「私の名はシーグヴァイラ・アガレス。大公アガレス家の次期当主です」
案内の途上、俺達は自己紹介を始めた。
最初に名乗ったのは先程ゼファードルとやり合っていたアガレス家の次期当主であるあの女性、公私は分けるのか先程の物騒な雰囲気はなりを潜めていた…分ける部分がズレていると思うが。
「僕はディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主です。皆さんよろしく」
さっきの場にも居合わせていたらしいが、どうやらやり合いには参加せず隅っこで待機していたそうで気付かなかった。
どうやら魔王アジュカ・ベルゼブブ様はアスタロト家の出で、このディオドラもリアスやシトリー会長と同じく魔王様の兄弟姉妹だそうだ…が、何か気になる。
何と言えば良いか、一見優しそうなイケメンという風貌にしては、何処かどす黒さを感じる、と表現するべきか…
「私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ」
「私はソーナ・シトリー。シトリー家の次期当主です」
「俺はサイラオーグ・バアル。大王バアル家の次期当主だ」
続いてリアスにシトリー会長、サイラオーグ。
やはり魔王の妹であるリアスとシトリー会長…と言うべきか?リアスに言ったら怒られるか…それに、大王家の次期当主であるサイラオーグだ、堂々とした佇まいをしている。
で、俺か(ゼファードルの野郎は治療の為に少し遅れるらしい)。
「俺は兵藤一誠。最近まで先程紹介のあったリアスの眷属だったんだが、この度魔王様に、臨時ながら上級悪魔に取り立てて貰った身だ。人間から悪魔となって数ヶ月、至らない部分があるが、宜しくな…所でゼファードルの奴だが、確かグラシャラボラス家って魔王ファルビウム・アスモデウス様を輩出した所だろう…何であんな奴が?」
「ああ、それだが…グラシャラボラス家は先日、御家騒動があったらしくてな、次期当主とされた者が不慮の事故死を遂げられたばかりなんだ。それで、その弟であるゼファードルが新たな次期当主の候補となった、という事だ」
「成る程、代打って訳か」
次期当主と目された人物があんな立ち振る舞いをしていてはその家の恥も良い所だ、前々からそうなら相応の指導をされていた筈だが、次期当主の座を得て幾ばくも無いというなら、あれも納得だ。
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俺達若手悪魔7人と、その眷属が案内された場所は、何処か異様な雰囲気を醸し出していた。
俺達の周囲を囲む様な壁、その高い位置には恐らく上層部であろう悪魔の面々が座り、更に一段上にはサーゼクス様やセラフォルー様、更に何処か怪しそうな雰囲気を出す美形の青年…確かアジュカ様だったな、そして何処か気だるそうな雰囲気の少年…こっちはファルビウム様だったな、現魔王の皆様がいた。
「今回の会合に良くぞ集まってくれた。今回、次世代を担うであろう貴殿らの顔を改めて確認する為に、集まって貰った。これは一定周期毎に行う若き悪魔を見定める会合でもある」
「早速、やってくれた様だが…」
上層部の中でもトップ(魔王様以外でな)にいるであろう初老の男性が会合の開始を告げる挨拶をし、それに続いて中年位のひげが凄い男性が皮肉げに言い放つ…その視線を追うとさっき俺の鉄球を食らったゼファードル、その腹部には包帯がぐるぐる巻きにされていた…やらかした俺が言うのもアレだが、少しウケるな。
「君達7名は実力申し分の無い次世代の悪魔だ。故に、デビュー前にお互いに競い合い、力を高めて貰おうと思っている」
「我々もいずれ禍の団との戦いに投入される、そういう事ですね?」
サーゼクス様が俺達を見回しつつそう告げ、サイラオーグが尋ねるも、
「それはまだ分からない。だが出来るだけ、若い悪魔達は投入したくは無いと思っている」
サーゼクス様の答えは『NO』だった。
「何故です?若いとは言えど、我らとて悪魔社会の一端を担っております。この歳になるまで先人の方々からご厚意を受けて尚、何も出来ないとなれば…」
「サイラオーグ、その勇気は認めよう。だが無謀だ。何より、次世代の悪魔を失うのは余りにも大きいんだ。理解して欲しい、君達は君達が思う以上に、我々にとっては宝なんだ。だからこそ大事に、段階を踏んで成長して欲しいと思っている」
その答えに納得が行かないとサイラオーグは食いつくも、サーゼクス様は訳を話す…確かに、他の6人もそうだが俺も強いと思っている、だが戦場では何が起こるかが分からない…『絶対に帰って来る』『絶対に勝つ』『絶対に守る』『絶対に倒して見せる』…そんな『絶対』が、通じる程甘く無いんだ。
だが『絶対』が無くとも、それに限りなく近づける事は出来る…サーゼクス様は、今は『絶対』に近づける様努力する時間なんだ、と言っているんだろう。
分かっている、頭の中では分かっている…けど…!
「さて、長い話に付き合わせて申し訳無かった。なに、先も言ったが私達は若い君達に私達なりの夢や希望を見ているのだよ。それだけは理解して欲しい、君達は冥界の宝なんだ…最後に、それぞれの今後の目標を聞かせて貰えないだろうか?」
そんな俺の葛藤を他所に、サーゼクス様はじめ上層部の方々は今後のレーティング・ゲームや冥界の情勢を話し、最後にサーゼクス様がこう問いかけた…俺の、目標は…
「俺は魔王になるのが夢です」
『ほぉ…』
最初に言ったのはサイラオーグ、その堂々と言い切った姿に上層部の面々も感嘆の息を漏らした。
「大王家から魔王を輩出したとあらば前代未聞だな」
「俺が魔王になるしかないと冥界の民が感じれば、そうなるでしょう」
その物怖じしない姿、凄いな…!
「私は、レーティング・ゲームの各大会で優勝する事が近い将来の目標ですわ」
…む、どうしたんだ?
リアスが目標を言おうとした時、一瞬迷う様な素振りを見せた気がしたんだが…俺の気のせいか?
「私の夢は冥界にレーティング・ゲームの学校を建てる事です」
リアスの様子が気になったからか、シーグヴァイラやディオドラの目標を聞きそびれた(ゼファードル?あんな奴の目標なんて碌な物じゃねぇだろ)らしく、シトリー会長の番となった…が、それを聞いて、上層部の面々は怪訝な様子を見せた。
「レーティング・ゲームを学ぶ場ならば、既に有る筈だが?」
「それは上級悪魔と一部の特権階級の悪魔のみに行く事を許された学校の事です。私が建てたいのは下級悪魔、転生悪魔も通える分け隔ての無い学舎です」
成る程、今ある『貴族向けの学校』ではなく『平民向けの学校』か…良いですね、シトリー会長。
現代日本で生まれ育った俺にはイマイチ実感が沸かないが、中世ヨーロッパの様な悪魔社会では平民への差別も少なからずあろうし、人間社会でも学校に通えない子供たちは大勢いる。
そんな学校に通える機会…自らの才能を育む機会が殆ど無い存在にもスポットライトを浴びせる場、シトリー会長はそれを作ろうとしているんだろう…元の奴が、惚れるのも分かる。
『ハハハハハハハハハハハハハハハハ!』
…今、笑った…?
「それは無理だ!」
「これは傑作だ!」
「成る程!夢見る乙女という訳ですな!」
「若いと言うのは良い!しかし、シトリー家の次期当主ともあろう者がその様な夢を語るとは。此処がデビュー前の顔合わせで良かったと言うものだ」
…シトリー会長の夢を、笑ったな…?
「私は本気です」
「ソーナ・シトリー殿。下級悪魔、転生悪魔は上級悪魔たる主に仕え、才能を見出されるのが常。その様な養成施設を作っては伝統と誇りを重んじる旧家の顔を潰す事となりますぞ?幾ら悪魔社会が変革の時期に入っていると言っても変えて良い物と悪い物があります。全く関係の無い、たかが下級悪魔に教えるなど」
「黙って聞いていれば何でそんなに会長の…ソーナ様の夢を馬鹿にするんですか!こんなの可笑しいですよ!叶えられないなんて決まった事じゃ無いじゃないですか!俺達は本気なんですよ!」
「口を慎め、転生悪魔の若者よ。ソーナ殿、下僕の躾がn」
「見苦しい!」
…黙って聞いていれば、さっきから…!
「な…貴様!?今何と言った!?」
「見苦しい、と言いました。1つお伺いしますが、上層部の皆様は悪魔社会の…いや、数多ある人外社会の現状をどうお考えですか?世界の何もかもを破壊しようとする禍の団を排除すべく、今は手を取り合うべく動き出そうとしている所です。嘗て敵対していた天使陣営、堕天使陣営と『駒王協定』という停戦協定を締結したのも、その現れでしょう。上層部の皆様もそれはお分かりの筈です。他の陣営にその在り様を疑われる、見苦しい真似を繰り広げている場合では無いと!こんな…こんな低レベルな罵詈雑言を並べるおふざけをしている場合では無いと!」
「き…貴様ぁ!誰のお蔭でこの場に立っていると思っている!悪魔となって幾ばくも無く、年端もいかぬ転生悪魔がこの場で、王として立っているのは誰の(ギロッ!)ヒィ!?(ガタガタっ!)あ、ぁぁぁ…!」
…全く…
「…はぁ、やはり見苦しいですね。下手に出ればふんぞり返り、力の差を見せ付けられれば恐怖に慄く…転生悪魔から上がったばかりの俺が一睨みしただけで、上層部の皆様揃って腰を抜かすとは、見苦しいと言う他に相応しい表現があればお教え願います」
これが、これが悪魔社会の現状か…
「そうそう…まだ、俺の目標を言っていませんでしたね。俺の目標は…そうですね。まず、サイラオーグが先に言ったのと同じく、魔王になる事です。ですが、その先にも成すべき事があります。それは改革です。俺が魔王となった暁には、旧家の利がより豊かになる様導くのもそうですが、同時に今までスポットライトを浴びてこなかった下級悪魔や転生悪魔、彼らの才能に注目し、それを育て、更には利を分け与え、この悪魔社会において重大戦力となる様な改革を次々と実施します!それによって、他のあらゆる陣営と対等に渡り合い、手を取り合える様な悪魔社会に…世界に、俺は導いて行く所存です!」
一呼吸置き、最後に言い放った…俺の、俺の最大の夢を。
「俺は新世界の神になる!」