仮入部期間という名の部活動選別作業もついに終わりを迎え、新入生達は皆それぞれどの部活に入部するのかを正式に決定する最終日が今日を持って終わりを迎えた。
何が言いたいのかを簡単に言うなら、今日からめんどくさい部活動に参加しなくてはならないというわけで、自然と気分は落ち込んでいくのである。
これから一年間、一緒のクラスで過ごすことになった一年三組のクラスメイト達はそれぞれ仲のいい中学から一緒の友達でもいるのだろう。すでにいくつかのグループが出来上がっていた。他人のこういうときの行動力には正直驚かされる。あっという間に新しい友達の輪を作ってしまうのだから。
そんな中俺、山神レンは特に親しい知り合いもおらず、話をすること自体あまり好きでもないので、誰かと話すこともせずに結局一週間近く過ぎても話をするような友人もできず、休み時間は自分の席で黙々とライトノベルを読んでいるだけで、完全に孤立していた。
別に寂しいとも思わなかったし、他人の話にも興味ないから特に気にすることなく過ごした。
これは強がりでもなんでもない本心だ。
話しかけられても一言二言返すだけで、話しかけられるのになれていないから相手が自分に話しかけているとも思わずに無視してしまうようなこともちらほら。どうも最近の人たちは主語を除いて話すことが多いと思う。俺だって名前を呼ばれればちゃんと気付くのに。他のことに集中しているときでなければ。
そういった態度がどことなく冷たく感じさせているのか、クラスメイト達には少し距離を置かれているようだ。別に嫌われているわけではないと思う。少なくとも苛められるようなことは今のところ無い。
今思えば、もしかしたらただの強がりだったのかもしれない。自分は他人とは違うと思っていたかっただけなのかもしれない。でも今更考えてもしょうがないことだ。
そんな訳で今は授業も終わって、これからしばらくは活動することになる部活動の部室へと向かっていた。
「まったく、無駄に広い学校だな、ここは……」
どこまでも続いているかのように錯覚するぐらいに長い廊下を独り言を呟きながらのんびり歩いていく。
分かれ道に差し掛かったらいちいち見取り図で確認してから、慎重に次の道を確認。無駄に広い敷地を、事前に手に入れていた校内見取り図(増築改装をくり返しているということなのでこの見取り図が正しいかは不明)だけを頼りにゆっくり歩いていく。一つ道を間違うだけでもまったく別の場所に出て、もと来た道を戻っていると思ったらまた違う道に入り、そのまま迷ってしまうということも多々あるという噂があるからなおさら良く確認しなければならない。
「これなら遠回りしてでもいったん外に出てから行ったほうがよかったかも。ああ、めんどくさいな……」
誰に話すでもなく一人愚痴ってみる。周囲に人のいる気配はないから痛い奴だと思われる心配はない。
この学園はとにかくその敷地の広さが異常だった。学園紹介を聞いて知ってはいても、正直ここまで広いとは実際に登校してくるまで思ってもいなかった。
教師の話によると、毎年最初の一ヶ月は新入生の中から数十人の生徒が必ず迷うのだという。だからなのか、必然的に最初の頃の授業では移動教室はない。人によって三年間使わずに終わる道も多いから、慣れてしまえば大丈夫だという。
しばらくはまだこの地図にはお世話になりそうだ。地図に対して妙な信頼を抱き始めている自分がいた。
そんなこんなであれがそれしていろいろあった末に、何とか目的地までたどり着くことができた。
複数あるグラウンドの中でも一番端にあるグラウンドのさらに端にあるのが、これからお世話になる部室。
こんな隅に追いやられるように建ってあるからどんなボロ屋かと思っていたが、予想よりも遥かにちゃんとした建物だったことに驚いた。
もしかして来るところを間違えたのかと心配になって確認すると、ちゃんと入口の脇に確かに書いてあるので安心する。もし違っていたら早くも迷子になるところだ。もしそうなったら今日はたどり着けなかったかもしれない。
「われながら良くこんな小さな場所を見つけられたもんだ」
小さく呟いて手元の地図を確認する。
こんな離れた場所に立っているほどだから、入学初日に配られた冊子(この学院にある部活動や同好会などが書かれたもの)の中でも、最後に隅の方に小さくまとめられた数十個の部活の中に目立たないように書かれているものだから、よほど注意深く見なければ気づかないだろう。しかもその冊子というのも、全部で百は軽く超すのではないかという数の部活すべてを紹介しており、そのほとんどに数行の紹介文まであるため、軽い小説ほどの厚さがあるからなおさらに。
まるで見つけてほしくないかのような扱いのそれを見つけ出して、さらに地図の中から部室の場所を探し当てるだけでもかなりの時間が掛かった。
なんでこんなところを自分は選んだのだかほとほと謎だが、まあそれはよしとして。
改めて、自分の通ってきた道筋を地図で確認しつつ頭に叩き込む。だがすぐに、次から外を通って来るつもりだったことを思いだして、意味がないことに気づく。
迷わないように緊張しつつ慎重にここまで来たため、思った以上につかれているようだ。
ポケットから携帯を取り出して時間を確認すると、部活が始まるまでにはもう少し時間がある。でも今から他のところを見て回れるほどの余裕はない。というか他に行くような所なんてない。
できればどこかで一休みしたかったのだけれど万が一迷ったりしたらもう戻って来られないだろう。
「……よし!」
深呼吸をして気持ちを少しだけ切り替え、ほんのちょっとの勇気を込めて目の前にある部室の扉を叩く。
「あら、いらっしゃい。思っていたよりも早かったですね」
すぐにそんな挨拶とともに、落ち着いた雰囲気の女性に出迎えられた。
このおよそ同年代とは思えないような大人の雰囲気漂わせるお方の名前は伽耶瀬志穂。ここ観光部の部長を務める二年生の先輩。
「あ、えっと……」
「ふふふ、どうぞ好きなところに座ってください」
緊張で何も言えずに戸惑っている俺を見ても、伽耶瀬部長は変わらぬ微笑みで言う。
オレがなるべく伽耶瀬部長から遠い向かい側の席に着いたのを確認してから、彼女は立ち上がる。
「今紅茶を入れるから少し待っていてね」
手慣れた動作で棚からティーカップを取り出すと、テーブルの上にあったティーポットから紅茶を注いで、出してくれた。まだ作り立てらしく、カップからは湯気が上っている。
ティーセットをよく見てみるとそれはコバルトブルーの絵柄が特徴のロイヤルコペンハーゲンのティーセット、しかも絵柄はベストセラーにもなった、下絵の手描きのブルーバターン、ブルーフルーテッドだった。
「え、いや、あの……」
「うふふ、遠慮なさらずにどうぞお飲みください」
優しい笑顔で勧めら、さすがにここでまったく口をつけないなんて選択ができるわけがない。しかたなく、恐る恐るカップに手を伸ばす。
もしこのまま落として割ってしまった羅大変なので慎重に持ち上げる。
「お客様用の安物でごめんなさいね。今はそれ以外になくて。気に入らないようなら新しいものを買うけれど――」
「い、いえ、別にそういうわけではないです!」
なかなか口につけない俺の姿に、何か勘違いした先輩の言葉に内心驚愕する。これで安物って、いったい彼女は普段どんな生活をしているのだろう。
「そうだ、今度皆で新しいものを買いに行きませんか? 新入部員が入ってくれたお祝いと、お互いの親睦会も兼ねて。そうすれば皆さん自分の好きなカップを使えますし」
「それはいい考えですね。いいと思います」
こんなにきれいな笑顔を見せられて、小心者の俺にノーなんて言えるわけがない。
だが、このままこの高級なカップを使って、壊してしまうよりマシなのでちょっと安心したのも事実だった。とりあえず今は勧められたとおりに紅茶に口をつける。
いろいろな意味で早く今日の部活動が終わることを心のから願いながら待つこと数十分。その日部室に集まったのは自分も含めて三人だった。
伽耶瀬部長の話ではもう新入部員は一人いるらしいのだが、その後数十分待ってもその最後の一人は来なかった。
「うーん、あまり遅くなってもいけないわよね。先にいる人だけで始めちゃいましょうか。細かい説明をすると長くなるから、今日は簡単に説明するわね」
口元に手を当て、少しだけ困ったような表情をした後、先輩がそう言って、今日の活動が始まる。
「観光部といっても、うちは部費が少ないからそうそう観光に行くことはできないの。交通費だけなら大丈夫なのだけれど、宿泊費は個人で持つことになるわ。でも安心してね、どうしても嫌なようなら顧問の先生か私が代わりに払うから。それで、それ以外のときは基本的にはあまりやることはないの。でもそれだと部活動として認められないからいろいろとやることは考えてあるのだけれど、そこはまた今度実際にやりながら教えるわね。と言うことだから、基本的には皆自由にしてね」
思っていたよりも遥かに簡単で適当そうな部活なんだな。部活としてそれはどうかとも思うが、俺にしてみればこっちの方が好都合だ。
「それじゃあ、次は自己紹介といきましょうか」
両手を胸の前で合わせて嬉しそうに微笑む先輩。
しかし、対照的に他の二人には緊張がはしる。それと言うのもふたりともこの行事を最も苦手としているからなのだが、当然そんなことなど知らない先輩は、自己紹介を始める。
「まずは私から。私は二年の水瀬志歩、この観光部の部長です。趣味は観光で自分の知らない様々なものを見ることかな。去年は他に部員もいなくて私だけったから、今年は皆と一緒に楽しい思い出を作りたいなと思っています。どうかよろしくお願いします」
そう言って礼儀正しいお辞儀をする水瀬部長につられて、思わず礼で返してしまう二人。
緊張で何も返すことのできない二人にも、嫌な顔一つしない部長。今思えば、蓮はこのときに、先輩のようになりたいと憧れたのだった。どんな人が相手だろうと嫌な顔せず、ありのままに優しく受け入れられる広い心。この後の一年間、一緒に過ごすうちにその思いはさらに強くなっていった。
「それじゃあ、次は君にお願いしようかな」
「……っは!」
ついつい見蕩れてしまっていた俺は部長のその一言で現実に戻ってきた。
いつまでも動かないわけには行かないのでひとまずその場で立ち上がる。しかし何を言えばいいのかがまったくわからない。目標なんてないし、話したいこともまったく無い。
でも期待のまなざしで蓮を見つめている部長を見ては何か言わなければならない。
覚悟を決め、とにかく思ったことをそのまま話し始める。
「一年三組、山神蓮です。中学のときはサッカー部でした――」
自分のことを話すのはどうしてこんなにも恥ずかしいのだろう。自己紹介は学生生活の中の苦行ランキング上位に入ると思う今日この頃。その恥ずかしさを誤魔化すために、クラスでの自己紹介と同じように短くまとまった話で、すぐに自分の番は終わった。
そういえばなんでこんな場所に部室があるのか気になっているのだけれど、なんとなく今は聞かない方がいい気がする。それ以外にも、こんなときなのに顧問の人がなぜいないのかとか、遅れているもう一人の新入部員というのがどんな人なのか、生徒の人数に比べてなんでこんなに部員が少ないのか気になっているけれど、なんとなく追々分かる気がするからどうでもいいや、なんてことを考えているうちに次の少女の番になった。
その少女は明らかに日本人と違う容姿をしていた。高校生にしては小柄で、瞳は透き通った水色をしている。一瞬白に見間違うほどの美しいノルディック・ブロンドと呼ばれる、白に近い金髪を二つにくくっている。普通ならそんなものを見たら脱色などしているのかと思うと思うのだが、不思議とこの少女はそんなものはしていない、それが自然のもののように思える。さらにもう一つ、マンガやアニメ好きにしかないような、個人的に最も特徴的だと思ったものは、まるで重力なんて関係ないとでも言うかのように天に向かって堂々と立っている一房の髪の毛、実際に見るのは初めてだが、それは俗に言う『アホ毛』と呼ばれるものだった。まるでアニメから出てきたような女の子って本当にいたんだな。
こんな見た目だし、おそらく外国人だろう。もし違うとしたら完全に痛い中二病の人だということになる。
しかもこの少女どうもごく最近どこかで見たことがあるような気がする。一目見たら忘れようがないような少女だが、どうにもすぐに思い出せない。すぐそこまで来ているはずなのだが、まるで何かが邪魔しているように出てこない。それも何か嫌なことだったような気がする。
なかなか思い出せずにもやもやしているうちに少女は自己紹介を始めた。
「一年三組森里リューリ、部活とかはこれまでやっていません。よろしく」
蓮以上に簡潔な自己紹介だった。
しかも、それで終わりらしく、無表情で席についてしまったので、部長が少し質問をした。
「えっと、森里さんは西欧の生まれなのですか?」
「いいえ、四分の一はそうですけど、生まれは日本です」
「と言うことはクォーターなのね。その髪と瞳の色からしてフィンランドかしら?」
「はい。その通りです」
せっかくの質問にも簡潔に答える少女に、どこと無く親近感を覚える。それと言うのもその態度に自分と同じものを感じたからで、もしかしたらこの少女となら仲良くできるかもしれない――
「おんなじ三組と言うことは、もしかして二人はお友達なのかしら?」
「は? 誰がこんな女男と友達なもんですか。気持ちの悪いこといわないでください。たとえ冗談だとしても言われたくないです」
前言撤回。こいつとは何があっても仲良くできそうにない。
なんでお前にそこまで言われなくちゃならないんだ。それに女男なんて、人が気にしていることを声高々に言いやがって、ってまてよ、なんかこれと同じようなことがつい最近あったような?
「って、あーーー、思い出した!」
「……!?」
いきなり立ち上がって叫びだした俺に驚く森里に、俺は人差し指を突きつけ、叫ぶ。
「始業式の日にいきなり俺に喧嘩売ってきた奴!」
「は? 喧嘩なんて売ってないわよ。……ていうか、今まで気付いてなかったの、アンタ!?」
そうだ思い出した。というかなんであんなこと言われて今の今まで忘れていたのか。
それは始業式の終わった後の自己紹介のときのこと。後から思い出せばなんてことは無いのだが、俺の自己紹介が終わった後すぐにこいつが俺に向かってこういったのだ。
「ねぇ、なんでアンタ男子の制服なんて着てるの?」
先程言ったように、俺は自己紹介が大嫌いだ。そのときも極度の緊張状態にあったので、精神的にまったく余裕が無かったので、ただ勘違いで言われたその一言だけで俺の怒りは頂点に達してしまった。
「男が男子の制服を着ておかしいのか、このヤロー!」
「なっ、なに突然なに怒ってんのよ。分けわかんない」
「人が気にしていることを堂々と……絶対赦さないからな!」
「なんなのよ、まったく」
そう、森里が勘違いしたように、蓮は女性に見えないことも無い容姿だった。ココでさらに詳しく自分で説明なんてしたら余計に落ち込んでもう何もいえなくなってしまいかねないので言わないが、簡単に言えば、高校生男子にしてはやや身長が低くなで肩で、可愛い系ではなく、綺麗系の顔をしていると言うのが後から聞いた森里の言だった。
そんなこんなあったため、その日から蓮の中では嫌いな奴として認識されていたため、今日この時まで一緒の部活にいることに気づいていなかったのだ。
「お前があの時あんなことを言われたせいで、体育の着替えのとき俺が着替えだすと他の男子が気まずそうな雰囲気になって、とてもじゃないけれどそんなところで着替えられないからしょうがなく男子トイレで着替えるようにしたら、今ではトイレで同じクラスの奴とあったら急ぎ足で出て行かれるようになったんだ!」
「いや、それはきっと私が何も言わなくても代わらなかったんじゃないかと思うんだけど……」
「うるさい、お前のせいだといったらそうなんだ!」
「何よそのへんな理論」
これも後から森里に聞いた話なのだが、このときムキになって叫んでいた姿はどう見ても女にしか見えなかったそうだ。
「まあまあ、落ち着いて、山神さん。ほら、紅茶どうぞ」
それまでニコニコと微笑んでみていた部長が、空になっていたカップに新しい紅茶を入れてくれる。
落ち着いて考えるためにも、部長が入れてくれたかなり美味しい紅茶を口に含む。
うん何度飲んでも美味しい。紅茶ならアパートの大家さんが育てているものを飲んでいるけど先輩の入れる紅茶はそれよりも美味しい。
高ぶっていた気分も落ち着いて、全員の自己紹介も終わり先輩がこれからの大まかな予定を教えてくれているとき、勢い良く部室の扉が開いた。
「はぁはぁ……す、すみません。お、遅れました……」
全力疾走して急いできたのだろうその少女は疲れきった声で謝罪の言葉を口にする。
そのどこか聞き覚えがあるような声に嫌な予感がした。恐る恐る顔を上げて今しがた勢い良く開け放たれた扉を確認する。
「――っ!」
膝に手を付いてうつむいていたから顔は良く見えなかったが、その雪のように白い肌に黒檀のように黒い髪の少女には見覚えがあった。
部長がすぐにその少女に寄り添って自分達にしてくれたように席を進め、二人と同じように紅茶を入れる。
少女は何度か深呼吸して呼吸を整えて、お礼を言ってから紅茶で喉を潤す。
どうやら彼女の方はまだ自分のことに気づいていないみたいだが、あまりのことに呆然と見つめたままの俺と、当然のことだけれど次の瞬間にはすぐに眼があってしまった。
「あ……!」
「んっ、けほ、けほ……!」
驚いてむせた少女から、無駄なのは分かっているのにとっさに顔を背ける。こうなることは分かっていたはずなのに、そんなことにも気づけないぐらいにそのときの俺は動揺していた。
背中に感じる視線に冷や汗が流れる。同じ高校に入学したことは知っていたけど、数ある部活の中で同じ部活を選ぶなんて思ってもいなかった。
同じ地域に住んでいるのだから、偶然同じ高校に入るのは分かる。だけど数ある部活の中、しかも他の学校よりも遥かに部活数の多いこの学校でも、特に人気の無いこの部活を選ぶ確率なんてかなり低い。まずありえないと言ってもおかしくないだろう。でも現に今それが起こっているわけで、……ああダメだ。余計に頭が混乱してくる!
「……レンくん?」
「はいっ!」
混乱する俺は、思いっきり裏返った声で返事をする。
何とかして誤魔化せないか考えていたはずなのに、なんでオレは返事なんかしているんだよ!
そんな俺たちのやり取りを見た部長が頬に手を当てる。
「あらあら、二人はお知り合いだったの?」
「ちがいます!」
そんなこといってももう遅いと分かっているはずなのに、そのときの俺は本当に混乱しすぎて頭がおかしくなっていたのだ。部長の問いかけに全力で否定していた。
俺に否定されたことで、途端に涙目になる。
ああ、しまった、またやってる。これじゃダメなんだ!
「そんな! うぅ、ひどいよ、レンくん……いいもん。そんな風に言うんなら、もうサービスしてあげないもん!」
「ああ良く見たらめっちゃ中学から一緒の白井雪姫さんじゃあありませんか!」
「サ、サービス!」
現金なもので、俺は少女―雪姫が少し涙目で拗ねたようにそう呟いた次の瞬間にはすぐさま肯定していた。
隣で誰かが何か言っていたような気もしたが、今はそんなことはどうでもいい。あのサービスがなくなったら大変なことになってしまうからな……。主に食費が足らなくなる。
「うふふ、そう。それじゃ、今日は時間もないし、二人には自己紹介の必要はないわね。私のことは知っているからいいとして、森里さんは後で白井さんち挨拶をお願いね?」
「あ! ……はい、分かりました」
何か考え事をしていたのか、真っ赤な顔で慌てて返事をする。一体なにを考えていたのだろう。さっきからアホ毛をピコピコと左右にせわしなく動かしながら、ちらちらと俺に向けてくる侮蔑のような眼差しが気にかかるが、いったい俺が何をしたと言うのか。
仕返しとばかりにこちらからも睨み返してやると、さらに真っ赤になって顔をそらす。本当になんだというのか。
俺たちがそんなやり取りをしている中、部長が締めにかかる。
「皆それぞれ思うところはあるだろうけど、今日はもう時間もないから明日いろいろと話し合いましょう。それでは最後に……私達はもう先に自己紹介を済ませてしまったから、最後の自己紹介をお願いできるかしら、それでとりあえず今日のところは終わりにしましょう」
「あ、はい、分かりました!」
言われた雪姫はもういちど紅茶で喉を潤わせてから立ち上がる。
「わたしは、一年一組の木下雪姫です。こうして出会ったのも何かの縁。皆でたくさんの思い出を作れたら嬉しいです。三年間、よろしくお願いします!」
そのとき、俺の頭の中ではこれからすごく面倒な、でも少しだけ楽しい生活が始まるような予感がしていた。