雨に曝される空を見上げて 作:空に歌えば
「ねぇねぇ青! 見たさっきの!? カッコよかったよね!」
「そうだねー」
「オールマイトムッキムキでさ! 画風も違うし、めちゃ優しいし! はーイイなぁ」
「そうだねー」
「明日学校で自慢しようね! オールマイトに助けてもらったって! 絶対人気者だよ私達!」
「そうだねー」
「ねぇ聞いてる青?」
「そうだねー」
「えい」
「痛い」
「青が悪い」
「ごもっとも」
「もーオールマイトだよ! No.1ヒーローだよ! 助けてもらったんだよ! もっとテンション上げなよ!」
「そうだねー」
「ダメだこりゃ」
***
4月。雄英高校入学式の日。
倍率300倍、一般入試定員数36人。推薦入学4名。20人ずつの2クラス。
馬鹿みたいに狭すぎて逆にダメ元で受けても記念になるぐらい狭い門を偶然潜り抜けて入学した雄英高校。僕のクラスは1-A。出席番号13番。いやにでかいクラスのスライドドアの前にたどり着く。
ちょっと今でも信じられない。本当に合格したんだなぁ。オールマイトの母校ってだけで受けてみただけだから、他の人の事を考えるとちょっと負い目もあるけど。でも折角合格できたんだから、頑張らないとね。頑張るってあの時決めたんだから。
大きさの割に以外にも軽いドアを開けて、中に入る。
「おはよう」
「おはよう! 君は……あの試験の時の」
「え? 試験の時会ってたっけ?」
教室に入ると雰囲気がキチっとしたメガネの男子に話しかけられた。
うーん、こんな雰囲気に人と試験の時に会ってたら多分覚えていると思うんだけどな。
「ごめんね、おもいだせない」
「いや、君とは会話をした事はないのだから、思い出せないのも無理は無い。こちらが一方的に君を知っているだけだ。君ともう一人の女子と、緑髪のジャージ姿の男子の事を試験後に見ていたのだ」
「あぁ、実技試験の」
「そうだ、あの試験場には俺もいた。参考までに教えてはくれないだろうか。君達はいつあの試験の本質を見抜いていたのだ?」
「本質?」
「ああ、実技試験では敵を倒してポイントを稼ぐのが試験内容だったので、俺は見逃してしまっていた。君達を見てそれだけではないと気付いたのだ。ヒーローは助ける事が本質。きっと、受験者というライバル同士でもピンチには助けられるかどうか、そういう精神性も試験内容に含まれていたと」
「へぇ~凄いね、僕は当時なにも考えて無かったよ。レスキューポイントの事なんて合格通達のオールマイトから教えてもらったぐらいだし」
「何だと? なら何故あの時、あんな行動を」
「う~ん、さぁ? あの時の緑髪の人に聞いてみないと分からないね。僕は本当に何も考えてなかったよ」
「そうか。いや、だが試験場のあの状況で、あの行動は誰でも出来る行動ではない。俺も頑張らなくてはな。おっと自己紹介が遅れたな。俺は飯田 天哉だ。よろしく頼む」
「僕は空話 赤音。青って呼んでね」
「うん? 不思議な呼び方だな。何か理由でもあるのか?」
「うん、僕姉弟がいるんだ。空話だけだとややこしいから僕は青って呼ばれてたんだ。そっちの方が慣れてるから、出来れば青ってよんでね」
「そうか。では青君と呼ばせてもらおう」
「うん、じゃあ僕自分の席を探すよ」
「ああ、これからよろしく」
「こちらこそ、よろしく」
挨拶を交わして席を探す。僕の席は、あそこかな。黒い鳥頭の人の前か。
自分の机に鞄を置き、着席する。後ろの席の人は腕を組んで目を瞑っている。瞑想でもしているのかな。
「なんだ?」
「あ、気付いてたんだ。瞑想中かと思って話しかけるのはやめておこうかと思ってたんだけど」
「気にしないでくれ。やることが無くてな。俺は常闇 踏陰だ。よろしくな」
「僕は空話 赤音。姉弟がいる関係で青って呼ばれてるんだ、出来ればそちらで呼んでくれると嬉しいな」
「承知した。よろしく頼む、青」
「うん、こちらこそよろしくね。ところで、常闇君は入試どうだった? 僕は筆記も実技もギリギリの合格だったよ」
「筆記は俺もギリギリだった。実技の方は個性が戦闘向きでな。悪くは無いポイントは稼いだ筈だ」
「そうなんだ、僕の個性は持続性がネックなんだよね。そういうのも克服できたらいいな」
暫く常闇君と談笑していると、徐々に生徒たちが教室にやってくる。尻尾が生えてる人とか腕が6本ある人とか様々な生徒たちがいた。
ガラガラガラ
また次の生徒だろう、トゲトゲ髪の男子が入ってくる。鞄を手に持って肩に置き、制服を着崩していて、回りを見る目はあまり穏やかじゃない。まるで不良のような感じの人だ。
その生徒は自分の席に座ると、机に足を掛け、随分な態度を表した。態度と雰囲気があまりヒーロー志望らしくない生徒だった。
おもむろに飯田君が立ち上がり、その生徒に近づいていった。真面目そうな飯田君の事だから、彼の目に余るその行動は飯田君の琴線に触れてしまうのかもしれない。
「机に足をかけるな!」
「アァン?」
「雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「おもわねぇよ! テメェどこ中だよ! 端役が!」
「俺は私立聡明中学出身、飯田 天哉だ」
「聡明~~? くそエリートじゃねえか、ぶっ殺しがいがありそうだな」
「ぶっ殺しがい!? 君ひどいな、本当にヒーロー志望か!?」
そんなやり取りをみていると、静かに入り口のドアが開いていた。中をおずおずと覗き込んでいる生徒がいる。その生徒には見覚えがあった。
飯田君も彼に気付いたのか、入り口に佇む彼の方に話しかけにいった。僕も席から立ち上がって、ドアの方に向かう。挨拶ぐらいはしたいから。
「俺は私立聡明中学の……」
「聞いてたよ! あ…っと僕緑谷。よろしく飯田君」
「おはよう。君も受かってたんだね」
「あ、貴女は試験の時の」
「空話 赤音だよ。兄弟がいるから青って呼んでくれる方が分かりやすいかな。よろしくね」
「あ、うん、その、えっと僕、緑谷 出久。よ、ょろしくぉ願ぃします……」
めっちゃ照れてる。面白い。試験の時はこんな感じじゃなかったのに。緊張してたのかな。
「あ! そのモサモサ頭は! 地味目の!」
あ、入試の時の女子の人だ。なんかふわふわしててちょっと可愛い。
「プレゼント・マイク言ってた通り受かったんだね! そりゃそうだ! パンチ凄かったもん!」
「いや! あのっ…! 本っ当あなたの直談判のおかげで・・・僕は・・・その……」
「へ、何でしってんの?」
「直談判?」
「あ、入試ん時の人! あの時はお世話になりました」
「いいよ、お礼なら緑谷君に言って。彼が貴女を必死に助けようとしたから、きっと私も動かされたんだから」
「そっか、ありがとうね二人とも!」
「いや、僕もその後助けられてるから、その、あの時は本当に死ぬかもしれないって思ってたし、そのあの、ええっと、ありがとう」
「ところで、今日って式とかガイダンスだけかな? 先生どんな人なんだろうね、緊張するよね!」
「お友達ごっこしたいなら他所へいけ」
教室前の廊下に寝袋を着て寝そべっている人がいる。
「ここはヒーロー科だぞ」
――なんかいるぅぅ!
その場の私達の心の叫びは一致していたと思う。
「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね。担任の相澤 消太だ。よろしくね」
黒髪で細身のくたびれた人だが、どうやら担任の先生のようだ。この人もプロヒーローなのか、人は見かけによらないな。まぁ僕はヒーローに詳しくは無いから、有名どころの人以外誰かは分からないけど。
「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」
『個性把握・・・テストォ!?』
「入学式は!? ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句、そしてそれは先生側もまた然り」
それはよく分かる。雄英はとにかく自由というか、変というかなんというか。
「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。中学の頃からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト。国は今だ画一的な記録をとって平均を作り続けている、合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だよ。爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった」
「67m」
「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい早よ。思いっきりな」
「んじゃまぁ……死ねぇ!!」
ドォォン!
掌で起きた爆発によりソフトボールが勢い良く投げられる。いや射出される。なんか凄い個性の人だなぁ。
暫く経つと相澤先生は皆に向けて端末を見せる。
705.2m
そこには見た事も無いとんでもない数値が表示されていた。
「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
「何だこれ! すげー面白そう!」
「705mってマジかよ!」
「個性思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」
うーん、個性で体力テストか。8種目。僕の個性では全部はカバーしきれない。選択しなくちゃいけないな。
「……面白そう……か。ヒーローになる為の3年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」
……なんか相澤先生が怖い感じを出してる。なにかが気に食わないのだろうか。
「よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
『はあああ!!?』
「生徒の如何は先生の自由。ようこそこれが、雄英高校ヒーロー科だ」
相澤先生の言葉で、生徒達に緊張が走っていた。