ちなみに今回は、昨今の回には珍しくちょっと短めです。キリのいいところはこの辺りだった…。
体を貫かれ、その力を失い、滞空することも出来ずに地へと堕ちていく。
屈強な黒ネコ・パンサーリリーが涙に濡れながら落ちていく光景を、誰もが驚愕の表情を浮かべながら目にしていた。
「リリーー!!」
かつて自分を救ってくれた恩人である彼の名を叫ぶミストガン。そして、彼を撃った張本人は、王都から飛び立った10を軽く超す巨大な生物群、レギオンの内の一体に乗り、こちらに巨大な砲台のように変形した槍を向けている、短く切り揃えた緋色の髪を持った女戦士。
「あいつ…向こうのエルザだ!」
「あのヤロー…よくも!!」
パンサーリリーを裏切者として撃ち抜いたエドラスのエルザ…ナイトウォーカーの仕業であることにナツも気付き、実はパンサーリリーを自分の相棒にしようと考えて居たガジルも、その相棒候補を手にかけられたことで怒りを募らせる。
「誰か…リリーを助けて!!」
「任せてください!!」
落下していったパンサーリリーを救助するため、シャゴットの声を聞いた一人のエクシードが翼を広げて彼の元へと向かっていく。その光景を見てシャルルに抱えられたウェンディも動こうとする。
「シエル!私たちも!」
「行きたいところだけど…あいつらが見逃すかどうか…!」
即死してはいないはず。ならば傷を治せる二人が向かって治療すると考えたのだろう。だが、王都から次々と現れてくるレギオンの群れを目にしているシエルは、その物量を潜り抜けるリスクの高さを感じた。
「スカーレットォォ!!」
「ナイトウォーカー…!」
そしてそのレギオンたちが操る兵たちを率いるエドエルザの激昂が響き、矛先となっているエルザが呟くように零す。またしても激突は必至。彼女を迎え撃たざるを得ないと考えていた瞬間、ミストガンが彼女を止めるかのように腕をかざす。
「エドラス王国王子であるこの私に、刃を向けるつもりか、エルザ・ナイトウォーカー!」
ミストガンから明かされた彼自身の素性、そして警告にも似た言葉に、王国に忠誠を誓うエドエルザは歯嚙みしながら彼と、その隣でエクシードに抱えられているエルザを睨みつける。王子と言う立場を盾にされては、彼女も無視できないようだ。
余談だが、今のミストガンの発言でエルザはようやく彼が王子であることに気付いて衝撃を受けた。もう一つ言えば、彼女を抱えているエクシードが、彼女が身につけている鎧の重さが原因で、実は色々と限界に近い状態である。
《フハハハハ…!王子だと?笑わせるでないわ!!ワシは貴様を息子などとは思っておらん!!》
すると突如、どこからともなく一人の老人の声が、辺り全体に響き渡る。国王ファウストの声。機械を通しているようで、肉眼ではその姿がどこにあるか確認がとれない。
《7年も行方を眩ませておいて、よくおめおめと戻ってこれたものだ…!貴様がアースランドでアニマを塞いで回っていたのは知っておるぞ!売国奴め!お前は自分の国を売ったのだ!!》
「どっから喋ってやがる…!?」
「オイ!姿を現せ!!」
「そうだそうだ!」
声の主が国王であることに気付いて敵軍の中から姿を探すも見つからない。据わった目を細めながらペルセウスが敵側の様子を見て呟き、ナツの叫びとハッピーの同調が加わる。
「あなたのアニマ計画は失敗したんだ。もう戦う意味などないだろう?」
アースランドから吸収して
争う理由など無いはず。
しかしそれを、王国側は許容しない。
《意味?戦う意味だと?》
声と共に真っ先に異常を発したのは、地上に存在する、闘技場跡と思わしき石壁に囲まれた空間。その中心から魔力の光が発せられ、大気を震わせる。
《これは戦いなどではない。王に仇なす者への報復!一方的な殲滅!》
その光から現れたのは、封印と思わしき鎖が何本も繋がれた、繭のような形の巨大物体。四肢がある何かの生き物が、丸く収納されている形にも見えるそれを、誰もが口を開けて眺めている。
《ワシの前に立ちはだかるつもりなら、例え貴様であろうと消してくれる…!跡形も無くなァ…!!》
そしてその巨大な物体は国王の声に呼応するように地上から浮かび上がり、その力で繋がれていた鎖を自ら引きちぎる。封印が解かれたことを示すかのように。
「父上…!」
《父ではない!ワシはエドラスの王である!!》
一縷の望みを抱えて自らの父に呼びかけるも、一切応えるつもりのないファウスト。その間にも丸まっていた巨大な物体は、その姿を解いて確かな形のあるものへと轟音を立てながら変化を始める。
《そうだ…貴様を始末すれば、アースランドでアニマを塞げる者はいなくなる。また巨大な
「あ、あれは…!!」
徐々に変わりゆくその巨大な物体の様相を見て、シャゴットが声を出した。彼女には心当たりがあった。彼女だけではない。エクシードの中でも古株である長老たちには、全員その兵器には見覚えがあったのだ。
鋼鉄で作られた巨大な体。黒鉄と白銀を重ね合わせたような、強靭な四肢と長い尻尾、重厚な身体、そして怪しく輝く赤い機械の目を輝かせ、口から咆哮にも似た魔力による大気の揺れを発する。その形はまるで…ドラゴン。
《フハハハハハハッ!!王の力に不可能は無い!!王の力は絶対なのだ!!》
見当たりもしなかった王の姿。だが、巨大な機械のドラゴンから聞こえてきたのは、間違いなくその国王の声。あの中に、国王自らが乗り込んでいることが、ようやく明らかになった。
「おぉ…あの姿…あの魔力…!」
「間違いない…!」
「な、何という事じゃ…!」
「あれは…あれは…!」
「ドロマ・アニム…!!」
そして心当たりがあった長老たちが、あの巨大な兵器に対して確信を持った。『ドロマ・アニム』。シャゴットより告げられたその兵器の名を耳にし、ミストガンもまた驚愕を受けている。
「ドロマ・アニム…こっちの言葉で『竜騎士』の意味…!ドラゴンの強化装甲だと!?」
「ドラゴンの…強化装甲とは何だ!?」
見目通り、ドラゴンに何かしら繋がりがあるとは思っていた。竜騎士の名を関する強化装甲。疑問を浮かべて口に出たペルセウスの問いかけに、王国軍の兵器に詳しいココがその答えを告げる。
「
竜鎖砲の部屋の門にも施された、あらゆる魔法を無効にしてしまう
更に、ドロマ・アニムの前方に、先程それを出した時と同様に、だが小さい魔力の光が数十を超える数で発せられる。何かと思い目を凝らしてみると、ドロマ・アニムと似たような素材と思われる小型の飛竜型の機械だ。そしてその上に一体一人ずつ上に乗っている、王国軍の紋章が刻まれたフード付きローブを纏った集団が出現する。
そして、その一番前方の飛竜に乗っているのは、水色がかった銀色の短い髪と、切れ長の目を持った、眼鏡と白衣を身につけた青年。
「エドシエル…!!」
「それに…あいつらは…!?」
「魔科学研の戦闘班…!シエルが作った魔科学兵器を使いこなせる、選抜部隊だよう!!」
前日に会った魔科学研の部長の姿を目にしたウェンディが、目を見開いて少しばかり怒りを込めて名を口にし、隣のシエルはその後方に同時に現れた集団に目を向ける。そして再びココから明かされたのは、一般の兵士達よりもさらに優れた、魔科学の力を大いに行使するエドシエル直々に率いる部隊について。部長のエドシエル以外は顔すら見えないが、兵としての練度は恐らく脅威は上と思われる。
「ドロマ・アニムの起動完了を確認。これよりエクシードの
冷酷かつ無感情な顔と声で淡々と伝え、自らが乗っている小型の飛竜型の機械を起動する。それに続くように、後方の戦闘班の者たちも各々の飛竜たちを起動させていき、翼をはためかせて飛行を始める。
《我が兵たちよ!エクシードを捕らえよ!!》
「仰せのままに!出撃だ!!」
『はっ!!』
砲身が備わっている竜の口を開きながら、国王からの命が下される。それに応え、長杖を前方に指し示しながらエドシエルが自分たちの部隊に指示を出すと、エクシード、及びアースランドの魔導士たちの元へと飛行で接近を始める。
「まずい!逃げるんだ!!」
魔戦部隊に加え、国王操るドロマ・アニム、そして魔科学研の戦力も加わって、こちら側を殲滅しようと襲い掛かる王国軍。脅威を感じ取ったミストガンがいち早くそれを避難指示として声に出し、エクシード達は恐怖を前面に出しながら各々散開して逃走を開始。しかし、それを見ておめおめと逃がすような敵ではない。
「魔科学研に後れを取るわけにいかない!逃がすなーっ!!」
散開したエクシード達に向けて、レギオンに乗っている兵士たちが大砲型の機械を肩に担いで、エクシード目掛けて青い光線を発射し始める。その光線にエクシード達が直撃すると、当てられてしまったエクシード達が次々と、小さいネコの頭を模した
堕天としてハッピーたちを追いかけてきた近衛師団がやられた、
仲間を
「みんな、逃げて…!生き延びるのよ!!」
片翼で満足に飛ぶことが出来ないシャゴットが、長老のエクシードに支えられながら、逃げていくエクシードの身を案じて呼びかける。どうか自分の身を大事にしてほしい。一人でも多く生き延びてほしいと願いながら。
「逃がしはしない…一匹残らず世界の糧にする…。追うぞ!!」
シャゴットの願いを、そして彼らの恐怖を踏みにじるように、容赦なく逃げ惑うエクシード達を追いかけるようにエドシエルが指示を飛ばす。それに応え、声をあげながら、エドシエル率いる魔科学研戦闘班、エドエルザ率いる魔戦部隊レギオン隊が、容赦なく天使たちの蹂躙を続ける。
「っ……!!」
ココが操るレギピョンに合流するアースランドの魔導士たち。その中で、魔科学研を率いるエドシエルに対して憤りを感じるウェンディが、普段の優しい様子からは想像できない怒りのこもった表情で、エクシードを追いかけていった彼の後ろ姿を睨みつけている。
「王国軍からエクシード達を守るんだ!」
「エドラスの俺と、エルザたちを追撃して、意識をこっちに向けさせよう!」
「あのデカブツはどうする?」
「相手にするだけ無駄だよう!魔法が効かないんだから!!」
「だが、確実に邪魔はしてくるだろ?あんなモンまで持ち出してくるぐれえだ!!」
その様子を一部が気付きながらも、今優先するべきこと…エクシード達を王国軍から守ることを提示し、エルザとシエルの二人を中心に方針が決められる。だがペルセウスの懸念の通り、地上にいるドロマ・アニムに搭乗する国王が何もしないなど考えられない。かといって、魔法が効かないとなれば、足止めすら出来るかどうか。
「躱しながら行くしかない!今のエクシードは無防備だ!オレたちが守らないと!!」
下手に足止めをしようとすれば逆にこちらが危険。ミストガンは強行突破することに懸けた。エクシード達を追っていった部隊の後を、向かい始めたミストガンたちに国王が反応を示す。
《躱しながら?守る?フフフフ…!人間は一人として逃がさん!!全員この場で塵にしてくれる!!》
禁式とまで指定された兵器を前にして余裕さえ思わせる言葉を聞いた国王から、失笑と共に怒号が続き、機械の竜から、口内の砲身にエネルギーが集約されていく。そして逃げていく二体のレギオンに向けて、そのエネルギー砲が発射された。高速で迫るそれを目にし、全員が逃げられないと判断。白光を纏ったそれの眩しさに目を覆う。
そんなエネルギー砲を、場にいる全員の前に立って魔法陣を展開し、白いレギオンに乗った青年が食い止めた。
「ミストガン、お前…!?」
《ミストガン…?それがアースランドでの貴様の名か、ジェラール!?》
思わずペルセウスが彼に呼んだ名前を聞いた国王が、エネルギー砲を持続させながら問う。いや、問うと言うより皮肉を込めたのだろう。自国を裏切って、他の世界のために動くために、自らを偽った名前を語る息子に向けた…。
「ペル!今のうちに行け!!」
「……分かった、行くぞ!!」
「ペル!?しかし!!」
「それが
ドロマ・アニムの攻撃を、苦悶の表情を浮かべながら食い止め、先を急ぐことを優先させるミストガン。それを見捨てられないとエルザが声を張るが、ペルセウスは彼の覚悟を優先する。エクシード達の身の安全を考えて。
勿論ミストガンも、簡単にやられるつもりはない。展開した魔法陣は、彼が常に背負っているいくつもの杖によるもの。それらを操作して、食い止めている魔法陣に更に別の魔法を重ねていく。
「『三重魔法陣・鏡水』!!」
三つ重ねられた魔法陣がその性質を変化させ、ドロマ・アニムのエネルギー砲を反射させる。そしてその先は攻撃を行ったドロマ・アニム自身。跳ね返したのだ。強力なエネルギーを帯びた一撃を放つ兵器の攻撃は、放った自分自身に返り、着弾。大爆発を巻き起こす。
「やったか!?」
「スゴイ!これがミストガン!!」
「兄さんと並ぶ、S級の実力…!!」
跳ね返されたことに想定外の声をあげていた様子だったことで、それに対する迎撃は出来なかっただろう。押されていたと思っていたが、しっかりと反撃を実行する確かな実力に、彼をS級であると知っている
しかし、爆発で起きた煙が晴れた先には、こちらが予想していなかったものが映っていた。
《クッフッフッフ…!チクチクするわ…!!》
大破するどころか、傷一つすらついていないドロマ・アニムの姿。威力自体は確かなものだったが、魔法を一切通さない
「ぐあああっ!!」
「「ミストガン!!」」
その攻撃を喰らったらしいミストガンが、白いレギオンから身を投げ出され、落下していく。ペルセウスとエルザの二人が彼の名を呼びかけるも、それに応える余裕もなく、彼は眼下の森の中へと落ちていった。
《ファーハッハッハ!!貴様には地を這う姿が似合っておるぞ!そのまま地上での野垂れ死ぬがよいわ!!》
機械越しの国王の嘲笑が響く中、耳を澄ましてみると兵士たちが放つ攻撃の音、それによって
《おお…!美しいぞ…!!エクシードを一人残さず、
「好き勝手に言いやがって…!!竜巻注意報…!!トルネー…うわっ!!?」
せめて兵士たちが足として使っているレギオンや小型竜を妨げようとシエルが魔法を狙うも、地上からのドロマ・アニムの攻撃が襲い掛かって、レギピョンがそれを回避。その影響で自分たちの足場も大きく揺れる。
乗り物酔いになりやすいナツが、レギピョンも仲間のようだと言う認識で酔わずにいるが、ここまで揺らされると、自分たちの方が酔いそうだ。
「くそ!あれを躱しながら戦うのは無理だ!!」
「人数分の
「それだとお前の負担が大きすぎるぞ!!」
「けど、他に方法が…!」
的の大きいレギピョンに乗りながら攻撃を行うには、ドロマ・アニムの攻撃が苛烈な限り難しい。ならば今いる人数、的を小さくして各々の雲の操作にシエルが集中するという案を本人が出すも、戦況把握、魔力操作、更に安全面を考慮するとシエル一人の負担が大きいと判断したペルセウスが反論する。それ以外で何かいい案があるか…考えを巡らせるも、再び地上からの攻撃が襲い掛かってくる。
「レギピョン、頑張って!!」
《逃がさんぞぉ!!》
すぐさまココが回避するように声をかけるが、すぐさま照準を変えて狙い撃ちをしてくる。このままでは直撃…と思われたその時だった。
突如ドロマ・アニムの首を折り曲げようとするほどの攻撃が上から降りかかり、その攻撃を中断させた。
《何ィ!?》
予想だにしなかった衝撃に、国王の顔が驚愕に歪む。だがこれだけじゃない。今度は胸部に大きく体を仰け反らせるほどの強い攻撃が加えられる。どちらも先程ミストガンに跳ね返された攻撃とは比にならない衝撃。
《誰だ!?魔法が効かんハズのドロマ・アニムに攻撃を加えている者は…!!?》
攻撃を加えている存在が、確かにいることは分かる。だがどこにも見当たらない。否、見つけられない。巨大な強化装甲に身を包んでいるが故に、この巨体を大きく動かすような存在がただの人間なわけがないと思っている為に。故に気付かない。更なる攻撃を加えようとしている小さな影が、空から飛来していることに。
「天竜の…咆哮!!」
その小さな身体から出ているとは思えない、巨体を飲み込むほどの純白の突風。その風は巨体をいとも簡単に動かして、10メートル以上は地を滑らせる。そしてようやく目に映った。自分のような装甲など纏っていない、生身で己の前に立ちはだかった三人の魔導士の姿が。
《き、貴様等はぁ…!!》
一人目は、桜色の短い髪と白い鱗柄のマフラーが特徴的な、不敵な笑みを浮かべた青年。
二人目は、逆立っている長い髪と肉食獣のような赤い眼を持った、不機嫌そうに顔を歪めた青年。
そして今攻撃を加えた最後の一人、藍色の髪を赤い髪留めでツインテールにした、警戒を止めずに機械の竜を見据える幼い少女。
「やるじゃねーか、ウェンディ」
「いいえ…二人の攻撃の方が、ダメージとしては有効です」
「ヤロウ…よくもオレのネコを…!」
《そうか…貴様等か…!!》
その3人が何者なのかは、誰もが知っている。魔法を通さぬ体に唯一有効打を与えられたその存在を。何の因果だろう。竜の形を模した特殊な装甲を打ち砕く可能性を秘めているのは、この世界においても特殊な魔力を有した、彼らのみと言うのは。
「ナツ!!」
「ウェンディ!!」
「ガジル…!!」
ナツとウェンディのそれぞれの相棒、そしてガジルと共にこの世界に来た青年が、その身を案じて彼らの名を呼ぶ。他の仲間も同様だ。しかし彼らに恐れは見えない。そしてエクシード達を諦めたわけでもない。
「行け、ネコたちを守るんだ」
「そっちは3人で大丈夫なの!?」
静かに、仲間たちに守るべき者たちを託し、迫りくる一番の障害に立ち向かう。ルーシィが心配そうに声を張り上げ、シエルも彼らの姿を心配そうな眼差しで見下ろしている。だが、下に降り立っている3人。その中でも、唯一小柄な少女の表情を遠くから見て、シエル自身も、迷いを振り払うように本来向かうべき方へと顔を向ける。
「大丈夫だ!信じよう!3人なら絶対に負けない!!」
仲間として、家族として、信じられずにどうしろと言うのだ。それにドロマ・アニムを倒せるとすれば、彼らを於いて他にいない。何故なら相手はドラゴン。そして対峙する彼らは、そのドラゴンに唯一対抗できる力を持った魔導士。
「ドラゴン狩りの魔導士…“
────────────────────────────────────────
ドロマ・アニムをナツたち
「大変だ…!!」
「ここまで悲鳴が…!!」
エクシード達もまだ多く残ってくれているが、未だ王国軍によるエクシードの蹂躙は終わらない。道すがらで何度も結晶化されてしまった彼らを目撃した。早く止めなければ。
「しかし何て数だ…」
「関係ねえよ。片っ端から兵士共を叩くだけだ」
「ああ、私たちがやらねば、エクシードがやられる!」
思った以上の兵士の数にグレイが少々辟易しているが、ペルセウスとエルザは臨戦態勢だ。ハッピーとシャルルも、同族と故郷のために、出来ることをしようと覚悟を決めている。そしてシエルも、いつでも自分の魔法で兵士たちをレギオンから振り落とす準備を整えている。激突の時が近づいていることは、容易に想像していた。
「『八方包囲網』、展開しろ」
だが、彼らには次の瞬間で発生した現象に理解が追い付かなかった。突如として魔力で作られた網目状の壁が、空中に飛行する自分たちを大きく囲み、その動きを完全に止められてしまった。
「何!?何なのこれ!?」
「網か!?」
「まさか…誘いこまれた!?」
全員が目の前の状況を理解できずに混乱している中、シエルだけは気付いた。網目状の壁を展開しているのが、上下左右前後、8枚の壁を作り出している6点の位置を飛行する魔科学研の者たちが潜んでいたことに。それぞれ手に持つ機械を使って自分たちの包囲網を作り上げた。
罠だった。エクシード達を襲う兵たちの後方を常に位置どって、こちらが追いかけてくるのを、待ち伏せしていたのだ。
「策とも言えない稚拙な戦法だが…わざわざエクシードを守ろうとしている甘い連中には、十分効果的だろ」
網目の先でこちらを見下ろす…否、見下すような冷たい眼差しを向けながら、その罠をはった元凶である魔科学研部長の声が彼らに届く。こちらの心理を読んで行った罠に、あっさりとかかってしまった自分たちに、どこか呆れているかのようにも見える。
「待っていたぞ、スカーレット。仮にもエルザであるお前には、あんな男の狙いにいとも簡単にかかるような、無様な姿を晒してほしくなかったがな」
「くっ…!!」
同じように壁の外からこちらを見下してくる妖精狩り。嘲笑をまじえた、どこか落胆のようにも聞こえる言葉を耳にし、事実、自分の不甲斐なさに反論する気も起きないほどの後悔を見せる。さらに見ると、網目になっている壁の外側には、伏兵として待機していたそれぞれの兵士たちが武器を構えてこちらを狙っているのが見える。
「か、囲まれちゃってるよう!」
「逃げ場もねえ…やべぇぞ!!」
「ど、どうすればいいの!!?」
文字通りの八方塞がり。突破できる隙も自由も与えられないまま、王国軍はこちらを蹂躙しようと魔力を装填し始める。
「どのみちこの場でお前たちは終わる。アースランドの魔導士どもは勿論…お前もだ、ココ!!」
焦りを募らせて慌てだす魔導士たちに向けて、淡々と冷たくこちらの未来を宣告するエドシエル。だが、最後にココにまで向けて言い放たれたそれは、それまでの機械的な彼から想像できない怒気を纏った声となって、彼女の身体を震わせた。
「お前さえ、バカな真似をしでかしたりしなければ…今頃この世界は永遠の魔力によって満ち溢れた、豊かな世界になっていた…!それを、お前の勝手な行動が全てを無駄にさせたんだ…!万が一にも、陛下がお許しになったとしても、俺が絶対に許しはしない…!!」
これまで無感情に、機械のように国に従い、その責務を果たしてきた魔科学研部長が、ココ一個人に向けて異常とも言うべき憎悪を向けている。向けられていない周りの兵士たちでさえ恐怖と困惑を現わしてしまうほどの剣幕を、一身に受けている側であるココは、彼の名を震えた声で呟きながら、涙を浮かべてその恐怖に打ち震えている。
そんな彼女を庇うようにシエルが前に立ちながら、エドラスにおける自分の憎悪に歪んだ表情を真っすぐ目にし、何かを思考しているが、その胸中は誰にも察することが出来ない。
「国家反逆の罪人として、アースランドの魔導士諸共消え失せろ…!一斉掃射、放て!!」
怒りを込めたエドシエルの号令に一瞬戸惑いながらも、八方に展開している兵士たちの容赦のない攻撃が放たれる。逃げ場のない弾幕に誰もが絶望と言う言葉を浮かべ始めたその時、もう一人の自分に視線を向けていた少年が声を張った。
「グレイは“
「やるしかねえか!!」
「分かった!!」
「任せておけ!!」
吹雪の魔力を手に込めながら、防御の魔法を扱えるグレイ、エルザ、ペルセウスにシエルが指示を飛ばす。すぐさまその意図を察した三人も、彼に続くように魔力を込め始める。
そしてそれぞれが氷の盾、頑強な鎧と盾、鏡の光沢を持った盾を携えて、それぞれ二面から迫りくる攻撃を防ぎだす。そして残りの二面も、吹雪の魔力をかまくらで造った要塞を広く展開して攻撃を防ぐ。守りの魔法を扱う4人による八方に対する守護。未だに止むことがない弾幕に苦悶の表情を浮かべてはいるが、レギピョン含めて、その攻撃の餌食には誰も遭っていない。
「防ぎきれてる…!?」
「すごいや!!」
「でも、ここから出れなきゃ限界が来るわよ!?」
守りの中で身を屈めているルーシィたちは、その防御力の高さに歓声を上げている。だがシャルルが言う通り、肝心の網目状の壁をどうにかしなければジリ貧だ。
「…エルザ、守りの穴は分かるな?」
「貴様に言われるまでもない」
すると兵士たちを率いる二人のトップが、守りに徹底している敵の魔導士たちの様子から気付いた事に関して互いに一言ずつ呟く。それぞれレギオンや小型の機械竜を操作し、それぞれある方角から自らの得物に魔力を込める。それは両者とも、火属性の魔力。
「シエル!グレイ!狙われてるぞ!!」
それに気付いたペルセウスが声を張り上げるが、二人にはそれぞれに対処する余裕はなかった。
「『イグニスランス』!!」
「
エドシエルは矢のように火の槍を飛ばしてかまくらを貫き、エドエルザは炎を生み出す槍から爆炎を発射して氷の盾を消滅させる。それぞれ火に弱いもので守りを固めていたことが仇となり、4面を守っていた二人の守りが瓦解する。
そして再度その守りを展開する余裕が一瞬さえ存在しないまま、シエルとグレイ、さらに足場代わりになっていたレギピョンに、容赦なく攻撃が襲い掛かる。
「レギピョーン!!」
空中に投げ出される一行。しかも落下する先には魔力で作られた網。人間やエクシードはともかく、巨体のレギピョンが潜り抜けるのは不可能。このままでは危険だ。
「換装、ダーインスレイヴ!神魔一閃!!」
すぐさま態勢を立て直したペルセウスが黒剣を手に持って下方向の網を斬り裂く。それによって魔力の維持が難しくなったのか、網の壁は消滅。結果的には包囲網を脱出することに成功する。
だがここでペルセウスは一つ気付いた。
「あ…最初から
「気付くの遅すぎー!!」
「今言っても何の意味もねぇー!!」
いざとなったら物理で突破と言う軽く脳筋思考のくせして、肝心な時に鈍いところがある。真っ先に気付いてほしかった事柄だけに、落下しながらルーシィとグレイが苛立ちながら叫ぶのも無理はなかった。
「
そして落下に対してどうすればいいかと言う問題も、まだ上の方にいるシエルが、下の方に大きめの雲を出して、人間たちを
「二人以上は無理そうだったから、助かったわね」
「ん…?シエルはどこだ?」
「あれ?そう言えばエルザも…?」
雲の上で束の間の一息をしていると、その雲を出したはずの少年の姿が見えない事に、兄がすぐさま気付いて周りを見渡す。ルーシィも、少年だけでなく、もう一人緋色の髪の女騎士の姿が見えずに、困惑している。
「王に刃を向けた者は生かしておかん。確実に仕留めるんだ!」
「往生際の悪い奴等だ…。総員、地上に降りるぞ!」
『はっ!!』
『八方包囲網』を結果的に突破され、下の方へと逃げていった者たちを一人たりとも逃がすわけにいかない。その場にいた全兵士たちが彼らが降りていった地上へと向かいだす。
「うわぁ!?」
だがその時、一体のレギオンの上に乗っていた兵士の悲鳴が響き、兵士たちの視線がそこに集中する。見てみると、そのレギオンの首に長い鎖が巻き付いており、それをエルザが掴んで乗り込み、兵士の一人を突き落としていた。そしてエルザはそのまま落下していくレギオンを足伝いにして跳躍し、エドエルザへと斬りかかる。
「スカーレット…!!」
「そろそろ決着をつけようか、ナイトウォーカー!!」
それを槍で受け止め、数瞬の鍔迫り合いの後に二人のエルザはレギオンから飛び降りる。王城内での決着を今この場で決めるつもりのようだ。
「あいつめ、勝手な事を…」
数の利を活かして一気に叩く方が効率的だと言うのに、直接1対1で決着をつけたがる妖精狩りに、呆れた様子で口を開くエドシエル。しかし、そう呟いた瞬間、辺り一帯に暴風が吹き荒れ始め、巻き込まれたレギオンや機械竜に乗っている兵士たちが落下し始める。エドシエルは踏みとどまっているが、この暴風を引き起こしている存在に心当たりをつけ、舌打ちを一つ打つ。
「これぐらいの風…すぐに…っ!?」
手に持つ長杖の緑の珠を光らせて、風の力を相殺させようとするが、突如何かに気付いて目を見開いて後ろへと目を向けると、暴風の中を掻い潜って雷を纏った自分とよく似た少年が高速で接近するのが映る。そして右脚で勢いよく蹴り飛ばそうとしてくる少年の攻撃を長杖で防御し、小型竜を後方へと飛行させることで威力を押さえる。
「
しかし、シエルがすぐさま暴風を手元に集めて槍を作り出すと、エドシエルが足場代わりにしていた小型の竜の翼を貫いて、飛行力を低下させる。一点に魔力を集中させて、装甲が一番薄い翼を狙ったことに対して、彼は驚愕を隠せずにいる。
「うあああああっ!!」
そして再び急接近したシエルは、もう一人の自分に雷光を帯びた拳を突き当てる。咄嗟に長杖で防御したエドシエルだが、その勢いを抑えられる小型竜はもう機能せず、尚且つ体全体で自分の身体ごと浮遊させる目の前の少年に、そのまま空中を疾走させられる。
そして、エルザたちが降りたところとは、また別の浮遊島へと、二人のシエルが激突しながら不時着した。
「“エルザ”の真似事のつもりか…?」
背中から勢いよく島に激突させられておきながら、大して痛がる素振りもなく立ち上がり、顔を不機嫌そうにしかめて青年は問いかける。
「お前は俺が相手しなきゃいけないと思った。それに…」
そんな青年に向けて、少年は雷を纏ったまま返す。エルザがエルザと対峙しているなら、シエルを相手するべきなのもシエルである自分。だが、それはほぼ建前だ。
「個人的にも、お前には色々と聞いておきたい事がある…!!」
「これから死にゆく奴等の問いに、答えてやる義理などない…!」
すぐさま駆けられるように体勢を整えながら言い切った少年に対して、長杖を前方に構えた青年は変わらず冷たく突き返す。
シエル対シエル。互いに相容れない立場と性格の二人が、ここにきてとうとう衝突する。
おまけ風次回予告
ルーシィ「エルザは向こうのエルザ…シエルは向こうのシエル…何と言うか、二人とも別世界とは言え、自分を相手にすることに抵抗ってないのかしら…?」
ペルセウス「自分が相手だからさ。自分とほぼ同じ顔で、同じ名前をしているのに、仲間を傷つけられたり命を脅かされることが、我慢できなかったんだろう」
ルーシィ「そっか…あたしも確かに、あたしがみんなを傷つけるだなんて…考えたくもない…!」
ペルセウス「それに、シエルはきっと、別人とは言え“シエル”を相手にさせること、他のみんなにやらせたくなかったってのも、あるんだろう…」
次回『シエル vs. シエル』
ルーシィ「それって、あたしたちがシエルを攻撃してるようで、イヤだった、とか…?」
ペルセウス「いや、俺自身が向こうのあいつに攻撃できないから…別人だとはわかってるんだ、だがどうしてもチラついちまって…手合わせとかならともかく命の奪い合いをシエルとするぐらいなら俺は今ここで自分の首を」
ルーシィ「わぁーーっ!!(汗)色んな意味でシャレにならないんでやめてくださいッ!!!」