きはするなと釘をさしてくれるだろう。それにソーナ先輩はクールな様で慈愛に満ちている。匙も悪くは扱われていない筈だ…尤もそうで無ければ、いくらランクの高い悪魔であっても生徒会長にはなれないがな」
『そうか。それにあの人間…もう悪魔だったな、あいつは相棒とも気心知れた仲。性格的にも似通っているし、杞憂だったな』
「そうそう」
匙の事についての話し合いを切り上げ、家路を急ぐ…けれど、丁度良かったかも知れないな。
匙がソーナ先輩によって悪魔となった、つまりは匙が、ソーナ先輩との『悪魔関係の』パイプラインを持ったという事でもある。
今後匙を通じてソーナ先輩、更にはリアス先輩と接触出来る様になるかも知れない。
これが何のパイプも無しに接触すればどうなるか…所詮は人間の戯言、と相手にされないに違いない。
不思議な事だが、俺がはぐれ悪魔の駆除を今までしていて、両者と接触した事が無い。
つまりは俺の強さを両者共に知らないどころか、俺が3大勢力関係の事を知らない奴、とすら思っているだろう。
だが匙という存在がいれば…話は通しやすくなる。
「匙を通してソーナ先輩、欲を言えばリアス先輩と関係を築ければ…もしかしたら彼女の消息も掴めるかも知れない。彼女は天使、敵陣営の情報を掴むのは容易じゃないだろうけど、試してみる価値はあると俺は思うんだ」
『彼女…俺が覚醒する前に出会ったと言う、相棒の初恋の天使か』
「ああ…今頃、どうしているのかな…早く、会いたいな…」
忘れた事も無い、あの日の事…あの日、強くなろうと決意した事…
あれから俺は厳しい鍛錬を積み、タスクを手にして使いこなし、そしてドライグとも、ドライグを宿した神器をも手にした。
まだまだ青二才の未熟者とは言えだ、それでも昔とは大違いに強くなったと俺は思っている。
…そう、彼女の、天使である彼女の隣に立っても良い位に。
そう、思っていた時、
「な…空気が、変わった!?」
『これは…結界だ!相棒を取り込む形で結界が展開されている!』
な…まさか、俺の活動が何処かの勢力にバレて、危ないと思って始末しようとしているのか!?
面白い、何処の誰だかは知らないが…この『赤龍帝』兵藤一誠が返り討ちにしてやる!
「タスク!」
タスクを即座に発現し、爪を回転させて周囲を警戒する、と、
「っ!其処…」
突如発せられた殺気に振り向きつつ、放たれたであろう攻撃の風音に向けて爪による斬撃で相殺しようとした、ら、
「!?…れーちゃん?(ドズゥッ!)ぐ…!?かはっ!?」
「嘘…いっちゃん…!?いっちゃん…だったの…!?」
俺の初恋の天使との再会は…胸部を襲う激痛と共に訪れた。
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「いっちゃん!しっかりして、いっちゃん!」
「う…あ…あ、れーちゃん…」
胸の痛みと全身から力が抜ける感覚で気絶しそうになりながらも、嘗て愛を誓い合った存在とそっくりの声に目を向ければ…其処には10年の時を経て成長したとはいえ、間違いなく俺の初恋の天使…レイネルの姿があった。
つやつやの黒髪は何の劣化もする事も無く健在だった一方、綺麗さと可愛らしさを併せ持った顔立ちはより綺麗さを増し、目測で150cm台終盤の上背となったその体躯は、Fカップは有りそうな巨乳に、『くびれ』とはこういう物だと言わんばかりの細めなウェスト、そして少し張り出し気味ながらも整ったヒップラインと、女性らしさに満ちていた。
だが、
「あ、あれ…その、黒い翼…まさか…」
「!…あ、はは…うん、私…堕ちちゃったんだ…10年前の…あの日に…」
!俺の…俺の所為で…れーちゃんが…堕ちた…!
俺が、俺がれーちゃんに愛を誓わせたから…!
俺が…れーちゃんと出会ったから…!
「れーちゃん…御免…俺の…所為で…れーちゃんが…れーちゃんが…!」
「謝らないで!私こそ…御免なさい…黙っていっちゃんの前から消えて…今、いっちゃんに刃を向けて…!」
「れーちゃん…そんな…事…」
「嫌われると思ったの…!こんなまっ黒な翼を、欲に塗れた翼を、いっちゃんに見られたら…嫌われると…だから…だから…!」
「そんな…事…無い…!」
れーちゃんこそ謝るなよ…!
今こうして再会した事で、全て分かった…俺がれーちゃんを堕天させたばかりに、れーちゃんは俺の前から消えざるを得なくなり、堕天使として生きざるを得なくなったんだ。
そして今、そのツケが俺に回って来た…これは俺への『罰』、天使を籠絡した俺への『罰』なんだ。
けれど…罪だと分かっているけれど…1つ言わせてくれ…罪深い俺の欲望の限りを…言わせてくれ…!
「れーちゃん…!」
「いっちゃん、しゃべっちゃ駄目だよ!傷に障っちゃう!」
「良いから…聞いてくれ…!れーちゃん、
大好きだ…この世で一番…愛している…!」
「いっちゃん…?いっちゃん!?い、嫌ァァァァァァァ!」
その日俺は、愛する存在に看取られながら、人間としての生涯を終えた。