「はは、『新世界の神』ねぇ。随分とまあデカく言い放ったじゃねぇか」
「確かに、大言壮語が過ぎましたか?」
「いや、俺はそう思わないぞ、主イッセー。確かに他の有象無象の連中がそう言えば大言壮語も甚だしいが、主はそれを成せる程の力を有している。あの会合の場においてあの発言、あれ程のインパクトが無ければ、腰の重い上層部は身体を上げないだろう」
「だな。確かに悪魔陣営は、その純粋な能力自体は他の勢力にとって脅威だ。その勢力は今、現赤龍帝でもあるお前と現白龍皇のヴァーリ、トドメに無限の龍神オーフィスをも囲い込んだ事で加速度的に膨れ上がっている…純粋なパワーだけはな。だが、一度はヴァーリに裏切られた俺が言えた事じゃあ無いが、悪魔陣営も『旧魔王派』という一大派閥の離反をみすみす許したんだし、現時点でも『現魔王派』と『大王派』とかいう派閥争いが繰り広げられているそうじゃないか。更には元72家を筆頭にした上級悪魔と、その下の中級、下級悪魔の決定的な身分の差…力自体はデカいが付け入るスキも多すぎる。何時変えるか…三大勢力が結集した、今だろ。だがイッセー、あの大戦が終わってから今に至るまでそうだ。現状を大いに変えるとなれば、かなりの手間暇がかかるぞ。しかしあの場で言い放った以上、二言は無しだ。覚悟は良いな?」
「はい!」
俺の『新世界の神』発言で幕を閉じた若手悪魔の会合、その後グレモリー領に帰って来た俺達は直ぐにアザゼルさんに呼ばれた…数週間後から行われる事になっている、若手悪魔同士のレーティング・ゲームに向けた特訓方針の説明も兼ねて。
確かに少し軽率だったかも知れない。
魔王は冥界全土の行政を主導する役目がある、純粋な戦闘能力もそうだが、いわば政治手腕も求められる立場だ。
その政治手腕の1つが、関係部署との折衝能力…つまりは上層部、もっと言えば旧家との関係だ。
今回の俺の目標の1つ、『悪魔社会の改革』は、旧家の既得権益にもメスを入れる物で、当事者からしてみれば堪ったものじゃ無いのは火を見るより明らかだ。
あの場での発言で、上層部の俺への覚えは一気に悪くなったと言っても過言じゃ無く、それは目標達成が遠のく事…俺の目標の1つである、魔王になるまでの道のりが遠のく事と同義だ。
だが、後悔は無い。
あの日、ミカエルさんと初めて会った時に見た、ミカエルさんの無念さが前面に出たあの顔…あれを見て、俺は決意したんだ。
世界を少しずつでも良い方向に導いて見せると。
アーシアやギャスパー、ヴァーリ…他にも世界中に何人もいるであろう、身に宿した力や血筋によって望まぬ運命に振り回される事の無い世界を作って見せると。
悪魔や天使、堕天使に人間、それに数多ある人外勢力…皆が互角に渡り合い、そして手を取り合える、そんな世界を作って見せると。
あの場で言い放った『新世界の神』…あの言葉の元ネタになった青年が思い描き、影で暗躍する事で実現させようとしたディストピアじゃなくて、俺『達』が思い描き、表立って活動する事でユートピアを実現させて見せると。
茨の道なのは分かっている。
途轍もなく長い道のりなのも理解している。
だけど俺には、いや、俺達には、それを成せる力がある。
絶対に、成し遂げて見せる!
「こんな途方も無い夢を描いている様な俺だが…皆、付いて来てくれるか?」
「勿論だよ、いっちゃん!いっちゃんなら出来る!やれると私は信じているよ!」
「元よりそのつもりだ、主イッセー!」
「イッセーさんが思い描く世界…凄いわくわくします!」
「私もイッセーの夢の為に、全力を注ごう!」
「数多の勢力と互角に渡り合い、手を取り合う、ですか…我が先祖がブリテンに築こうとしたのもそんな世界だったかも知れません」
「イッセー様の理想の世界、私も見てみたいです!」
「面白そうじゃねぇか!よっしゃ、ひと肌脱ぎますか!」
「ふぁいと、おー」
有難うな、皆。
「お前も、お前の眷属も、覚悟は出来ているみたいだな。良い目付きだ…よし!モチベーションも上がった所で、各自のトレーニング方針を考えてあるから、その説明をするぞ!」
『はい!』
さあ、これから始まるんだ、俺達兵藤眷属が…!
「さて、これから夏休み中に行って欲しい修行の説明をするが…この修行において直ぐに効果が出る奴とそうじゃない奴がいる。それは十分に理解しておけよ」
方針を説明して行くアザゼルさん、その言葉は威厳に満ちていた…1万年前の大戦を生き抜いて、今日に至った事はあるな。
余談だが7人という中途半端な枠の関係で、俺達兵藤眷属は夏休み中のレーティング・ゲームは無い。
俺達のレーティング・ゲームのデビューは二学期になってからだ。
更に余談だがアザゼルさんは、夏休み中にレーティング・ゲームのあるリアス達のコーチも兼任している…ご苦労様です。
更に更に余談だが、リアスの対戦相手はシトリー会長達で、コーチはグリゴリの副総督であるシェムハザさんらしい(アザゼルさん曰く「俺より役立つかも」とか…そこはしっかりして下さい)。
「まずはイッセー」
「はい!」
「といってもお前の総力は既に俺を大きく超えている。タスクACT4だったか?ヴァーリを圧倒して見せたあの無茶苦茶な回転の力もそうだが、自らの持つ力を基に様々な戦法を編み出せるその応用力、その過程で生まれた技を極限まで昇華させられる『職人』とも言うべき技術力、フェニックス家とのレーティング・ゲームにて見せた、状況に応じた最適な行動を編み出し、それを即座に実行できる戦術力と決断力、どれも一級品だと太鼓判を押せる」
「はい、ありがとうございます」
「だがまだ穴も多いと言わざるを得ない。まあ王には必須な統率力や戦略に関してはまだまだ未知数だから今回はパスとして…今確かカラワーナ…じゃなかった、佳奈から八極拳を習っているんだったか?確かにそのアプローチは悪く無い。お前の持っている技術は全て中距離以降で全力を発揮すると言っても良い。つまり密着されると強みが薄れちまう。その点、八極拳は接近短打を念頭にしながら、お前の技術を発展させられる。だがまだその力は十全とは言えない。身体能力もそうだが、今までの戦法が根付き過ぎてイマイチかみ合わせが悪い。これをどうするかが課題だ。美猴」
「何だ?」
「お前、色んな中国武術を極めているんだったよな?」
「おう!今話題に上がった八極拳は無論、八卦掌に詠春拳、太極拳に少林拳、何でもござれだ!」
「そうか。だったら武術に関して美猴の指導を受けるんだ。今上がったのもお前の持つ技術を発展させる要素がある。良いな?」
「はい!美猴、宜しく頼むな」
「任せろ、イッセー!」
「他にも、赤龍帝の籠手だ。この前のヴァーリとの戦いで、初めて禁手に至ったそうだな。ならば次は出来るだけ禁手を持続させる事だ」
「出来るだけ長く『赤龍帝の鎧』を持続させる、ですか」
「ああ。ヴァーリは禁手『白龍皇の鎧』を一ヶ月は余裕で持続出来る。特にお前にとって禁手は肝と言って良い。あの場で聞いた話からの憶測だが、タスクACT4を使うには、お前の使い魔である天馬に騎乗するか、禁手を発動しなければならない…そうだな?」
「はい」
「ならば禁手を纏ったまま1日、それが出来たら戦闘訓練をしながら1日、そしてそれを少しずつ伸ばしていき、最終的には修行の終わりまでに一ヶ月間、禁手を維持出来る様になれ。良いな?」
「はい!」
『改めて宜しくな、相棒。共に頑張ろう、相棒の夢に向かって』
美猴をコーチとした武術の特訓と、赤龍帝の鎧の維持時間の向上か…やって見せるぜ!
「ヴァーリと美猴、アーサーは突っ込み所が無いな…ずっと指導して来たヴァーリは勿論だが、メスを入れる余地が無い程、強さに穴が無い」
「そうだろうか…まだまだ主には遠く及ばない」
「私よりも強い存在、剣に長けた存在はまだまだ多くいると思っています」
「じーさんの背はまだまだ遠いぜ…」
「そうか…なら今ある物をより磨いて行け。俺から言えるのはそれだけだ」
「分かった、アザゼル」
「了解しました」
「おう!」
俺が戦ったヴァーリは勿論の事だが、アーサーも美猴も、俺と違って土台が盤石だ。
それをより強固にする事こそがコイツらにとっては有用だ、という意味だろう。
「ルフェイは所謂ウィザードタイプ、その手の才はかなりの物だと聞いた。お前も今ある物を磨いて行く方針で良いと俺は思う。後、強いて言うなら密着戦に持ち込まれた際の対抗手段の確立だな」
「はい、分かりました!」
まあルフェイは自らの肉体を酷使する『ファイタータイプ』じゃないからな。
密着戦でも対応出来る様になるのは必須だが、何もそれは肉弾戦だけじゃない。
「ゼノヴィアはテクニック面を重視して鍛えて行け」
「パワーがあればテクニックなど」
「テクニック一辺倒で二天龍をも凌駕する領域に至ったイッセーを侮辱する気か?」
「っ!す、すまない、イッセー」
「謝る必要は無いぜ、ゼノヴィア。どっかの世界最強の人間も言っているじゃないか、『瑣末な技術や創意工夫は弱者の小細工』だと。ただ、身に着ければ大いにプラスになるぜ」
「分かった」
俺が其処までの領域に至ったのは、タスクや鉄球回転の技術…俺の持つ能力を、10年間休みなく磨き上げた努力の結果だと思っている。
それを、今までパワー一辺倒だったゼノヴィアに当てはめても早々実は結ばないだろうし、それよりもパワー面を特化して行けば目先の結果は出るが、いずれそれも頭打ちになる。
今言った世界最強の人間も、不要と断じて(本気の勝負では)使わないながらも技術その物はしっかりと身に着けている、覚えていて損になる事は無い。
「アーシアはイッセーと同じく、神器の扱いを磨いて行く事だな。神器はそうだが、お前の才能も大したもんだし、向上心もある。力の質や性格からして戦闘には不向きだが、それを補って余りあるサポート能力がある」
「…つまり、私に出来る事をしろ…という事ですか?」
「ああ、そういう事だ。ひとまずお前は、基礎トレーニングを重点に置け。それで神器の方だが…質問だがアーシア、お前は瀕死の敵がいたら放って置けるか?」
「そ、それは…」
出来る訳が無い、よな…それがアーシアであり、聖書の神の教えなのだから。
例えそれによって一度は身の破滅を招いたとしても、だ。
「今のはちょいと酷だったか?…まあ不可能だろうな。アーシア、お前の優しさは美点だが、戦闘となれば不利になる。俺が立てていたメニューの目的は回復範囲を大きくする事だったんだが…」
成る程、体力に難のあるアーシアの、
聖母の微笑の効果範囲を広げれば、それだけ多くの味方を回復させられるし、遠くにいる味方の方に態々駆けつける必要も無く、それに伴う敵の奇襲のリスクも減る。
だが、これは…
「だがこの場合アーシアは、味方はおろか敵すらも回復させてしまう…そこで、もう1つの応用を覚えて貰うぜ」
「もう1つ、ですか?」
「ああ。回復のオーラを拡大させる…此処から派生した方法だ。簡単に言えば、回復のオーラを遠くに放ち、離れている味方だけを回復させる方法、という事だ。そうなると回復力が落ちる可能性もあるが、それでも可能性は広がるぜ」
「はい、やってみます!」
つまり『ばら撒き』と『精密射撃』、という事か。
これは俺のタスクにも通ずる所がある(爪が即座に生え変わる事を活かした『ばら撒き型』のACT1と、敵を追い掛け回す事を活かした『精密射撃型』のACT2、て所か)、アーシアが身に着ければ、俺達兵藤眷属の生命線はかなり太くなるな。
「最後にレイネルだが…済まないが、レイネルと、後は王であるイッセー以外はこの場を離れてくれないか?余り人に聞かせて良い話じゃないしな」
「?…分かった」
れーちゃんの修行方針を説明しようとしたアザゼルさんが、ふと俺とれーちゃん本人以外を退出させる…一体、どうしたんだ?
「さて、レイネル…お前への課題はただ1つ…」
その後にアザゼルさんの口から出た言葉が、れーちゃんの運命を決定づけた…のかも知れない。