俺達がオーディンさんの護衛となってから数日間、俺達はオーディンさんの視察に同行していた。
その視察の際、移動手段として使用していたのが八本脚で有名な軍馬『スレイプニル』が引く巨大馬車だったのと、それがサンタさんのソリの如く空中を浮かんでいるのはびっくりしたが。
で、そのスレイプニルにオーディンさんとアザゼルさん、ロスヴァイセさんとバラキエルさん、俺達とリアス達悪魔側の派遣メンバーが乗り、X-LAWSとイリナ、そして堕天使護衛チームが周囲を浮遊して警戒している、というポジショニングで各地を視察していたんだが…
ある時は寿司屋、ある時は遊園地、ある時はキャバクラ、ある時は『一見さんお断り』な筈の店…
これ、視察だよな?寿司屋なら堕天使側の要職であるアザゼルさんと会食という事で納得出来るが…
「日本の大和撫子はいいのぉ。ゲイシャガール最高じゃ。ほっほっほ」
ああ、これはあれだな、もしかしなくてもオーディンさんの趣味に付き合わされている感じだな。
周りの皆もそんなオーディンさんの趣味丸出しな視察と言う名の旅に振り回され、大半は疲労でぐったりしているし。
まだまだ余力は残っていますという感じの面子も、例えばロスヴァイセさんはそんなオーディンさんの様子に怒り心頭で大輔(アプローチのつもりで聞き役に回っていた)相手に愚痴をこぼしているし、バラキエルさんと朱乃さんは相変わらず何処か落ち着かない様子だし、アザゼルさんも色々な状況に対して「しょうがねぇなぁ」と諦めムードだし…
まあ、そんな中でも他陣営の面々と色んな話が出来たのは良かったな。
例えばX-LAWSのメンバー達。
リーダーであるラキストを中心に、様々な銃器・兵器に関する知識に通じている彼らから、そっち方面に関する結構ディープな話を聞いた。
俺も高校2年生、FPS等の銃器とかが登場するゲームも良くやるので、そのゲームに登場する銃器の開発経緯や現実での採用実績等の話は面白かった。
他にも車好きなクリス(X-LAWSが俺達のマンションに立ち寄った際に停めていたハマーは、全てクリスの私物らしい)からは、車の各種構成パーツに関する豆知識や、各メーカーの販売車種の特徴等といった本格的な話を聞いた。
普段は寡黙なクリスが、車や銃器に関する話題となると途端に饒舌になるのはすこしびっくりしたが、今後俺が車を所有する時が来たら、今回のクリスの話を参考にしようと思った。
流石にクリスが所有している様なデカい車は遠慮したいが。
一方で、メイデンから様々な拷問器具の話が出て来た時にはドン引きした。
幾ら悪魔祓いの仕事でサブウェポンとして使っているからって(それもどうかとは思うが)、俺より4つも下(どうやらまだ12歳、日本の中学1年生と同じ年代だった。といっても飛び級の関係で今の学年は俺と同じくらいらしい)の女の子がそんな話をするのは、誰が相手でも引くぞ。
人は見かけによらない、今回ほどそれを思い知った事は無い。
まあそれは頭の片隅に置いておくとして、堕天使陣営から参加している堕天使の皆からも、普段のアザゼルさん達はどんな存在なのか、グリゴリの組織内の雰囲気はどんな感じなのかを、聞く事が出来た。
当初はれーちゃん達が酷いバッシングを浴びていた事もあって良い印象を持っていなかったけど、アザゼルさんの人柄(人じゃないから堕天使柄って言った方が良いか?)もあってそれも薄れていて、こうして最高幹部ではない、グリゴリに籍を置いていた頃のれーちゃん達の様な一介の堕天使達ともこうして普通に接する事が出来た。
まあ、アザゼルさん達が選抜したメンバーが、そういった事を気にしない面子ばかりかも知れないが。
「オーディン様、もうすぐ日本の神々との会談なのですから、旅行気分はそろそろお収め下さい。このままでは、帰国した時に他の方々から怒られますよ」
「全く、お前は遊び心の分からない女じゃな、ロスヴァイセ。もう少しリラックスしたらどうじゃ?そんなんじゃから彼氏の1人も出来んのじゃよ」
「か、彼氏がいないのは関係ないでしょぉ!す、好きで独り身をやっているわけじゃないんですからぁ!」
と、なんだかもう見慣れた感じのやり取りをしているオーディンさんとロスヴァイセさん、何時もオーディンさんのそういった面に振り回されてロスヴァイセさんは苦労が絶えないのだろう、ヴァルキリーにも対応しているならス○ッフ○ービスに紹介しようかな?美人だから、CMで映えそうな気がする。
しかしそのオーディンさんも、普段は義兄さん達4大魔王をも上回る位のはっちゃけ振りだが、その実世界トップクラスの実力の持ち主なのだから、世の中わからない。
人(いや、神か)は見かけによらない、メイデンの時とは別次元な意味で、改めてそれを思い知った。
と思って(ガクン!)いると、
「何事ですか!?まさかテロ!?」
「分からん!だが、こういう時大抵ろくでも無い事が起こるもんだ!」
「アザゼルさんそれフラグ!」
突如として馬車が急停止、その事態に驚きの声を上げるロスヴァイセさんと、フラグのにおい満開なアザゼルさんの言葉に突っ込みをいれつつ、窓から外の様子を見ると、其処にはX-LAWSのメンバーが各々の銃器・兵器を取り出して構え、イリナや堕天使チームの面々も何時でも飛びかかれるよう身構えていた。
そしてその先には、水色の長髪で目付きの悪いイケメン、オーディンさんが有事の際に着ている様なローブを着用した1人の男がいた。
その姿をロスヴァイセさんが見ると心底驚いた様な顔をし、アザゼルさんが見ると舌打ちしたのを見ると、相手はアースガルズの関係者、それも神格の存在かもしれない。
「初めまして、諸君!我こそは北欧の悪神、ロキだ!」
ロキって、まさか北欧神話でもオーディンさん等と並んでメジャーな、あの悪神だよな!?
北欧の地を色々と引っ掻き回した、最大のトリックスター。
まさか、そんな存在が狙って来るとはな。
「これはこれはロキ殿、こんな所で奇遇ですな。何か御用ですかな?この馬車には北欧の主神オーディン殿が乗られている。それを周知の上での行動だろうか?」
突如として現れたロキに驚愕する周囲だったが、そんな中でもアザゼルさんは前に出て、落ち着いた対応をしていた。
普段なら絶対使わない様な敬語で応対する辺り、冷静に振舞おうとする意識が伺える。
が、それを聞いたロキは、
「いやなに、我らが主神殿が、我らが神話体系を抜けて出て、我ら以外の神話体系に接触して行くのが耐えがたい苦痛でね。我慢できずに邪魔をしに来たのだ」
悪意を全く隠す事無く、宣言した。
「堂々と言ってくれるじゃねぇか、ロキ。某カードゲームアニメの初代空気みたいなその声で」
その悪びれもしないその物言いに、アザゼルさんの対応もかなりキレ気味な物になっていた。
口調が普段の物になっていたり、これ以上にない位のメタ発言で挑発していたり。
「誰が髪型一角獣な応援役か。と、そんな話は良い。本来、貴殿ら堕天使や悪魔、天使達と会いたくは無かったのだが、致し方あるまい。オーディン共々我が粛清を受けるがいい」
「お前が他の神話体系に接触するのは良いってのか?矛盾しているな」
「他の神話体系を滅ぼすなら良いのだ。和平をするのが納得出来ないのだよ。我々の領域に土足で踏み込み、其処で聖書を広げたのはそちらの神話なのだから」
「それを俺に言われても困るんだが。その辺はミカエルか、聖書の神にでも言ってくれ」
「どちらにせよ主神オーディン自らが極東の神々と和議をするのが問題だ。これでは我らが迎えるべき
アザゼルさんの挑発にも軽くツッコミを入れるだけで流したロキと、アザゼルさんの押し問答が始まるが、ロキの奴、ろくな事考えないな、まあろくな事考えていたら悪神と呼ばれていないし、今更だが。
そんな押し問答で得られる物は無いと思ったのか、
「1つ聞く!お前のこの行動は禍の団と繋がっているのか?って、それを律儀に答える悪神様でもないか」
指を突きつけつつアザゼルさんは問いかけた。
まともな返答は期待していない、といった感じの口振りをしたアザゼルさんだが、それに対してロキの答えは、
「愚者たるテロリストと我が想いを一緒にされるとは不愉快極まりない事だ。己の意志で此処に参上している」
如何にも面白く無さそうな感じで、律儀に答えていた。
ロキがどう思っていようと、禍の団の連中がどう思っていようと、思い描く結果は大して変わらないじゃねぇか、というツッコミは野暮か?
「禍の団じゃねぇ、と来たか。だがこれはこれで、厄介な問題だ。成る程な爺さん、これが北欧が抱える問題点って奴か」
「ふむ、どうにも頭の固い者がまだいるのが現状じゃ。こういう風に自ら出向くアホまで登場するのでな」
ロキの返答を受けてアザゼルさんがオーディンさんに問いかけると、丁度ロスヴァイセさんを引き連れて馬車から出て来たオーディンさんが、そう返していた。
「ロキ様、これは越権行為です!主神に牙を剥くなど許される事ではありません!然るべき公正な場で異を唱えるべきです!」
オーディンさんに連れられて外へ出たロスヴァイセさんが、さっきまで着用していたスーツ姿から、ヴァルキリーならではと言うべき鎧姿に変わりつつ、物申していた。
まあ本来ならロスヴァイセさんが言った様な対応がベストなんだが、どんな社会でも、そのベストが通じない時だってある。
俺も冥界で合宿していた時、黒歌を救い出す為に、悪魔陣営の上層部に報告せずに、堕天使陣営のトップであるアザゼルさんにリークしたからな。
ロキもそんな腹積もりなのか、ロスヴァイセさんの言葉に聞く耳を持たず、
「一介のヴァルキリー如きが我が邪魔をしないでくれたまえ、我はオーディンに聞いているのだ。オーディンよ、まだこの様な北欧神話を超えた行いを続けるお積りか?」
オーディンさんに迫った。
「そうじゃよ、少なくともお主よりサーゼクスやアザゼル、それに龍魔神王殿とコミュニケーションをとる方が万倍も楽しいわい。日本の神道を知りたかったし、あちらもこちらのユグドラシルに興味を持っていた様でな。和議を果たしたら互いに大使を招いて、異文化交流をしようと思っただけじゃよ」
オーディンさんは、そんなロキの鬼気迫るといった様子にも動じる事無く、平然と答えた。
というか、其処で俺が出て来るの?まあオーディンさんに其処まで思われているのは悪い気はしないが。
「認識した。たかが一介の悪魔に恐れをなすとは、あのオーディンも落ちぶれた物だ。なんと愚かな事か。
此処で黄昏を行おうではないか」
そんなオーディンさんの返答に、侮蔑の感情を隠そうともしない苦笑いを浮かべながら、敵意全開で宣戦布告の様な宣言をして来るロキ。
「それは宣戦布告と受け取って良いんだな」
「如何にも」
アザゼルさんの最後通告にも動じる事無く不敵な笑みを浮かべて返すロキ。
その瞬間が、スタートだった。
「せいっ(ヒュン!)はっ(ビュオッ!)とぅ(シュッ!)やぁぁ(ザシュゥ!)!」
「ぐっ!?小癪な!」
その直後に、何処からともなく出現した(まあコールブランドを使ったんだろうが)アーサーが、コールブランドの能力を最大限に活かしたフェイントを交えながらロキに斬りかかり、一太刀浴びせたかと思ったら、すぐに馬車に戻って来た。
「不意打ちに一太刀浴びせようと思ったのですが、少し浅かったですね」
戻って来るなり大した結果を残せなかったと言わんばかりに苦笑いを浮かべるアーサー、実際外にいるロキも、
「今のは聖剣か。何とも小癪な輩だが、神を相手にするにはまだまだ。この程度、皮一枚だ」
斬られた袈裟から血が出ている様子は全く無い。
だが(ヒュンヒュンヒュン!)(バァンバァンバァン!)、合図としては充分だった。
「なっ!?ちぃ!」
三方向から聞こえて来た風切り音とそれに少し遅れて聞こえて来た銃声、その音の主が、ロキへと襲い掛かった…!