遠坂凛が謎のバーサーカーに襲撃されてから一時間後。
衛宮邸にて、セイバーとそのマスターである衛宮士郎は、いた。
衛宮士郎は既に就寝しており、セイバーは就寝している己のマスターを穏やかな眼差しで見つめていた。
(シロウは穏やかに、寝息を立てて寝ていますね……)
先日、ランサーと戦い、負傷したこと以外は、比較的穏やかな日々。
セイバーは、士郎と過ごす穏やかな日々をいつの間にか好きになっていた。
シロウと共にいたい。シロウと共に食事をしたい。シロウと共に──。
セイバーは、シロウと共に、この日々を過ごしたい。それが今のセイバーの願いであった。
しかし──聖杯戦争とは、残酷だ。
──そんな好きな日々を、この一夜で崩してしまう魔槍が近づいていることに気付かずに。
カランッ、コロン。
「────ッ!」
士郎が突然、冷や汗を掻きながら飛び起きた。
「どうしましたか? シロウ?」
「侵入者だ……何者かが、この家に侵入した……!」
心配した様子で言うセイバーに、冷や汗を流し、慌てる士郎。
「では──迎撃しに行きましょう」
そう言って、セイバーは霊衣である鎧を身に纏う。
風で隠蔽した聖剣を構え、士郎と共にじわりじわりと庭へ出るセイバー。
──土蔵前に出た瞬間、ランクAの直感スキルがセイバーに働き、突如向かってきた魔槍を弾く。
「チッ……気付きやがったか……」
遠坂凛を襲撃し、アーチャーを殺したサーヴァント──バーサーカーが弾かれた魔槍を構え直し、悪態をつく。
「貴様ッ! 何者だッ!」
「今回は冥土の土産に名乗ってやる。どうせお前たちは此処で死ぬからな」
バーサーカーはセイバーと士郎を挑発するように言う。
「クラスはバーサーカー。
あっさりと真名を明かすバーサーカー──クー・フーリンに驚愕するセイバー。無理もない。真名は聖杯戦争に於いては、生命線の一つに等しいものなのだから。
だが、それ以上に、セイバーと士郎はあることに驚愕していた。
「クラスが──バーサーカーだってッ……!?」
士郎は驚きの声を上げる。
此度の聖杯戦争に於けるバーサーカーは、ギリシャ神話最大の英雄ヘラクレスだった筈だ。なのに、何故。なぜ眼前のクー・フーリンがバーサーカーなんだ?
士郎とセイバーの頭にどんどん疑問が残る。
「さあ、殺し合いを始めようぜ。セイバーとそのマスター」
好戦的な笑みを浮かべ、クー・フーリンが宣言した直後、絵を描くように美しく、しかして狂暴さも併せ持った絶技が、セイバーに襲いかかる。
振るわれた紅き魔槍を用いた絶技に、セイバーは耐えきれず、風で隠蔽した聖剣で受け止めるのが精一杯だった。
「ハッ! どうした、セイバー。最優のサーヴァントがその程度か」
(くっ……! 宝具をなんとか発動出来ればッ……!)
クー・フーリンの嘲るかのような挑発に、悔しさを感じるセイバー。
彼女はなんとか宝具である聖剣を開帳出来ないかと考えたが、答えは否。
そんなことをしてしまえば、側にいる士郎を巻き込みかねない。更に、この住宅地も消し飛んでしまうだろう。
だから──宝具の使用はなし。魔力放出のみで眼前のバーサーカー──クー・フーリンを倒す。
──その決断が、己と己のマスターの命運を絶つとは、全く知らずに。
聖剣で魔槍を受け止めていた最中、一瞬ではあるが、クー・フーリンの隙が見え始めた。
クー・フーリンが大きく槍を振りかぶった刹那──。
(今しか──ないッ!)
セイバーはそれを狙い、魔力を放出し、それを利用しての高速で、クー・フーリンを袈裟懸けに斬り捨てた。
鮮血が舞い、クー・フーリンの身体に袈裟懸けの赤き線ができる。
(死んだか──?)
本来、通常で召喚されたランサーのクー・フーリンは、この一撃で間違いなく、致命傷だろう。
だが、眼前のクー・フーリンは、
クー・フーリンの肉体にあった赤き線がどんどん消えてゆき、何事もなかったように刺突を繰り出す。
(なっ──!?)
「……てめえ、やってくれたじゃねえか」
静かに激昂し、魔槍に魔力を込め始めるクー・フーリン。
「決めたぜ。てめえは、あのアーチャーより、惨い殺し方をしてやる」
──まずい。セイバーの脳内に警鐘が走るも、一足遅かった。
「────『
刹那、セイバーの首に、紅き魔槍が刺さり、クー・フーリンはそれを横に薙いだ。
セイバーの首が、鮮血を撒き散らしながら、宙を舞った。
後に残ったのは、首の無いセイバーの亡骸だった。
「せ、セイバーァァァァァァァァ!!」
士郎が悲痛な叫びを上げる。
そして瞬間、士郎の胸元──心臓がある辺りを、魔槍が穿った。
「勿論、マスターであるてめえも死ね」
この日──衛宮邸は、屍山血河と成り果てた。
(お気に入り数が地味に増えてて驚いている作者)