雨に曝される空を見上げて 作:空に歌えば
「ねぇお姉ちゃん」
「何?」
「死ぬまでにやりたい事ってある?」
「え~何よ急に。…うーん、多すぎてそんな直ぐには決まらないわよ」
「そっか」
「なんで急に? ってああ今映画やってるのね」
「そう。外国の映画だけど」
「有名よねこれ。青はどうなのよ。一個ぐらいは流石にあるんじゃないの?」
「将来宝くじが当たって無職になりたい」
「自堕落な夢ね、青らしいわ……。そうね、直ぐに思いつくのはヒーローになりたいって夢かなやっぱり」
「ヒーローになりたいの?」
「そりゃやっぱり憧れの職業じゃないの。なれたら嬉しいわよね。その時は青、あんたもヒーローやるんだからね」
「なんで僕まで」
「そりゃそうよ、私達は双子なんだから」
「関係ないと思うよ」
***
「最下位除籍って……! 入学初日ですよ!? いや初日じゃなくても…理不尽すぎる!」
「自然災害…大事故…身勝手な敵達…、いつどこから来るか分からない厄災。日本は理不尽にまみれてる。そういう理不尽を覆していくのがヒーロー」
そう、世界は理不尽にまみれてる。
普段は気付かなくて、でもそれは本当に近くにあって。特別な事をしてなくてもそれに巻き込まれてしまう。加害者に悪気があろうが無かろうが、被害者に理由があろうが無かろうが。そして、理不尽は被害者を加害者にもしてしまう。
ヒーロー達は、そんな理不尽と戦わなくてはならない。一般人にはそんな理不尽を跳ね除ける力は無い。無かったんだ。そんな理不尽を人の為に跳ね除けられる人の事を、人々は敬意を表してヒーローと呼ぶんだ。
「放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから三年間雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。【Plus Ultra】さ、全力で乗り越えて来い」
皆の雰囲気が一変した。獰猛な笑みを浮かべる人、真剣さを滲み出す人、頭の中でシュミレーションをする人。皆ヒーローの卵を志すだけあってか、尻込みする人はあんまりいなかった。
「さてデモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」
第1種目 50m走
個性:エンジンの飯田君が暫定トップ。3秒04の記録を出した。誰かが呟いていたけど、時速60km近くでている計算らしい。
僕の順番が来て、隣のレーンは芦戸さん。ピンクっぽい肌と小さい角みたいな物が頭にある女子だ。
「私芦戸っていうの、お互い頑張ろうね!」
「うん僕は空話、よろしくね」
芦戸さんと挨拶を交わしつつ僕は自分の個性について考えていた。
僕の個性は具象化。左手又は自身の体に空想上の能力のような物を再現出来る個性。回数制限はないけど、デメリットとして使う毎に明確にテンションがおかしくなって冷静な判断が出来なくなっていく。ノーリスクで使える制限は1日3回。軽い影響を考慮しても5回まで。それ以上は僕の意識は飛んで記憶がなくなる。また、一度再現した能力は2度と使えないというよくわからない制限もある。
それを踏まえてこの個性把握テストの8種目、確実に3種目は普通の身体能力で挑まなくてはならないという事になる。個性で身体能力を上げる能力を再現するのも考えたけど、個性の発動時間が持っても10分程しかない。恐らく発動し続ける事は不可能だ。
シンプルなテストの50m走、握力、立ち幅跳び、ボール投げは頑張ってもいいかもしれない。シンプルなテストなら似たような能力を再現すればいい。そっちの方が知ってる空想上の能力のストックも多いから。
逆に上体起こし、持久走、長座体前屈は無視でいいかな。適切な能力が思いつかないし、あっても貴重な能力だったりする。この3つは落とすしかない。もう2つ落とせるなら僕的にベターだけど、それは周りの個性による成績で考えよう。
だとすると、この50m走は頑張らないと。再現する能力は。
位置について、よーいスタート!
再現:イル・ゾンデ。体が帯電し、まるで雷の鳥の様になって突進する。芦戸さんの事を考えて心持ち肩幅を狭くする。
記録は4秒32。皆の中で上位の成績だ。
結局1位は飯田君のまま50m走は測定終了した。
第2種目 握力
暫定1位は腕が複数ある男子、障子君。540キロ。複数の腕で握っていた。個性ありだとそうなるんだ。
「540キロって! あんたゴリラ!? ああタコか!」
「タコって、エロいよね……」
因みに暫定2位はたらこ唇の男子の310キロ。握力測定器って意外と頑丈。
そして僕の番。
再現:キッス
本来はキスマークのシールを身につけた人型の能力、スタンドを出す能力だけど、今回は左手のみ出現させる。
測定開始。数値:817キロ。
暫定1位の数値がでた。測定器がミシミシいってたけど。
「うぉぉおお!? 817キロ!? バケモンかよ!?」
今回の1位は僕だった。
第3種目 立ち幅跳び
この種目は意外と落ち着いた成績の種目になった。僕も先の2種目で好成績を残してたので今回は個性無しの測定にした。
1位は爆豪君。個性:爆破で飛び続けて飛距離ぶっちぎりだった。爆豪君は身体能力も高い上に個性も汎用性が高い。ボール投げでは既に高測定値が約束されている様なものだし、上位陣の一人になりそうだ。
第4種目 反復横跳び
頭から不思議な性能のボールを生み出す小柄な男子、峰田君が1位だった。
僕も個性無しで測定、この種目は最適の能力が思いつかなかった。この種目も立ち幅跳びと同様、峰田君以外ある程度落ち着いた測定になった。
第5種目 ボール投げ
実技試験で助けた女子の麗日さんが恐らく1位になる。個性:無重力でのボール投げは測定結果∞というもはやギャグの様な結果がでた。これを覆す事はほぼ不可能なのでこの種目1位確定になる。
そして僕はというと、再現:重力操作によって同じ結果に。実は直前まで能力を思いついてなかったのだけど、麗日さんの測定を見て真似した。2回目だったので皆からの評価はあんまり驚かれなかった。
そして今まで普通の測定結果を残していた緑谷君が、とんでもない速度でボールを投げ飛ばし、爆豪君と並ぶ派手な測定結果になっていた。
そして第6種目上体起こし、第7種目長座体前屈、第8種目持久走もつつがなく終わり、結果発表になった。
「んじゃパパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」
相澤先生の端末から順位が投影される。僕の順位はなんと4位だった。握力とボール投げでの1位が決めてだと思う。
1位は個性:創造で各種目にあった物を創り出し優秀な成績を出し続けた八百万さん。
2位は氷結と炎熱を自在に操り安定して好成績を取っていった轟君。
3位は自身の高い身体能力と個性:爆破による局地的な最高評点を出した爆豪君。
この3人についで4位というのは中々の成績だと自負してもいいのではないだろうか。正直僕の個性は制限上戦闘の方に比重があるから、この成績でも十分に頑張ったと思えるものだ。
因みに5位は飯田君、6位は常闇君と続く。麗日さんは11位、緑谷君は最下位になっている。
相澤先生は最下位を除籍処分にするって言ってたけど、緑谷君大丈夫かな。
「因みに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
『はーーーーーー!!?』
「あんなのウソに決まってるじゃない…、ちょっと考えれば分かりますわ…」
「ちょっとヒヤっとしたけどな」
「俺はいつでも受けて立つぜ!」
気付かなかった…。結構色々考えて望んだのに……。
でもウソでよかった。流石に初日で除籍処分はないよね。うん。
「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」
そういって相澤先生は緑谷君に何か紙を渡して去っていった。職員室に帰ったのかな。
僕達生徒も流れで各自更衣室へ歩いていった。途中芦戸さんと麗日さんと蛙吹さんに話しかけられ、テストの結果を談笑しながら仲良く歩いた。
初日終了 下校時間
「あ、青ちゃん! 青ちゃんも駅まで? 一緒に行こう!」
「麗日さん、うんいいよ」
校舎出入り口の靴箱で麗日さんと遭遇した。一緒に帰る事に。
「今日は色々あって大変だったねえー」
「そうだね、さすが雄英だね」
「凄いよね、本当にヒーローなる為の学校って感じだよ。そういえば青ちゃんも凄かったね! 色々な個性があって私びっくりしちゃった!」
「個性:具象化の事?」
「そうそう、実技試験の時も瞬間移動してたし、なんでも出来るんだね」
「結構制限も多いけどね、自由に使えるともっと楽なんだけどな」
「制限かー。私も個性使いすぎると気持ち悪くなるし、皆苦労するよねーそこは。あ、あれデク君と飯田君かな? おーいお二人さーん、駅までー?」
少し前で歩いていた飯田君と緑谷君を麗日さんが呼び止めた。二人も話をしていたみたいだったけど、こちらに気付くと止まってくれて、4人で帰る事に。
「君は∞女子、それと青君じゃないか」
「麗日お茶子です。飯田 天哉君と緑谷…デク君! だよね!」
「デク!?」
「え? だってテストの時爆豪って人が『デクてめぇー!』って」
「あぁそういえ爆豪君言ってたね。緑谷君が投げた後飛び出したんだっけ。で、相澤先生が捕縛されてた」
「あの…本名は出久で…デクはかっちゃんが馬鹿にして…」
「蔑称か」
「えーーそうなんだ! ごめんね! でも【デク】って…頑張れ! って感じで、なんか好きだ私! 響きが!」
「デクです」
「緑谷君!?」
「わー顔真っ赤だ」
「浅いぞ! 蔑称なんだろ!?」
「コペルニクス的転回……」
「こぺ?」
「そう言ってもらえて嫌いなものが好きになったって事だと思うよ麗日さん」
「へぇーそりゃよかった!」
その後駅まで4人で帰りながら談笑して、飯田君と緑谷君とも仲良くなって、入学初日を終えたのだった。
具象化リスト
・イル・ゾンデ
ファンタシースターシリーズから。フォトンというエネルギーを操る魔法でテクニックと呼ばれる。
ファンタシースターオンライン2ではその突進力から移動用としても有能。主人公は今回その突進力を利用した。
・キッス
ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャンから。
全身にキスマーク柄の小さな四角いシールを身にまとったスタンド。能力にシールを貼り付けた対象を複製分裂させ、シールを剥がすとお互いを引き合い合体し破壊する能力を持つ。因みに今作中の握力は適当に書いた数値で、参考として握力の世界記録の10倍で表現している。
握力の事で調べていたら妹が握力110kgのお兄さんがいらっしゃった。ただのタイピングミスだと思いたい。