「イッセー。ディオドラ・アスタロトについて、ちょっと小耳に挟んで欲しい話があるのにゃ」
「ディオドラについて?何か知っているのか、黒歌?」
今度のレーティング・ゲームの相手がディオドラである事、それに向けての其々の特訓方針を伝えた後、俺は黒歌に話しかけられた…ディオドラの事か、アイツには何か良からぬ雰囲気が漂っていた(悪魔だから、と突っ込まれればそれまでだが)し、気になるな。
「はぐれ悪魔となって放浪していた時期に、何度か噂で聞いた話なんだけどね、各地で信心深いシスターや『聖女』と崇められていた女性が追放されたらしいのにゃ。聞く所によると悪魔と接触して、助けたかららしいんだけど…どうもその噂に出て来る悪魔の特徴が、どの話でも同じだったのにゃ」
『聖女』が悪魔と接触、助けた事で追放された?まさか…!
「黒歌、まさかその何度か聞いた噂の中にアーシアの事が…!?」
「恐らく入っていたと思うのにゃ。で、その特徴と、あのアーシアに声を掛けた上級悪魔…ディオドラ・アスタロトのそれが一致していたのにゃ。まあ私自身、その噂の現場に直面していた訳じゃ無いけどね」
何だって…!もしそれが本当なら、アーシアは…!
「まあそっちは噂程度でしかないから何とも言えないけど…問題はこっちにゃ。禍の団にいた時の話なんだけどね、旧魔王派と接触する年若い悪魔の姿を見かけた事があるのにゃ。見ない顔だったから、恐らくは現魔王派か大王派にいた存在だと思うんだけど…その顔も、仙術で感じ取った雰囲気も…ディオドラ・アスタロトにそっくりだったのにゃ」
「何…だと…!?」
そしたらディオドラの野郎…悪魔陣営を、3大勢力を裏切ったという事か!
これは直ぐにでも義兄さん達に報告すべきだが、証拠が黒歌の証言だけと少なすぎるし、周囲はそのソースの出所的に信用してくれない…どうにかしてレーティング・ゲーム前にもっと確定的なそれを集められたら良いが時間が少ない…かと言って事が起こってしまったら…!
「分かった、ともかくありがとうな黒歌、重要な情報を教えてくれて」
「当然にゃ、イッセーの為だもん」
情報を提供してくれた黒歌の為にも何とかしないと…でもどうする…!
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「イッセー?」
「いっちゃん、食欲無いの?ご飯、減っていないけど?」
「イッセー、何処か具合でも悪いの?さっきから上の空よ?」
「イッセーさん、大丈夫ですか?何か、悩み事ですか?」
「イッセー、考え事なら私達が相談に乗るぞ」
「…はっ!?」
黒歌から伝えられた情報が気になってつい考え過ぎたか、恋人達から心配されてしまった。
「ああ、悪い。ちょっと気になる事があってさ」
「…あの、本当に大丈夫ですか?あ、あの方の事なら、ディオドラ・アスタロトさんの事なら心配ありませんよ。あの時あの方を救った事に後悔はありませんし、そのお蔭と言うのは変ですが、こうしてイッセーさんと一緒になれたんですから」
…でも、話す訳には行かないな…特に、ディオドラと関わった事によって人生が一度ぶっ壊れたアーシアには。
「本当に大丈夫だよ、アーシア。皆もありがとうな、心配してくれて」
「勿論だよ、私達はいっちゃんのお嫁さんだから」
「ええ、レイネルの言う通りよ」
「そうです。だからイッセーさん、困った事があったら遠慮なく相談して下さいね」
「ああ、私達が力になれるならば全力でサポートしよう」
「我ら、イッセーの支えになる」
…どうするか迷うのは止めだ、今は出来得る手段を講ずるだけ、例えそれが及ばず事が起こったとしても、俺は大切な人達…俺の家族を、俺の眷属を、俺の恋人達を、俺の仲間達を守って見せる!
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「済まない、主イッセー。ギリギリまで手は尽くしたが、まともな証拠は上がらなかった。今日のレーティング・ゲーム、何も起こらなければ良いが…」
「仕方ないさ、時間が無かった。ソース元も義兄さん達魔王様は兎も角、他の上層部が信用しない。必然的に、俺達が対応しないとな…」
結局、ヴァーリ達男衆と黒歌にディオドラの身辺捜査を指示したが、まともな情報が得られないままレーティング・ゲーム本番を迎え、俺達は舞台となる異世界への魔法陣の前に立っている…ヴァーリは無事を祈る様な言葉を口にするが、何事も起こらない筈が無い…何しろ今日は義兄さん達魔王様やアザゼルさん、ミカエルさんに加え、北欧神話に日本神話といった3大勢力以外の勢力のお偉いさんも招待されている、禍の団にとってはこれ程狙い目の日は無いだろう。
「さて皆、今日は俺達兵藤眷属の、記念すべきレーティング・ゲームのデビュー戦だ。だが俺達の力を発揮すれば敵わない相手じゃない。気負う事無く、だが手を抜く事無く、勝ちを取りに行くぞ!」
「うん、いっちゃん!」
「ああ、イッセー!」
「…はい、イッセー先輩!」
「了解です、イッセーさん」
「勿論にゃ、イッセー!」
「分かりました、イッセーさん!」
「イッセー様、頑張ります!」
「無論だ、主イッセー!」
「任せろ、イッセー!」
「全力を尽くしますわ、イッセー様!」
さあ、覚悟を決めるか…!
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魔法陣によって転送された先は、何処か不気味さ漂う真っ赤な空に包まれた、石造りの神殿が後方に見え、恐らく大理石の様な物で出来たぶっとい柱が何本も並んだ空間だ。
「此処がレーティング・ゲームの舞台となる世界か」
「だが主イッセー…変だ、審判役の声が聞こえない」
「故障…は無ぇよな、各勢力のお偉いさんが集まっている場所でヘマなんぞしたら悪魔陣営の恥だし」
「故障で無いとなれば…」
「皆、来るぞ!」
『!』
俺の号令に反応し、皆が身構えた瞬間、俺達を取り囲むように現れる様々な魔法陣…連中は、本気で叩き潰しに掛かるって訳か…っ!
「っ!アーシア(グイッ!)危ない!」
「きゃっ!?イッセーさん?」
「其処か!(ズダァン!)喰らえ!」
「がぁっ!?」
何か不穏な気配を察知した俺は咄嗟にアーシアの手を引き、彼女が元いた場所に爪弾を撃ち込むと…其処には『此処にいる筈の無い』ディオドラの姿が、爪弾を右腕に喰らったディオドラの姿があった…野郎…!
「…何で貴様が此処にいるかは敢えて聞かねぇ。悪魔陣営を裏切り、禍の団に寝返ったって事だろ?で、アーシアを強引に拉致して色々とやらかそうって算段か?そうはならなかったがな」
「…成る程、其処の裏切り者に聞いた訳か、まあ良いや。もうアーシアが手に入らないと分かった以上、
いらないや。其処で旧魔王派の面々に嬲り殺されると良いよ。じゃあね」
今、何て言った…?
アーシアを、俺の嫁を、物扱いにした、だと…?
アーシアを、自らの立場をふいにしてまでお前を助けてくれた存在への恩を、仇で返す、だと…!?
「我、目覚めるは―」