チャプター7『デートだよ』
明くる日………
改修の終わった舞台の上に、さくら・初穂・アナスタシアの姿が在った。
「ああ、遂に貴方に口付けた。唇は苦いわ………コレが恋の味なのね」
「「…………」」
アナスタシアの演技に圧倒され、言葉の出ないさくらと初穂。
「凄ぇ………コレが超一流の演技か。何だよもう………鳥肌立ってくるぜ!」
初穂が、やっとの事で絞り出す様にそう言った。
「動きが、指先まで
さくらも感銘を受け、初穂と顔を見合わせながら決意を新たにする。
「おはよう。朝早くから、舞台の稽古かい?」
『熱心だな』
と其処へ、誠十郎(+ゼロ)が姿を見せる。
「よお!」
「お早うございます、隊長」
初穂とさくらが挨拶を返していると、アナスタシアは舞台袖に移動し、其処で演技の稽古を続ける。
「如何だい? アナスタシアの演技は?」
「如何もこうも無ぇよ! ホントに凄いぜ」
「
誠十郎の問いに、初穂とさくらは興奮を隠し切れない様子でそう答える。
「アナスタシアさんに教えて貰えれば嬉しいんですけど………」
「昨日、ちょっとだけ見て貰ったけどさ。本格的に指導して貰いたいんだ。何とかならねぇか?隊長!」
「なら、アナスタシアに頼んでみるか。おーい、アナスタシア」
初穂にそう訴え掛けられ、誠十郎は舞台袖で演技稽古を続けていたアナスタシアを呼ぶ。
「何かしら?キャプテン」
「お願いが有るんだ。彼女達にも、君の演技を教えて貰えないか? 教師役をお願いするのは、ちょっと心苦しいところも有るんだけど………」
アナスタシアがやって来ると、誠十郎はそう頼み込む。
「其れは………」
「やっぱり、駄目かい?」
「お願いします!
渋る様子を見せたアナスタシアに、誠十郎は表情を曇らせるが、其処でさくらが腰を折って一礼しながらそう言う。
「………其れは無理ね。貴女達は、
しかし、アナスタシアから返って来たのは否定の言葉だった。
「そんな………」
「キャプテン・カミヤマ。彼女達の実力を伸ばす必要が有るのは確かだわ。早く、“適切なコーチ”を見つけてあげて。
暗に、“自分はコーチには向かない”と言う様なニュアンスで言うアナスタシア。
『んなこと言ったって、今この帝劇ですみれを除いて1番演技力が高いのはアナスタシアだぜ』
「(そうだな)アナスタシア以上の教師なんていない! 君が1番良いんだ。頼むよ」
ゼロの言葉に同意しつつ、誠十郎は更にアナスタシアに頼み込む。
「そう思って貰えるのは光栄だわ。でも、私は………」
「頼むよ! この通り! 花組の公演を成功させる為には、必要な事なんだ」
アナスタシアの言葉を遮る様に、腰を折って頭を下げて頼み込む誠十郎。
「お、お願いします!!」
「アタシ達が“未熟”だってのは、アタシ達が良く分かってる! 足を引っ張りたく無ぇんだ。頼む! この通りっ!!」
其処で、さくらと初穂も頭を下げる。
「………仕方無いわね。“最低限の”指導はしてあげる」
やがて、その熱意に負けたかの様に、アナスタシアはそう言った。
「ホントですか!? ありがとうございます!!」
「その代わり、厳しいわよ?」
「大丈夫です! こう見えても、根性は有るんです! “隊長に鍛えられてます”から!」
「おう! やってやるぜ! “隊長さんの特訓”に比べりゃ、どんな辛さだって耐えられるぜ!!」
“指導するからには厳しく行く”と言うアナスタシアだったが、さくらと初穂は誠十郎(ゼロ)の特訓に比べれば
「へえ………其処まで言うなんて………一体、キャプテン・カミヤマの“特訓”とやらはどんなものなのかしらね?」
「ア、アハハ………(俺じゃなくてゼロのなんだけど………)」
そんな2人の言葉を聞いて、アナスタシアは誠十郎に意味深な視線を送るが、実際に特訓をやったのはゼロな為、誠十郎は誤魔化す様に笑うしかない。
「そうね………話の
「「其れは止めた方が良いです(ぜ)!!」」
と、ゼロの特訓に興味を抱いたアナスタシアがそう言い掛けた瞬間、慌ててさくらと初穂が制止して来る。
「アナスタシアさんみたいな“世界的スタァ”に、『若しもの事』が有ったら大変です!」
「そうだぜ! ありゃ“人間がやるモン”じゃねえっ!!」
「そ、そうなの………(一体どんな特訓だと言うの?)」
余りの剣幕でそう言って来るさくらと初穂を見て、アナスタシアは思わず後退りながら返す。
(ん? 電文か………)
と其処で、誠十郎のスマァトロンが鳴った。
『神山くん、頼みたい任務が有るから、支配人室に来て頂戴。お願いね』
『【緊急】支配人室に来て』と銘打たれた電文の内容には、そう書かれてあった。
(任務か………クラリスの様子も気になるが………仕方無いな)
「支配人からですか? 若しかして、新しい任務とか」
スマァトロンを覗き込んでいた誠十郎に、さくらがそう尋ねる。
「ああ、そんなところだ。支配人の所へ行って来るよ」
さくらにそう返すと、誠十郎は支配人室へと向かったのだった。
帝劇・支配人室………
到着した誠十郎が、支配人室のドアをノックする。
「入ってちょうだい」
「神山 誠十郎、入ります!」
すみれの許可を受けて入室する誠十郎。
そして、すみれの居る支配人机の前に立つ。
「今回の任務は、銀座周辺の、賑わっている場所の情報を集める事ですわ………“意味”は分かるわね?」
「宣伝するなら………人が多く集まる場所が望ましい。そう言う事ですか?」
すみれの問いに、誠十郎はそう答える。
「
『確かに、この街を良く知る機会なんて無かったからな』
すみれにそう言われて、ゼロはやって来てから色々と“バタバタしていた”事で、“帝都を良く知らない”のを思い出す。
「帝都を知る、ですか………成程、分かりました。情報を集めて来ます」
「お願いね、神山くん。集まり次第、報告に来てくれる?」
「はっ!」
誠十郎は姿勢を正して返事を返すと、帝劇のメンバーから帝都………特に帝劇の在る銀座の情報を聞きに行った。
帝劇内を回り、さくらから『ミカサ記念公園』、あざみから『銀座大通り』、こまちから『銀座横丁』、いつきから銀六百貨店の『屋上遊園地』の情報を得る。
途中、カオルから大浴場に居る初穂に掃除用具を届けてくれと言う依頼を受けて届けに行ったところ、入浴していた初穂と危うくラッキースケベイベントになり掛けたが、ゼロが阻止。
更に『みかづき』へと足を延ばすと、ひろみから『カフェ ジル・ド・レ』の情報も得た。
そして再度支配人室を訪れ、得られた情報をすみれへと報告するのだった。
「………以上で報告を終わります」
「短い時間で、良く調べたわね。素晴らしいわ、神山くん」
短時間で、多くの銀座のスポットの情報を入手した誠十郎の手腕を手放しに誉めるすみれ。
「ありがとうございます」
『にしても、話を聞いただけでも、ホント良い街じゃねえか。俺も出歩いてみたいぜ』
ゼロも帝都の街に惹かれたらしく、そんな言葉を漏らす。
「それで、如何だった? 少しは帝都の事、分かったかしら?」
「もう、すみれさんより詳しいと思いますよ。何でも聞いて下さい」
すみれの問いに、自信満々で答える誠十郎。
「そう………
「あ、いえ、その………すみません………でも、帝都について少しは分かった積もりです」
『調子に乗り過ぎだぞ、誠十郎』
ちょっと調子に乗った誠十郎を、ゼロが窘める。
「“任務の前”より、帝都を
『“軍人”としては妥当かも知れねえが、其れじゃ駄目だぜ、誠十郎』
「(ああ、分かってる)でも、帝都には色々な場所が在り、色々な人が暮らしている。其れを知る事で、俺自身が“帝都に生きる”1人なんだ、と感じました」
「そうね………そう思ってくれるならこの任務は大成功だわ」
誠十郎の言葉に、すみれは満足気に言う。
「良い事? 神山くん。花組の隊長は、“帝都を愛して”いないと務まらないわ。同時に、“帝都の人々に愛される存在”でなければならない。そうでなければ、『帝国華撃団花組隊長』は只の
そう言うすみれの脳裏には、初代帝国華撃団隊長………『大神 一郎』の姿が浮かんでいた。
『
一方ゼロの脳裏には、ウルトラ戦士の中でも特に地球を愛し、その身を削ってまでも守り抜き、地球人と“確かな絆”を結んだ父親………ウルトラセブンの事が浮かんでいた。
「はい、肝に銘じて“真の意味”で隊長になれる様に精進します」
そして誠十郎は、一層努力をする決意を固める。
「期待してるわよ、神山くん。勿論、宣伝活動も積極的にお願いね」
「はっ!」
誠十郎はすみれに向かって敬礼すると、支配人室を後にするのだった。
そして改めて、脚本に精を出している筈のクラリスの様子を窺いに向かう。
帝劇・クラリスの部屋………
「…………」
机に向かい、只管原稿用紙にペンを走らせているクラリス。
「クラリス、入るよ?」
「………!」
と其処で、ノックの後、誠十郎の声が聞こえ、ペンが止まる。
「…………」
顔を上げるクラリスだが、その表情は暗い………
「………どうぞ」
ペンを置くと、誠十郎に入室を促す。
「失礼するよ。クラリス、調子は如何だい?」
部屋に入ると、クラリスの傍に寄って尋ねる誠十郎。
「隊長………お願いが有るんです」
するとクラリスは椅子から立ち上がり、真剣な表情で誠十郎の前に立ってそう言う。
「そんな深刻な顔で………えっと………何かな………?」
その様子に、誠十郎はやや戸惑いながらも問い返す。
「私と、デートして下さいっ!」
そして、クラリスから放たれたのは意外な言葉だった!
「デ、デート!?」
「はい!」
『オイオイ、随分と大胆なお誘いだな』
普段の物静かなクラリスからは想像し難い積極的な誘いに、ゼロもそんな言葉を漏らす。
「脚本を書くのに、如何しても必要なんです」
『あ、そっちか』
しかし、続くクラリスの言葉を聞いて、納得が行った様子を見せる。
「私………私は、恋愛もデートもした事が無いから………そう言うシーンでの気持ちとか、見え方とか、全然分からなくて………だから、せめて“デートの真似事”でもすれば、少しは分かる様になるかもって………」
「………成程。そう言う事なら、協力するよ。で、何時にしようか?」
「勿論、今からお願いします!」
「い、今から!?」
動揺を隠せない誠十郎。
「あ………駄目、ですか?」
途端にクラリスは落ち込んだ様子を見せる。
『オイ、誠十郎。男だろ。ビシッとデートしてやれ! 協力は惜しまないんだろ!?』
「(!そ、そうだ。約束だもんな)良いよ。今からデートしよう。精一杯、相手を努めさせて貰うよ」
ゼロに言われ、誠十郎は気を取り直してそう言う。
「ありがとうございます!」
こうして、誠十郎(+ゼロ)とクラリスの、突然のデートは決定されたのだった。
帝劇前………
「其れでは行きましょうか」
「どうぞ、お嬢様」
クラリスがそう言うと、誠十郎は自然な形で腕を差し出す。
「Ah………Villmols mercl,monsieur」
母国語で『うふふ………よろしくってよ』と言い、その腕に摑まるクラリス。
「なんて………何だか楽しくなってきました。今日は何処へ連れて行って頂けるんですか?」
「………何処行こっか?」
「何処でも良いですよ。隊長が決めて下さい」
「うーん、そうだな………」
何せ突然のデートとあって、行く先も決まっておらず、誠十郎は頭を捻る。
『誠十郎。折角帝劇の連中から帝都の事を聞いたんだ。其処へ行ってみたら如何だ?』
すると其処で、ゼロが帝劇メンバーから聞いた帝都の名所の事を思い出し、誠十郎に告げる。
「(成程。其れは良いな)良し、兎に角行ってみようか」
そう言って誠十郎(+ゼロ)は、クラリスと腕を組んだまま歩き出す。
「「…………」」
その姿を、物陰から覗いているさくらと初穂の姿が在った。
「………行ったか?」
「うん、行った」
「後を尾けるぞ! 見付からないようにしろよ!」
「合点承知!」
そう言って、誠十郎とクラリスの後を追って行く2人。
如何やら、先程誠十郎が帝都の事を聞いてきたのを、クラリスとのデートの為だと勘違いした様だ。
「ふう………全く、如何したものかしらね」
そんな2人の姿を見た、丁度出掛けるところだったアナスタシアは、呆れる様に呟いたのだった。
帝都・停留所………
誠十郎とクラリスが最初にやって来たのは、以前令士の本を買いに来た押問堂だった。
「クラリスは本を読むのが好きみたいだから、本屋なんて如何かな?と思ったんだけど………」
「ふふ。この本屋さん、何時も来ているんです」
しかし、如何やらクラリスは此処の常連らしい。
「そうなのか。じゃあ………他の所に行った方が良いかな?」
「いえ………大丈夫です。何時もと同じ場所でも違う気持ちになれそうで………“デート実験”には最適ですよ」
「そうかい? クラリスがそう言うなら………」
「行きましょう、神山隊長。ふふ………今日はどんな本に出会えるのかな?」
『やっぱり本が好きなんだなぁ』
ゼロがそう呟く中、2人は押問堂の中へ入って行った。
「えっと………あ、有った有った! ん~~もう少し………」
棚のやや高い所に目当ての本を見付けたクラリスが、背伸びをしながら手を伸ばす。
「はい、どうぞ」
すると其処で、横からスッと誠十郎の手が伸びて来て、クラリスの目当ての本を引き抜く。
「………あ、ありがとうございます」
その際、クラリスと誠十郎はかなり至近距離に立つ事となり、クラリスは動悸を覚える。
「…………」
「………ん? 如何した?」
「えっ、いえ………その………ちょっとデートっぽいかな………と思いまして」
誠十郎に尋ねられ、クラリスはややどぎまぎしながら返す。
「デートっぽい………? あ………ゴメンゴメン! ちょっと近過ぎたかな?」
そう言われて、クラリスとの距離が近い事に気付いた誠十郎が慌てて離れる。
「ふふっ………いえ、大丈夫です。神山隊長って、優しいんですね」
「や、優しい………?」
『素直にお礼言っとけ、誠十郎。褒められてんだからよ』
戸惑う誠十郎に、ゼロがそうアドバイスする。
「(そ、そうだな)えっと………ありがとう。素直に嬉しいよ」
「私が男の人を優しいと感じるなんて………自分でも、少し驚いています」
「ははっ、デート実験を通して少しは俺の事も分かって貰えたのかな?」
「ふふ、そうかもしれません。こうして、相手の良い所に気付いて行く………其れが、“デートの良さ”なのかも知れませんね」
『成程なぁ』
クラリスの言葉に、ゼロも納得が行った様子を見せるのだった。
程無く、誠十郎(+ゼロ)とクラリスは、押問堂から退店する。
「ふふっ、楽しかったですね」
「そうだな………沢山の本に触れるのは新鮮だったよ」
「隊長は………普段どんな本を読むんですか?」
「本、か………やっぱり戦術書が多いかな。作戦を立てる時の参考になるしね」
『ああ、あの小難しいヤツか………』
誠十郎の言葉に思い出す様に呟くゼロ。
「流石は隊長ですね。日頃からの努力、素晴らしいです!」
「ははっ………未だ未だ未熟者だから、努力するしか無いんだよな」
「努力しようと思って出来るのは才能です。誰でも出来るワケじゃありませんよ」
『確かにな………
元は宇宙警備隊の出身だったワケではなく、戦いに関しては未熟であったレオがセブンに鍛えられてアレだけ強くなった事を思い出すゼロ。
「成程………そう言われると嬉しいな、ありがとう」
誠十郎はクラリスにそう言うと、2人揃って押問堂を後にする。
「………フフッ」
と、偶々出くわしたアナスタシアは、その様子を目撃して笑みを零すのだった。
銀座大通り・銀六百貨店の屋上遊園地………
続いて2人がやって来たのは、観覧車がランドマークの銀六百貨店・屋上遊園地だった。
「賑やかですね! 私、此処は初めて来ました」
「ははっ………良かったよ。其れで、脚本には活かせそうかい?」
「えっ、其れは未だ………デートって、こういう時如何するんでしょう?」
「そうだな………」
『恋人つったら、アレだろ。手を握るとか』
レイトが、良く妻・ルミナと手を握っていた事を思い出しそうアドバイスするゼロ。
「(まあ、定番だな)恋人っぽく、手を繋いでみようか?」
「え? あ、はいっ! そ、そうですね………」
赤面しつつも、誠十郎の手を取ろうとするクラリス。
「…………」
しかし、あと少しの所で手を引っ込めてしまう。
「ど、如何した?」
「え、えっと………御免なさい。恥ずかしくて」
戸惑う誠十郎に、クラリスはモジモジしながらそう告げる。
「お、おかしいですよね。ただ手を繋ぐだけなのに………でも、このドキドキ………これが、“デートの気持ち”なんでしょうか?」
「ははっ、きっとそうだよ。ちょっと残念だったけど、少しは役に立てたかな?」
誠十郎もやや照れながら返す。
と………
「うわ~~~ん!」
「ん?」
子供の泣き声が聞こえて来て、誠十郎が視線を向けると、其処には泣きじゃくる幼い少年の姿が在った。
「お母さ~ん! お父さ~ん! 何処~!?」
泣きながらそう声を挙げる少年。
如何やら迷子の様だ。
「迷子か………」
『みてぇだな』
「う~ん………」
ゼロと言い合うと、一瞬迷った様にクラリスを見遣る誠十郎。
「隊長、私は大丈夫です。待ってますから、行ってあげて下さい」
するとクラリスは、誠十郎の心中を察したのかそう言って来る。
「………済まない。ちょっと待っててくれ」
クラリスに詫びながら、誠十郎は迷子の方へと駆けて行った。
「やっぱり優しいですね、隊長」
そんな誠十郎の姿を見送りながら、クラリスは近くに在ったベンチに腰を下ろした。
「ふう~、ココまでで大分アイデアが出て来たけど………上手く纏められるかな?」
コレまでのデートで、色々とインスピレーションが来たクラリスだったが、やはり初めての舞台脚本作りとあり、不安を隠せないところが有った。
「何かお悩みかい、お嬢さん?」
すると、そんなクラリスに声を掛けた者が居た。
「えっ?」
クラリスが視線を向けると、其処には眼鏡を掛けた紳士然とした老人の姿が在った。
「ああ、済まないね、突然。しかし、君が余りに思い詰めた顔をしていたから、つい気になってしまってね」
突然声を掛けた事を詫びながらそう言う老人。
「ああ、いえ………あの、私、そんなに思い詰めた顔をしてました?」
「少なくとも、僕には“そう見えた”けどね」
「そうですか………」
他人に気取られてしまう程に不安が表情に出てしまっていた事に、クラリスは落ち込む。
「若い内からそう落ち込むものじゃないよ。隣、良いかね?」
「あ、どうぞ………」
「ありがとう………」
クラリスに断ると、老人はその隣に腰を下ろす。
「如何だね? 良かったら何を悩んでいるか、聞かせて貰えないかな?」
「えっ………?」
「君みたいな“悩める若者”を見ていると、放っておけないのが僕の性分でね」
子供の様な無邪気な笑みを浮かべてクラリスにそう言う老人。
「………実は」
その笑顔に安心感を覚え、気付けばクラリスは話し始めていた………
「ほう、舞台の脚本を………」
「でも、書けなくって………才能無いですから、私」
自虐気味にそう言って笑うクラリス。
「泣かない泣かない………」
すると老人は、持っていたカバンを開け、中から小箱の様な物を取り出す。
「お嬢さん………ちょっとお手を拝借出来るかな?」
「えっ? は、ハイ………」
戸惑いながらも、クラリスは老人に向かって右手を差し出す。
老人は小箱を開けると、その中に在った物をクラリスの右の掌の上に乗せた。
其れは、『透き通る様な輝きを持つ赤い宝石な様な石』だった。
「コレは………?」
「『ウルトラの星』だ」
「『ウルトラの星』?」
そう言われて、掌の上の赤い石………『ウルトラの星』を凝視するクラリス。
「“宇宙人”から貰ったんだ」
「! 宇宙人!?」
「友達なんだ、『彼』とは」
「そんな、まさか………」
「僕だって金星人だよ」
「ええっ!?」
まさかと言うクラリスだったが、続く老人の言葉で更に驚く。
「そうだよ。あの日の夜………考え事をしていて寝付けなくてね。自宅の近くに在った湖の近くを散歩していたんだ。そしたら………」
そして老人の口から語られたのは、クラリスが今まで読んだどんな本にも書かれていなかった、夢の様な出来事だった………
◇
老人の回想………
寝付けず、自宅近くの湖の畔を散歩していた老人。
すると、突然………
何の前触れも無く、空から青く光る巨大な球が降って来た!
青い球はそのまま湖へと落下!
巨大な水柱が上がったかと思うと、その水柱を吹き飛ばして、中からまるで棘の生えた恐竜を思わせる巨大な怪物が咆哮と共に出現した!
しかし、驚くのは未だ早かった!
まるで青い球を追って来たかの様に、今度は赤く光る球が出現!
怪物の前へと降りて来たかと思うと、一際輝きを放った!
そして、その輝きが収まったかと思うと………
其処には、銀色の身体に赤いラインの入った巨人の姿が在った!
「シュワッ!!」
巨人は腰を落とした戦闘態勢を取ると、怪物と取っ組み合いを開始!
打撃と投げ技を駆使し、怪物にダメージを与えて行く巨人。
そして、動きの鈍くなった怪物を掲げ上げる様に持ち上げると、湖に落とす様に投げ飛ばした!
怪物は湖に沈んで行ったかと思うと、再び青い球となって空に浮かび上がる。
その青い球に向かって、巨人は腕を十字に組んで向けたかと思うと、その組んだ手から光線が発射される!
光線は青い球を直撃し、粉々に吹き飛ばした!!
其れを見届けると、巨人の姿が再び赤い球へと変わったかと思うと、小さくなりながら湖の畔へと移動する。
老人は、直ぐ様その赤い球が降りた場所へと向かった。
辿り着いたその場所には、湖を見詰めている、人間と同じくらいの大きさになった巨人の姿が在った。
「貴方は?」
「私ハ『ウルトラマン』………M78星雲カラ来マシタ」
問い掛ける老人に彼………『ウルトラマン』は、エコーが掛かっている声でそう返す。
「M78星雲。ほお~」
「今、恐ロシイ悪魔ノ様ナ怪獣ヲ倒シマシタ………コレハ“友情ノ印”デス」
ウルトラマンはそう言って、老人にあの赤い石………『ウルトラの星』を差し出した。
「コレは………?」
「『ウルトラノ星』デス。コレガ大キナ力ニ成ルデショウ」
老人がウルトラの星を受け取ったのを確認すると、ウルトラマンは大きく頷き、空を見上げる。
「シュワッチッ!」
そして、そのまま空の彼方へ飛び去って行った。
「…………」
そのウルトラマンを笑顔で見送る老人。
まるで夢の様な出来事だった。
しかし、老人の手には確かに『ウルトラの星』が握られていた………
◇
銀座大通り・銀六百貨店の屋上遊園地………
「あの日の出来事は、今でも昨日の事の様に思い出せるよ………」
「…………」
まるで古くからの友人の事を語る様に話す老人に、クラリスは呆気に取られていた。
(『ウルトラマン』って………ひょっとしてゼロさんと同じ………)
老人が話した『ウルトラマン』が、“ゼロの仲間”の事ではないか?と思うクラリス。
其処で再度、自分の手の中に在った『ウルトラの星』を確認する。
「………温かい」
『ウルトラの星』からは、安心する様な優しい暖かさが感じられた。
「クラリス」
と其処で、漸く迷子の世話を終えた誠十郎が戻って来た。
「あ、隊長」
「ゴメン、遅くなって………此方の方は?」
「あ、待ってる間に、話し相手になって貰って………」
「そうか………どうもありがとうございます」
老人に向かって頭を下げる誠十郎。
「いやいや、どう致しまして………」
「其れじゃあ、私達はもう行きます。コレ………如何もありがとうございました。何だか、元気が出て来ました」
クラリスは立ち上がると、老人に『ウルトラの星』を返す。
「そうか。其れは良かった………」
『ウルトラの星』を受け取ると、再び小箱に大切にしまう老人。
「其れじゃあ、失礼します………」
「ああ、君」
「? ハイ?」
不意に呼び止められる誠十郎。
「………
「えっ!?」
『この爺さん………』
老人の言葉に驚く誠十郎と何かを感じ取るゼロ。
「あ、ハイ。“帝国華撃団”として頑張ります」
しかし誠十郎は、自分達を帝国華撃団だと知っての言葉だと解釈する。
「うんうん………」
その言葉に、老人は満足そうに頷く。
そしてそのまま、誠十郎とクラリスを見送る。
「………ヒーローが必要なんだよ。“ヒーロー”が」
2人に聞こえない様に、そう老人は呟くのだった。
つづく
新話、投稿させて頂きました。
いよいよクラリスとのデートが開始。
ゼロも居るので、時々茶々が入ったりして色んな意味で盛り上がってます。
そして前回予告した超スペシャルビッグゲスト。
もう皆さん、この老人が誰なのかお分かりですね?
そう、『オヤジさん』です。
元になったのはウルトラマンティガの神回『ウルトラの星』からです。
あの話で、オヤジさんが悩んでいた脚本家の金城哲夫さんにウルトラの星を見せて励ましていたシーンを見て、コレをクラリスにもやって貰いたいと思いまして。
そして超スペシャルビッグゲストも出演して順調に行っているかに見えるデートですが、次回風雲急を告げます。
では、ご意見・ご感想をお待ちしております。