FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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皆さんに、二つお詫び申し上げます。

まず一つは活動報告にもあった通り一時間遅れてしまいましたこと。

そしてもう一つ、100話までにエドラス編を終わらせるのが理想…って言っておきながらタイトル分けで整理してたら確実にオーバーすることが発覚してしまいました。

合わせてお詫びとさせていただきます…。


それとこれはちょっとした話なんですが、情報収集のためにROM専でTwitter登録してるんですけど、今週原作者の真島先生が配信で描かれたリクエスト絵に「ヤンデレのウェンディ」があったのを見まして…。
セリフが「今…お胸の話したの…誰ですか?」だったんですね。

一瞬で以下の会話を想像しました。
シエル「…ナツとグレイです」←顔から冷や汗を流しながらも若干引き攣った笑顔で二人を指差す
ナツ・グレイ「「ぅおおいっ!?」」←あっさり生贄にされて顔面蒼白

細かいシチュエーションまでは決まってないんですけどまず浮かんだのはこれでしたw


第94話 故郷を守るため

「みんなー!!乗って!!」

 

突如室内の壁を豪快に破って乗り込んできたレギオン。その上に乗っているのは、アースランドから来た魔導士の一人である金髪の少女。それに下からでは死角で見えないが数時間前に王城内を大いに暴れていたペルセウス。

 

そしてそのレギオンを担当している、幕僚長補佐であるはずの少女ココ。唯一エドラス側である彼女が、アースランドの者たちに力を貸し、自分たちの邪魔をしようとしている。

 

「ココ…!」

 

エドラス王国の…ひいては世界全体と言ってもいい望みである永遠の魔力を目前にして、それを食い止めようとしているアースランドの魔導士たちに加担するココに対し、エドラスのシエルは今日何度目になるか分からない怒りを覚えさせられた。

 

彼女は今、自分の行動が何を意味しているのか本当に分かってるのか?何故奴らに協力しようとしているのか?全くもって理解できない上に、腹立たしい。そこまで自分たちの邪魔をしたいのか。

 

「それがお前の答えか…」

 

自分以外はアースランドの魔導士たちのみを全員乗せて、自国の兵士たちを牽制しながら魔水晶(ラクリマ)の元に向かって飛んでいくココを見ながら理解する。その気ならばもう、躊躇いなどしない。とことん邪魔をしようと言うのなら、アースランドの奴ら諸共排する他に無い。国、世界、王にとって害となるものは、徹底的に排除しなければ。

 

「シエル!!」

 

そう考えていると、唐突にこちらに殺意さえ籠った怒りを浮かべながらこちらに大股で、早足で迫ってくる緋色の髪の女性。周りの兵士たちは慌てた様子でこちらに視線を向けるが止められないと分かっているのか動こうとしない。

 

「とうとう尻尾を見せたようだな…!」

 

「…何の話だ?」

 

「とぼけるつもりか!!」

 

怒りを浮かべたまま言ってきた言葉に、理解できないと言いたげに返すも、構わずにエルザはシエルの胸倉に掴みかかってさらに怒気を強める。目前で殺気と怒気をぶつけられながらも、彼の表情に焦りは一片も現れない。

 

「陛下が捕らわれ、その身が危険に晒されていながら、貴様は陛下を見捨てた!それもあっさりと!!これは紛れもなく陛下に対する背信!!貴様の裏切り…もしくはこれを狙った潜入行為に他ならない!!」

 

そしてエルザが主張するのは、国王であるファウストがアースランドの魔導士に囚われ、命まで奪われようとしていたにも関わらず、作戦を優先させたこと。それが国王への事実上の裏切りであると言う事。彼女から見れば、シエルが国王を敢えて排除しようと、アースランドの魔導士に囚われている彼をあっさり見限ったように感じたとしか思えないのだろう。

 

「ご、誤解です!エルザ隊長!!」

「シエル部長は陛下の命で…」

 

「言い訳など聞かん!!」

 

そして周りの兵士が彼女の誤解を解こうと言葉を出すも、全く聞こうとはしない。本人からの話でもないと言うのに、一切を聞き入れようとすらしない。王を危険から解き放とうとせず、見捨て、その命を脅かしたことは事実。そしてそれに一切動揺も見せずに作戦を進めようとしたこと。あまつさえ、アースランドの魔導士たちに王の命を奪ってみろと挑発。エルザからして見れば、明らかな裏切りだ。

 

「ならばお前は、先程と同様の状況になった時、奴らの言うままに竜鎖砲を魔水晶(ラクリマ)にぶつけたというのか?それこそ陛下への背信…」

 

「黙れ!貴様の虚偽に塗れた言い分など、断じて聞く気はない!!奴等に隙を見せ、陛下の身を脅かし、そして売りつけた!この揺るぎない事実は何一つとして変わらん!!」

 

呆れたように尋ねたシエルの言葉も聞く耳を持たず…寧ろ彼女の怒りを助長させている。話を逸らそうと御託ばかりを並べている、と断言している彼女の言葉に、シエル自身は呆れてものも言えないと言いたげに表情を微かに歪めている。

 

「申し開きも必要ない…!陛下の身を脅かし、その命を危機に晒した罪、ここで私が裁いてくれる…!!」

 

胸倉を掴んだ左手をそのままに、右手に握っていた槍を構えてシエルを貫こうと狙いを定める。やりかねないとは思ってはいたが、激情に駆られて引き起こそうとしているエルザの行動に、兵士たちの動揺とざわめきが一層強くなっていく。だが止めようにも自分たちの言葉など今の彼女が聞くとは思えない。シエル本人からなら尚更だ。この場で絶対に彼を亡き者にしようという気迫が伝わってくる。

 

 

 

「そこまでだ」

 

だが、そんなエルザを止められる唯一の存在がこの場にいた。先程まで捕らわれ、その命を奪われようとしていた国王ファウストだ。思わぬ人物からの制止を聞いたエルザは、怒りも抜け落ちたような呆然とした顔で彼の方へと顔を向ける。

 

「エルザ、シエルから手を放せ」

 

「それはできません、陛下。こいつは陛下を見殺しに…いえ、アースランドの者共を利用して陛下を貶めようとしたのですよ!!」

 

ファウストから一言にも聞こえるその命令が下る。だがエルザからすれば、先程までその国王を亡き者にしようとしていたシエルを解放することは、たとえ主からの命でも許容は出来ない。僅かばかり震えた声で主を想って彼女は叫ぶ。しかしエルザのその主張は通らない。

 

「違うな。ワシがシエルに命じたのだ。『エクスタリアに魔水晶(ラクリマ)をぶつけろ。ワシはどうなっても構わん』と。そやつはそれを忠実に実行したまでの事」

 

「陛下は騙されております!!こいつはギルドの…あの妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だったのですよ!?魔科学を使って国内でも、魔戦部隊でも、あらゆる者たちに信頼されるように動いていたのは、きっと奴等の策で…!!」

 

「エルザ!!」

 

シエルが元々ギルドの人間だったことは既に周知されている。軍に入る際、国に逆らう事に意味を感じなくなったためにギルドを抜け、志願しに来たと、自らの口で伝えてきた。それこそが罠であると、シエルは自分たちを陥れようとしているに違いないと必死に伝えるが、他ならぬファウストから怒号を挟まれ、口が閉ざされる。

 

「貴様は……ワシの言葉に逆らうのか…?ワシの命令に…望みや願いに背き…裏切ると言うのか…?」

 

「そ、そのようなことは……決して……!!」

 

確かな怒りを孕んだ鋭い目で、静かに…だが強い語気で問いかけるファウストに、最早エルザが抱えていた怒りは霧散した。そして察した。自分の言葉は、主である国王には絶対に届かない。いくら自分がシエルが危険であることを伝えても、全くそれを信じてくれない。

 

逆に、自分の方が、王や国に反する逆徒として認定されかねない事を。

 

「ならば今すぐそやつから手を放せ。聞けぬと言うのなら…裁かれるのは貴様になるぞ…!」

 

今シエルの手を放してしまえば後々国にどのような脅威を招くか分からない。だがここで離さなければ、自分の首を絞めるだけ。王を守らんが為に動いておきながら、その王より裁かれるなど、想像だにしたくない。

 

数秒ほど葛藤を続けていたエルザだったが、強く歯を食いしばりながら突き放すようにシエルの掴んでいた胸倉から手を離した。

 

「シエル、エルザ、アースランドの奴等を追い、始末せよ。兵士はいくら連れても構わん」

 

「仰せのままに…」

「…かしこまりました…!」

 

たった数人程度なら、最早竜鎖砲に繋がれた魔水晶(ラクリマ)を止めることは不可能。だが奴等は散々こちらの思惑を邪魔し、魔戦部隊の隊長二人とバイロを下された。あまつさえ、ココが向こうについてしまっている。

 

王国に対していくつの罪を重ねてきたのかは計り知れない。ならば罰を受けさせる。それはもう決まっている。殲滅以外にあり得ない。

 

「全魔戦部隊レギオン隊!全軍出撃だ!!」

 

『は、はっ!!』

 

アースランドのエルザ・スカーレット、そして味方であるシエルに対する怒りと憎しみを抱えながら、自らの長い髪を槍で首の辺りから斬り落とし、他の魔戦部隊の隊長が不在の為にすべての隊へエルザが号令をかける。

 

「こちらシエルだ。魔科学研戦闘班に通達する。魔戦部隊レギオン隊と共に出撃の為、準備を急げ」

 

一方のシエルも、小型の通信魔水晶(ラクリマ)…『通信札』を取り出して、研究室にいる研究部の者に連絡をとっている。そんなシエルに、国王ファウストは再び彼に指示を出した。

 

「それとシエル。『ドロマ・アニム』の用意も命じよ。ワシも行く」

 

『ドロマ・アニム』。その言葉を聞いた瞬間、周りの兵士たちに動揺と衝撃が走った。王国に仕える者は誰もが知っている。その命令が何を意味しているのか。王直々にその命を下されたシエルは、一度通信札から耳を離してファウストに尋ね返した。

 

「よろしいのですか?あれは王国憲章第23条により、陛下自らが禁式と定め、固く使用を禁じたものですが…」

 

「用意せよ、と言っている…!!」

 

兵士たちと違い、動揺を微塵も感じさせない淡々とした様子と声で伺ったシエルに対して、ファウストは目を見開きながらその問いに答えを示した。周りの兵士たちはそれに恐れおののき口を閉ざしたが、シエルは一切揺るがない。

 

「失礼しました。ただちに」

 

先の自分の言葉を訂正し、会釈を一つして答えた後、改めて通信札越しの研究員にその命令を飛ばした。

 

「陛下からの勅命が入った。急ぎドロマ・アニムの点検と起動準備を。御自ら出撃なさるとのことだ」

 

その名をシエルから聞いた通話先の研究員が何やら焦りを孕んだ声で尋ね返しているが、再三に渡り「陛下の勅命だぞ」と知らせると、観念したかのように了承を答え、ドロマ・アニムとやらの用意にかかった。

 

「この国の全戦力をもって…アースランドの魔導士どもを…駆逐する…!!」

 

鋭く細めた、メガネの奥に存在する双眸には、自分たちの邪魔をする彼らへの怒りが、確かに宿っていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「じゃあ、完全に失敗しかなかったってこと!?」

 

ココが世話を担当する巨大な生き物レギオン…レギピョンの背に乗って魔水晶(ラクリマ)の元へと急ぎながら、陽動班として割り振られた3人、及びエルザからこれまでの話を聞いたレギオン確保班。その内の一人であるルーシィが驚愕の声をあげる。中でも驚いたのは、エドシエルの言動についてだ。

 

自分たちの主である国王が、今にも首を斬られそうになっているにも関わらず、王からの命と言うだけで、作戦を続行させ、実質的に国王を切り捨てた事。王を守るはずの臣下の言葉とは思えない為に、大きな動揺を露わにしている。

 

「国王も国王だ。国や世界の為に、まさかあれほどの覚悟を持っているとは…」

 

「にしたって、向こうのシエルもとんでもねえ奴だぜ。普通王様盾にされて、あそこまで冷静でいられるか?」

 

エルザとグレイも、エドシエルの先程の言動を思い返して、まだわずかばかり戦慄している。自分たちでは到底考えられない選択を、あの場で即座に出来るなど、予想もつかない。

 

「あんにゃろう…!」

 

魔水晶(ラクリマ)の方に目を向けてはいるものの、話を横から聞いていたナツは先ほどの彼の様子に加えて、最初にウェンディと共に邂逅した時のエドシエルの言葉と、その際にウェンディに深く傷をつけた彼の態度を思い出して苛立ちが再び膨れ上がった。

 

「ぐぁあああああっ!!チクショーー!!」

 

「ナツ、さっきからどうした…?」

 

「理由は特定できないけど、相当頭に来てるのだけは分かる…」

 

苛立ちのままに先程から何度か叫ぶのを繰り返すナツを見て、ペルセウスとシエルの兄弟が首を傾げている。エドシエル絡み…にも考えられるが、まだその時の事を二人とも話していないため、他の誰もその真意を知ることが出来ない。

 

「にしても、王を見捨てる行動が、国や王への忠義の高さから…と言うのも中々…。あらゆることに対して、容赦や情けと言うのが向こうのシエルにはないのか…?」

 

「私もシエルの…こっちのシエルの事は詳しくは知らないけど…何だか、冷たい人って感じだよう…」

 

レギピョンに詳しい位置を指示していたココが、ペルセウスが零したエドシエルに対する感想を拾い、補足のように口にした。冷たい。確かに今までの言動を考えてみると、どこか機械的に、無感情に国の目的を完遂しようとしている。そんな印象を持たされる。

 

「(冷たい…)」

 

だが、アースランドのシエルはその説明を聞いて口元に指を添えながら思考に入る。彼らの話や、竜鎖砲の部屋の中での出来事を考えると確かにそうかもしれない。しかしシエルには気がかりがあった。エドラスにおける自分が、一瞬だけ見せた表情が…。

 

「だからびっくりだったよう。もう一人の…ちっちゃい方のシエルは、こっちのシエルと比べて…凄く暖かいんだなって…」

 

「……」

 

「あの…?」

 

ほんのり頬を染めながら、視線をシエルの方へと向けたココがその言葉を告げる。だが、深く思考に入り込んでいたシエルからは、何の反応も返ってこない。思わず尋ね返したココにシエルは…。

 

「え?あ、ごめん、何か言った?」

 

「…ううん、何でもないよう…」

 

ようやく気付いたという様子でココの方に目を向けたシエルがそう聞くと、何故かココは若干涙目になりながら視線を前方へと戻した。「何か悪い事したっけ…?」と若干混乱するシエルに、兄であるペルセウスは思わず胸中で独り言ちた。「恐ろしい奴だ…」と。

 

 

 

そうこうしている内に、エクスタリアとの距離を、赤い光を伴って詰めていっている浮遊島に、近づいてきていることに一同は気付く。どうやら竜の鎖は、浮遊島自体の速度さえも加速させているようだ。

 

「鎖が繋がったままじゃ、力づくで止めるのは無茶か…なら!」

 

そう呟くと同時に、ペルセウスは換装で黒い直剣を呼び出す。ダーインスレイヴ。あらゆる魔法をも切り裂ける魔剣。それを構え、魔力を込めると、その刀身は魔力を帯びて長くなっていく。

 

「ま、まさか!?」

 

「ココ、レギピョン(こいつ)に鎖を横切るように言ってくれ。俺がぶった斬る!!」

 

「分かったよう!!」

 

ルーシィがペルセウスの行動の意味を察して声をあげる中、その本人はレギピョンの動きを調整するように指示を出す。そしてその指示を聞いたレギピョンが、彼の意志に応えるかのように竜の鎖のすぐ横に向けて飛行する。

 

「『(じん)()一閃』!!!」

 

そしてペルセウスが持つ黒剣が、見事竜の骨を模した鎖を、途中から断ち切った。魔導士たちが歓声を上げ、断たれた竜鎖はまるで竜の悲鳴のような雄叫びをあげると共に消滅していく。繋がるものが失われたことでその効力も切れたのだろう。

 

「これで止めやすくなったはずだ!!」

 

「よっしゃあ!ゼッテー止めてやる!!」

 

「ぶつける訳にはいかないんだ!!」

 

ほんの少しだけ迫りくるスピードが落ちたように見える浮遊島。だが止まったわけではない。ここからが本番だ。魔水晶(ラクリマ)とエクスタリアがある浮遊島の間にまで到達したレギピョンは、飛行スピードを維持したまま、その巨体を頭から激突させる。

 

「頑張ってレギピョン!!」

 

ココの声に応えて雄叫びをあげながら翼を羽ばたかせて押し返そうとするレギピョン。だが、二つの浮遊島の距離が縮まるスピードは、それほど落ちているように見えない。

 

「ダメだ!鎖も斬ったっつーのに!」

「全然止まる気配がねえ…!」

「私たちも、魔力を解放するんだ!!」

「お願い!止まってぇ!!」

 

勢いが収まったとは思えないほどの質量。それに押し勝つため、レギピョンの勢いに自分たちの魔力を上乗せし、彼の力に変えていく。

 

「止まれぇーーーーっ!!」

 

ナツはレギピョンの背中から駆け出し、頸、そして頭の上へと移動すると、自らの頭と両手を魔水晶(ラクリマ)の浮遊島にぶつけて、更に押し込む力に変える。だがまだ止まらない。向こうの勢いの方が強い。

 

「ナツーーー!!」

 

すると、浮遊島の上の方から聞き覚えのある声が響く。そこに目を向けてみると白い翼を一対生やした青ネコ、ハッピーが空を飛びながらこちらに近づいてきた。ガジルをこの島に運んでいた彼がこちらに合流してきたらしい。

 

「お、オイラ…あのさ…」

 

すぐにナツの元に駆けつけたかったハッピーだが、知らない間に彼を裏切ったように思われていたとしたら…と言う不安が、彼の翼を止めてしまう。何て声をかければいいか分からなかったハッピーに…。

 

「手伝えよ、相棒!!」

 

力みながらも不敵に笑いながら、ナツはただ一言そう言った。侘びや謝罪など不要。彼が生まれた時から一緒にいた、唯一無二の相棒が、自分を裏切るわけがないことなど、ナツは一切疑わない。だから余計な言葉はいらない。()()()()()()()の為に、ただ手伝え。ナツにとっても、ハッピーにとっても、言葉はそれで十分だった。

 

「っ…あいさー!!」

 

相棒の頼みを聞き、ハッピーは笑顔を浮かべて彼の元へと近づいて浮遊島を押し始めた。さらに魔力が上乗せされる。だがそれでもまだ、押し返すには足りない。

 

「ダメだ、ぶつかるぞ!!」

 

「くっ…!!」

 

最早背後にはエクスタリアの土台と言える壁が迫ってきている。このまま押し込まれれば、確実に自分たちも潰されてしまう。

 

「負けるかぁーーーっ!!」

 

だが、先んじて島を押し込もうと腕を伸ばしていたナツが後ろに迫ってきていたエクスタリアの土台に足をかけると、そこから少しでも離そうと押し込み始める。

 

「みんな!ナツに続こう!!俺たちも押し込むんだ!!」

 

咄嗟に指示を飛ばしたシエルの声を聞いて、全員が迷うことなく駆け出してナツと同じように押し始めた。スペースのある場所でレギピョンもその巨体で押し続けている。

 

押し込み始めた魔導士たち。するとペルセウスとエルザの近くに、上から降りてきた様子の見知った顔が一緒になって押しているのに気づいた。よく見ると結構ボロボロだ。特に顔部分が。

 

「ガジル!お前ずっとここにいたのに何やってたんだ!?」

 

「何故私たちのように魔水晶(ラクリマ)からみんなを元に戻さんのだ!?」

 

「黒ネコが邪魔すんだよ!!」

 

ハッピーに連れられてこの浮遊島まで来たはいいものの、どうやらその魔水晶(ラクリマ)の警備を任された第一魔戦部隊隊長の黒豹のような大男…パンサーリリーによって阻まれていたらしい。ちなみに他のものと比べてガタイはでかいのだが、彼も歴としたエクシードのようだ。

 

「どちらにしろ、今からじゃ時間がかかりすぎる!!」

 

「ここで止めるしかない!てか絶対止めてやるんだから!!」

 

「ここまで来たんだ!何が何でも止めてみせる!諦めるもんか!!」

 

今更ガジルが魔水晶(ラクリマ)からみんなを元に戻そうとしても、元に戻った直後で状況が理解できない仲間たちを巻き込んでしまう。元に戻すこと自体も時間がかかることを考えると、やはりここで止める以外に方法はない。

 

「ココ!?何故おまえが…!!」

 

「リリー!!」

 

魔水晶(ラクリマ)が存在する上部から、こちらを覗き込むように現れ、ココに声をかける存在。ガジルと戦った影響か、甲冑と兜は砕けて壊れ、外されたらしいが、黒豹の頭部とガタイのいいそのエクシード・パンサーリリーが、ココの存在に気付いたようだ。

 

「気付いちゃった!私…永遠の魔力なんていらない!永遠の笑顔がいいんだ!!」

 

友であるパンサーリリーが危険に晒され、仲間のために戦うアースランドの魔導士の姿を見て、胸の中に過った一つの願いに気が付いたココ。それに基づいた行動を誇らしく話しながら、その友に向けて眩しい笑顔を向ける。親しい人たちと笑っていけるなら、魔力が溢れていなくてもいい。

 

「何てバカな事を!!早く逃げろ、ココ!この島は何があっても止まらんぞ!!」

 

鎖が断ち切られようとも、加速に伴って起きた慣性は簡単に収まるものじゃない。このままでは自分と同じように二つの浮遊島の激突に巻き込まれ、消滅してしまう。せめて彼女だけでも逃げてほしいと願ってパンサーリリーは叫ぶが、その声に反応したのはココではなかった。

 

「止めてやる!!体が砕けようが!魂だけで止めてやるぁアアアアッ!!!」

 

体全体を燃え上がらせ、魔力を更に解放しながらナツは叫ぶ。その叫びを聞き、パンサーリリーはそれ以上の言葉が出てこない。

 

「ぐっ…腕が折れても、足が折れても、心だけは、折ってたまるもんかぁっ!!!」

 

ナツの叫びに呼応されたのか、シエルも大いに力と気合を込め、己の内側に込み上げる言葉を叫ぶ。そして、少しでも押し返すためにと、己の魔法の力の一部を呼び出した。

 

乗雲(クラウィド)気象転纏(スタイルチェンジ)雲台跳躍(トランポリン)!!」

 

自分の足場のみならず、他の仲間たちの足元にも、弾力がありながら強い反発力を生み出す雲を作り出し、勢いをつけさせようとする。普通の乗雲(クラウィド)で酔ってしまった過去があるナツは、念のため作ってはいない。

 

「いいぞシエル!みんな!こらえろぉ!!」

 

さらに強く押し込めるようになったことを自覚しながら、エルザが檄を飛ばして、それにみんなが応える。その抵抗が功を奏し始めたのか、少しずつ、ほんの少しずつだが勢いが弱まりかけている。だが、その分こちら側も消耗が見え始めていた。

 

「無駄な事を…人間の力で、どうにかできるものでは無いと言うのに…!」

 

圧倒的質量差。どうあっても人の力だけでは覆せないその差を目にしている為に、どうあっても止められないとパンサーリリーは思っている。自らも白い一対の翼を広げて激突を止めようとしている者たちを見下ろす中、エクスタリアの方から、一筋の明るい緑の光が、流れ星のように浮遊島へと向かっていくのを見て、再び目を見張った。

 

そしてその光は、浮遊島に向かう、ある存在の背から生えた翼の光。そしてその存在は浮遊島を止めようとしている者たちの中で、ハッピーのすぐ近くへと体全体で激突してきた。

 

「シャルル!!」

 

彼もよく知る白ネコのシャルル。ウェンディと共にエクスタリアに向かった彼女が、何故か一人で仲間たちの元へと戻ってきた。そして涙も浮かべたその表情には、今この状況を必死に覆そうと言う想いが浮かんでいる。

 

「私は諦めない…!妖精の尻尾(フェアリーテイル)も、エクスタリアも、両方守ってみせるんだから!!」

 

「シャルル…!」

 

別行動をする前は、エクスタリアなどどうなってもいいと叫んでいた彼女が、エクスタリアも守ってみせると言った。あの地で一体何があったのか。シエルが考える間もなく、シャルルの後に続くように、悲鳴のような気合のような叫び声をあげながら、もう一人のエクシードが激突してきた。黒くて、面長な顔立ちはどこか惚けているような印象だが、表情からはシャルルに似た必死さが出ている。

 

「アンタ…!」

 

「ぼきゅも…守りたいんだよ…!きっと…みんなも…!!」

 

エクスタリアにいたエクシードの一人と思われるその黒いネコを横目にしていると、後ろの方から、次々と似たような魔力が近づいてくるのを感じた。唯一背後を確認できるパンサーリリーは、その光景が信じられなかった。

 

 

絢爛豪華なエクスタリアの城が見えるその街から、街並みにも負けない美しい明るい緑の光が、数えきれないほどの数となって、こちらへと近づいていく。暗い夜空を彩る天の川を彷彿とさせるその光の正体は、全てが羽を背中から生やしたネコ。種族の名は、エクシード。

 

「これは…どういう事だ!?」

 

今までになかった、たった一つの前例もなかったとんでもない光景を目にし、パンサーリリーはその場に立ちすくむ。エクスタリアに住まう全てのエクシード達が、涙に濡れながらも覚悟を決めた、決死の想いを抱えた表情で迫りくる脅威の下へと向かう。その先頭を飛ぶエクシードは、真っすぐにその島を見据える藍色のツインテールをした人間の少女を抱えている。

 

人間を見下していた、自分たちが上位と思っていた者たちが、強大な力を持っているからと傲慢となっていた彼らが、そんな威厳を感じさせない必死な表情で飛んでいる。

 

「自分たちの国は、自分たちで守るんだ!!」

「危険を冒して、この国と民を守り続けてきた女王様の為にも!!」

「ウェンディさん!シャルルさん!さっきはごめんなさい!!」

 

「みんな!今はこれを何とかしよう!!」

 

エクスタリアでどのような事が起きたのだろうか。歴史書で知ったエクシードの印象とは全く違う、ハッピーやシャルルとあまり変わらないように思える彼らの力。だが今は、それを一つにまとめ、迫りくる脅威から故郷を守るため、団結して浮遊島へと己の体を激突させる。

 

「みんな…!ウェンディ…!!」

 

エクスタリアから最初に出て来たシャルルが、涙を流しながらその様子に感激しているように見えた。そして、彼女の相棒の少女もまた、シャルル、そしてシエルの比較的近い場所で両手をつき、浮遊島を押し返し始める。

 

「ウェンディ、シャルル!二人ともありがとう!二人がいなかったら…!」

 

「その言葉は!」

 

ほぼ隣に位置するところで押し始めたウェンディたちに向けて、シエルがエクシード達を一つにした彼女たちに感謝をかけようとする。だが、その途中でウェンディがその言葉を遮った。それに対して少し呆けると、ウェンディは彼に笑みを浮かべながら言った。

 

「これを止めてから聞かせて!!」

 

「…そうだね!分かった!!」

 

自分でも単純だと思う。彼女にそう言われただけで、絶対に止めてやると言う想いが俄然強くなった。だがこの変化を悪いものだと思いたくない。更に魔力を振り絞って、先程到着したウェンディとエクシード達の分の雲台跳躍(トランポリン)も作り出し、更に反発力を上げる。

 

そんな様子を見ながら、パンサーリリーは一人思い出していた。かつてのエクスタリアを。

 

彼もエクシード。彼も元々はエクスタリアに住まい、女王を守る兵士の一人だった。だがある日、エクスタリアの外に偶然出て、大怪我をした人間の子供を見つけた。治療と療養の為にエクスタリアに連れ帰ったが、人間を入国させてはならないという国の掟を破ったとして、パンサーリリーは堕天として国を追放された。

 

放っておけば命に関わる怪我をした幼い子供を助けただけで、国外追放。その後、彼はその子供を伴ってしばらく旅に出て、そして王国軍に拾われたのだ。その間に、エクスタリアやエクシードに対して、故郷や同族と言った感情は捨て去った。寧ろ忌むべきものだと考えた。

 

 

 

考えていた、のに…。

 

「『シャゴット』!!」

 

すると、そのエクスタリアとエクシードを束ねていた女王の名を耳にし、パンサーリリーは思わず顔をあげた。見れば、美しい容姿をした翼が左側しか出せなかったエクシードが、その翼を維持できずに落下してくる様子が目に映る。

 

そんな彼女を、パンサーリリーは両手で抱えるように受け止め、助け出した。

 

かつて追放された、人間の元で過ごしていたエクシードが、まさかこの場で追放された国の女王を助けるとは、女王であるシャゴットも、彼女の傍にいる長老たちも、思わず目を見張って驚いた。

 

「女王様…嘘をつくのに疲れたのかい…?」

 

「ごめんなさい…私…」

 

彼の問いに、シャゴットは別の謝罪で答えようとした。かつて人間の子供を助けた彼に、誤りはなかった。だが、種族を守るために定めた掟を破ることは出来ず、追放が決定されたパンサーリリーに、心を痛めることしかできなかった。その事を、彼女はずっと悔いていた。

 

「オレもさ…!」

 

だが、彼女の謝罪は彼の言葉によって阻まれた。心の底では憎んでなどいなかった。憎もうとしたけど、出来なかった。追放されはしたが、そこが、自分の生まれ育った故郷だったから。

 

「どんなに憎もうとも…エクスタリアはオレの国なんだ…!」

 

両目から涙を流し、悔しさに歯を食いしばり、その後悔が己の心を締め付ける。気付くには遅すぎた。あれほどの数のエクシードが束になっても、一度加速したあの浮遊島を止めることは出来ない。唯一止めることが出来た自分は、むしろ故郷を壊すことに加担してしまった。

 

「みんな、すまねえ!オレのせいだ!オレなら止められた!!人間たちを止められたんだ!!」

 

後悔から、声を振り絞ってその謝罪を叫ぶ。エクシードを危険に晒さずに止めることが出来たはずなのに。もう止めることは出来ない。そんな感情が支配している彼の腕に、シャゴットは優しく手を添える。

 

「想いは…きっと届くわ…!」

 

真っすぐに彼を見据え、その心に語る。シャゴットには分かる。一つにしたエクシード達の心…そして仲間と自分たちを救おうと奮闘する異世界の者たちの心が、想いがあれば…。

 

「止まれぇぇええええっ!!」

 

絶対にあきらめようとしないナツの叫びが。

 

「みんな頑張れーー!!」

「押せーー!!」

「オレたちなら出来るぞー!!」

 

故郷を守りたいという気持ちを前面に出すエクシード達が。

 

「負けるかよ!!」

「諦めて…なるものかっ!!」

「必ず止めるっ!!」

「ギィィイイ!!」

「止めるんだから…絶対に!!」

 

家族を失う訳に行かないと奮起する妖精たちが。

 

「私たちも押すのよ!!」

「あいさー!!」

 

エクスタリアを追われながらも、故郷を守るために翼を広げる夫婦のエクシードが。

 

「あいさーーー!!」

 

『あいあいさーーーー!!!』

 

ハッピーの掛け声と共に、その想いが一つとなっていく。その想いが光となって、まるで二つの浮遊島を隔てる壁のようになって張り巡らされる。

 

「お願い!止まってぇぇっ!!!」

 

家族を、友の故郷を助けたいと願う優しい少女の声が、その力をさらに強くしていく。だが、まだ足りない。もう一押しと言うところで、まだ押し返す力には至っていない。

 

「っ…うぅぅうがあっ!!」

 

その一押しになろうと、シエルが額を浮遊島に押し付ける。その一撃によって、彼の額に傷が出来るが、構いはしない。今、シエルの心に芽生えているのは、自分の中にある一つの力。

 

「(あの力…俺が何かしらの窮地に入っているときには、出ていたんだ…!だったら、今出ても、おかしくは無い…!!)」

 

それはエドラスに来てから、魔法が使えなくなっていた時にも出てきた、対象に魔法陣を刻んで爆発させるという謎の力。あれが今この場所でも使えれば、きっと最後の一押しになるはず。

 

しかし、どんだけ念じても、願っても、その力が今まで出ることがなかった。知らぬうちに浮かび上がり、無差別にその対象に襲い掛かる。本来なら、無意味に何かを傷つける力を欲したりはしない。だが…。

 

『他者のために、大切な者の為に振るう力は、決して悪とも言い切れない』

 

『技や魔法に善も悪もないだろ』

 

かつて兄が今の(マスター)から貰い、自分にも託した言葉。そして暗殺と言う道しか歩めないと言っていた女性にかつて自分がかけた言葉を、シエルは思い出していた。

 

そう。力自体に善悪などない。重要になるのは、その力の振るい方と、使用者の心。例え力に得体の知れない凶悪なものが宿っていたとしても、それを扱う己の心が悪に染まらない限りは、自分が正しいと思うこと、大切なものを守るために使う。

 

「(力を恐れちゃダメだ!受け入れろ!受け入れた上で、心で制する!そして心から求めるんだ!ここで、みんなを守るために!!)」

 

心の中で叫びながら、シエルは額を島から離し、再び勢いよく打ち付ける。その行動にウェンディが少しばかり驚いた様子を見せているが、最早それも聞こえない。

 

「俺の中に、眠ってるんだろ!?危ねえ時には、出てきたじゃねえか!!だったら、今ここで出ろ!!今出さなければ、いつ使うって言うんだ!!」

 

ウェンディだけじゃない。シャルルも、彼の兄であるペルセウスも、シエルのその叫びに耳を傾けている。力を持ちながらそれを発揮できなくてどうする。持てる力を、出せる時に出せなくてどうする。

 

「今、この瞬間!しばらく出せなくなっても構わないっ!俺の仲間、家族、()()を守るために!!」

 

浮かび上がる。兄に連れられて訪れた最初の頃、そこから色んな魔法を教えてもらおうと通ったこと、ギルドのメンバーとして魔導士になることを決意したこと、そして様々な出会いと別れをしてきたこと。

 

彼らは家族だ。血は繋がっていなくとも、ギルドの仲間は家族同然。そして同時にギルドが家であり、自分たち兄弟にとって、もう一つの故郷でもある。

 

 

 

そんな故郷を、今、壊されそうになって、今止めれなければそのままみんなが消えてしまう。そんなふざけたことが、あってたまるか!!

 

「俺に力を貸せえっ!!出て来いよぉオオオオッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

その叫びが通じたのか。

 

 

 

シエルが額を打ち付けた部分に、例の黄色に光る魔法陣が、一つだけ浮かび上がった。

 

「シエルッ!!」

 

隣にいる少女の声で、反射的に目を開いたシエル。そして映る。あの時と同じものが。

 

「何だ、あれは…!!」

 

初めて見る魔法陣を目撃して、ペルセウスにも動揺が入る。他の者たちも、何人かはそれが目に映った。だが、それを長く気にする余裕はない。まだ魔水晶(ラクリマ)の浮遊島はこちらを押し潰そうと迫ってくる。

 

だが同時に、シエルが刻んだ魔法陣も光り始めた。今までと同じものならば、この後…。

 

「やっと…言うこと聞きやがった…!」

 

してやったりと言いたげな、少しばかり力が抜けた笑みを浮かべながらシエルが呟くと同時に、その魔法陣を起点として爆発が発生。その爆発は大きな力を生み、もう一押しと言われた浮遊島を、勢いよく押し返した。爆発の余波で数人ほどが飛ばされたりしたが、エクシードは自分の羽で、人間はそんなエクシード達に抱えられて何とか事なきを得た。

 

そして同時に、魔水晶(ラクリマ)に不思議な事が起こった。突如として光を発したと思いきや、浮遊島の天上と地上にまで達するほどの大規模な光の柱が唐突に走り、強力な風圧がそれぞれ上下に発生。浮遊島にしがみついていたエクシード達も次々と飛ばされていく。

 

 

 

目も開けていられないほどの眩い光が収まった時、場にいるすべての者たちの目に映っていたのは、予想だにしない光景だった。

 

先程まで、浮遊島の一つを占領するほどの大きさを誇っていた巨大な魔水晶(ラクリマ)が、消滅していた。浮遊島に残っているのは、魔水晶(ラクリマ)があったと思われる大きなくぼみのみ。そしてその浮遊島も、やがて光の粒子となって消滅していった。

 

魔水晶(ラクリマ)が、消えた…?」

 

「浮遊島も…どうなったの…?」

 

誰もが言葉を発せない中、グレイとルーシィだけが、混乱の最中でその声を発する。しかしその内の一人は、覚えのある気配を感じるとそこへ振り向き、やがてその表情に笑みを浮かべた。

 

「ったく…時間ギリギリにようやくの到着か…」

 

その人物、ペルセウスがその方向へと向きながら言葉を発したため、近くにいたウェンディも同じ方へと顔を向ける。そして、その目を大きく見開いた。

 

 

「遅くなってすまなかった。全てを元に戻すだけの巨大なアニマの残痕を探し、遅くなったことを詫びよう。そしてみんなの力が無ければ間に合わなかった。感謝する」

 

そこにいたのは、一般に見られるレギオンと違い白い体を持っているそれに乗った、全身を覆い隠す風貌と背中に数本の杖を背負った青年、ミストガン。

 

「ミストガン!」

「全てを元に…って!」

「もしかして…!!」

 

そして彼が告げた言葉の中にあったワードを聞いて、アースランドから来た魔導士たちに喜色の表情が浮かび上がる。これが意味することと言えば…。

 

「そうだ。魔水晶(ラクリマ)はもう一度アニマを通り、アースランドで元の姿に戻る。全て終わったのだ」

 

それを聞いて、一同は確信した。魔水晶(ラクリマ)に変えられた魔導士も、街の住人も、街自体も、全てがアースランドに帰り、元の姿に戻った。助けることが出来たのだ。仲間も全員。

 

そしてそれは、エクスタリアも同様。永遠の魔力の為の犠牲は一切出ない。守り切ることが出来たのだ。それを理解した瞬間、エクシード達から一斉に歓声が上がる。歓声を上げているのは彼らだけじゃない。仲間を無事に守れた妖精たちもそうだ。思い思いに喜びの感情を爆発させている。

 

「あ、あの!大変ですー!!」

 

だがそんな中、一人のエクシードが切羽詰まった声で喜ぶ彼らにその声をかけ、意識をそこに向けさせた。何故なら…。

 

「さっきからこの子、物凄く死にそうな状態なんです!助けられませんか!?」

 

『シエルーーー!!!』

 

必死に叫ぶエクシードに抱えられた少年が、額から血を流した状態のまま憔悴しきった表情で手足をぶらんと垂れ下げている状態。もうすぐ死ぬと言っても過言じゃない重症だったために、主に妖精たちから悲鳴混じりに名前が叫ばれた。特にペルセウスの表情が某叫びみたいになってる。

 

「な、何か…目の前が…クラクラして、来た…」

 

「そりゃ頭からそんだけ血ィ流せばそーなるわ!!」

「思いっきり頭打ちすぎでしょ!!」

「けどあんぐらいでそこまで血って出るか?」

「ナツと違ってシエルはデリケートだからね」

 

自分の症状を力ない声で訴え始めたシエルに向けて、グレイとルーシィがツッコミも含んだ心配の声を浴びせ、ナツとハッピーは別の部分を気にしている。

 

「もう!シエルはもっと自分の心配を覚えるべきだよ!!」

 

「ええ…ウェンディがそれ言う…?」

 

「どっちもどっちよ」

 

重症だったために怒った様子でシエルの元へとシャルルに頼んで近づきながら、ウェンディが彼に告げた言葉に思わずシエルも反論してしまう。自分より他人を優先して他人に心配をかけることに関しては呆れ果てているシャルルの言う通り両方同じだ。

 

「とにかく傷を治さないと…動いちゃダメだからね?」

 

治癒魔法を使えるのはウェンディとシエルの二人。そして患者がシエルの為、あまり魔力を使い過ぎるのもよくない。自然とウェンディが彼の額の傷を治す係となる、のだが…。

 

 

 

 

絶対にシエルが動かないようにウェンディが彼の顔を両手で包むように持ち、魔法をかけ始めた。

 

「……~~~ッ!?」

 

まさかの想い人の行動に一気に頭に血が上ったシエル。それが原因で、治療中の額からさらに多くの血が流れ始めた。

 

「きゃあーっ!!やっぱりシエル無茶しすぎだよ!!こんなに血が出ちゃって!!」

 

「(いや…確実にそれが原因じゃねえ…)」

 

その様子を治療中の本人は無茶がたたったと勘違いしたが、患者の兄はすぐさま原因を察した。と言うかこれは、仲間の誰もが原因を察せる。

 

再び意識がくらくらとしかけているシエルを必死にウェンディが呼び戻そうとしているのを見ながら、シャルルは思い返していた。

 

最初の頃こそ、ウェンディに不用意に近づくオスガキとして、シエルの事は気に入らなかった。性格もどこか食えないし、悪人には容赦がない。それなのにウェンディや自分に対しては妙に優しい。だからこそ余計に分からなくなっていた。

 

だが、今回エドラスで彼の行動を見たり、共にしていくうちに、その分からない部分も含めて、シエルと言う個人であることが、何となく分かった気がした。

 

考えてもみればシエルだけじゃない。ナツ、ルーシィ、グレイ、エルザ、ペルセウス。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちは、一概にその者をどう形容していいか分からない人物ばかりだ。一面だけを見ていたと思ったら、全く知らない面が見える。そしてそれは、ずっと一緒にいたウェンディも、自分に好意を寄せているハッピーも。

 

そして分かった。彼は確かにウェンディと近づきたいと思うのは本心であり、打算も込みで自分とも壁の無い間柄になりたいのだろう。だがエドラスに行く前に彼は言っていた。「ウェンディの友達を放っておいても、本当に仲良くなっただなんて言えない」と。彼は最初から、真剣な思いを告げる時には、一切嘘などつかない。

 

生意気だけど優しい、イタズラ好きなのに気も遣える、飄々としてるのに時々分かりやすい、子供の割に大人のようで、でもやっぱり子供。言葉にするとあべこべだ。けどそれが、この少年、シエル・ファルシーと言う一人の人間の特徴なんだろう。

 

「(無茶してウェンディに心配をかけさせたのはいただけないけど…)私たちの故郷を必死に守ろうとしてくれたことには礼を言うわ、()()()…」

 

「…ん?シャルル、今何か言わなかった?」

 

「別に何も言ってないわよ?」

 

頭が蒸発しかけて朦朧していた意識もウェンディによって治癒され、ようやく回復してきていたシエル。そんな彼の耳に、ハッキリとシャルルの言葉は届かなかった。聞き返してもすました顔で彼女は何も答えない。

 

そんな二人の間にいるウェンディは、すまし顔のシャルルと、首を傾げるシエルを視界に入れながら、嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。そして彼女の視線は、自分たちにとっての家族と、友にとっての故郷を救ってくれた、昔からの恩人へと向いた。

 

「リリー。君に助けられた命だ…。君の故郷を守れてよかった」

 

顔を隠していたターバンとマスクを外しながら穏やかに笑みを浮かべるミストガン。あの時パンサーリリーが助けた人間の子供。それが彼、ミストガンだった。かつて自分が助けた少年によって、故郷が助けられた。パンサーリリーにとって、これ以上にない程の嬉しい出来事だろう。

 

「ええ、ありがとうございます…。()()

 

嬉しさから涙を流しながら告げたパンサーリリーの言葉を拾った耳のいいウェンディは、恩人のまさかの肩書に思わず驚愕が勝って、気付けば口に出した。

 

「王子…?ジェラールが王子様!?」

 

「え!?王子って…この国の!?」

 

ウェンディの驚愕の声を聞いたシエルもまた、同じように驚いた。どうりでアニマの事に詳しかったり、エクスボールと言う丸薬を持っていたり、エドラスの国事情にも詳しいわけだ。予想は出来なかったが、いざ知ってしまうと色々と辻褄が合う。そして彼自身の目的は、自分の国…ひいては父である国王の凶行を止めるため、と言ったところか。

 

この事も、兄は知っていたのだろうか…?互いに笑みを向け合うミストガンとパンサーリリーの様子を、どこか満足気に眺めている様子の兄に視線を向けながら、シエルはそう考えてみる。

 

 

 

 

 

 

だがその思考も、長くは続かなかった。王都がある方向からレーザー砲が放たれ、パンサーリリーの背中を貫通するのを目撃するまでは。

 

エクシードも、妖精の尻尾(フェアリーテイル)も、誰もがその光景を疑った。

 

「なっ…!?」

 

「黒ネコ!!」

 

「リリーー!!」

 

涙に濡れながら地へと堕ちていく黒豹。そして、その黒豹を打ち抜いた元凶は、王都から何体ものレギオンを伴ってこちらへ迫ってきていた。それを従えるのは、槍の形状を大型銃のように変えて構え、首元まで緋色の髪を短く斬った、鬼気迫る顔を浮かべた妖精狩り。

 

「まだだ!!まだ終わらんぞ!!!」

 

異世界エドラスでの戦いは、本当の意味で最終章を迎える…。




おまけ風次回予告

シエル「ようやくギルドのみんなを助けられたと思ってたのに…!」

ウェンディ「エドラスのエルザさんにシエル…それに王様まで、あんな兵器もあるなんて…!」

シエル「しかもあの兵器、魔法が効かないんじゃ、対処のしようもない…ドラゴンっぽく見えるけど、どうしたら…!?」

ウェンディ「ドラゴン……だったら、私たちがやらないと!!」

シエル「大丈夫なの、ウェンディ…!?」

次回『ドロマ・アニム』

ウェンディ「うん!ナツさんとガジルさんもいるし、二人をしっかりサポートできれば…!」

シエル「敵そっちのけてケンカ始めたら、ウェンディ止められる…?」

ウェンディ「だ、大丈夫だよ!…きっと…多分…(汗)」

シエル「別の意味で心配だ…」
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